43 / 103
43 息が苦しい
しおりを挟む
タクシーで駅から少し離れたマンションに連れて行かれ、ふらふらとエレベーターに乗る。
ここまでずっと、瀬名さんに抱きしめられたままなのが正直恥ずかしかったが、そんなことを気にする余裕もなかった。
「過呼吸起こすなんて思わなかったよ。そんなにストレス感じる話だったのかな」
過呼吸。
ストレス。
繋がりがわからず、俺は何の反応もできなかった。
さっきよりはだいぶましだけどまだ苦しいし、くらくらする。
エレベーターを下り、連れて行かれた瀬名さんの部屋には、本棚がたくさんあった。
リビングの壁面にならぶ本棚たちは、みな、天井まで高さがある。
俺は、帽子と荷物を取られたあとリビングのソファーに寝転され、枕にクッションを置かれた。
「一時間くらい休んでればおさまるよ。ちょっと待ってね、エアコン点けるから」
確かに室内は少し暑い。
風の音とともに、室内は徐々に涼しくなっていく。
息はだいぶ楽になったが、胸の痛みは変わらなかった。
なんなんだ、これは。
こんなの初めてだ。
さっき、瀬名さんは過呼吸とか言っていたっけ?
何なんだ、過呼吸て。
「本屋には連絡しておいたから、ゆっくり休んでて大丈夫だよ」
優しい声とともに、手が俺の頭に触れる。
「水、飲む?」
俺の視界にペットボトルが映る。
灯りを反射して、水がきらきらと輝いて見える。
そういえば、喉が痛い。
声がうまく出せないため、俺は無言で頷いた。
ソファーの前に座る瀬名さんは、ペットボトルのふたを開けるとそれに口をつけ、顔を近づけてくる。
って、ちょっと待て。
止める間もなく頬に手が触れ唇が重なり、舌と共に水が流れ込んできた。
力の入らない手で瀬名さんの胸を押そうとするが、その手は簡単に掴まれてしまう。
なんで俺、この人にキスされてんだ?
しかも、舌までいれられるとか、え、なんで?
流し込まれた水をどうにか飲み込むが、飲みきれなかった水が、唇の端から流れていく。
瀬名さんは唇を離してはくれず、舌で俺の口の中を舐め回し、舌を絡め吸い上げていく。
やばい、こんなキスされたら……おかしくなる。
そう思ったとき唇が離れそして、瀬名さんは妖しく笑って言った。
「落ち着いた?」
ある意味おちついてきたが、ある意味今、パニックだ。
俺、なんでキスされたんだよ?
え、わけわかんねぇんだけど?
「え、せ……」
「僕、とりあえず医者目指してるから、弱ってるところを襲ったりはしないよ」
今の行動のあと、そんなこと言われても説得力の欠片もありませんが?
言い返したいのに、うまく声が出せず咳き込んでしまう。
するとまた、瀬名さんはペットボトルを口につけ、俺に顔を近づけてきた。
ていうか、この家にストローくらいねーのかよ……!
……ないか。ひとり暮らしの男の家に、そんな、気の利いたもの、あるわけねぇか。
でもだからって、水飲ませるのにキスするか?
しねぇよな、俺、男だぞ!
抵抗しようとするがどうしようもなく、あっけなく抑えられてしまい、口の中を水と舌が入ってくる。
やべえ、頭がぼやーっとしてくる。
水はすでに喉を通り過ぎていったというのに、瀬名さんの口は離れない。
顎が手で掴まれ、舌が深く入りこんでくる。
逃げる舌はすぐに捕らえられてしまい、唾液が流し込まれ、ぴちゃり、と音を立てる。
「やっばいなあ、これ」
口が離れたとき、瀬名さんはそう呟いて唇を指先で拭う。
「せ、なさん……」
なんとか名前を呼ぶと、彼は立ち上がり、俺に向かって手を振った。
「僕は向こうに行くから、ゆっくり休んでて大丈夫だよ」
そして、彼は別室へと消えていった。
なんなんだよいったい。
やばいって、何?
とはいえ、助けられたのもまた事実で。
俺は天井を見つめて大きく息をつく。
過呼吸、って結局何なんだ?
スマホはバッグの中だし、動く気力もない。
ソファーでぼんやりして、三十分くらいたっただろうか。
だいぶ落ち着いてきたが、胸の痛みはわずかに残っている。
瀬名さんはしばらく休んでいれば大丈夫、って言っていたけど……本当に大丈夫なのか?
不安を抱き、また胸の痛みが強くなってしまう。
なんなんだ、これ。
俺の身体、何が起きてるんだ?
「結城」
声が降り、手が頭を撫でる。
「あ……」
「あれ、まだ胸が痛い? 大丈夫だよ、不安な気持ちはいずれ消えていくものだから」
手と、優しい声に気持ちが少し落ち着いてくる。
ほんと、何なんだろう、この人は。
瀬名さんは俺の心を揺さぶり、時には救おうとする。
わけわかんねぇよ、この人。
瀬名さんは俺から手を離すと帽子を被り、手を振った。
「じゃあ、僕は仕事、行ってくるよ」
「え……」
ここにひとりで置いて行かれる?
え?
いや、でもこの人と一緒にいるのも不安はある、でもひとりにされるのも嫌だ。
矛盾した想いに挟まれていると、瀬名さんはまた、俺の頭を撫でる。
「ここにこのままいたら、僕は君に何するかわからないから。これでも結構我慢してるんだよ?」
ふざけた口調でそう言って、彼は離れて行く。
あんなキスしといて我慢してるのか? え? 嘘だろ、おい。
「あ、その顔信じてないなー? 僕、信用ないのかなあ。まあ、君が休みだと僕が仕事行かないと、人手が足りなくなるしね。僕は行くよ。落ち着いたら勝手に出て行って大丈夫だから。鍵は勝手に閉まるし」
笑いながら言い、瀬名さんは去って行く。
色々言いたいことはあるけれど、まだ喉が痛くてうまく声を出せない。
玄関が締まる音が聞こえ、俺は仕方なく、ソファーにただ寝転がっていた。
ここまでずっと、瀬名さんに抱きしめられたままなのが正直恥ずかしかったが、そんなことを気にする余裕もなかった。
「過呼吸起こすなんて思わなかったよ。そんなにストレス感じる話だったのかな」
過呼吸。
ストレス。
繋がりがわからず、俺は何の反応もできなかった。
さっきよりはだいぶましだけどまだ苦しいし、くらくらする。
エレベーターを下り、連れて行かれた瀬名さんの部屋には、本棚がたくさんあった。
リビングの壁面にならぶ本棚たちは、みな、天井まで高さがある。
俺は、帽子と荷物を取られたあとリビングのソファーに寝転され、枕にクッションを置かれた。
「一時間くらい休んでればおさまるよ。ちょっと待ってね、エアコン点けるから」
確かに室内は少し暑い。
風の音とともに、室内は徐々に涼しくなっていく。
息はだいぶ楽になったが、胸の痛みは変わらなかった。
なんなんだ、これは。
こんなの初めてだ。
さっき、瀬名さんは過呼吸とか言っていたっけ?
何なんだ、過呼吸て。
「本屋には連絡しておいたから、ゆっくり休んでて大丈夫だよ」
優しい声とともに、手が俺の頭に触れる。
「水、飲む?」
俺の視界にペットボトルが映る。
灯りを反射して、水がきらきらと輝いて見える。
そういえば、喉が痛い。
声がうまく出せないため、俺は無言で頷いた。
ソファーの前に座る瀬名さんは、ペットボトルのふたを開けるとそれに口をつけ、顔を近づけてくる。
って、ちょっと待て。
止める間もなく頬に手が触れ唇が重なり、舌と共に水が流れ込んできた。
力の入らない手で瀬名さんの胸を押そうとするが、その手は簡単に掴まれてしまう。
なんで俺、この人にキスされてんだ?
しかも、舌までいれられるとか、え、なんで?
流し込まれた水をどうにか飲み込むが、飲みきれなかった水が、唇の端から流れていく。
瀬名さんは唇を離してはくれず、舌で俺の口の中を舐め回し、舌を絡め吸い上げていく。
やばい、こんなキスされたら……おかしくなる。
そう思ったとき唇が離れそして、瀬名さんは妖しく笑って言った。
「落ち着いた?」
ある意味おちついてきたが、ある意味今、パニックだ。
俺、なんでキスされたんだよ?
え、わけわかんねぇんだけど?
「え、せ……」
「僕、とりあえず医者目指してるから、弱ってるところを襲ったりはしないよ」
今の行動のあと、そんなこと言われても説得力の欠片もありませんが?
言い返したいのに、うまく声が出せず咳き込んでしまう。
するとまた、瀬名さんはペットボトルを口につけ、俺に顔を近づけてきた。
ていうか、この家にストローくらいねーのかよ……!
……ないか。ひとり暮らしの男の家に、そんな、気の利いたもの、あるわけねぇか。
でもだからって、水飲ませるのにキスするか?
しねぇよな、俺、男だぞ!
抵抗しようとするがどうしようもなく、あっけなく抑えられてしまい、口の中を水と舌が入ってくる。
やべえ、頭がぼやーっとしてくる。
水はすでに喉を通り過ぎていったというのに、瀬名さんの口は離れない。
顎が手で掴まれ、舌が深く入りこんでくる。
逃げる舌はすぐに捕らえられてしまい、唾液が流し込まれ、ぴちゃり、と音を立てる。
「やっばいなあ、これ」
口が離れたとき、瀬名さんはそう呟いて唇を指先で拭う。
「せ、なさん……」
なんとか名前を呼ぶと、彼は立ち上がり、俺に向かって手を振った。
「僕は向こうに行くから、ゆっくり休んでて大丈夫だよ」
そして、彼は別室へと消えていった。
なんなんだよいったい。
やばいって、何?
とはいえ、助けられたのもまた事実で。
俺は天井を見つめて大きく息をつく。
過呼吸、って結局何なんだ?
スマホはバッグの中だし、動く気力もない。
ソファーでぼんやりして、三十分くらいたっただろうか。
だいぶ落ち着いてきたが、胸の痛みはわずかに残っている。
瀬名さんはしばらく休んでいれば大丈夫、って言っていたけど……本当に大丈夫なのか?
不安を抱き、また胸の痛みが強くなってしまう。
なんなんだ、これ。
俺の身体、何が起きてるんだ?
「結城」
声が降り、手が頭を撫でる。
「あ……」
「あれ、まだ胸が痛い? 大丈夫だよ、不安な気持ちはいずれ消えていくものだから」
手と、優しい声に気持ちが少し落ち着いてくる。
ほんと、何なんだろう、この人は。
瀬名さんは俺の心を揺さぶり、時には救おうとする。
わけわかんねぇよ、この人。
瀬名さんは俺から手を離すと帽子を被り、手を振った。
「じゃあ、僕は仕事、行ってくるよ」
「え……」
ここにひとりで置いて行かれる?
え?
いや、でもこの人と一緒にいるのも不安はある、でもひとりにされるのも嫌だ。
矛盾した想いに挟まれていると、瀬名さんはまた、俺の頭を撫でる。
「ここにこのままいたら、僕は君に何するかわからないから。これでも結構我慢してるんだよ?」
ふざけた口調でそう言って、彼は離れて行く。
あんなキスしといて我慢してるのか? え? 嘘だろ、おい。
「あ、その顔信じてないなー? 僕、信用ないのかなあ。まあ、君が休みだと僕が仕事行かないと、人手が足りなくなるしね。僕は行くよ。落ち着いたら勝手に出て行って大丈夫だから。鍵は勝手に閉まるし」
笑いながら言い、瀬名さんは去って行く。
色々言いたいことはあるけれど、まだ喉が痛くてうまく声を出せない。
玄関が締まる音が聞こえ、俺は仕方なく、ソファーにただ寝転がっていた。
31
あなたにおすすめの小説
どっちも好き♡じゃダメですか?
藤宮りつか
BL
俺のファーストキスを奪った相手は父さんの再婚相手の息子だった――。
中学生活も終わりに近づいたある日。学校帰りにファーストキスを自分と同じ男に奪われてしまった七緒深雪は、その相手が父、七緒稔の再婚相手の息子、夏川雪音だったと知って愕然とする。
更に、二度目の再会で雪音からセカンドキスまで奪われてしまった深雪は深く落ち込んでしまう。
そんな時、小学校からの幼馴染みである戸塚頼斗から「好きだ」と告白までされてしまい、深雪はもうどうしていいのやら……。
父親の再婚が決まり、血の繋がらない弟になった雪音と、信頼できる幼馴染みの頼斗の二人から同時に言い寄られる生活が始まった深雪。二人の男の間で揺れる深雪は、果たしてどちらを選ぶのか――。
血の繋がらない弟と幼馴染みに翻弄される深雪のトライアングルラブストーリー。
【完結】いばらの向こうに君がいる
古井重箱
BL
【あらすじ】ヤリチンかつチャラ男のアルファ、内藤は、上司から見合いを勧められる。お相手の悠理は超美人だけれども毒舌だった。やがて内藤は悠理の心の傷を知り、彼を幸せにしてあげたいと思うようになる──
【注記】ヤリチンのチャラ男アルファ×結婚するまではバージンでいたい毒舌美人オメガ。攻視点と受視点が交互に出てきます。アルファポリス、ムーンライトノベルズ、pixiv、自サイトに掲載中。
ジャスミン茶は、君のかおり
霧瀬 渓
BL
アルファとオメガにランクのあるオメガバース世界。
大学2年の高位アルファ高遠裕二は、新入生の三ツ橋鷹也を助けた。
裕二の部活後輩となった鷹也は、新歓の数日後、放火でアパートを焼け出されてしまう。
困った鷹也に、裕二が条件付きで同居を申し出てくれた。
その条件は、恋人のフリをして虫除けになることだった。
変異型Ωは鉄壁の貞操
田中 乃那加
BL
変異型――それは初めての性行為相手によってバースが決まってしまう突然変異種のこと。
男子大学生の金城 奏汰(かなしろ かなた)は変異型。
もしαに抱かれたら【Ω】に、βやΩを抱けば【β】に定着する。
奏汰はαが大嫌い、そして絶対にΩにはなりたくない。夢はもちろん、βの可愛いカノジョをつくり幸せな家庭を築くこと。
だから護身術を身につけ、さらに防犯グッズを持ち歩いていた。
ある日の歓楽街にて、β女性にからんでいたタチの悪い酔っ払いを次から次へとやっつける。
それを見た高校生、名張 龍也(なばり たつや)に一目惚れされることに。
当然突っぱねる奏汰と引かない龍也。
抱かれたくない男は貞操を守りきり、βのカノジョが出来るのか!?
ノエルの結婚
仁茂田もに
BL
オメガのノエルは顔も知らないアルファと結婚することになった。
お相手のヴィンセントは旦那さまの部下で、階級は中尉。東方司令部に勤めているらしい。
生まれ育った帝都を離れ、ノエルはヴィンセントとふたり東部の街で新婚生活を送ることになる。
無表情だが穏やかで優しい帝国軍人(アルファ)×明るいがトラウマ持ちのオメガ
過去につらい経験をしたオメガのノエルが、ヴィンセントと結婚して幸せになる話です。
J.GARDEN58にて本編+書き下ろしで頒布する予定です。
詳しくは後日、活動報告またはXにてご告知します。
幼馴染は僕を選ばない。
佳乃
BL
ずっと続くと思っていた〈腐れ縁〉は〈腐った縁〉だった。
僕は好きだったのに、ずっと一緒にいられると思っていたのに。
僕がいた場所は僕じゃ無い誰かの場所となり、繋がっていると思っていた縁は腐り果てて切れてしまった。
好きだった。
好きだった。
好きだった。
離れることで断ち切った縁。
気付いた時に断ち切られていた縁。
辛いのは、苦しいのは彼なのか、僕なのか…。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる