【本編完結】偽物の番

麻路なぎ

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4 偽物の番

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 それからまた、三週間ほどが過ぎた。
 五月も半ばになり、大学生活にもだいぶ慣れた。
 あれから宮田と千早は接触していないようだった。
 ふたりとも互いの話をしてこないし、俺は俺でふたりと話すとき、互いの話題を出さない様にしていた。
 大学に入り色んな人間関係が広がり楽しいと思っていたはずなのに、こんな弊害が出てくるとは思わなかった。
 アルファとかオメガとか。
 俺は正直気にして生きてこなかったが、周りでその手のドラマの話をしているとなぜだかドキドキするようになっていた。

「昨日のドラマ超最高だったー!」

 という、バースもののドラマや漫画などの話が、食堂や講義室などで聞こえてくる。
 女性たちは特に、バースものが好きらしく話題にしていることが多かった。
 金曜日のお昼休みの後。
 講義室に向かう途中、宮田は慌てた様子で、

「先に行ってて」

 と言い、トイレへと走って行った。
 腹でも痛いんだろうか?
 不思議に思いつつ講義室に向かい、すみっこに席を確保する。
 いつまでたっても宮田は来ず、授業が始まるまであと五分になった頃。
 メッセージを送っても既読にならず心配になって、俺は様子を見に行くことにした。
 少しざわつく構内を歩き、宮田が入って行ったトイレへと向かう。
 中に入ると、人の気配はなかった。
 あれ?
 確かにここに入ったと思うんだけど……
 あいつ、どこに行ったんだろう?
 疑問に思いながら、俺はトイレを出て辺りを見回す。
 三限目がもうすぐ始まる。
 どうする?
 スマホを開くが、まだ既読はついていない。
 どこにいったんだよあいつ……
 講義室に戻ろうとしたとき、がたん、と、音が聞こえた。
 この時間は講義が入っていないはずの小さな教室の前。
 
「だから、そんなつもりはないって言ったじゃないですか」

 聞こえてきたのは、宮田の声だった。

「俺にはわかるんだよ。君、発情期だろう? その匂いが……俺を狂わせる」

 切羽詰ったようなこの声……千早?
 え、千早と宮田が一緒にいる?
 なんで?
 俺は後先考えず、音がした教室の扉を開いた。
 宮田の腕を掴む千早の姿が目に入る。
 ふたりは驚いた顔をして俺を見て、

「結城……」

「琳太郎」

 と、同時に俺の名を口にする。
 
「千早、何してんだよ」

 教室の扉を閉め俺は千早たちに歩み寄り、宮田の腕を掴む千早の腕を掴んだ。

「琳太郎」

「お前、そんなことしたくないんじゃなかったのか? 何考えてんだよ」

「わかってるよそんなことは!」

 そう声を上げ、千早は宮田から手を離しそして、俺の方を向いた。

「でも匂いがするんだよ。発情期の、オメガの匂いが……」

「結城……俺、発情期始まったみたいでそれで、薬飲んで講義室行こうとしたら……その……」

 と言い、宮田は押し黙って下を向いてしまう。
 そういえば、アルファもオメガも、互いを誘う匂いを発するとか書いてあったっけ?
 発情期のオメガは強い匂いを発し、アルファだけじゃなく、敏感なベータを誘惑してしまうことがあるとかネットに書いてあったな。
 発情期を抑える為の薬があるらしく、それを飲めば酷い時以外は普通に過ごせる、とも書いてあった。

「僕だって別に……誘いたいわけじゃないよ」

「俺も襲うつもりなんてなかったよ」

 ふたりとも、苦しげな声で言う。

「と、とりあえずここは任せて、宮田、先行ってろよ。今ならギリ間に合うだろ?」

「え、でも……」

 と言った後、宮田は俺と千早を見比べ、

「ごめん」

 と言い、慌ただしくその場を後にした。
 その背を、無意識なのか、千早が視線で追っていく。

「おい、千早、大丈夫か?」

「大丈夫じゃねえよ」

 その声に含まれた感情の名前は何だろう……敵意? 憎しみ?
 もしかして、怒ってる?
 千早は首を振り、俺の方に視線を向けた。
 その目に、怒りの色が見えるのは気のせいじゃないだろう。
 怖い。千早が、知らない生き物のような気がして。

「なあ琳太郎。俺だってこんなことしたくないんだよ。なのに……なのに本能があいつを求めるんだ。あいつを手にいれろって。今すぐ閉じ込めて、うなじを噛んで番にしろと。裸にして、抱き潰せって訴えるんだ」

 千早の苦しげな声に、俺の心に痛みが走る。
 止めない方がよかったのか?
 いや、でも。
 止めなかったらこいつ、ここで宮田になにしたかわかんねーしな。

「夜、ひとりになると思い出すんだ。あいつの事を。抱きたくて、犯したくて。でもそんなことやったらまずいことくらい俺だってわかってる。だけど俺……もう、どうかなりそうなんだよ、琳太郎」

 鬼気迫る顔で、千早は言った。
 俺、何ができる?
 千早に何ができるんだろう。
 ぐるぐると考えるけれど、答えなんて出ない。

「今すぐここで犯したかった。裸にして、泣かせて……でも、お前が止めに来た」

「……そうならなくて、良かったと思ってるよ」

 絞り出すような声で俺が言うと、千早は俺の顔を睨み付けた。
 え、怖いんだけど?

「良かった? 俺はよくないよ。この感情をどうしたらいい? なあ、琳太郎」

「感情って……どういうことだよ?」

「抱きたいって言う感情だよ」

 それは……俺にはどうすることもできない感情だった。
 でも謝ることもできないし、っていうか止めたことに後悔はない。
 千早は下を俯き、

「あぁ、その手があるか」

 と、小さく呟いた。
 そして、ゆっくりと顔を上げたとき、なぜか彼は、不気味に笑っていた。

「お前が代わりになればいい」

「……え?」

 代わりって何?
 訳が分からず困惑していると、千早は俺に顔を近づけてきて言った。

「お前この間言ったよな? 駄目そうなら言えって。なあ、琳太郎」

「た、た、確かに言ったけど。え? どういうこと?

 事態が呑み込めず、俺は困惑するばかりだった。

「なあ琳太郎。お前が彼の代わりになれよ。卒業するまで。そうすれば少なくとも性欲は満たされるからな」

 ちょっと待て、今とんでもねえこと言いませんでした?
 それってもしかして……

「おい、それはちょっとどうかと思うぞ? それって俺がお前に……」

 そこまで言って、俺は息をのむ。
 千早の目が、肉食獣のようなぎらついたような目に見えたからだ。
 怖い。
 俺、喰われる?

「いいよな、琳太郎。お前が、止めたんだから」

 拒絶は許さない。
 そんな声音で千早は言い、俺はその威圧感に圧倒され、何も言えなくなってしまった。



 その後。
 強引に俺は千早が乗って来た車に連れ込まれてしまった。
 っていうか、いつの間に車通学になったんだよこいつ。
 真新しいセダンタイプの青い車に乗せられ、新車の匂いに気持ち悪さを感じる。
 すぐに車は発進し、十分少々で、千早がひとり暮らしをしているマンションに着く。
 帰る事もできず、俺は千早に手を引かれるまま、彼の部屋へと連れて行かれた。
 寝室に連れ込まれ、ベッドを見て俺は事態の重さを実感する。
 このまま俺、ここでこいつに抱かれる……?
 ベッド大きいな。ダブルかな?
 
「琳太郎。脱げよ」

 反論は許さない。
 そんな声音で千早に言われ、俺は仕方なくショルダーバッグを床に置き、ゆっくりと服を脱いだ。
 パーカー、Tシャツ、ジーパン。
 下着まで脱ぐ勇気はなかったが、千早に促され、俺は覚悟を決めて全裸になる。
 そしてベッドに押し倒されたかと思うと、顔が近づき唇が触れた。
 舌が唇をこじ開け、俺の口の中に入ってくる。
 いきなりディープキスかよ……!
 千早は俺の口の中を舐め、舌を絡め取る。
 唾液が混ざる音がダイレクトに聞こえ、俺は本当にキスされていることを実感する。
 これ、夢じゃねえの?
 千早は唇を一度離し、すぐにまた口づけてきた。
 口の中を舌で蹂躙されくらくらし始めた頃、唇が離れ、俺は大きく息をついた。

「キスだけでそんな顔するのかよ、お前?」

 笑いを含んだ声で言い、千早は俺の胸を撫でる。
 
「やっぱ小さいな、乳首。卒業までに、どれくらい大きくなるか楽しみだな、琳太郎?」

 その言葉に恐怖を覚えるが、抗議する余裕などすでになくなっていた。
 千早の指が俺の乳首を、腹を撫で、すぐにペニスへと触れる。
 まだ萎えているそれは、人に触られただけで、びくん、と震えたような気がした。

「いますぐ突っ込んでやりたいけど、さすがに中、綺麗にしないとなあ。でもその前に、気持ちよくしてやるよ、琳太郎?」

 妖しく笑い、千早は俺のペニスを扱き始めた。
 もちろんそんな所を触られた経験などない俺は、すぐに勃起し、先走りを溢れさせる。

「あはは、琳太郎、もう感じてんの?」

 俺のペニスを扱きながら千早は言い、俺の耳をペロリ、と舐めた。

「あぁ……!」

「はは、良い声。もっとなけよ、琳太郎。いますぐぶち込んでやりたいの、我慢してやってるんだからさ」

「あ、ち、千早……耳、やめ……」

 耳を舐められるたびに、ぞわぞわとした感覚が背中を走っていく。

「へえ、ここ弱いんだ」

 そう囁き、千早は俺の耳を舐め回す。

「い、や……あぁ!」

 腰が跳ね、千早に扱かれたペニスから精液が溢れだす。
 どうやら軽くイってしまったらしい。
 やべえ。
 耳舐められて感じるとか、俺、どうかしてないか?

「あー、早くいれたい。でも中、綺麗にしないとだよなあ? 琳太郎、覚悟しとけよ?」

 千早は俺の顔を見つめ、にやりと笑って見せた。



 その後。
 風呂場に連れて行かれて、腹の中を綺麗にされた俺は、ふらふらでベッドに戻りぐったりと横たわった。
 綺麗にするってそう言う意味かよ……
 そうだよな。っていうか、オメガの場合はどうなってるんだ……
 なんてことを考えていると、千早の声が降ってきた。

「ほら、琳太郎、休んでる暇ねーぞ。うつぶせのまま、尻あげろよ」

 俺は言われるまま、うつ伏せで尻だけあげる。
 恥ずかしい恰好なのに、何で俺、言うこと聞いてるんだ?
 千早の声には、人を従わせる力があるように思う。
 千早は何かの液体と共に、俺の尻に指を突っ込んだ。

「ひっ……!」

 さっき、腹の中を綺麗にするために器具を突っ込まれたとはいえ、異物感に慣れるわけがない。
 ある個所に触れられると、身体中に電気が走ったような感覚を覚える。
 それが前立腺であると、さっき教えられた。
 そこを叩かれると、ペニスを扱かれるよりも気持ちいい。

「千早……そこ……!」

「あぁ、前立腺、な? 気持ちいいだろう?」

「ん……きもち、いい……」

 自分でも信じられないほどの甘い声で答え、俺は尻を振る。
 
「ははは、そんなにいいんだ。早くここ拡げて、中にいれたらどんな声でなくのかなあ、お前」

 楽しそうに笑いながら、千早は俺の後孔を刺激し中を拡げていく。
 いったいどれほどの時間、中を愛撫されていただろう。
 
「もう我慢できない」

 切羽詰った声で言い、千早は俺の中から指を引き抜いた。
 あぁ、その時が来てしまう。
 怖い、嬉しい、嫌だ……早く欲しい……?
 いろんな感情が頭をよぎる中、千早は俺の腰を掴むと、俺の中に一気に侵入してきた。

「あぁー!」

 指なんかとは比べ物にならないほど太く、長いものが容赦なく狭い穴をこじ開けていく。

「あー、いれただけでイくなんて、ほんと可愛いね、琳太郎、でも」

「あ、あ、あ……む、無理……」

「むりじゃないだろ、琳太郎。俺はまだ、イってない」

「ひっ……!」

 千早はどんどん俺の中に腰を進めていき、そして、抽挿を始めた。

「やっぱりまだ全部はむりか……あぁ、楽しみだなあ、琳太郎。どれくらいで全部入るようになるかな」

 奥まで入っているような気がするのに、まだ全部じゃない……?
 そういえばネットで調べたとき書いてあったっけ?
 アルファのペニスは通常の男性より長くて太いものが多いって。
 
「う、あぁ……」

 千早が動くたびに俺は声を漏らし、視界が白く染まる。
 
「中、気持ちいい。なあ、琳太郎。いっぱいやって、俺の形覚えろよ?」

「あ、あぁ……い、いく、からぁ……千早、そこ、だめえ!」

 千早に何を言われてるのかわけがわからなくなっている俺は、ひたすらに喘ぎ、与えられる快楽に酔いしれていた。
 
「いく、いく、いくからぁ!」

 俺はびくんびくん、と身体を震わせ、勢いよく射精する。

「ん……すっごい締め付け……俺も、出る」

 余裕のない声で言い、千早は腰の動きを止めた。
 あぁ、イったんだ、千早も。
 しばらく繋がったままでいた後、千早は俺の中からゆっくりとペニスを引き出す。
 楔を失った俺は、そのままベッドに倒れこみ、呆然と壁を見つめた。
 俺、本当に抱かれた。
 千早に。
 股間を下に敷いていたタオルでぬぐわれた後、千早の手が俺の頭を撫でる。

「卒業まで、楽しませろよ? 偽物の番」

 偽物の番。
 その言葉は、俺の心にずしり、と重くのしかかった。
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