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「沼りましたが、なにか?」 1/2
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『魔物退治がどんなものか、しっかり目に焼き付けとけ』
言葉のとおり、オレは第一王子が魔法を使う姿が目に焼き付いて離れない。
それはやけどみたいに、いつまでもジリジリと熱を持ち、何をしててもその熱を忘れられない。
あのあと移動魔法で城に戻った。
監禁部屋・・・違った。魔法が効かない部屋にオレがいなくなったことでメイドたちが城内を探し回ったらしい。ルノーはまたオレが兄上にダンジョンに連れて行かれたのかとすごく心配したと泣かれた。
ダンジョンにいたけど今回は第一王子の仕業じゃないことを説明したりとルノーを説得するのに時間がかかった。
疲れてクタクタなのに、その夜は目が冴えて全然寝れなかった。
目を閉じると、赤い髪に赤い瞳の第一王子の姿ばかり見える。
火を操る、第一王子の姿が。
「ダメだ、寝れない!」
ウズウズというか、ワクワクというか、とにかく興奮して眠れねーー!!
パジャマから襟無しのシャツに着替え、部屋を出て迷路という名の廊下を迷いながらなんとか外へ出た。
真夜中の外は星空がキレイだ。欠けた月の明かりを頼りに庭を抜け、魔物研究所へと向かう。
暗がりの中にぽつんと明かりが見え、石を積み上げて作られた一軒家にたどり着く。
夜中に急にやってきたのに、フォ・ドさんは驚きもしないで嬉しそうに家の中に入れてくれた。
「どうじゃ、魔物退治は。ロウ坊っちゃんに聞いても特に何も言わんでな。じゃが、機嫌が良いから仲直りをしたのはわかった」
昼間会った時と変わらない、ヨレヨレの襟無しシャツを着たフォ・ドさんは嬉しそうに言った。
「オレ、変なんです」
「変、とは?」
真顔で言うオレに、フォ・ドさんは首をかしげながらきょとんとする。
「目の前で第一王子がゴブリンを倒したのを見てから、胸のあたりがムズムズするっていうか、ワクワクするっていうか。自分でも、単純だなーってわかってるんです。あんなに嫌な奴だって思ってたのに、誤解が解けた途端・・・。第一王子がかっこいいって思っちゃうなんて!!」
ぎゅっと胸あたりのシャツをつかんで耐えるように体を丸くするオレに、フォ・ドさんがうんうんと頷きながらオレの肩に手を置き、
「おまえさんの気持ちはよーーーーーくわかる。ロウ坊っちゃんは男前じゃ」
「フォ・ドさん!」
わかってくれたくれたことが嬉しくて、姿勢をピシッと正してゴツゴツとしたフォ・ドさんの手を両手で握りしめる。
「めちゃくちゃかっこよかった火魔法をもう一度見たい! ていうか、何度も見たい! でも、今のオレじゃどう考えても第一王子の足でまといになるだけなのはわかってるんです!」
「ならば、やはり魔法じゃ! おまえさんには水属性がある。水魔法を習得すればいくらでもロウ坊っちゃんの魔法が見れるぞ」
「ですよね!! オレもそう思ったんで、ぜひフォ・ドさんに魔法の使い方をオレに教えて下さい!」
「よくぞ言った!!」
ぎゅっと、フォ・ドさんも両手でオレの手を握り返してくれた。
めちゃくちゃかっこよかった、第一王子の火魔法が!!
城に戻ってきてから、何をしてもずぅーーーーーっと頭の中に火魔法のことばっかり。
もう一回見たくてしょうがなくて、しょうがなくてずっとウズウズしてた。
これはもう、魔法に沼ったのも当然!
思いのたけをフォ・ドさんにぶちまけたらちょっとスッキリした。おかげで眠くなってきた。
フォ・ドさんにも魔法の特訓は明日からするから今日はもう寝るとよいと言われ、いったん自分の部屋に戻ることに。
ちなみに、オレが火魔法にハマったことは第一王子に言わないでほしいとフォ・ドさんにお願いした。
次の日、目が覚めたら第一王子のベッドで寝ていた。
火魔法にハマらなくても勝手に移動されて魔物退治へと駆り出す奴だった。
あんなに逃げ出したかった気持ちが嘘のようになくなって、火魔法で次々と魔物を倒していく第一王子の姿にオレはハマっていった。
ゆきやんが、ゲームの戦闘シーンはグラフィックがキレイでヤバイとよく言ってた。映像見たさに無駄にキャラを戦わせるとも言ってたけど、まさに今、そんな感じ。
ゲームやアニメでたくさんキレイな映像を見てきたけど、そんなの比じゃないってくらい生の魔法はすごい。
苦戦せずあっさり倒してくれるから足手まといどころか、オレがいる意味があるのかというくらい特にすることがない。と、思っていたけど、流れだまはある。
第一王子にびびって弱そうなオレを襲ってくる魔物がいたり、文字通り第一王子の魔法によって丸焦げになった魔物が飛んでくることもある。
毎回逃げ回るのも大変だ。
ここはファンタジー世界だ。女神様が創りだした想像世界というなら死んでも蘇ったりするんじゃ・・・と、魔物から逃げるのが面倒になってわざと死のうとしたこともあった。けど、第一王子に間一髪のところで助けてもらい、ついでにめちゃくちゃ怒られた。
この世界も死んだら終わりだった。それに、死んだら二度と地球には還れない。(怖っ)
守られてばかりも男としてはダサい。魔物退治の後にフォ・ドさんに魔法を教わることに。
火魔法を見ていたら自分でもあんなすごい魔法ができたら・・・と思わなくもない。いや、めちゃくちゃ憧れる。
改めて魔法を教わるのにふと疑問に思った。
「杖とか使ったりしないんですか?」
「杖じゃと? タコスを倒したおまえさんには必要ないと思うが・・・欲しいなら用意してやろう」
そう言ってあまり気乗りしない顔でフォ・ドさんが部屋の奥から年期の入った木の棒・・・もとい、杖を貸してくれた。
魔法といえば杖!
ついついテンションが上がったオレだけど、杖を見た第一王子に今までにないほど鼻で笑われた。なんていうか、すげーバカにされた感じ。(ムカッ)
フォ・ドさんによくよく聞いてみると、この世界では杖は魔法に馴らすために子供が持つものらしい。
つまり、自転車に乗れるように補助輪をつけるのと同じ。杖は補助輪だった。
初心者には変わりないんだからオレが持ってもべつにおかしくないと思うけど、子供のイメージが強いのか、城内で杖を持って歩いてもクスクスと笑われる。
三日持たず杖を手放した。
魔法といえば呪文。
魔法を使う第一王子は「ファイヤー!!」なんて言ってから魔法を使ってない。
フォ・ドさんに聞いたら呪文を唱える人も普通にいると教えてくれた。
第一王子が唱えないのは単に面倒くさいから。あと、
「魔力が高い者ほど呪文なんぞ唱えなくても発動するもんじゃ。体の一部じゃからの。あくびをするかのように、とても自然なことなんじゃ」
「オレは唱えた方がいいですか? ていうか、呪文てどんなのがあるんですか」
「呪文を口にすることによって魔法を発動しやすいならさすればよい。しかし、タコスを倒せるほどの実力じゃ。コツをつかめばロウ坊っちゃんのように唱えるより先に発動しとるじゃろ」
めちゃくちゃタコスを推すなぁ。
どうやらフォ・ドさんはあの巨大なタコを通して、オレの魔法の実力を認めてくれてるみたいだけど、正直未だにどうやったか思い出せない。
呪文も補助輪と同じ役目なら今のオレには必要だ。とは言っても、決まった呪文はないとフォ・ドさんが教えてくれた。
フォ・ドさんが教えてくれることはいたってシンプル。
「脈を感じるじゃろ。魔法も同じじゃ。おのれの身体に流れる魔力を感じるんじゃ。そして、イメージ。想像するんじゃ」
頭で考えるな。感じろ!
ということだろうか。昔のドラマに出てくる熱血教師みたいだ。
錯覚魔法を教えてくれた時と言ってることはほとんど一緒だ。つまり、魔法はとにかく想像が大事ってことか。そして、呪文は勝手に作っちゃえばいい。
小学生の国語の授業で想像力を働かせて物語を書いて下さいという課題を出されたことがあったけど、全然書けなくて結局宿題になった。
それでも書けなくて、ゆきやんのを丸写ししたら先生にめちゃくちゃ怒られた。
スマホが使えるなら今すぐゆきやんにラインして相談したい。でもここは異世界だから無理なわけで。
とにかく想像力は諦めて、また記憶力を頼ることにした。
ゲームのキャラが使ってた魔法だ。それを思い出そう。あとは、アニメかな。魔法が出てくるアニメを思い出そう。
記憶を頼りに、片っぱしから試してみた。
水しばりなのがけっこう難易度が高かった。
オレが覚えてる魔法といえばだいたいが火か雷。
派手で攻撃が高いのが好きなオレは火魔法を操るキャラばかり選択してた。まさかこんなところで仇になるなんて・・・誰も想像できないから!
数少ない水魔法を思い出したのは桃花が子供頃に夢中になって観ていたアニメ、プルキュアシリーズ。
必ずひとりは水魔法を使うキャラがいたのはありがたい! と思ったけど、よくよく思い出すと戦う時のコスチュームが水色なだけで必殺技は水系じゃなかった。
ひとりかふたりくらい水系の呪文を唱えてたキャラがいた気がするけど、肝心の呪文が思い出せず、ぼんやりした必殺技のシーンだけを思い出しながら試してみたけど魔法が発動するわけもなく・・・。
もうひとつ、桃花がやたらハマったアニメがあった。それは母さんが子供の頃にハマったもので、セー〇ームーンとかいうアニメ。
「娘ができたら一緒に観たかったのよねー」と念願の夢を叶えようと、母さんが必死になって桃花に洗脳させた女の子が敵と戦うやつ。プルキュアも同じ敵と戦う話だけど、セー〇ームーンの方が先だ。
ヒロインと一緒に戦う仲間で水魔法を使うキャラがいた。セー〇ーマーキュリーだった気がする。
毎日のように桃花と母さんが観るもんだからプルキュアよりこっちのアニメのほうがオレ的には詳しいと思うし、いろんなキャラがいた中でセー〇ーマーキュリーは気に入っていた。(知的キャラ)
攻撃力は低いし派手さもなくてどっちかというと敵の目をあざむく感じの必殺技だった気がする。
桃花に合わせてセー〇ームーンごっこをやってた頃を思い出しながら技の名前を記憶から引っ張りだしてみる。
確か・・・、
「なんとかスプレー・・・だったような」
技名は曖昧だけどとりあえずポーズ付きで試してみたら見事成功した。頭の中で思い出していた映像そのままのセー〇ーマーキュリーの必殺技が再現できてしまった。
シャボン玉っぽいのがいくつも浮かんで霧がたちこめて周りがぼんやりと見えにくい。同時にひんやりしてオレのいるところだけ気温が一度下がった気がする。
「すげー」
なんて感動してみるけど、地味すぎて魔物と戦うにはめちゃくちゃ心もとない。
でも、この技を使ってわかったのは、イメージがはっきりしてるとちゃんと形になるってことだ。
「想像できないものは魔法も発動しないってことか」
母さんの好きなアニメのおかげでちょっと魔法のコツがつかめそうで希望が持てた。
母さん、ありがとう。
心の中で感謝してみる。
記憶でもしっかり思い出せるものなら形にできるってことは水魔法じゃなくてもできるのでは? と好奇心が沸いてきた。思いつくかぎりのゲームやアニメの必殺技を試してみたら、それなりに成功したものもあれば失敗したり、中途半端で微妙なものまで。できたけど思ってたのと違うのもあったり。
いろいろやって疲れたけど、形として出てくるのが面白くて飽きずに3日くらいはやった。
そのおかげか、イメージをするのに慣れてきた気がする。
けど、問題発生。
言葉のとおり、オレは第一王子が魔法を使う姿が目に焼き付いて離れない。
それはやけどみたいに、いつまでもジリジリと熱を持ち、何をしててもその熱を忘れられない。
あのあと移動魔法で城に戻った。
監禁部屋・・・違った。魔法が効かない部屋にオレがいなくなったことでメイドたちが城内を探し回ったらしい。ルノーはまたオレが兄上にダンジョンに連れて行かれたのかとすごく心配したと泣かれた。
ダンジョンにいたけど今回は第一王子の仕業じゃないことを説明したりとルノーを説得するのに時間がかかった。
疲れてクタクタなのに、その夜は目が冴えて全然寝れなかった。
目を閉じると、赤い髪に赤い瞳の第一王子の姿ばかり見える。
火を操る、第一王子の姿が。
「ダメだ、寝れない!」
ウズウズというか、ワクワクというか、とにかく興奮して眠れねーー!!
パジャマから襟無しのシャツに着替え、部屋を出て迷路という名の廊下を迷いながらなんとか外へ出た。
真夜中の外は星空がキレイだ。欠けた月の明かりを頼りに庭を抜け、魔物研究所へと向かう。
暗がりの中にぽつんと明かりが見え、石を積み上げて作られた一軒家にたどり着く。
夜中に急にやってきたのに、フォ・ドさんは驚きもしないで嬉しそうに家の中に入れてくれた。
「どうじゃ、魔物退治は。ロウ坊っちゃんに聞いても特に何も言わんでな。じゃが、機嫌が良いから仲直りをしたのはわかった」
昼間会った時と変わらない、ヨレヨレの襟無しシャツを着たフォ・ドさんは嬉しそうに言った。
「オレ、変なんです」
「変、とは?」
真顔で言うオレに、フォ・ドさんは首をかしげながらきょとんとする。
「目の前で第一王子がゴブリンを倒したのを見てから、胸のあたりがムズムズするっていうか、ワクワクするっていうか。自分でも、単純だなーってわかってるんです。あんなに嫌な奴だって思ってたのに、誤解が解けた途端・・・。第一王子がかっこいいって思っちゃうなんて!!」
ぎゅっと胸あたりのシャツをつかんで耐えるように体を丸くするオレに、フォ・ドさんがうんうんと頷きながらオレの肩に手を置き、
「おまえさんの気持ちはよーーーーーくわかる。ロウ坊っちゃんは男前じゃ」
「フォ・ドさん!」
わかってくれたくれたことが嬉しくて、姿勢をピシッと正してゴツゴツとしたフォ・ドさんの手を両手で握りしめる。
「めちゃくちゃかっこよかった火魔法をもう一度見たい! ていうか、何度も見たい! でも、今のオレじゃどう考えても第一王子の足でまといになるだけなのはわかってるんです!」
「ならば、やはり魔法じゃ! おまえさんには水属性がある。水魔法を習得すればいくらでもロウ坊っちゃんの魔法が見れるぞ」
「ですよね!! オレもそう思ったんで、ぜひフォ・ドさんに魔法の使い方をオレに教えて下さい!」
「よくぞ言った!!」
ぎゅっと、フォ・ドさんも両手でオレの手を握り返してくれた。
めちゃくちゃかっこよかった、第一王子の火魔法が!!
城に戻ってきてから、何をしてもずぅーーーーーっと頭の中に火魔法のことばっかり。
もう一回見たくてしょうがなくて、しょうがなくてずっとウズウズしてた。
これはもう、魔法に沼ったのも当然!
思いのたけをフォ・ドさんにぶちまけたらちょっとスッキリした。おかげで眠くなってきた。
フォ・ドさんにも魔法の特訓は明日からするから今日はもう寝るとよいと言われ、いったん自分の部屋に戻ることに。
ちなみに、オレが火魔法にハマったことは第一王子に言わないでほしいとフォ・ドさんにお願いした。
次の日、目が覚めたら第一王子のベッドで寝ていた。
火魔法にハマらなくても勝手に移動されて魔物退治へと駆り出す奴だった。
あんなに逃げ出したかった気持ちが嘘のようになくなって、火魔法で次々と魔物を倒していく第一王子の姿にオレはハマっていった。
ゆきやんが、ゲームの戦闘シーンはグラフィックがキレイでヤバイとよく言ってた。映像見たさに無駄にキャラを戦わせるとも言ってたけど、まさに今、そんな感じ。
ゲームやアニメでたくさんキレイな映像を見てきたけど、そんなの比じゃないってくらい生の魔法はすごい。
苦戦せずあっさり倒してくれるから足手まといどころか、オレがいる意味があるのかというくらい特にすることがない。と、思っていたけど、流れだまはある。
第一王子にびびって弱そうなオレを襲ってくる魔物がいたり、文字通り第一王子の魔法によって丸焦げになった魔物が飛んでくることもある。
毎回逃げ回るのも大変だ。
ここはファンタジー世界だ。女神様が創りだした想像世界というなら死んでも蘇ったりするんじゃ・・・と、魔物から逃げるのが面倒になってわざと死のうとしたこともあった。けど、第一王子に間一髪のところで助けてもらい、ついでにめちゃくちゃ怒られた。
この世界も死んだら終わりだった。それに、死んだら二度と地球には還れない。(怖っ)
守られてばかりも男としてはダサい。魔物退治の後にフォ・ドさんに魔法を教わることに。
火魔法を見ていたら自分でもあんなすごい魔法ができたら・・・と思わなくもない。いや、めちゃくちゃ憧れる。
改めて魔法を教わるのにふと疑問に思った。
「杖とか使ったりしないんですか?」
「杖じゃと? タコスを倒したおまえさんには必要ないと思うが・・・欲しいなら用意してやろう」
そう言ってあまり気乗りしない顔でフォ・ドさんが部屋の奥から年期の入った木の棒・・・もとい、杖を貸してくれた。
魔法といえば杖!
ついついテンションが上がったオレだけど、杖を見た第一王子に今までにないほど鼻で笑われた。なんていうか、すげーバカにされた感じ。(ムカッ)
フォ・ドさんによくよく聞いてみると、この世界では杖は魔法に馴らすために子供が持つものらしい。
つまり、自転車に乗れるように補助輪をつけるのと同じ。杖は補助輪だった。
初心者には変わりないんだからオレが持ってもべつにおかしくないと思うけど、子供のイメージが強いのか、城内で杖を持って歩いてもクスクスと笑われる。
三日持たず杖を手放した。
魔法といえば呪文。
魔法を使う第一王子は「ファイヤー!!」なんて言ってから魔法を使ってない。
フォ・ドさんに聞いたら呪文を唱える人も普通にいると教えてくれた。
第一王子が唱えないのは単に面倒くさいから。あと、
「魔力が高い者ほど呪文なんぞ唱えなくても発動するもんじゃ。体の一部じゃからの。あくびをするかのように、とても自然なことなんじゃ」
「オレは唱えた方がいいですか? ていうか、呪文てどんなのがあるんですか」
「呪文を口にすることによって魔法を発動しやすいならさすればよい。しかし、タコスを倒せるほどの実力じゃ。コツをつかめばロウ坊っちゃんのように唱えるより先に発動しとるじゃろ」
めちゃくちゃタコスを推すなぁ。
どうやらフォ・ドさんはあの巨大なタコを通して、オレの魔法の実力を認めてくれてるみたいだけど、正直未だにどうやったか思い出せない。
呪文も補助輪と同じ役目なら今のオレには必要だ。とは言っても、決まった呪文はないとフォ・ドさんが教えてくれた。
フォ・ドさんが教えてくれることはいたってシンプル。
「脈を感じるじゃろ。魔法も同じじゃ。おのれの身体に流れる魔力を感じるんじゃ。そして、イメージ。想像するんじゃ」
頭で考えるな。感じろ!
ということだろうか。昔のドラマに出てくる熱血教師みたいだ。
錯覚魔法を教えてくれた時と言ってることはほとんど一緒だ。つまり、魔法はとにかく想像が大事ってことか。そして、呪文は勝手に作っちゃえばいい。
小学生の国語の授業で想像力を働かせて物語を書いて下さいという課題を出されたことがあったけど、全然書けなくて結局宿題になった。
それでも書けなくて、ゆきやんのを丸写ししたら先生にめちゃくちゃ怒られた。
スマホが使えるなら今すぐゆきやんにラインして相談したい。でもここは異世界だから無理なわけで。
とにかく想像力は諦めて、また記憶力を頼ることにした。
ゲームのキャラが使ってた魔法だ。それを思い出そう。あとは、アニメかな。魔法が出てくるアニメを思い出そう。
記憶を頼りに、片っぱしから試してみた。
水しばりなのがけっこう難易度が高かった。
オレが覚えてる魔法といえばだいたいが火か雷。
派手で攻撃が高いのが好きなオレは火魔法を操るキャラばかり選択してた。まさかこんなところで仇になるなんて・・・誰も想像できないから!
数少ない水魔法を思い出したのは桃花が子供頃に夢中になって観ていたアニメ、プルキュアシリーズ。
必ずひとりは水魔法を使うキャラがいたのはありがたい! と思ったけど、よくよく思い出すと戦う時のコスチュームが水色なだけで必殺技は水系じゃなかった。
ひとりかふたりくらい水系の呪文を唱えてたキャラがいた気がするけど、肝心の呪文が思い出せず、ぼんやりした必殺技のシーンだけを思い出しながら試してみたけど魔法が発動するわけもなく・・・。
もうひとつ、桃花がやたらハマったアニメがあった。それは母さんが子供の頃にハマったもので、セー〇ームーンとかいうアニメ。
「娘ができたら一緒に観たかったのよねー」と念願の夢を叶えようと、母さんが必死になって桃花に洗脳させた女の子が敵と戦うやつ。プルキュアも同じ敵と戦う話だけど、セー〇ームーンの方が先だ。
ヒロインと一緒に戦う仲間で水魔法を使うキャラがいた。セー〇ーマーキュリーだった気がする。
毎日のように桃花と母さんが観るもんだからプルキュアよりこっちのアニメのほうがオレ的には詳しいと思うし、いろんなキャラがいた中でセー〇ーマーキュリーは気に入っていた。(知的キャラ)
攻撃力は低いし派手さもなくてどっちかというと敵の目をあざむく感じの必殺技だった気がする。
桃花に合わせてセー〇ームーンごっこをやってた頃を思い出しながら技の名前を記憶から引っ張りだしてみる。
確か・・・、
「なんとかスプレー・・・だったような」
技名は曖昧だけどとりあえずポーズ付きで試してみたら見事成功した。頭の中で思い出していた映像そのままのセー〇ーマーキュリーの必殺技が再現できてしまった。
シャボン玉っぽいのがいくつも浮かんで霧がたちこめて周りがぼんやりと見えにくい。同時にひんやりしてオレのいるところだけ気温が一度下がった気がする。
「すげー」
なんて感動してみるけど、地味すぎて魔物と戦うにはめちゃくちゃ心もとない。
でも、この技を使ってわかったのは、イメージがはっきりしてるとちゃんと形になるってことだ。
「想像できないものは魔法も発動しないってことか」
母さんの好きなアニメのおかげでちょっと魔法のコツがつかめそうで希望が持てた。
母さん、ありがとう。
心の中で感謝してみる。
記憶でもしっかり思い出せるものなら形にできるってことは水魔法じゃなくてもできるのでは? と好奇心が沸いてきた。思いつくかぎりのゲームやアニメの必殺技を試してみたら、それなりに成功したものもあれば失敗したり、中途半端で微妙なものまで。できたけど思ってたのと違うのもあったり。
いろいろやって疲れたけど、形として出てくるのが面白くて飽きずに3日くらいはやった。
そのおかげか、イメージをするのに慣れてきた気がする。
けど、問題発生。
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