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もう1歩
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次の日の朝は珍しく、いつもより少し寒かった。もう4月末だと言うのに、と朝起きた瞬間たくさんの人が思っただろう。那月は普段、体温は高い方だが今日は手が冷たかった。この季節外れの寒さのせいか、それとも緊張のせいか。
「行ってきます!」
身支度を終えて家を出た那月の手には、先輩のセーターが入った紙袋がある。カサカサと音を立てながら歩くたびに、昨日のことは夢じゃないのかと何回も思っていた。でもこのセーターが現実だと思い知らせてくるようだ。
そういえば高校に入学して間もないし、3年生の階なんて行ったことがない那月は、滅茶苦茶に緊張している。
ーーー大丈夫、大丈夫。頑張るんだ。怖くない怖くない、怖くない。
自分に暗示をかけるように何度も頭の中で唱えた。会った時のイメトレも。まずは、助けてくれてありがとうございましたを絶対に言いたい。
「た、た、たす…たすけ、たすけてくれ…た、た、」
那月は歩きながらブツブツと伝えたい言葉を繰り返した。駅に着いてから電車に乗ると、朝はだいぶ混んでいて人が箱の中に詰められていくような感覚だ。この誰彼構わず至近距離になってしまう満員電車が那月は苦手だ。
いつも出来るだけ男の人がいない場所に逃げるが、もし近くに来たら、イヤフォンをして下を向いて目を閉じる。これで何とか気を紛らわせてきた。そして今日は押しのけられていく中、セーターを守るように胸の前で紙袋を抱き抱えた。
「うぅ…っ」
一一一あれ?でも、なんだろう。さっきまで緊張してたのに、電車乗っても今日はいつもより冷や汗かかない。息も苦しくない。
一一一いつももっと苦しいのに…なんでだろう。
不思議に思いながらも、今日も何とか電車の恐怖からは免れた。
「よし、那月!ここだ!」
学校へ着いてから後から来た明衣と合流し、3年生のクラスがある4階へやって来た那月。当たり前に、歩いてくる人達はみんな先輩で、まだホームルームまで時間があるから人は少ない。
「昨日調べてみたら、その彩世先輩は3組だった!この辺で待ち伏せして、来たら捕まえよう」
「明衣、どうやって調べたの!?」
「ふふーん。まあ私はその道のプロですので。人伝いに聞いたらすぐ分かったよ」
「さすが…顔広いね」
明衣と那月は3組の目の前の廊下で、彩世先輩を待ち構えた。通っていく3年生は朝から1年生が来ていることが不思議なのか、2人をチラチラと気にしている。
「…う、き、緊張してきた」
「大丈夫!何かあっても、あたしがいるでしょ!那月ならできる!」
「う、うん…!」
3年生の階に来てから、10分ほど経った頃。廊下の向こうから、1人背の高い男の人が歩いてきた。その人はシャツにしっかりネクタイをして、携帯を見ながら歩いてくる。
「那月、あれ!」
「あ、そ、そうだ。あの人だ」
その人はまさしく彩世先輩だ。何度も見かけて、昨日助けてもらって顔を見間違えるわけない。確信した那月は、震える足を踏み出した。
一一一先輩が教室に入る前に、声をかけなきゃ。早く、動け足!動け口!!
「あっ、あ、あ……」
しかし、そこから中々動けない那月に彩世先輩は気付かず、どんどん教室の方へ歩いていく。紙袋を持つ手をぎゅっと握りしめ、那月はもう1歩だけ何とか前に踏み出した。
「あ……あのぉ!!!」
力を振り絞って、何とか那月の口が開く。大きめの声だったおかげで、彩世先輩は携帯を見ていた顔を上げ、2人がいる方に視線を移した。
「え?」
「あ、あ…あのあのあのあの」
一一一先輩が、こっち見た。気付いた。どうしよう、どうしよう。落ち着いて話さないと…!
「ん?俺?あ…ていうか、君」
「え、あ、」
「昨日の1年生?やっぱそうだ、その感じ。何してんの?いま呼んだ?」
彩世先輩は、明らかに動揺している那月のそばに近寄り見下ろした。那月が見下ろされるということは、背は180センチ以上はありそうだ。
一一一背が、背が大きい。大きい男の人だ、体も大きい。ど、どうしよう。怖くなってきてしまった。怖がらないって決めたのに…!
「行ってきます!」
身支度を終えて家を出た那月の手には、先輩のセーターが入った紙袋がある。カサカサと音を立てながら歩くたびに、昨日のことは夢じゃないのかと何回も思っていた。でもこのセーターが現実だと思い知らせてくるようだ。
そういえば高校に入学して間もないし、3年生の階なんて行ったことがない那月は、滅茶苦茶に緊張している。
ーーー大丈夫、大丈夫。頑張るんだ。怖くない怖くない、怖くない。
自分に暗示をかけるように何度も頭の中で唱えた。会った時のイメトレも。まずは、助けてくれてありがとうございましたを絶対に言いたい。
「た、た、たす…たすけ、たすけてくれ…た、た、」
那月は歩きながらブツブツと伝えたい言葉を繰り返した。駅に着いてから電車に乗ると、朝はだいぶ混んでいて人が箱の中に詰められていくような感覚だ。この誰彼構わず至近距離になってしまう満員電車が那月は苦手だ。
いつも出来るだけ男の人がいない場所に逃げるが、もし近くに来たら、イヤフォンをして下を向いて目を閉じる。これで何とか気を紛らわせてきた。そして今日は押しのけられていく中、セーターを守るように胸の前で紙袋を抱き抱えた。
「うぅ…っ」
一一一あれ?でも、なんだろう。さっきまで緊張してたのに、電車乗っても今日はいつもより冷や汗かかない。息も苦しくない。
一一一いつももっと苦しいのに…なんでだろう。
不思議に思いながらも、今日も何とか電車の恐怖からは免れた。
「よし、那月!ここだ!」
学校へ着いてから後から来た明衣と合流し、3年生のクラスがある4階へやって来た那月。当たり前に、歩いてくる人達はみんな先輩で、まだホームルームまで時間があるから人は少ない。
「昨日調べてみたら、その彩世先輩は3組だった!この辺で待ち伏せして、来たら捕まえよう」
「明衣、どうやって調べたの!?」
「ふふーん。まあ私はその道のプロですので。人伝いに聞いたらすぐ分かったよ」
「さすが…顔広いね」
明衣と那月は3組の目の前の廊下で、彩世先輩を待ち構えた。通っていく3年生は朝から1年生が来ていることが不思議なのか、2人をチラチラと気にしている。
「…う、き、緊張してきた」
「大丈夫!何かあっても、あたしがいるでしょ!那月ならできる!」
「う、うん…!」
3年生の階に来てから、10分ほど経った頃。廊下の向こうから、1人背の高い男の人が歩いてきた。その人はシャツにしっかりネクタイをして、携帯を見ながら歩いてくる。
「那月、あれ!」
「あ、そ、そうだ。あの人だ」
その人はまさしく彩世先輩だ。何度も見かけて、昨日助けてもらって顔を見間違えるわけない。確信した那月は、震える足を踏み出した。
一一一先輩が教室に入る前に、声をかけなきゃ。早く、動け足!動け口!!
「あっ、あ、あ……」
しかし、そこから中々動けない那月に彩世先輩は気付かず、どんどん教室の方へ歩いていく。紙袋を持つ手をぎゅっと握りしめ、那月はもう1歩だけ何とか前に踏み出した。
「あ……あのぉ!!!」
力を振り絞って、何とか那月の口が開く。大きめの声だったおかげで、彩世先輩は携帯を見ていた顔を上げ、2人がいる方に視線を移した。
「え?」
「あ、あ…あのあのあのあの」
一一一先輩が、こっち見た。気付いた。どうしよう、どうしよう。落ち着いて話さないと…!
「ん?俺?あ…ていうか、君」
「え、あ、」
「昨日の1年生?やっぱそうだ、その感じ。何してんの?いま呼んだ?」
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