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「ロウの火魔法」
しおりを挟むべちゃっとうつ伏せで地面に着地。
下りるというより、竜の落とし子から放り出された形になった。
「なんか、いろいろすごかった」
快適とはいえない、竜の落とし子の乗り心地。
確かにめちゃくちゃ速かった。ジェット機に乗ってる感じ。でも、椅子に座ってとかじゃなくて、映画のアクションシーンみたいにジェット機にしがみついてる方。(竜の落とし子にしがみついてたけど)
風でくしゃくしゃになった髪を手で撫でつけ、ヨレヨレになった服も手で伸ばしながら立ち上がる。
落ちないように必死にしがみついてたから脚がフラフラだ。全身の力を使い切った気がする。(ポーションが欲しい)
明日、絶対、全身筋肉痛になってる!
竜の落とし子はその場でふよふよと浮いたまま。
帰りもこれに乗って帰るのかと思うと先が思いやられる。
特に逃げそうにもないからそのまま放置して、すぐ先にある洞窟に視線を向ける。
街からそんなに離れてないだろう、郊外の森の中に忽然とある小ぶりな洞窟。
かすかにだけど、悲鳴みたいなのが聞こえるような・・・。
第一王子がゴブリンにやられてるとは思えない。多分、第一王子に攻撃されてるゴブリンの悲鳴かもしれない。
「うぅ、やだなー。なんでわざわざ修羅場のところに行かなきゃいけないんだよ」
恐る恐る洞窟の中に入って行くと外より少しひんやりしている。視界は薄暗いけど真っ暗ってわけじゃない。奥から漏れる明かりでなんとか足元が見える。
腕を手でさすりながら先を進んでいくと、ヒタヒタと素足で走ってくるゴブリンの姿が。
「ひぃ、出た!!」
隠れたくても隠れる場所がない。ていうか、普通なら剣とか盾を持ってるはずなのにオレって防具もつけてないうえに丸腰だ。
今更の気づきに泣けてくる。
フォ・ドさんいわく、ピアスの魔石が魔物100体から守ってくれるっていうけど、効果を実感した記憶がない。
ケーッと雄たけびをあげて石と木の棒で作られた武器を振り上げるゴブリン。
まる焼けのゴブリンばっかり見てきたから生きてるのがなんか新鮮だ。
小学低学年くらいの身長に全身緑、耳はコウモリみたいに尖ってて目はつり目で赤い瞳だ。一応、なんかの生き物の革を布替わりにして腰に巻き付けている。
ゲームでは青とか赤のゴブリンは見たことあるけど、緑は初めてだ。
口を開くたびに牙が見えてゾッとする。
うぉぉぉ、どうしよう!
魔法の使い方をまったく教わってない!
イメージ、思い込みが大事とか言ってたけど、ゴブリンが怖すぎて頭の中真っ白だ!
ゴブリンの顔が怖くないイメージ・・・。
ダメだ、全然浮かばない。つーか、想像力ないオレにイメージってハードル高すぎだろっ。
そーだ、見た記憶とかでもいいよな。怖い顔を隠してる絵? 映像? テレビで観たものとか。
とにかく、なんか思い出せ!
ゴブリンの顔が怖くないやつ!
数秒後、襲ってくる一体のゴブリンの顔にモザイクがかかった。
ん?!!!
魔法?! オレ、今、魔法使ったってこと?!
それとも魔石の力ってこと???
モザイクがかかったまま、ケーッと雄たけびをあげて襲って来ようとしているゴブリン。これはこれでちょっと・・・。
見えないと逆に想像しちゃうっていうか。
そうだ、イラストっぽいのがいいかも。ゲーム内で描かれてる2頭身キャラとかなら可愛いかも。
とにかく可愛いゴブリンだ、可愛いゴブリン!
桃花が小さい頃に持っていた絵本を思い出すと、モザイクがとれてリアルだったゴブリンの姿がデフォルメちっくに変わった。
「おー、イラストっぽい! 絵本に出てきそう!」
肌の色もパステルカラーになって、ケーッという雄たけびだけが物騒なだけで他は可愛いゴブリンだ。
瞳もつぶらで怖くない。
なんて、和んでいたら振り上げた武器はしっかりリアルで、重みのある攻撃だった。
反射的に避けなかったら左腕の骨が折れていたかもしれない。
「あっぶねー!! 可愛くてもやっぱり中身は凶暴なゴブリンだ!」
ブンブンと武器を振り回すゴブリンに逃げながら奥へ進む。
通路を抜け、開けた場所へ着いた瞬間、石につまずいて転ぶ。すかさず追って来たゴブリンが襲いかかろうとしたその時、ボッと炎に包まれあっという間に黒焦げに。
うわー、えげつない。
起き上がって丸焦げになったゴブリンを見ると、以前見た丸焦げのゴブリンとは違い、パステルカラーの姿がちょっとすすけてるだけで状態が良い。顔も苦しんでるような歪んだ表情じゃなくて、両目がバツマークになって舌が出てるだけだ。
アニメでやられた敵がよくこうゆうふうに描かれているのを見たことがある。
魔法が効いてるってこと?
「すごい。これだったら見てもトラウマにならないな」
錯覚の魔法、さまさまだな。
襲われる恐怖から解放されたのと、リアルの丸焦げのトラウマから解放されたので肩の力が抜ける。
「おい」
聞き覚えのあるイケメンボイスにハッとして振り返ると、両手に丸焦げになったゴブリンをつかんで立っている第一王子が少し離れたところにいた。
「なんでここにいる。大学とやらはもういいのか」
「え」
フォ・ドさんは第一王子が落ち込んでると言ってたけど・・・なんか怒っているように見えるのはオレだけ?
鼻で笑う以外は全然表情を変えない第一王子。何を考えてるのか全然わからん。
でも、うわさを信じて勝手に怖がったり勘違いしたオレも悪かったのは認める。
あんだけぶちまけといて気まずいけど、桃花の結婚相手でもあるんだし、ここはちゃんと謝ろう。
ギュッと握ったこぶしに力を入れ、一歩、第一王子に近づく。
「こ、この前は悪かった。ちょっと・・・言い過ぎた」
「・・・大学うんぬんは嘘だったのか」
「なんでだよ、本音だよ。だけど、それは自分の世界に帰らないと意味ないっていうか。そうじゃなくて、あんたの、第一王子のうわさをうのみにしすぎた。ごめん。遊んでるとか言って」
「ルノーがなんか言ったのか」
「いや、フォ・ドさんと話した。魔物のこととかこの世界の事情とか教えてくれた。第一王子のことも」
チッと盛大に舌打ちをする第一王子。
「あのクソジジイ」
「言っとくけど、別にオレからフォ・ドさんに会いに行ったわけじゃないからな。部屋を出たら急に魔物研究所に移動してたんだ。魔石のせいだってフォ・ドさんは言ってたけど」
「魔石が混乱して勝手にダイヤを移動させたんだろ」
「混乱?」
「ルノーの奴が魔法が効かない部屋にダイヤを閉じ込めた。それを知らずに俺が何回か呼んだから魔石が混乱したんだ。魔法が効くところに出たことで、発動できなかった魔法が発動して、最初にオレが呼んだ場所に移動させられたってわけ」
意味わかるか? と珍しく第一王子がオレの様子を伺う。
「それってつまり・・・魔石のバグってやつか」
「は?」
「いや、なんでもない。なんとなくだけどわかった」
魔法にもバグがあるのかと思うと新鮮だ。
「ん? でもおかしくないか。オレ、魔法使いと一緒に何度か部屋を出てるけど」
「それは魔法使いがいたからだろ。そいつが魔石が発動しないようにまじない(呪い)を唱えてたんだろ。ずっと口元動いてなかったか」
「・・・フードを被ってたからあまり顔は見えなかった・・・と思う」
会話が全然なかったのは覚えてるけど、あいさつすらなかったから顔すら覚えてない。
「王立資格を持つ魔法使いなんていかすかない奴らばっかりだ」
チッとまた舌打ちしてから、第一王子は両手に持っているゴブリンをポイッと隅っこに投げ捨て、
「なんで来た。ゴブリンは嫌いなんだろ」
「それはー・・・て、え、今、ゴブリンて言った?!」
ゴブリンと呼んでるのはオレだけで、この世界はゴブリンのことを「ブス」て呼んでるはずじゃ。そういえば、フォ・ドさんはオレがゴブリンと言っても全然動じなかっただけじゃなく、フォ・ドさんもゴブリンて呼んでたような・・・。
竜の落とし子ですっかり忘れてたけど、どういうことだ?! フォ・ドさんもオレと同じ世界から来た人間??
何を言ってるんだといわんばかりの顔をする第一王子にあれ? と肩をすくめる。
「何言ってるんだ、ゴブリンはゴブリンだろ」
「この前はゴブリンのことをブスって言ってたよな?」
「おまえ、頭大丈夫か?」
「え?! あの魔物の名前、教えてくれたよな?!」
「教えた。不細工な顔をしてるからゴブリンだと呼ぶようになった、と」
ん?!
途中まであってるけど、「ブス」じゃなくてゴブリンて言った!
混乱するオレに第一王子が何かピンッときた顔をして、
「俺とダイヤが会話ができてるのは女神の力だ。俺の言葉が自分の世界の言葉で聞こえるだろ」
トントンと第一王子が自分の耳を指さす。
それって勝手に翻訳されて聞こえてるってことか!! なんつー便利なっ!! 女神様ありがとう!
「じゃー、自動的に修正されて聞こえてるってことか。便利だけどちょっと理解するまで混乱するな」
何がだ。という顔をしてる第一王子に「なんでもない」と答えて、この話は自己完結で終わらせた。(説明するのが面倒)
「で、なんで来たと聞いてる。まさか、謝りにわざわざ来たのか?」
「あーそれは・・・フォ・ドさんにも魔物退治を手伝って欲しいって頼まれて。見学? みたいな」
素直に「第一王子の火魔法を見に来た」といえばよかったけど、まだそこまで第一王子に心許してないっていうか。
しばらくじっと俺を見つめる第一王子だったけど、視線をそらしながらチッと3回目の舌打ちをした。
「あのクソジジイ、余計なことを」
ヤバ、言っちゃダメだったかな。ていうか、もしかして仲悪い? フォ・ドさんの顔を見る限りそんな感じじゃなかったんだけど。むしろ仲が良いっていうか。
フォ・ドさんが第一王子の話をしてる時の雰囲気を思い出していると、急に第一王子が低い声で「おい」と呼んできた。
視線を第一王子に向けると、今までに見ないほどの険しい表情にオレの心臓がキュッと縮んだ。
こっちを見ようとしない第一王子。集中しているのか、聞き耳を立てているのか、ぴくりとも動かずじっとしている。かと思えば、ニヤッと静かに口元だけで笑った。
その表情に嫌な予感のようなものを感じて、オレはゾワッと鳥肌が立った。
「来る。まだできたばかりの巣だ。仲間の数もそんなにいないと思っていたが」
「?」
「おい、見学って言ったな。だったら今からこいつらのボスが来る。魔物退治がどんなものか、しっかり目に焼き付けとけ」
ん?!
今、「こいつらのボスが来る」て言ったよな。こいつらって丸焦げになってるゴブリンたちのこと? ボスってなに?!
オレが来た通路とは別の通路に繋がってる穴を見つめる第一王子。
脚を大きく開き、戦闘態勢に入る姿を見て、一気に緊張が走る。
いつも急に来るから心の準備もないけど、これはこれでいたたまれない。
少しして、ズンッズンッと何か重いものがこっちに近づいてくる音が聞こえる。音に共鳴するように洞窟全体が振動して天井からパラパラと石の破片が落ちる。
オレは恐怖でバクバク鳴ってる心臓を全身に感じながら、一歩一歩第一王子から離れ隅っこに。
ていうか、見学はいいから逃げたい!!
振動がどんどん大きくなり、体に感じる地震の揺れのように洞窟全体が揺れ、思わずその場でよろける。
第一王子はまったく動じないまま、同じ姿勢でゴブリンのボスを待っている。
ケーッと複数のゴブリンの雄たけびとともに穴から数十体のゴブリンが走りながら出てきた。
そのあとに続いて、ゴブリンよりも何倍も大きいゴブリンがゆっくりとした動きで穴から現れた。
「ひぃっ」
思わず声が漏れ、慌てて口を手で塞ぐ。
現れた巨大なゴブリンはボスという名にふさわしい風貌で、第一王子の前に向き合う形で足を止めた。
先に出てきた普通サイズのゴブリンたちは第一王子を囲むように立ち、木の棒と石でできた槍を一斉に第一王子に向ける。
オレのことはまったく視界に入っていないのか、完全にアウェイ状態だ。でも、全然問題ない。むしろ、このまま気づかないでいてほしい!
人間ひとりに対してゴブリンが・・・20、30いるプラス天井に届きそうな巨大なボス。どう見ても完全に分が悪すぎる。
なのに、ゴブリンの隙間から見える第一王子は全然動揺もしていないし、逃げようともしないで態勢がまったく変わってない。
ここだと第一王子の背中しか見えないと、ゴブリンに気づかれないように静かに場所を移動して顔が見えるところに来たけど、表情も特に怖がっていない。それどころか、どこか楽しそうに見えるのは気のせい?
数秒、ゴブリンのボスと睨みあったあと、普通サイズのゴブリンたちが一斉にケーッと雄たけびをあげだし、その場でピョンピョンと飛び始めた。
洞窟内に響く雄たけびに耳が痛くて思わず耳をふさぐと、飛び跳ねていたゴブリンたちが次々と第一王子に襲いかかる。
さすがにその人数相手はヤバいだろうと思った瞬間、ゴォッと火が上がり襲いかかるゴブリンが次々と炎に包まれていく。
火だるまになったゴブリンは何か風圧のようなもので吹き飛ばされ、オレのすぐ横をかすめて洞窟の壁にぶち当たった。
それは次々と起こり、あっという間に半分のゴブリンがやられた。
え、えーーーーーーーーーーー。
見通しがよくなったその中心には、まっすぐその場で立っている第一王子の姿が。と、言いたいけど、雰囲気が違う。いや、髪が赤だ。
焦げ茶色だった髪色が透き通るような鮮やかな赤に染まっている。
よく見ると、瞳の色も赤だ。
雰囲気ががらりと変わった第一王子がなんか神々しく見えると思ったら、全身が光ってる。
眩しいというより、柔らかい淡い光をまとってる感じ。
その光で髪と瞳が鮮やかに見えることに気づく。
「キレイだ」
思わず口からついた言葉に自分でもびっくりする。
仲間を倒されたことに怒った残りのゴブリンたちがケーッと雄たけびをあげながら第一王子に向かって襲いかかる。
まっすぐ立っていた第一王子がスッとまた脚を開き戦闘態勢に入ると、赤髪がふわっと揺れた。不思議だと思って視線を変えると足元から風が吹いている。
風魔法も使えるのかと思ったけど、足元から赤い火がチリッと現れ、次第に広がって風と一緒に舞い上がって第一王子を包むようにとどまった。
さっき吹き飛ばされたゴブリンも今吹いてる風も、きっと正体は熱風だ。風魔法じゃない、多分。
その証拠に、こっちまで熱い風が吹いてきた。
襲いかかってきたゴブリンたちはその熱風に巻き上げられ、次々と火だるまになって壁に叩きつけれていき、あっという間にボスだけになった。
それはもうあっという間の出来事で、瞬きをしたら見逃してしまいそうなくらい一瞬だった。
ゴブリンには悪いけど、サーカスのショーでも見にきた気分になりかけた。それくらい、第一王子の火魔法を操る動きは息をするのも忘れるくらい隙がなかった。
普通のゴブリンが全滅したことでボスのゴブリンが「ウオォォォッッ」と吠え、その反響で洞窟内が揺れる。
いよいよ、ボスとの戦いだ。
デカいだけで特に武器らしい物を持っていないボスはどう戦うのかと、ごくりと唾を飲み込んで見守ろうとしたけど、これも一瞬で終わった。
スロー再生があるならこうだ。
まず、ボスが吠えたあと、第一王子の火魔法が天井に届くくらい大きく燃え上がった。
その火はすごくキレイで、内側から外にかけて黄色から赤へのグラデーション。
あまりに鮮やかで感動すらした、オレ。
そしてその火は、いや、炎は熱風となって渦を巻き、第一王子の動きに共鳴するように舞い、一気に巨大な体を包みこんでボスを黄金色に染めた。
普通のゴブリンよりちょっと時間はかかったけど、ボスも丸焦げになって、最近できたゴブリンの巣は全滅した。
恐るべし、次期国王の火魔法。
ボスが倒されたことによって洞窟が音を立てて崩れ出し、慌てて外へと逃げた。
「なにしてるの?」
小瓶の蓋を開け、水のような液体を一滴、崩れ落ちた洞窟の岩の一部に垂らす第一王子。
「浄化だ。またここに他のゴブリンが巣を作らないように。憎しみを吸ってまた巣が復活しないように」
ポウッと崩れた洞窟が淡く光りだし、溶けるように地面に吸い込まれ消えてなくなり、ただの平坦な地面になった。速すぎだけどもう草の芽が生えてる。
「エグッ!! 何かけたんだよ!」
「聖水だ」
聖水?!!
「聖水という名の女神の涙」
「?! 女神様の涙?!」
「大昔はそうだったけど、今は魔物が増えすぎて女神の涙を集めるのは追いつかず、今は代用として聖女の涙を使ってる。他の大陸だと聖女の涙も追いつかないとかで聖水を使ってるところもあると聞いた」
教えてくれた第一王子の姿はすっかり元の第一王子に戻っている。光ってなければ、瞳も髪も焦げ茶色だ。
魔法を使う時だけ赤くなるのか。
「で、見学の成果はあったか」
小瓶をズボンのポケットにしまいながら、フッと鼻で笑った。
ふいうちにドキッと心臓が跳ねる。
「ま、まぁ・・・手伝ってやらなくも・・・」
モゴモゴと口の中で濁しながら第一王子から視線をそらすと、わざと第一王子から視線を合わせてきた。
「は? なんて言ったか聞こえない」
「・・・ッ、近いんだよ! 手伝ってやってもいいって言ったんだよ! 文句あるか!」
「なんでケンカごしなんだ?」
「ていうか、疲れた。城に帰りたい」
「おまえ、何もしてないだろ」
「ご、ゴブリンに追いかけられて走り回ったんだよ」
「ダサ」
「くっそー」
腹を立てながら竜の落とし子を探すけど、置いてきた場所にいない。
「あれ? 乗って来た竜の落とし子がいない?! なんで?」
「ジジイが飼ってる海竜(うみりゅう)に乗ってきたんだろ。しばらく放置してると小瓶に戻るように魔法がかかってる」
「マジか~」
この世界では竜の落とし子のことを海竜て呼ぶのか。
「安心しろ。ちゃんと送ってやるから」
「・・・それは、どうも」
多分、移動魔法のことだ。なら早く城に転送して欲しい。
「まだ?」
「・・・そうせかすなよ。変な奴だな」
フッとまた鼻で笑った。
顔面がエグいのは知ってるはずなのに、またドキッとしたことに腹が立つ。
さっき見た第一王子の火魔法が、第一王子の言ったとおりに目に焼き付いて消えない。
ゴブリンには本当に、めちゃくちゃ悪いんだけど、あの火はすごくキレイで。フォ・ドさんが褒めるのも分かった。
あれは、ヤバい。
ギュッとシャツをつかみ、第一王子の火魔法を思い出す。
熱が、あの時の熱が胸の内に残ってる。
火をまとって操る第一王子の姿はキレイで、かっこよかった。
「おい」
呼ばれて振り返ると、
「第一王子じゃなくてちゃんと名前で呼べ」
「え」
「ロウ。最初会った時に教えただろ」
ロウ。
そうだ、そういう名前だった。
「・・・ロウ」気づかれないように小さな声で呼んでみた。そしたら、目の前にいる第一王子がいつもと違って見えた。
なんていうか、そう・・・、つまりあれだ。
沼った。
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