近世ファンタジー世界を戦い抜け!

海原 白夜

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メッスの戦い~序章~

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「……ふむ。成る程。そうかそうか」
 赤旗を掲げた軍旗が迫っていると聞いて、俺は思わず溜息を吐きたくなる…が、俺の側で難しい顔をしている総司令官のルーン侯爵閣下を前にそれを押さえた。

「やあやぁ子爵閣下、どう思うかね?」
「部隊は確実に撃退できる規模であるかと思います。ブランタリア人の数は1000に満たない程度。魔法使い旅団だけでも撃退は容易。されど、徹底的に鎮圧せしめればそれはブランタリア人に政治的に利用される可能性が大であるということです」
「だったらどうだというのだね?ブランタリア人は内戦によってすべてを燃やし尽くしている。数十年後には風化している出来事になるだろう」

 ルーン侯爵閣下は理解していないようだ、目の前の脅威が。愛国主義で団結したブランタリア人は、平和なうちはデモなどでその無駄な活力を発揮させる間はクソみたいに見えるが、一致団結すると途端に欧州を席捲する化け物になるということを。
 できれば穏便に帰っていただければ有難いことこの上ないのだろうが……それも無理だしなぁ。

「政治的に非常に面倒な事態になるということです。ブランタリア人の立憲主義者はグロウス帝国に宣戦布告してくる可能性は低いと思われますが。
 共和主義者たちも内戦に一定の功績を立てているのは事実。故に、立憲主義者は共和主義者への妥協を強いられることになるのは間違いなく、結果として神聖グロウス帝国に宣戦布告してくる可能性が高いと推測します
 。この衝突はブランタリア人の郷土的な愛国心を掻き立てる要因になるのではないか…そう考えております」

「愛国心?そんな矮小なモノ・・・・・で立憲主義者も戦争に動くと?
 バカなナイン!そんなことがあり得るわけがないだろう。戦争とは利益のために行われるモノであり、つまり領土的野心のために民衆自らが動くことなんてありえないだろう!」
「いえ、あくまでも政治と戦争は別物であり、そこに合理主義はありません。連合王国の党派闘争に見られるよう、自陣営の政治的優位を確保するために非合理なことを主張し、感情を逆なでるのが常套手段。
 つまり、彼らは自らの派閥の生存のために非合理なことを選択しなければいけないのです。
 共和主義者が尊ぶ愛国心ナショナリズムなるものは賢明なる我ら貴族には理解できない実に過激的ラディカルなものでありますが、議会主義という民衆の意思を伝える場に至っては非常に強力な意味を持ちます。聞き心地の良い言葉は大抵不合理でありますからな。
 無論、このライヒ人の土地に侵入してきた土地に侵入してきたブランタリア人部隊を叩き潰すのはライヒ人の為致し方ありませんが、それが虐殺的行為にならぬよう細心の注意を払い、将来の禍根をなるべく残さぬ必要が…」
「貴様は子爵。私は侯爵!貴様は侯爵の意見の方が間違っているとでも言いたいのかね!?」

 いやまぁ、確かにこれまでの貴族主義的に考えればルーン侯爵閣下のことも分からなくもないのだ。
 ただ、連合王国の歴史を振り返ってみれば、この世界にも現れたクロムウェル閣下のように共和主義者がわいてくることは十二分にあり得る。それをイレギュラーと嘲笑するのは少しばかり、かなり危うい考え方。
 いや、常識というのは最終的に多数起きたことに対する方程式の解みたいなところがあるから、ルーン侯爵閣下の方が間違っていないと言われれば否定しがたい。
 世界の流動化と勃興するナショナリズムの大波が到来するのが早すぎるのだ。これまでは常識的な考えが瞬く間に愛国主義的、自国主義というこれまでの貴族たちの家系主義、即ち緩やかな家と家が繋ぐグローバル主義を打倒せしめる速度が余りにも早すぎたんだ。

「差し出がましい真似を失礼いたしました、侯爵閣下。されど、私の言葉をしかと覚えていただきたく存じます」
「……フン。少しばかり覚えておくとしよう。しかし、確かに我が大公殿下に預けられた兵を磨り潰すのは愚策であるな…ふむ、そうだ。貴軍の兵士のいくらかを半包囲するように配置できないかね?」
「成る程、戦いに対する気概が薄い民兵たちに対し、半包囲することで《囲まれたら確実に死ぬ》と死の恐怖を明確にさせ、戦う前に敗走を強いる作戦でありましょうか?」
「その通りだ。所詮は正規軍とマトモに戦ったことがないか、圧倒的な数で潰してきた烏合の衆よ。正規兵が本気で物量も重ねて叩き潰す様子を見せれば、あっという間に逃げ散るであろう!
 何せ、我らにはバジャールの軽騎兵もいる。歩兵しかいない連中には脅威でしかないだろうな」
 
 シュヴァルトニッツ攻防戦でも思ったけど、この人無能じゃないんだよなぁ。俺の言葉を却下した癖に、その理論に少しばかりは納得できるのか無意識だとしても作戦を修正し、俺に一部の作戦を一任する。シュヴァルトニッツ攻防戦で恥辱を味わう要因になってしまった俺に対しても、発言権を奪ったりはしない。
 其処にあるのは正しく貴族らしい貴族であり、貴族将校らしい貴族将校でありながら、しかと軍を預かる者としての責任感を兼ね備えてもいる…優秀な総指揮官だった。

「では、少数の兵を森に伏せ、戦列歩兵の射撃音が轟いた段階で前進を命じ、仮初ではありますが全方位から押しつぶすようにたくらぬのは如何でしょう」
「成る程、では敵の進軍経路を操作するため、伝令を使い大々的に噂を広げよう。もし、連中が我々の思う以上の臆病者なら戦わずして逃げ散るだろう。それが可能であればの話だがな」
「素晴らしい策かと。戦いで血は流れぬ方が、本来は良いのですから」

 互いに嫌い合いながら、策略は洗練され、磨き上げられていく。
 そこにあったのはまさしく軍議であり、戦争家たちの目論む戦略であり、戦時的意図で起こされた共和派の暴走が鎮圧されそうなのは間違いなかった。

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