聖女の兄で、すみません!

たっぷりチョコ

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「聖女の影響力」

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 朝食を終え、身支度をすませて部屋を出た。
『セキへの魔物襲撃事件』から3日。アリッシュは不安とそれを仰ぐ出所知らずのうわさが飛び交っていた。
 廊下の広い通りを歩くと、すぐ耳に届くのは聖女のことだ。
 オレが代わりに召喚されたことを知ってる人は城内でも一部だけで、多くの貴族や一般市民にはすでに聖女が召喚されていることになっている。だから、

「聖女様がいるのになぜ魔物が街を襲撃したんだ?」
「聖女様はご病気なのか?」
「今回の聖女様ははずれでは?」

 と、不審や不安ばかり聞こえる。鋭い人は「聖女は不在なのでは?」と言う人も。
 正直無理もないと思う。実際聖女はいないし、いつもは聖女のお披露目儀式というものをやるらしいけど、当然まだやっていない。
 いるのが兄のオレでマジですみません。と心の中で謝りながら歩く速度を上げる。

 ルノーのことだけど、あの時倒れたのは魔力切れじゃなくて第一王子が気絶させたからだった。とはいっても、あれだけ魔法を暴走させた影響があとから出て、あのあと城に戻ってから高熱を出して今も寝ている。
 ア〇雪もびっくりの暴走っぷりだった。思い出してもゾッとする。ルノーはルノーだけど、次会った時はちょっと一歩引いて接する自分がいそうだ。(変わらない態度でいらるよう気をつけよう)

 歩く先で人だかりができている。
 なんとなく雰囲気で貴族の上流階級のおっさんたちだろうと思い、歩く速度を速めて横切ろうとしたらピアスの魔石からビリッと痛む。
「いっっ」
 魔石に触れると熱を持っていた。微量だけど焦げ臭い匂いもする。
 立ち止まって、なんで?と不思議がってると、ひとだかりの中心に第一王子がいるのに気づき目が合った。

 第一王子の仕業かよーーーーーー。

 ムカつくのに気づいてほしさにやったことだと思うとキュンとせずにはいられん。(かわいいぞこのヤロー)
 セキへで見た白の学ランみたいな格好をまたしている。(王族の正装らしい)
 気づいたからって声をかけられるわけもなく。第一王子もおっさんに話しかけられてオレから視線を外した。
 オレも、また歩き出し出口へと向かう。

 城内で第一王子を見かけるようになった。
 寝込んでるルノーの代わりに王様の仕事を手伝ってるんだと思うけど、噂では次期国王はほぼ第一王子で決まりだと言われている。
 同じ城内にいるのに話もできない。近いのに、遠い。
 第一王子が国王になったらもっと遠い存在になるんだろうな。オレは聖女の兄だけど、それを取れば魔物研究所の一員てだけでただの一般市民だ。

「一緒に冒険、できんのかな」

 ボソッと不安が口に出た。
 弱気な自分にブンブンと頭を振ってネガティブを追い払う。
 地球に戻ったら会うことすら、記憶すら消えるんだ。それを思えば国王と一般市民の距離くらいなんだっていうんだ。下手したら桃花を利用すればいい。(兄という権力をフル活用してやる。)
 しっかりしろ、オレ。と喝を入れ、魔物研究所へと向かった。



「フォ・ドさーん、おはようございます」
 建物の中に入ると他の研究員がちょうどリビングにしている部屋から出てきた。
「では、引き続きよろしくお願いします」
「あぁ、こっちも頼んだぞ」
 聡明そうな若い男性がオレにぺこりとお辞儀をして玄関から出て行った。オレも軽くお辞儀した。
「おぉ、ダイヤ。ちょうどいい。これを運んでくれんかの」
「2階ですか?」
「そうじゃ。物置にしている部屋に持って行っておくれ」
 リビングにしている部屋を入ってすぐに中くらいサイズの木箱がふたつ床に詰んであった。それを一気に持ち上げ、階段へと向かう。
 
 オレの心配をよそに第一王子はあっさりキメラを倒した。
 キメラがこのアリッシュに出没したのはなんと千年も前らしく、他の国の魔物研究所以外にも他の専門家からも「一目でもいいからキメラを見せてほしい」と見物に来る研究員が後をたたない。
 おかげでいつもはのんびりした魔物研究所が賑わっててなんか落ち着かない。
 さっきの研究員も多分、キメラを見に来たんだろう。

 よいしょっ、と物置部屋に木箱を追加して一息つくと、ふと視界に入った見覚えのある魔物のはく製にぎょっとする。
 思わず廊下に出て1階にいるフォ・ドさんに向かって大声で、
「フォ・ドさーん! なんでロウのコレクションがここにあるんですか!!」
「コレクションじゃと?」
 何事かと1階の階段から顔を覗かせるフォ・ドさん。
「魔物のはく製です!」
「あぁ、それか。住む場所を引っ越すからしばらくの間預かって欲しいと頼まれたんじゃ」
「・・・引っ越し?」
 聞いてない。
 
 急にテンションが下がって物置部屋に戻る。
 引っ越しするのか。知らなかった。だからオレを部屋に呼ばなくなったのか。なるほど。
 だよな。オレが言ったこといちいち気にするような奴じゃないよな。
 
 気を取り直してフォ・ドさんがいる地下の研究室へ行くと、大きい台の上にキメラの死骸が乗せられている。
 3日前から見てるけど慣れるどころか毎回肝が冷える。
 ゴブリンを錯覚魔法でアニメっぽくしてから大抵の魔物はそんなに怖くない。目の前にある死んでるキメラだって見た目は生きてる時とそんなに外見に変わりはない。ちょっと毛が縮れて焦げてるくらいだ。が、
「ロウ坊っちゃんめ、あれだけ退治するときは慎重にやれと言っておるのに。今回はずいぶんと派手に燃やしたわい」
「青い炎でしたけど」
「なんじゃと! けしからん! ロウ坊っちゃんなら火力が弱くてもキメラくらい問題ないはずじゃ。フンッ、何かに気をとられておったな。けしからん、わしがまた稽古をつけてやる」
 息まくフォ・ドさんに、キメラにもう一度視線を向けてごくりと喉を鳴らす。
 もし錯覚魔法を解除したらこのキメラは・・・想像するだけでゾッとする。
「このキメラ・・・じゃない。魔物はどうするんですか」
「状態は悪いが、複合魔獣なんぞこのアリッシュでは千年ぶりじゃからな。はく製にするわい。さっき来ていた研究員がいたじゃろ」
「頭が良さそうな男の人ですよね」
「あやつがはく製にするのに協力してくれるんじゃ」
「どこの研究員ですか」
「天文研究所じゃ」
「天文・・・て、星とはく製じゃ全然関係ないような?」
「おまえさんが住んでおった世界じゃわからんが、この世界の天文研究員は星の動きを観察するだけじゃなく、時空のゆがみや時間を操る研究も兼ねておる。その中で、時間を操る魔法が使える人間は少ないがな」

 時間を、操る?

「もしかしてさっきの人は時間を操る魔法が使えるんですか?」
「そうじゃ。名はコトリ。隣国の天文研究所の人間なんじゃが、時(とき)の属性は数が少ないがゆえに兼用でアリッシュの天文研究所や他の研究所にも属しておる」

 兼用・・・。ていうことは、派遣社員みたいなもんかな?

「時の属性なんて初めて聞きました」
「時は主に時間のことを指すが知れば奥が深い。四大属性と違って珍しい属性じゃ。難易度の高い魔法だけに扱える者も少ない。属性として持って生まれた人間となればとても貴重じゃ。ひとつの国にひとりいるかいないかじゃ」

 マイナーでレアキャラだっ!!

 どうしよう、そんな人だとは知らず普通にお辞儀だけでスルーしちゃったよ!
 ぼんやりした記憶を思い出すけど・・・背がオレより高くて頭良さそうで、髪が黒で肌が白かったくらいだ。

「あーサインくらい貰っておけばよかった!」
「サインなんて貰ってどうするんじゃ?」
 署名のサインと勘違いしてるフォ・ドさんの頭にはてなが浮かんでいる。フォ・ドさんには悪いけどいちいち説明するのも面倒だと思い、(こっちの世界にアイドルなんていないと思うし)話を進めることにした。

「時間の魔法ではく製を作るってことですか?」
「そうじゃ。ロウ坊っちゃんが今回はやらかしたからの。複合魔獣の時間を戻して良い状態ではく製にするんじゃ」
「時間を戻す? て、え?! 生き返らせるってことですか?!」
「いや、それは禁忌じゃ。それに時の魔法でも魂の復活はできん。できるのは身体の復活じゃ」
「身体の復活?」
「死んだ肉体だけ時間を戻して復活させることじゃ」
「身体だけ生きてる状態に戻す、てことですか?」
 ごくりと喉が鳴る。
「そうじゃ。しかし、『生きてる状態』とはちと違う。心臓が動くわけでも血が流れるわけでもない。体内の機能は死んだままじゃ。見た目だけじゃ。見た目だけ生きてる時に戻す・・・わかるか? ちと難しいかのぅ。まぁ、魔物研究所の一員になるんじゃったら近いうちにはく製にする手順を見ることになるから理解するじゃろ」

 肉体だけの蘇生? それも禁忌に近いんじゃ・・・。
 知っちゃいけない魔法の使い方を知った気分だ。
 でも逆にそれって、
「生きてる人間でもその魔法って使えるんですか?」
「むろんじゃ。大金を払って若返らせてもらう者もいるくらいじゃ」
「フォ・ドさんの脚とかは?」
「・・・。おまえさんは優しいのう。しかし、なくなったものはできん。損傷なら戻してなかったことにできるがな。病気もそうじゃ。かかる前に戻すことはできるが、日が経てばかかる。元を絶たなくては意味がない。遺伝性のものなら戻して進行を遅らすことはできるがなくすことはできん」
「身体に負担とかないんですか? 何度もできたりとか」
「若返り程度じゃったら何度繰り返しても特に問題ないようじゃぞ。そうやって若さを保つ貴族もいるがな。おまえさん、その歳で若返りに興味があるのか?」
「えーと、単に興味あるだけっていうか。オレの住んでる世界にあったらすごいことだなーって思って」
「なんにでも言えることじゃが、時間を戻すことは褒めたものじゃないとわしは思う」
「え」
「使い方次第で良くも悪くもなる。利用してる身じゃが、欲はかかずできるかぎり頼らないことじゃ」
「・・・はい」

 経験値がモノを言うのか、フォ・ドさんの言葉には重みがある。
 いろいろ使い道があって、特に医療関係が発達しそう! とちょっとワクワクしたけど、フォ・ドさんのいうとおり使い方を間違えると禁忌に触れそうだ。

 キメラに触れようと手を伸ばすとフォ・ドさんにめちゃくちゃ怒られた。
「状態が悪いと言ったじゃろ! 特にそこは皮膚がただれて触っただけで陥没しそうじゃ」
「・・・」
 そう言われても錯覚魔法がかかってるからオレから見たらどこも傷なんてない。
「・・・おまえさん、まだ錯覚魔法をかけておるのか?」
「! えーと、はい」
 図星をつかれしどろもどろになる。
「さんざん魔物を退治しておいてまだ慣れてないのか!」
 驚くというより呆れて口をあんぐり開けているフォ・ドさんに苦笑いを浮かべるしかできない。
「魔物研究所で働くんじゃったら錯覚魔法を解除できるようにならんといかん」
「え?!」
「あたりまえじゃ。今みたいに魔物の死骸の状態も把握できないようじゃ研究すらできん」
 ため息をこぼしながら首を横に振るフォ・ドさんに就職先の内定を消されそうな気分になる。
「今までどおり魔物を退治して運んでくるとか雑用の手伝いとかじゃダメですか?」
「ならん。というか、そもそも魔物研究員は魔物を倒すのは仕事の一環ではないし、許可もおりとらん」
「?!!」

 なん、だと?! 今まで魔物退治も魔物研究所の手伝いのひとつだと思ってた!!

「最初会った時に言ったじゃろ。ロウ坊っちゃんが魔物を退治してそれを譲ってもらい、その魔物を研究する」
「えーと・・・そういえばそんなことを言っていたよう、な」
 記憶をさかのぼってみると確かに言ってた気がする。
「他の魔物研究所も魔物を倒したりは?」
「せん。国によるが、アリッシュでは自己防衛以外許可がなければむやみに退治しちゃいかん決まりじゃ。魔物研究委員は皆、魔物好きじゃ。本来は魔物がいるところにおもむき、魔物が活き活きと活動しているのを観察するんじゃ。わしも片足がなくなる前はそうじゃった。今は行くことができないから死骸ばかりを集め研究しているにすぎん」

 そう、でした!!

 ガクッと肩を落としてその場で手を床について全身でショックを表現。
 そんなにか。と呆れるフォ・ドさん。

「今までどおり魔物退治をしたいのなら騎士団に入団するのはどうじゃ。あそこなら錯覚魔法がかかったままでも問題ないじゃろ」
「騎士団、ですか?」
 顔を上げてフォ・ドさんを見つめる。
「そうじゃ。魔物退治以外にも王族や貴族の護衛やら自衛もある。騎士団は寮暮らしで住む場所にことかかんじゃろ。まぁ、遠征ばかりで同じ場所にとどまることは少ないと思うがな」
「それって・・・」

 第一王子になかなか会えなくなるってこと?

「い、今までどおりロウの魔物退治を手伝うのはダメ、ですか? ロウ王子の部下的な?」
「問題ないじゃろうが・・・貴族階級などが関わって面倒になるじゃろ。聖女様の兄じゃから他の貴族が黙ってないじゃろうし。この世界に永住となったら簡単にはいかんじゃろう」
「そう、ですか」

 錯覚魔法なしで魔物を見る。それができないと・・・第一王子の近くにはいられない?! マジか。
 
 選択を迫られて頭の中が混乱する。見るか見ないか。それが問題だけど、オレにとって選択あってないも同然。
 変な汗をかきながらキメラの前にスクッと立つ。
「わかりました。錯覚魔法を解きます」
「・・・いいが、あまり無理はしちゃいかん」
「だ、大丈夫です」
 多分。

 こっちにきてからもう3ヵ月近くいるんだし、その間にさんざん魔物を見てきた。錯覚魔法はかかってても最初の頃よりは抵抗はない。と思う。
 地球にいる時だって、作りものとはいえけっこうリアルなゾンビ映画とか観たことあるし。大丈夫。大丈夫だ、オレ。
 第一王子と一緒にいるためだ!
 いけ!

 ギュッと目をつむりながら錯覚魔法を解除。
 ゆっくり目を開き、台の上に置かれているキメラの死骸を凝視する。

 詰んだ。

 
 キメラの前で今朝食べたパンを戻し、危うく千年ぶりのキメラをだいなしにするところだった。(その時のフォ・ドさんの顔がヤバかった)
 しばらくトイレにこもってからベッドを借りて横になってようやく復活。
 洗面所の鏡に映る自分の顔が血の気がなくてゾンビみたいだ。

「あー最悪。ヤバかった。マジでヤバかった」
 冷たい水で顔を洗ってどうにか気持ちをリセットしようとするけど、頭の中にグロすぎるキメラが焼き付いて消えない。
 全然うさぎじゃなかった。ちゃんと獅子顔だった。しかもかなりの凶悪系の。
 燃やされ方もヤバくて、特殊メイクのゾンビよりもひどかった。しかも、異臭もヤバかった。(だから吐いたんだけど)
 これだったらまだ丸焦げのゴブリンのほうがマシだ。
 あれを第一王子が殺ったんだと思うと・・・。
 オレ、めちゃくちゃヤバイ奴を好きになったんじゃ・・・。
 自分の趣味にゾッとする。が、もう手遅れな気がする。
 あーでもどうしょう。克服するどころか悪化した気がする。これじゃ魔物研究所においてもらえない。

 しょんぼりしながら地下へ行き、研究室に入ろうとドアノブに手をかけたところでフォ・ドさんが誰かと話してる声が聞こえた。
 ドアに耳をあてて耳をすまそうとしたけど、そんなことしなくても丸聞こえだった。
 話し相手はイケボからして第一王子だ。聞こえるかぎりふたりだけみたいだ。
 いつのまに来たんだ。
 途切れない会話に中に入っていいか躊躇していると、気になる話に耳が大きくなる。

「複合魔獣の襲撃の件はどうなった」
 いつもより低めのフォ・ドさんの声。真剣だ。
「死亡者数名、軽傷を含め負傷者30ちょいってところだ」
「思ったより少なかったな。セキへは観光場所でもあるから心配しておったが」
「先代の聖女が気に入っていた街だけあって聖女の加護が手を貸したんだろ。キメラを退治したあと街を歩いたが先代聖女が気に入っていたプリンセスフラワーの木だけ一本も焼かれていなかったし、荒らされた痕跡もなかった」
「ほほぅ。それは興味深い。さすが聖女様じゃ。亡き後もお力は健在じゃとは」
「ジジイ、なに言ってんだよ。今回ので明白になっただろ。先代聖女の加護が確実に薄まっている」
「そうじゃな。村への襲撃は以前からあったが、街となれば加護の威力が衰えてきてるのは間違いないようじゃな」
「襲撃する魔物は低魔物ばかり。強くてもゴブリンのボスくらいだったが今回は複合魔獣だ。あきらかにおかしい。しかも単体で聖女の加護が強い街に襲撃に来てる。アリッシュを全滅させる気満々だ」
「・・・王様には伝えたのか」
「あぁ。頭を抱えてた」
「・・・やはり、前回の聖女召喚が失敗したのが原因じゃな。成功しておればここまで追い込まれはしなかったろうに」

 苦々しく言うフォ・ドさんの言葉に息がつまった。
 オレのせいだ。オレが、桃花の代わりに来たから・・・。

「何言ってんだ、その前からだいぶやばかっただろ。新種の魔物だって出る回数が増えてた」
「アリッシュにとっては新種じゃが、調べればすでに存在する魔物じゃ。手に負えん強い魔物じゃ」
「なんだよ、ジジイ。喜んでたじゃねーか。旅に出なくても研究がはかどるって」
「これ! いつの話じゃ。複合魔獣が現れた今、これっぽちも思っとらんわ!」
「どーだか」

 いつもの痴話ゲンカに救われるものの、罪悪感で心が重い。

「ルノー坊っちゃんの様態はどうじゃ。魔力が暴走したと聞いとるが」
「熱を出して寝込んでる。あいつも魔力は強いが、扱う自信がまったくないのが暴走の原因だろ」
「魔力を怖がっておるのか」
「・・・幼少期に暴走させてメイドに怖い思いをさせたことがあいつにとってトラウマになってる」
「そのメイドは今も元気なんじゃろ」
「あぁ。なんの問題もなく仕事してる。でも、ルノーにとってはまた誰かに怖い思いをさせることが怖いんだろ」
「優しい子じゃ。しかし、優しいがゆえの力じゃな。しかし、このままにすればまたいつかは暴走させてしまうな」
「親父とも話したけど、魔力転換もありじゃないかって」
「・・・なるほど。否めんじゃろうな」

 ん?
 魔力転換てなんだ?
 他のに変えるってこと?

「女王様はなんと?」
「さすがに転換はかわいそうだから継承がいいと言ってる。ルノーの母親もそっちを望むと思うが」
「なるほど。なんにしても複合魔獣の襲撃でルノー坊っちゃんが足を引っ張ってしまったことは事実じゃ。重く受け止めるべきじゃ」
「あぁ、わかってる」
「残念じゃな。ルノー坊っちゃんは次期国王にふさわしいと思っておったが」
「問題ないだろ」
「あるじゃろ。転換にしろ継承にしろ、すればルノー坊っちゃんは王位からはずれる身じゃ」
「そうか。じゃ、はずれない程度の転換か」
「・・・不安じゃ、ほんとーに、ロウ坊っちゃんには不安しかない」
 はぁーーーーと長いため息をつくフォ・ドさん。
「それよりダイヤは? 外に出てるのか?」
「ダイヤならベッドで休息をとっておる」
「は?」
「ちとわしが無理をさせてしまってな。錯覚魔法なしでこれを見て嘔吐したんじゃ」
「・・・錯覚魔法使ってるのか?」
「知らんかったのか? ゴブリンがトラウマだというからわしが錯覚魔法を教えたんじゃ。しかし、まだ使っておるとは知らんかったがな。魔物研究所で働くんじゃったら錯覚魔法は必要ないと言ったんじゃ。そしたら解除した途端、戻しおった。ダイヤも気の優しい子じゃ。ロウ坊っちゃんに合わせてるおるが、やめさせてあげるのがいいとわしは思った」
「・・・」
「どうしたんじゃ、黙りおって」
「いや、冒険に行きたいというからてっきり魔物はもう大丈夫なのかと」
「ロウ坊っちゃんに合わせてるに決まっておるじゃろ! 魔物というより他の国も見てみたいだけじゃないのか?」
「・・・そうかも、しれない。冒険は無理か」
「考えなおした方が良さそうじゃな」

 んん?!
 良くないんだが?!(素直に受け入れてんじゃねーーー)

 思わず物音をたてそうになってドアから一歩離れる。
 まずい展開になってきた。
 このままだと第一王子と冒険ができなくなる。オレがここに残る理由が・・・。
 まずい、めちゃくちゃまずい。
 これは早急になんとしてでも魔物を克服しなければ!!!







 *あとがき*
 読んでくださりありがとうございます!
 「いいね」ポチってくださりありがとうございます。とても励みになります(ぺこり)
 次の更新は2週間以降になります。
 よろしくお願い致します。


 たっぷりチョコ
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