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23 君はどこに
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里村夜見が関わった過去の事実が、多くの人々の記憶から消えていた。その中で、わずかに神村信次と日川陽子だけが覚えているだけだった。
彼が起こした校則違反も、彼女とは関係のないものになっていた。
ある日の昼休み、彼は友人の中島広樹に聞いてみた。
「中島、僕が体育祭の予行練習でやってしまった校則違反のことを覚えている。僕がお姫様だっこしてダッシュした女の子のことだけれど。」
「そうそう、隣の伊浜市立高校のグランドで女の子が熱中症で倒れたのを見て、我が高の予行練習をすっ飛ばして、2つの高いフェンスを信次は越えた。
お姫様だっこして市立の保健室まで運んだな。」
「覚えているんだ!」
「当然さ。見ていた北高と市立の両高の生徒達が大きな拍手と歓声が沸き起こった。その子は○○○○さんて言ったっけ、感動して信次に付き合ってほしいと告白した。ところが信次はびっくりの返事をした。………
………『僕はあたり前のことをしただけです。もう少し僕のことを見ていただいて、良いと思ったら、その後付き合っていただけますか。』って、あれからもう半年以上が過ぎているけれど、どうするんだ。」
「………」
「どうした。彼女とうまくいっていないのか。」
「○○○○さん。」
「信次、どうした。大切な名前を忘れたのか。」
「ごめん、ごめん。○○○○さんだったね。こういうことはしっかりしなくてはね。」
(あの時、抱き上げた夜見さんの顔を鮮明に覚えている。他の誰でもなかったのに………)
夜見が消えてしまってから、彼が過ごす毎日が全く変わってしまった。
三州鉄道にはきさらぎ駅がなかった。朝、通学のために東鹿島駅から乗る電車は3駅目で「大林駅」に着いた。
3駅目に着く前に、電車のアナウンスが「きさらぎ駅」と告げるのを毎日期待したが、そのようなことは絶対に起こらなかった。
彼に残っているのは、確かに現実に彼女と過ごした時間の記憶だけだった。
それだけしかなかったが、どうすれば再び彼女と会えるのか粘り強く考え続けた。
やがて、かすかな希望を見つけた。
(夜見さんを消してしまったのは、あのお守りだった。破魔神社に行けば何かわかるかもしれない。)
ある日の昼休み、彼は陽子のクラスの教室に入っていった。
陽子は、お守りを無理矢理渡して夜見を消してしまったことに強い罪悪感を感じ、彼と距離を置いて図書室に来なくなっていた。
「陽子さん。」
ぼーつと教室の窓から遠くを眺めていた陽子に声をかけた。
「えっ。なに。」
陽子は今一番会いたくない人に急に声をかけられ、とても驚いた。
「お願いごとがあるのですか。」
「神木君、ほんとうにごめんなさい。私は夜見さんが消えた後も、毎日ずっとあの子のことを考え続けている。あの子が消える前に見せた笑顔が、忘れられない。」
「破魔神社のお守りは、神社の宮司様が魔除けの祈祷をして霊力を封じこめるそうですね。お守りの霊力で夜見さんが消えたのなら、霊力を封じ込めた宮司様が何か知っているかもしれません。是非、会わせてください。」
「お守りを買った時に宮司様に1回お会いし相談したら、鬼道についてよく知っていらっしゃったわ。神木君の言うとおりかも知れない。今度の日曜日、一緒に破魔神社に行ってお会いしましょう。」
次の日曜日、彼と陽子は小高い山の上にある本殿でお参りを済ませた後、宮司と面会が可能か、売店の巫女に確認してもらった。
しばらくすると、巫女が本殿から戻ってきた。
「お会いするそうです。」
2人は本殿の祈祷室で宮司と向かい合っていた。
破魔神社のお守りを渡すと夜見が陽子の目の前から消えたこと、2人以外の人々の記憶から消えていること、彼が夜見と出会い、たびたび乗り降りしたきさららぎ駅が現実にはなかったことなどを宮司に話した。
宮司は冷静に注意深く2人の話しを聞いた後で言った。
「確かに鬼道が使われた形跡があります。そして鬼道を使ったのは、相当霊力が高い人物ですね。お話を聞くと、幻影はこれ以上ないほど現実に近くなっています。」
宮司は続けた。
「神木さん、あなたは夜見さんと強く結ばれていますね。鉄道に架空の駅を作るためには、もちろん強い霊力が必要です。駅で出会うことが必然といえる2人の運命が必要です。」
「不吉なことを言うようですが、夜見さんは生きているのでしょうか。」
「もちろん、生きていますよ。亡くなった霊体には鬼道を使うことはできません。ただ、生きているのだけれど現実に神木さんに会えない、やむにやまれぬ理由があるのではないでしょうか。」
「彼女が今いる場所を、どうすれば見つけることができるでしょうか。」
「たぶん、鬼道は我が神社のお守りで効力を現わすことはできなくなりましたが、今も引き続き使われています。現実と幻影の両者を結びつけると現われる、なにか違和感があるしるしがありませんでしたか。」
彼はしばらく考えていたが、やがて思い当たることがあった。
「電車の時刻が、きさらぎ駅着11時11分、きさらぎ駅着17時17分、東鹿島駅発21時21分。それから試合で僕が得点したのが88分88秒でした。」
陽子が付け足した。
「神木君に関係ないけれど、2チャンネルのホラースレッドが炎上した話しで、女子生徒は伊浜駅発16時16分の電車に乗ったわ。」
彼が起こした校則違反も、彼女とは関係のないものになっていた。
ある日の昼休み、彼は友人の中島広樹に聞いてみた。
「中島、僕が体育祭の予行練習でやってしまった校則違反のことを覚えている。僕がお姫様だっこしてダッシュした女の子のことだけれど。」
「そうそう、隣の伊浜市立高校のグランドで女の子が熱中症で倒れたのを見て、我が高の予行練習をすっ飛ばして、2つの高いフェンスを信次は越えた。
お姫様だっこして市立の保健室まで運んだな。」
「覚えているんだ!」
「当然さ。見ていた北高と市立の両高の生徒達が大きな拍手と歓声が沸き起こった。その子は○○○○さんて言ったっけ、感動して信次に付き合ってほしいと告白した。ところが信次はびっくりの返事をした。………
………『僕はあたり前のことをしただけです。もう少し僕のことを見ていただいて、良いと思ったら、その後付き合っていただけますか。』って、あれからもう半年以上が過ぎているけれど、どうするんだ。」
「………」
「どうした。彼女とうまくいっていないのか。」
「○○○○さん。」
「信次、どうした。大切な名前を忘れたのか。」
「ごめん、ごめん。○○○○さんだったね。こういうことはしっかりしなくてはね。」
(あの時、抱き上げた夜見さんの顔を鮮明に覚えている。他の誰でもなかったのに………)
夜見が消えてしまってから、彼が過ごす毎日が全く変わってしまった。
三州鉄道にはきさらぎ駅がなかった。朝、通学のために東鹿島駅から乗る電車は3駅目で「大林駅」に着いた。
3駅目に着く前に、電車のアナウンスが「きさらぎ駅」と告げるのを毎日期待したが、そのようなことは絶対に起こらなかった。
彼に残っているのは、確かに現実に彼女と過ごした時間の記憶だけだった。
それだけしかなかったが、どうすれば再び彼女と会えるのか粘り強く考え続けた。
やがて、かすかな希望を見つけた。
(夜見さんを消してしまったのは、あのお守りだった。破魔神社に行けば何かわかるかもしれない。)
ある日の昼休み、彼は陽子のクラスの教室に入っていった。
陽子は、お守りを無理矢理渡して夜見を消してしまったことに強い罪悪感を感じ、彼と距離を置いて図書室に来なくなっていた。
「陽子さん。」
ぼーつと教室の窓から遠くを眺めていた陽子に声をかけた。
「えっ。なに。」
陽子は今一番会いたくない人に急に声をかけられ、とても驚いた。
「お願いごとがあるのですか。」
「神木君、ほんとうにごめんなさい。私は夜見さんが消えた後も、毎日ずっとあの子のことを考え続けている。あの子が消える前に見せた笑顔が、忘れられない。」
「破魔神社のお守りは、神社の宮司様が魔除けの祈祷をして霊力を封じこめるそうですね。お守りの霊力で夜見さんが消えたのなら、霊力を封じ込めた宮司様が何か知っているかもしれません。是非、会わせてください。」
「お守りを買った時に宮司様に1回お会いし相談したら、鬼道についてよく知っていらっしゃったわ。神木君の言うとおりかも知れない。今度の日曜日、一緒に破魔神社に行ってお会いしましょう。」
次の日曜日、彼と陽子は小高い山の上にある本殿でお参りを済ませた後、宮司と面会が可能か、売店の巫女に確認してもらった。
しばらくすると、巫女が本殿から戻ってきた。
「お会いするそうです。」
2人は本殿の祈祷室で宮司と向かい合っていた。
破魔神社のお守りを渡すと夜見が陽子の目の前から消えたこと、2人以外の人々の記憶から消えていること、彼が夜見と出会い、たびたび乗り降りしたきさららぎ駅が現実にはなかったことなどを宮司に話した。
宮司は冷静に注意深く2人の話しを聞いた後で言った。
「確かに鬼道が使われた形跡があります。そして鬼道を使ったのは、相当霊力が高い人物ですね。お話を聞くと、幻影はこれ以上ないほど現実に近くなっています。」
宮司は続けた。
「神木さん、あなたは夜見さんと強く結ばれていますね。鉄道に架空の駅を作るためには、もちろん強い霊力が必要です。駅で出会うことが必然といえる2人の運命が必要です。」
「不吉なことを言うようですが、夜見さんは生きているのでしょうか。」
「もちろん、生きていますよ。亡くなった霊体には鬼道を使うことはできません。ただ、生きているのだけれど現実に神木さんに会えない、やむにやまれぬ理由があるのではないでしょうか。」
「彼女が今いる場所を、どうすれば見つけることができるでしょうか。」
「たぶん、鬼道は我が神社のお守りで効力を現わすことはできなくなりましたが、今も引き続き使われています。現実と幻影の両者を結びつけると現われる、なにか違和感があるしるしがありませんでしたか。」
彼はしばらく考えていたが、やがて思い当たることがあった。
「電車の時刻が、きさらぎ駅着11時11分、きさらぎ駅着17時17分、東鹿島駅発21時21分。それから試合で僕が得点したのが88分88秒でした。」
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