聖女の兄で、すみません!

たっぷりチョコ

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「第一王子のいない3日間」

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「ふざけんな」
 爽やかな朝の風が吹く森の中で不釣り合いな言葉が口から出た。

 オレの膝の上で爆睡した第一王子のせいで一睡もできなかった。
 何度も押しのけたけど、そのたびに腰に腕を回してひっついてくるし、ベッドから落としてもまた戻ってきてオレをはがいじめにする始末。
 寝てるふりして人をからかってるのかと思ったけど、寝ぼけてるだけで本人は目が覚めたらまったく覚えてないから腹が立つ。
 オレはドキドキとムラムラで寝たくても全然寝れなかった。おかげで目の下に濃いくまができやがった。(くっそーー)
 一応朝食はとったけど、ミルクとパンをひとかじりだけ。頭がボーッとする。
 
 フォ・ドさんには郊外近辺のダンジョン調査といっておいた。
 魔物の巣も放っておけば狭いながらにダンジョン化するからあなどれない。
 まぁ、本当の目的は魔物克服だけど。
 第一王子は今朝、オレの洗面所を占領しまくったあと遠征に行った。
 3日だ。第一王子が戻ってくる3日間のあいだにせめてトラウマのゴブリンだけでも錯覚魔法なしで見れるようにする!

 パン! と両手で自分の頬を叩いて気合を入れる。
「よし!」
 目撃情報がある場所へと向かおうと一歩踏み出したところで、ぴたっと止まる。
 朝といえば、
「あれはどういう意味だったんだろう」
 ふむ、と思わず考え込む。

 洗面所から出てきた第一王子が唐突にオレに聞いてきた。
「ダイヤ」
「ん?」
「ダイヤと聖女は似てるのか?」
「なにがだ」
「兄弟なんだろ」
「顔のこと? うーん、昔はそっくりね~なんてよく近所のおばさんたちに言われてたけど、今はどうだろう。似てんじゃん? 目とか」
「そうか」
「・・・なんでそんなこと聞くんだよ」
「いや・・・聞いただけだ」

 聖女なんて興味ないとか言ってたくせに。なんであんなこと急に聞いてきたんだ? オレの妹だから? もうそろそろ召喚されるから? いやいや、召喚自体興味ないはず。
「・・・」
 なんか胸んあたりモヤモヤする。
 あれはどういう意味だったんだよ、ロウ。

 とりあえず時間がもったいないと気持ちを切り替えて目的の場所へ向かった。


 

「ダイヤ様、ご気分はいかがですか?」
 いつものメイドさんが優しく声をかけてくれる。
「なん・・・とか」
 ソファに横になって濡れタオルをまぶたにのせたまま答える。
「お食事はいかがいたしましょう。軽いものでもいかがですか?」
「今は・・・いい、です」
「・・・ポーションもいいですが、調合師さんにお願いして解毒薬を調合してもらいましょう」
「え」
 以前飲んだひどすぎる解毒薬を思い出し、思わず顔だけ起こすと濡れたタオルが落ちて心配顔のメイドさんと目が合った。
「ご安心ください。なるべく口当たりの良いものにしてもらうようお願いしておきます」
 口元で微笑むメイドさん。恥ずかしさのあまり穴があったら入りたくなった。
 出て行ったメイドさんを見送ったあと、自分の情けなさに大きなため息が出る。

 惨敗だった。
 ゴブリンの巣2件と小動物の獣に似た魔物の巣1件を行ったけど克服はできなかった。(さすがに一日目から無理か)
 しかも、寝不足がたたってゴブリンの体臭に酔ってまた吐いた。めげずに何度も吐いてたら出すものがなくなって血を吐いた。
 血といっても病気とかじゃなくて、胃が傷ついて血が混じって出てくる。
 これをなんかのウイルスに感染したときにやらかして、たまたまお見舞いに来てたゆきやんが見てショックのあまり失神した。オレが不治の病にかかったんじゃないかとゆきやんがさんざん泣いてめちゃくちゃ鼻水つけられたなー。
 というのを思い出しながら頑張ったけど、結局やつれて城に戻ってくるだけだった。
 最悪だ。今日はしっかり睡眠とって明日こそは・・・。


 しばらくしてメイドさんが解毒薬を持って戻って来た。
 確かに今回のは甘めで美味しく飲めた。
「詮索するのは失礼かと思いますが、一体なにがあったのでしょうか。今までも何度かありましたが、本日はなんといいますか、少々無茶をしているように思われますが」
「え」
 今まで詮索されたことなかっただけにびっくりした。
 目で訴えてくるメイドさんに、自分がそんなに無茶してるのかとちょっと反省。ていうか、無茶しないと間に合わいんだよな。
 この話題は流してもらおうとだんまりを続けるけど、意外にも一歩も引かないメイドさんに根負けしたオレは魔物を克服しないと魔物研究所にいられないことをおおざっぱに説明した。(冒険のことは言ってません)

「そうでしたか。それはお辛いですね」
「あいつに邪魔され・・・じゃなかった。3日間のあいだに克服できないと魔物研究所を追い出されちゃうんで、ここはオレの無茶を見て見ぬふりしてもらえるとありがたいです」
「・・・わかりました。こちらもできるかぎり協力させて頂きます」
「いえいえ、いつも気にかけてくれるだけ助かります」
 ぺこーっと深く頭を下げると、メイドさんが何かひらめいた声をあげ、
「実はわたくしには兄がひとりおりまして、魔法騎士団所属でございます。そうです! 兄に協力できないか頼んでみますね」
「え」

 魔法・・・騎士団?

「ゴブリンの丸焼きがトラウマとおっしゃってましたが、兄はちょうど火の属性です」
「マジですか?!」
「配属場所も魔物退治ですから克服するにはちょうどいいサポートだと思います! 今はちょうど次の遠征に向けて準備中と聞いておりますからきっとお受けしてくれるはずです。もちろん、聖女様のお兄様ということは一切お伝えいたしません。こちらはルノー様に口止めされておりますので」
「なるほど。できたらお願いします!」

 なんかよくわかんないけど、オレひとりじゃやつれるだけだし、助っ人はめちゃくちゃありがたいーーー!!
 メイドさんも珍しく活き活きしてるし。(なんか癒された)


 次の日、さっそくメイドさんのお兄さんに森の入り口で会うことに。
「はじめまして。きみがダイヤくんだね。王立騎士団魔法剣士所属第3部隊のサムデだ。妹のメリアヌがいつもお世話になってる」
「いえ、こちらこそ。今回はよろしくお願いします。えーと、メイド・・・じゃなくて、メリアヌさんにはどこまで聞いてますか?」
「ダイヤくんのことは城内で預かってる遠方のお客様としか聞いてないよ。心配しなくていい。自分も騎士団のはしくれだ。お互いの素性は抜きにして魔物を克服しよう。3日しかないんだろう?」
「ありがとうございます! 正確にはあと今日を含めて2日です」
 2日かー。と苦笑いを浮かべるメイドさん・・・いや、メリアヌさんのお兄さんのサムデさん!

 騎士団員と聞いてたからガタイのいい男を想像してたけど第一王子と体型は変わらない感じだ。身長も180くらい?
 ただ、銅色の鎧を着てるから腕以外は無駄にガタイよく見える。
 兜を被ってないから顔ははっきり見える。兄弟だけあってメリアヌさんと同じ茶髪だ。で、七三分け。顔はなんとなく似てる気がする。しいて言うなら鼻が高いのがそっくり?
 騎士団は遠征が多いとフォ・ドさんが言ってたけど、そのわりには日焼けなしの肌色だ。
 メリアヌさんとどれくらい歳がはなれてるかわからないけど、この人も20代真ん中くらいに見える。年の近い兄弟なのかも。
 視線を落とすと、腰に剣が!

「あの、魔法騎士団員と聞いてるんですけど、剣を使うんですか?」
 思わず好奇心で聞いてしまった。この世界に来て剣を持ってる人初めて見た!
「使うよ。魔法攻撃だけじゃ歯がたたないからね。特に魔物と戦うなら。それと、魔法騎士団じゃなくて魔法剣士所属だ」
「あ、すみません、自己紹介の時に言ってましたよね。メイドさん・・・じゃなくてメリアヌさんが魔法騎士団と言ってたので」
 慌てて謝るとサムデさんは気さくに笑ってくれた。
「気にしなくていい。騎士団と言っても細かく分かれていてね、ややこしいから間違われるのはしょっちゅうだ」
「なるほど、騎士団といってもいろんな分野に別れてるんですね。えーとそれで、魔法剣士とは」
「戦うところを直接見たことがないのかい」
「えーと・・・」

 火魔法だけの戦いなら山ほど見てるんだけどなー。一瞬で魔物を丸焼きにする戦い方なら!
「魔法攻撃に憧れを持ってる子供たちに時々がっかりされちゃうんだけど、魔法はあくまで戦うための補助みたいなもので魔法だけじゃ魔物を倒せないんだよ。魔法で魔物を弱らせて最後に剣でとどめを刺す」
 申し訳なさそうに苦笑いを浮かべながら説明してくれる。
「じゃー魔法攻撃だけで倒せる人って・・・」
「いるにはいるけど、残念ながら自分が所属する騎士団の中にはいないかな。白騎士団ならひとりいるって聞いたことがあるけど」
「白騎士団?」(また新しいワードが出た)
「世界各地で集められたエリートの騎士団だよ。めったにお目にかかれないけどね。あとは、女神様の加護を受けてる王族だったら魔法攻撃だけで魔物を倒せるよ」
「・・・ひとつ聞きますが、ゴブリンを丸焼きとかできますか?」
「まさか! そんな火力出したことないよ。せめて半生程度なら。あとは時間をかければできるかもしれないね。やったことないけど」

 は、半生?!! 丸焼きよりもグロすぎる。

 はははと爽やかに笑いながら、
「ダイヤくん面白いこと聞いてくるね。もしかして、王族に知り合いでもいるのかい? そういえば、この国の第一王子様は自分と同じ火属性だけど、彼がつい最近出没した複合魔獣を丸焼きにしたらしい。魔物研究所に行けば見られるそうだ。うちの団員も何人か見物に行ったらしいけど」
「そ、それです! ちょうどたまたま見たんです! てっきり火属性の人はみんなできるのかと思って」
「はははは、まさか!」
「ちなみに、青い火とかは?」
「すごい知ってるね。でも、そんなの自分がお目にかかりたいくらいだよ。ちなみに自分は赤い炎しか出せないよ」
「そ、そう、ですか」
 
 改めて第一王子の魔法のエグさを実感した。

「魔物を克服したいみたいだけど、苦手な魔物はいるのかい? 街に住んでるならそう出くわすこともないけど」
「えーと・・・ゴブリンにうっかり遭遇しちゃって、たまたま助けてくれた人が火魔法を使う人で、丸焼き・・・じゃなかった、燃やされるゴブリンを見てトラウマになってしまって」
「そうか・・・それは不運だったね。でもそれだったらわざわざ克服しなくてもゴブリンなんてそう会うこともないし、傷口に塩を塗るようなことは・・・」
「ダメです! 絶対この2日間でトラウマを治したいんです!!」
 オレの気迫にサムデさんがびっくりした表情で一歩下がった。
「・・・なにか切羽詰まった事情があるみたいだね。わかった、四の五の言わず協力するよ」
「なんかすみません、よろしくお願いします」
 第一王子と魔物研究所のためとはいえ、力みすぎた自分に恥ずかしくなる。
「ゴブリンか・・・。そうしたらこの森ならあそこが一番近いな。ゴブリンは見た目はあれだけど見慣れたらそこそこ可愛い奴らだと自分は思う」
「え」
 思わず目ん玉が開いた。
「ははは、慣れだよ、慣れ。さ、時間がもったいないからサクサク行こうか」
「あ、はい」
 錯覚魔法なしでゴブリンが可愛く・・・見るしかない!


 さっそくサムデさんと一緒にゴブリンの巣へ行ったけど、早々に撃沈した。
 火魔法と剣で倒されたゴブリンを見たオレはやっぱり吐いた。そのあと、戦闘にならなくてオレを抱えてその場から逃げてくれたサムデさん。(マジ感謝)
 木陰で休憩したあと、再度お願いするとサムデさんは渋りつつ、いろいろとゴブリン&魔物対策を教えてくれた。
「騎士団員にも始めから魔物が大丈夫な奴なんていない」と言って、魔物の体臭や異臭に効く調合薬を教えてくれた。
 街の薬屋で買えるとか城内なら王立調合師にこう言えば作ってもらえるとか。
 他にもゴブリンには種類があって比較的おとなしくて優しいのもいるらしい。初めて聞いたけど、黄色い肌のゴブリンがいるらしい。そこから慣れていくのがいいとか。
 あとは戦わず慣れるだけなら夜の方がむしろ向いてると、夜にまた来ることを約束した。


 第一王子が遠征に行ってから3日目。寝不足にもかかわらず、呆れたり嫌がる様子もなくオレに根気強く付き合ってくれたサムデさん。(いい人)
 完全に克服はできなかったけど、調合薬のおかげで吐いてやつれることはなくなった。(一歩成長した!)
 

「ダイヤ様、ロウ様から伝言がございます」
「ロウから?」
 第一王子が遠征に行ってから4日目の朝。
 朝食を済ませて身支度が終わったところでメリアヌさんが部屋に入ってきた。
 筒状に丸められたB5サイズほどの紙を渡され、広げると一言『延長になった』だけデカい字で書いてあった。

「これだけ?! 余白多すぎ! メモ紙で十分じゃん!!」

 一番下に「ロウ」の名前が書いてあった。
 手書きは初めて見たけど、達筆すぎて腹が立ってくる。顔も良くて字もキレイとかふざけてる。
 もっとこうなんか書けばいいのに。
 ダイヤがいないと淋しいとか会いたいとか頑張れとか・・・。いやいやオレら付き合ってないし!
 恥ずかしさのあまりぐしゃっと紙を潰す。

「どうかなされましたか? お顔が赤いようですが」
「いえ、大丈夫、です。なんか遠征が延長になったらしいです」
「そうでございますか。また街に魔物が現れたそうですがその影響でしょうか」
「え! そうなんですか?」
「はい、昨日のことですが。今回は弱い魔物だそうですが数の多さで騎士団が手こずったそうです」
「サムデさんはオレが借りてて大丈夫だったんですか」
「配属部隊が違うそうですから、お気になさらないでください」
「ならよかったです」

 びっくりした。
 魔物研究所に行かないと全然情報が入ってこないな。
 それにしても・・・と、一言しか書いてない紙を見つめる。
 
 サムデさんのおかげでなんとかゴブリンを見ても吐かなくなったし、魔物への対策方法とかいろいろ情報を知れて短い間だったけどすごく有意義な時間だった。
 そんで、第一王子とフォ・ドさんがどれだけ変人なのかもよーーーーくわかった。
 サムデさんはめちゃくちゃまともな人だった。そんでめちゃくちゃいい人。ゆきやんというより面倒見のいいバイトの先輩みたいな? 
 この世界に来て初めてまともな人間関係ができた気がする。
 だからってわけじゃないけど、第一王子の遠征が延長になったのは正直ラッキーと思ったり。
 いや、会えないのは寂しいけど・・・。オレまだ魔物を完全に克服できてないし。危機はまだ回避できてない。

「あの、サムデさんさえよければ魔物の克服にもうちょっと付き合ってもらうことってお願いできますか?」
「かしこまりました。兄に聞いてみます」
 お願いします、とメリアヌさんに頭を下げる。

「ダイヤ様、ルノー様からも言伝がありまして」
「ルノーから! 熱下がったんだ」
「はい、容態は落ち着いているそうで、お食事も召し上がっているとのことです」
 よかったと一安心する。
「後日お声がかかると思いますが、近いうちにお会いしたいそうです」
「わかりました」
 
 ルノーが復活すればいよいよ次期国王について何か動きがあるはず。
 第一王子が国王になるのはもう免れないだろうし、そしたら冒険はうやむやになるんだろうか。
 国王が国を離れて旅に出ていいのか? いや、ダメだろ。
 先のことを考えると気が重い。
 ため息をついた自分に頬を両手でパチンと叩いて喝を入れる。
 メリアヌさんが突然のことでびっくりして「いかがされましたか?」と心配してくれた。

 第一王子がいつ戻るかわかんないんだ、くよくよしてる時間がもったいない。
 オレはとにかく魔物に慣れなる! これ一択。
「メリアヌさん、オレまた郊外の森に行ってきます」
「かしこまりました。兄も合流するよう伝えておきます」
「よろしくお願いします!」




*あとがき*
 読んでくださりありがとうございます。
 いいねしてくださりとても励みになります!
 最終話まで書き終わりましたので、毎週更新していきます。
 よろしくお願い致します。

 たっぷりチョコ
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