【本編完結】偽物の番

麻路なぎ

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おまけ小話

リクエスト小話まとめ(視点ごちゃまぜ)

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 1千早と琳太郎の友人時代
   小話りく3 球技大会

 体育館シューズと、ボールが跳ねる音。
 琳太郎がバスケットのゴール手前で跳ねそして、ボールを投げる。
 ボールは綺麗な弧を描き、リングの中へと吸い込まれた。
 上がる歓声と、拍手。
 今日は球技大会二日目。
 男子バスケの、決勝戦が行われていた。
 俺はバスケじゃなくサッカーに参加だったので、クラスメイトと応援に来ていた。
 琳太郎はバスケが得意だった。
 他の球技は人並みだが、バスケをしているときの姿は生き生きとして、輝いて見える。
 琳太郎が、スリーポイントラインからボールを投げる。
 またボールはゴールへと入っていく。
 
「あいつ、ひとりで何ポイント入れんだよ?」

 嬉しげに言うのはクラスメイトだ。
 前半だけで何回シュートを放ったんだろう?
 それは全てゴールに吸い込まれている。
 
「綺麗なフォーム」

 琳太郎がボールを放った時、誰かがそう呟くのが聞こえた。
 確かに綺麗だった。
 その姿勢も、腕のラインも、首の角度も。
 前半が終わり、琳太郎がクラスメイトとハイタッチをしながらこちらへとやってくる。
 俺に気が付き琳太郎は手を上げた。

「千早!」

「琳太郎」

 俺が右手を上げると、

 パーン!

 と、琳太郎がハイタッチをしてくる。
 体育館の隅に置いたタオルを首にかけ、ペットボトルを手にしそれの口を開ける。
 そして一気に中身を口の中に流し込んだ。
 
「あー、気持ちいい」

 口を拭いながら、琳太郎は笑う。
 
「気持ちいいって何が」

「えー? バスケやるのが。ゴール入るのマジ、気持ちいいじゃん?」

「確かに、見ている方も気持ちいいよ」

「だろ?」

 じゃあなんでお前はバスケ部に入らなかったんだ?
 という質問は飲み込む。
 人それぞれ理由はあるだろう。
 そもそも俺たちは今、高校三年生だ。
 今更そんなことを聞いたところで無意味だ。

「なあ、千早」

「何」

「今日、放課後、アイス食べに行かね?」

「アイス?」

「ほら、疲れると甘いもの欲しくなるんだよ。付き合えよ」

 そして口にしたのは、隣町の駅前にある商業施設に入っているアイスショップの名前だった。
 わざわざ電車で隣町まで行くのか。
 どれだけアイス喰いたいんだよ?

「わかったよ、じゃあ、買ったら俺、アイス奢ろうか?」

「え、うそ、まじ? やったー!」

 目を輝かせ、琳太郎は両腕を上げる。
 そうこうしているうちに後半の始まる時間になった。
 琳太郎はタオルで顔を拭いた後、そのタオルを荷物置き場に投げ、俺に手を振る。

「じゃあ、勝ってくる!」

 自信に満ちた顔で言い、琳太郎はコートに戻って行った。


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 2千早と琳太郎が慈しみ合う姿
   小話りく4 引っ越してきた日

 琳太郎が引っ越してきた当日の夜。
 一緒に夕飯のカレーを作り、それを食べつつ酒を飲んだ。
 琳太郎はさほど酒に強くない。
 なのにやたら、ワインを飲みたがる。
 案の定琳太郎は二杯目で酔ってしまい、今、俺の膝を枕に寝転がっている。

「ふたりぐらしー」

 まあ、確かにふたりぐらしなら。

「同棲か。同棲。俺たち同棲するんだー、ずっと一緒だー」 

 と言い、俺の顔に手を伸ばす。

「そうだな。お前、相当酔ってない?」

「そんなに酔ってねえよ」

 その割にはろれつが怪しい。

「千早とずっといっしょとか、嬉しいじゃん? だからさー嬉しいんだよー」

 嬉しいことはよくわかった。
 言われた俺は、顔が真っ赤になるのを感じる。

「千早は? ねえ千早は」

「……嬉しいに決まってるだろ、言わせるなよ」

 言いながら俺はソファーの背もたれに背を預けてそっぽを向く。

「なんだよー。なんでそんな方見るんだよー」

 こういうのを絡み酒っていうんだろうか?
 それとも、わざとなのか?

「千早ー」

 琳太郎は身体を起こしたかと思うと、勢いよく俺の首に抱き着いてくる。

「ちょ……」

「好きだよ、千早」

 甘えるような声で、耳元で囁く。
 まずい、これはまずい。
 これじゃあ、このままここで襲いかねない。
 俺は自分の中に生まれた欲情を押し殺し、その背中に手を回す。

「あぁ、俺も、好きだよ、琳」

「やったー。じゃあ、さ。一緒に風呂入ろうよ」

「わかったから、もう少しお前が落ち着いたらな」

「うーん」

 琳太郎は眠そうに返事をし、そして、俺に抱き着いたまま眠ってしまった。
 
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 3千早と琳太郎がラブラブな様子
   小話りく5 指輪

 ベッドの上ですることなんて一つしかない。
 うっとりとした顔で俺を見上げる琳太郎の左手をとり、俺はその小指に口づけた。
 琳太郎の指に嵌めた指輪は俺の番である証。
 絶対に手放さない。
 俺が決めた俺の運命は、今この腕の中にある。
 そして、俺の手首には琳太郎から貰った黒いブレスレット。
 それは俺は俺を囚える黒い鎖のようだった。

「千早……」

 琳太郎が、切なげに俺の名を呼ぶ。

「愛してる」

 と呟き、彼の顔を見ると目を潤ませ頷く。

「俺も……だから、ねえ、早く、ちょうだい?」

 こうやってねだられると腰に来る。
 早く抱いて、喘がせて、啼く顔を見たくなってしまう。
 俺の大事な人。俺の運命の相手。
 俺は手を離して琳太郎に顔を近づけそして、口づけた。

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 4瀬名の本能を認めたくない理由
   小話りく6
 
 「母親」との思い出というものは少ない。
 父は「母」を外に出したがらず、「母」もそれをよしとした。
 家事や育児は家政婦に任せることが多く、「母」は学校行事にもあまり出てこなかった。
 「母」を閉じ込める父を、僕は嫌悪していた。
 幼い時、共に寝ていたはずの「母」が夜中おらず、探しに出たときに見てしまった。
 発情した「母」を、父がその首に噛み付き、抱く姿を。
 苦しみ、啼く「母」の姿は、強烈に脳裏に焼き付いている。
 それを思い出し、「母」に欲情する自分が許せなかった。
 父のように、「母」を支配し抱きたいと。
 こんな感情気持ち悪い。
 成長すれば成長するほどオメガが欲しいと本能が訴え、その度にあの「母」の姿を思い出し、吐いた。
 自分が父と同じ存在になるのが嫌だった。

 ――あんな獣に、僕はなりたくないんだ。

 それでも本能に刻まれているオメガを求める感情は確実に僕の中にあり、成長と共に膨らみ続けた。
 それを埋めるように僕は、セフレを何人も作り、身体を重ねる。
 オメガもベータも関係なく。
 身体だけの関係ならいくらでももてる。
 けれど心まで求められると、拒絶反応が強くなる。
 
 ――僕にそんなものを求めるな。

 噛んでほしい、番にしてほしい、と訴えるオメガは本当に面倒で。
 考えただけで身体が、心が強い拒否反応を示す。
 そういう相手と二度目はなかった。
 これは欲を満たすだけの行為で、それ以上の意味なんてないんだから。

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 5完結後の生活(後じゃないけど大目に見てね)
   小話りく7  

 大学生活初めての夏休みが始まった。
 約二か月に及ぶ夏休み、俺はバイトと免許の取得がある。
 バイトがあると言っても、普段と変わらないペースだけど。
 土曜日、バイト先に向かう途中、駅の改札前で千早の姿を見つけた。
 二十代半ばくらいだろうか?
 肩口まで伸びた焦げ茶色の髪、青いノースリーブに白いロングスカートの女性……
 千早は、その女性と親しげに話している。
 誰だろ、あれ?
 家族ではないだろう。
 千早にきょうだいはいないはずだし。
 じゃあ……誰だ?
 胸に痛みを覚えつつ、俺は時間も時間なのでバイト先に急いだ。
 仕事中、俺の頭はあの女性の事でいっぱいだった。
 気になって仕方ない。
 って何これ、この感情、嫉妬?
 え、俺、嫉妬してるの?
 そんな自分に、俺は戸惑ってしまう。
 相手は女性じゃねえか。
 千早はアルファだし……あ、俺、ベータだった。
 えーと……えーと……
 もう、わけわかんねえ。
 とりあえず仕事をミスらない様にだけし、モヤモヤしたまま一日を過ごした。
 そして、夜。
 閉店作業を終えて俺は足早に店を後にする。
 あー、モヤモヤが治まらない。
 俺、嫉妬してんの?
 知らない女の人に。
 俺が知らないだけで、親戚とかかも知れねーじゃん。
 あーもう、誰なんだあれ。
 大股で歩いたおかげで、いつもの待ち合わせ場所であるコンビニに早くついてしまう。
 千早が、驚いた様子で店内から出てきて、俺にスポドリのペットボトルを差し出した。

「連絡したのに」

 その言葉に俺は無言で頷き、ペットボトルを受け取りふたを開ける。

「……琳太郎、もしかして、機嫌悪い?」

 怪訝な顔をする千早に、俺はそっぽを向いて、

「別に」

 と答える。
 いや、これじゃあ肯定しているようなもんじゃねえか。
 俺は機嫌悪くない。悪くない……悪く、いや、悪い。
 
「何か、あったのか?」

 あった。大いにあった。でも俺、嫉妬してるって認めたくない。
 俺はくるりと向きを変え、千早のマンションに向かって歩き出す。

「琳太郎。待てってば」

 慌てた様子で、千早が後をついてくる。

「何があったんだよ?」

 腕を掴まれて、振り向かせられてしまうが正直なんて言っていいかわからなかった。
 なんなんだ、俺。
 なんで俺、嫉妬なんてしてるんだよ。

「琳太郎?」

「えーと……昼間、改札前でお前が……その、女性と一緒にいるの見て……」

 そこまで言って、俺は押し黙る。

「……女性……なんだ。彼女は叔母だよ。母方の」

「……おば?」

 想定していなかった言葉に、俺は驚き間抜けな声を出す。
 いやだって、どうみても二十代だったぞ、あの人。

「母とは十五歳離れててるからまだ若いんだよ」

 まじかよあんなに若い叔母さんいるのかよ?

「……お前、もしかして嫉妬した?」

 不審げな声に、俺は目を見開いて、勢いよく首を横に振る。

「ち、ちげーよ! 嫉妬なんて俺がするわけねえだろ!」

「本当に? じゃあなんで不機嫌……」

「そんなんじゃねえよ!」

 声を上げ、俺は千早の手を振り払い歩き出す。
 俺は嫉妬してない。
 俺は嫉妬なんてしてないんだからな。

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 6瀬名の恋心が生まれた瞬間
   小話りく8 38話での瀬名視点

 匂いがする。結城からまた、彼の匂いがする。
 ただのベータなのに、こんなにも匂いを纏わりつかせて、しかもうなじに噛み痕までつけて。
 それがどういう意味なのかはすぐに理解した。
 なのに結城は幸せそうには見えない。
 いつも苦しそうな顔をしているのに、本人は自覚がないらしい。
 結城の相手であるアルファとはかなり歪な関係である、ということはすぐに気が付いた。
 互いに同意の上ならば、あんな顔にはならないだろう。
 結城は、自分の状態が全くわかっていないらしい。
 自己防衛本能だろうか。
 もし、自分の状況に気が付いてしまったら、結城はとうに心を壊していたのかもしれない。
 
「彼氏の事調べたんだけど」
 
 そう言った時、結城は驚きの顔をした。
 そしてその後すぐ、哀しげな、苦しみを纏った表情に変わる。
 結城の彼氏である秋谷千早が言い寄っていたという宮田という少年は、たぶんオメガなんだろう。
 そしてその話題は、結城にとって鬼門であることは彼の表情から察した。
 けれどそこから過呼吸を起こすなんて、想像できただろうか。
 僕にしがみついて、激しく息を繰り返す結城を見て、僕の中に生まれたのは怒りだった。
 秋谷千早。
 彼はいったい、結城に何をさせているのか?
 なぜ結城はこんなに苦しむのか。
 僕の中にある答えは、とても信じがたいものだった。
 秋谷千早にとって、宮田はきっと運命の番だったのだろう。
 けれど、何かしらの理由でそれが叶わず直後に結城を囲い込んだ。
 ベータであるにも関わらず。そしてたぶん、結城が望まない形で。
 秋谷と結城は、高校からの友人であるらしい。
 友人なのになぜ、抱かれるような関係になる?
 そしてなぜ、過呼吸まで起こす?
 僕の中で生まれる疑惑。それはとても信じがたく、酷いものだった。
 なぜ結城は苦しまなくてはいけない?
 この想いは同情? 憐み? それとも?
 僕にしがみ付いて苦しむ姿を見て心は揺れ動く。
 ただ、アルファの匂いを纏ってしかも噛み痕までつけているのは何故なのか気になっただけだった。
 けれど関われば関わるほど結城の闇は深く、どうやら僕は、その闇に巻き込まれてしまったらしい。
 関わったら厄介なのは、最初から分かっていただろうに。
 僕は愚かだな。
 この感情はきっとどうしようもないし、きっとたぶんどうにもならないものだ。
 苦しむ姿を見てその感情の名前を自覚するとか、僕はどうかしている。
 たぶん、秋谷千早が結城に噛み付かなかったら。
 結城が彼との関係で苦しみを感じていなかったら。
 僕は結城にここまでの感情を抱いただろうか?
 秋谷千早への怒りと。
 結城への――
 あぁ、愚かだな。この腕から離したくないと思うとか。

「とりあえず、うちで休もうか」

 そして僕は、僕の檻に彼を連れて行くことにした。

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 7瀬名の日常
  小話リク9 休みの日の過ごし方


 日曜日、七時前には目が覚める。
 ベッド横の台には、昨日読み終わったハードカバーの本が一冊置かれている。
 休みの日に僕がすることはひとつだ。
 本屋巡り。
 近所の本屋と言えば僕がアルバイトをしている本屋だけで、後はみな、車の距離だ。
 だから僕は休みの日には必ず、本屋に行くことにしていた。
 朝食を食べて本を読んだあと、九時半に家を出る用意をする。
 すると、スマホがメッセージの受信を知らせてきた。
 白い半袖パーカーを羽織り、スマホを手にしてメッセージを確認すると相手はセフレのひとりだった。
 今夜は会えるか、というお誘いだ。
 僕には何人かのセフレがいる。
 男も女も問わず、バース性も問わず、常に何人か囲っている。
 一夜だけの関係も多いのでいちいち名前を覚えているわけじゃないが、複数回関係を持つ場合もある。
 オメガは嫌だし、ベータも面倒に感じるけれど、それでも何回か抱いたことある相手はいる。
 メッセージの相手はそんな数少ないオメガだった。
 僕より三歳年上の社会人だ。
 その年で特定のアルファと番になっていないのは珍しい。
 それは本人の夢に関係あるらしいが、僕はどこまで興味はなかった。
 オメガは大抵、アルファに執着を見せてくる。
 けれど中にはつらい発情期を乗り越えるためだけにセフレを作る者もいる。
 このオメガは今発情期なのだろう。
 彼はその時しか僕に連絡を寄越してこない。

『今日だけでいいから、付き合ってほしい』

『夕方からなら別にいいよ。迎えに行こうか? 家じゃ嫌でしょう』

『お願いします』

『じゃあ、十八時に』

 そこで僕はスマホをしまう。
 日曜日の日中は本屋に行き、夜は誰かと過ごすのが習慣だった。
 結城に興味を持ってからもそれは変わらないけれど、彼のお陰で一度ベータを抱いた。
 正直準備が面倒だという想いの方が強かったけれど、結城ならそんな感情を抱かないだろうか?
 
「そんな日は、一生来ないだろうけれど」

 そう呟き僕は、トートバッグと車の鍵を持ち、部屋を出た。

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 7瀬名が、琳太郎と千早の関係に気が付いたとき
  小話リク10 調査報告

 気に入らない。
 自分を調査されるのは気に入らない。
 夜、自室で僕は調査報告書に目を通していた。
 対象は、結城の相手、秋谷千早。
 向こうが僕の調査をしてきたことにはすぐに気が付いた。
 なら、調査し返そうと思った。
 というか、結城に執着するアルファがどんな相手なのか知りたかった、というのもある。
 結城と彼は高校からの同級生らしい。
 中高一貫の学校だけど、中学では関わりはなかったようだ。
 そして高校一年で同じクラスになりそこから仲良くなったようだ。
 秋谷千早がアルファ、というのは有名な話らしい。
 まあ、アルファならだいたい親でばれるものだしな。
 僕もそうだ。「母」が学校に来たことで、周りに知られた。
 秋谷千早は、運命の相手を探していると、よく言っていたらしい。
 そして大学で違う学部の学生に話しかけているのが数回目撃されたけれど、ある日を境からそれはなくなり、結城が家を訪れるようになったようだ。
 週に三回。火曜、木曜、土曜。土曜日、結城は家に泊まっているらしい。
 
「やっぱりそうだよねえ。噛み痕あるし、匂いがすごいから肉体関係あるよねえ」

 わかってはいたことだけれど、こうして調査報告書として見ると、胸に痛みが走る。
 アルファなのに、わざわざオメガではなくベータを抱くとか、なかなか酔狂なやつ。
 僕は報告書を持ったままソファーの背もたれに身体を預けた。

「これじゃあ、匂いは消えないなあ。こんな頻繁に抱かれているんじゃあ」

 けれど結城はこの状況に納得しきれていないのだろう。
 だからいつも苦しげな顔をしているし、幸せな空気がほとんどない。

「何があってこんな頻繁に会って、何があって彼を受け入れているのかなあ、結城は」

 友達だから? いいや、だからって自分をそこまで犠牲にするだろうか。
 僕には理解できない話だ。
 結城の身体に何か秘密があるんだろうか?
 抱きたいと言っても、顔を真っ赤にして拒否されるだけだしな。

「抱いたらわかるのかなあ。それとももっと違う理由なのかな」

 呟き僕は、報告書に載っている写真を撫でる。
 それは、ふたりが大学を出て一緒に歩く姿だ。
 距離は近い、けれど、付き合っている、という雰囲気を感じない写真。
 このふたり、本当に付き合っているのだろうか?
 それでも何か別の理由で関係を持っているんだろうか?

「駄目だなあ。気になると止まらなくなっちゃうんだよね」

 呟き僕は、報告書をもう一度読み返した。


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