早く惚れてよ、怖がりナツ

ぱんなこった。

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どこかでは

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あれから教室に戻った明衣と那月は、ギリギリホームルームまでに間に合うことができた。那月は今回、いつもより汗が引くのも息が整うのも早かったので、落ち着いて授業を受けられていた。

それからは、いつもと変わらず淡々と時間は過ぎていく。

「お前ら4時間目だからってたるむなよー」

だけど、しっかり授業を受けているはずなのに那月の頭のどこかでは、不意に朝の彩世の表情が浮かんでいた。すごくにこやかでも、愛想がいい訳でもないのに、彼の表情は何でか柔らかく感じる。

一一一あの先輩は、僕のこと言いふらしたりとかしなさそう。よく知らない人だけど…そんな気がする。でも先輩は、僕のこと鬱陶しく思ったかもしれないな。

ノートをとりながら、ボーッと手に持つシャープペンシルを眺めた。男の人としっかり言葉のキャッチボールが出来たのが久しぶりだからか。助けてもらったお礼が言えたからか。

先輩との出会いと、今朝の一部始終がやけに那月の心にこびりついているようだ。彩世の態度は少し冷たくぶっきらぼうに見えるが、那月はそれよりも奥にある優しさを微かに感じていた。

一一一でも、きっと怖いことに変わりはない。まだ、今はまだ。もしかしたら、今日みたいに関われたら、慣れていったら怖くなくなる日が来るのかな。想像もできないけど…。

何より、セーターも返せたことだし彩世と関わる機会などもう無いかと、那月は「ふぅ」と息を吐いた。

「はい、今日はここまでー」

なぜか他よりも長く感じる4時間目が終わり、昼休憩になった。少し浮き足立つ時間。周りが騒がしくなる中、那月は弁当を鞄から取り出した。巾着袋に綺麗に包まれた、母が作ってくれた弁当だ。

「那月!ご飯食べよ!」
「あ、うん!明衣、今日はどこも行かないの?」
「今日は行かないよ!ねぇ、せっかくだし中庭で食べない?天気いいからさ」
「そうだね」

明衣の提案通り、2人は中庭に向かった。そこは校舎の中間にある庭で、大きな木や丸いベンチがある所だ。屋上よりは人気がないから、人も滅多にいないので落ち着いて居られる場所。

入学してすぐ那月が中庭を見つけ、1人の時よく来る場所になった。たまに明衣もこうして一緒にそこでご飯を食べている。

「あ!ちょっと売店寄ってくから先行ってて!」
「わかった」

先に中庭に着き、那月はキョロキョロ周りを見渡してからベンチへ腰かけた。風が吹くと同時に木が揺れて、心地いい音と葉の匂いがするここは那月の好きな場所だ。

「ふーーー、なんだか疲れたな。落ち着く…」

腕を上げ体を伸ばしていると、少し癒される感覚。張り詰めていた緊張が解けるかのような…。

「だから…無理だって。何度も電話してこられてもさ」

そう那月の体の力が抜けたと思った瞬間、すぐ近くから聞こえてきた男の声に、ガチッとまた体が固まった。
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