3 / 20
第3話 夜の馬車、霧の森
しおりを挟む車輪が石畳の端で何度か跳ねて、王都の灯りが背中に遠のいていく。朝に出立したはずなのに、境門をくぐって街道に入る頃には、空はすでに群青色だった。昼のうちにここまで来るはずが、関所の手続きだの、荷の検分だのと、どうでもいい時間がいくつも挟まったせいだ。予定通りなんて、最初からなかったのかもしれない。
「お嬢様、窓は閉めて。夜風で体が冷えます」
対面に座る護衛の青年が、遠慮がちに声をかける。名前はフリッツ。父が「最低限」と言った護衛の、その“最低限”のうちの一人だ。もう一人は御者のハロルド。年季の入った帽子を目深にかぶり、口数は少ない。
「ありがとう。大丈夫よ」
ローザは窓の留め金を少しだけ下げ、隙間を細くした。夜の匂いが鼻先をくすぐる。乾いた草の匂い、遠い土の匂い、そして街道の石に残る昼の熱の名残り。王都の香水の層が、少しずつ剥がれていく気がした。
膝の上には、小さな布袋。エミリアから渡された銀花の種が入っている。布越しに指先で撫でると、中の粒がこつこつと当たって、確かにここにいると教えてくれる。彼女は布袋をもう少し強く握り、胸のあたりに引き寄せた。
「辺境までは、ここから三日はかかる」
フリッツが地図を膝に広げる。
「今日は森の手前の宿営地まで。明日は峠のふもと。三日目に山脈に入る」
「山脈……グレイリッジ」
口に出すと、言葉が息に触れて冷える。あの地名は石でできているみたいに重く、硬く、そして冷たい。
「怖いですか?」
「……正直に言うと、怖い。でも、知りたい気持ちも同じくらいあるの」
「知りたい?」
「うん。何をそんなに恐れているのか。私が何を怖がっているのか。知ってしまえば、怖さの形が分かるでしょう?」
フリッツは少しだけ笑った。
「お嬢様は強い方だ」
「強くなんてない。ただ、わからないままの“嫌な想像”が苦手なだけ」
会話はそこで切れた。馬車は城壁の影を離れ、街道を素直に進む。両脇の畑は暗く、月が雲に隠れるたびに黒の濃度が変わる。御者台からハロルドの低い鼻歌が漏れて、それが夜の静けさを壊さない範囲で馬たちを安心させている。
ローザは窓の隙間に頬を寄せ、遠ざかっていく王都の灯を見ていた。あそこには何もかもが揃っていて、何もかもが欠けていた。兄弟の笑い声、母の微笑、父の決断、姉の視線。どれも彼女に向かってはいるのに、届いてはいなかった。届かないものばかりの中で、彼女は土に手を入れていた。土は嘘をつかない。芽は嘘をつかない。時間だけが、正直だ。
幼い頃の夢を思い出す。夢というより、願いに近い。誰かに、名前を呼ばれたい。名前の最後の母音が、相手の呼吸で少しだけ揺れるくらいの近さで。彼女は音の記憶が好きだった。温室の雨だれ、鉢に水が染み込む音、茎が風で擦れ合う小さな音。人の声も、ほんとうは好きだ。けれど、彼女に向けられる声は、いつも途中で別の方向に反れていった。
「眠れますか」
フリッツが姿勢を崩さないまま、目だけで優しさを寄こす。
「少しだけ。森に入る前に」
「森は、音が増えます。眠るなら今のうち」
「そうする」
彼女は頭を窓枠に軽く預け、目を閉じた。馬の足音が規則を刻み、車輪がそれに追いついたり、遅れたりする。脳の中でリズムが揃い始め、意識がゆっくり沈んでいく。沈む途中、温室の匂いを思い出す。土と緑の濃い匂い。鼻腔の奥がじんわりと満たされる。そこに、別の匂いが混ざった。冷たい金属の匂い。夜露の冷たさ。何かの影の匂い。
どれくらい眠ったのか、自分でも分からない。肩が揺さぶられて、ローザは目を開けた。フリッツが片手を口に当て、静かにという合図をする。馬車は止まっていた。御者台のハロルドが、手綱を少し引き、耳を澄ませている。外は濃い霧だった。さっきまで見えていた星が、白い膜の向こうに隠れている。
「霧が早い」
ハロルドの声が低く落ちる。
「森の前でこれとは珍しい」
「何か、いますか」
フリッツが窓からそっと身を乗り出す。夜の空気が馬車の中に滑り込み、肌を冷やす。ローザは布袋を握り直し、喉の奥で唾を飲み込む。霧の向こうで、葉が擦れる音。遠くなったり、近くなったり。風のせいだけじゃない。
カサ、カサ、と乾いた草を踏む音。フリッツが剣の柄に手を置いた。
「お嬢様、下がって」
次の瞬間、霧の外縁から影が三つ、四つ、音を立てずに現れた。顔に布を巻き、腕には粗末な棍棒。靴は泥で重く濡れている。
「夜分に失礼」
一番背の高い男が、作り笑いを浮かべた。歯に欠けたところがあって、その隙間から霧が漏れる。
「ちょっとした通行税をね」
「王都の関税で十分だろう」
ハロルドが吐き捨てる。
「王都の関税は王都の腹に入る。俺たちの腹は満たされない」
「お嬢様、扉から離れて」
フリッツの声が低く鋭く変わる。ローザは腰を浮かせ、馬車の中央に身を寄せた。心臓が跳ね、指先に血が集まる。霧の粒が頬に触れて、水になる前の冷たさで刺してくる。
「動くなよ。女の影が見える。金目の物を出して、あとは行っていい」
男が棍棒を持ち直し、一歩こちらに踏み込む。フリッツが剣を半ば抜き、金属の音が霧の中で短く光る。
「やめて」
ローザの声が、自分でも思ったよりはっきり出た。男の目がわずかに細くなる。
「お? お嬢様が喋った」
「私たちは辺境へ行く途中です。何も取らないで。あなたたちに渡せる金は、ありません」
「辺境? 竜の花嫁か?」
別の男がからかうように囁き、仲間の肩を突いた。霧の中で笑いが弾け、すぐに沈む。
「伝説の飾りもの。いいじゃないか。俺たちも伝説を触ってみたい」
やめて、と言いかけたときだった。霧が、ひと呼吸ぶんだけ止まった。風が止んだのではない。霧そのものが、空気に縫い付けられたみたいに動かなくなった。その沈黙の底から、低い音が上ってくる。喉の奥で鳴るような、遠雷のような、胸の骨を内側から指でなぞられるような音。
フリッツが反射的に身を引き、剣を構え直す。ハロルドが手綱を握り直し、馬を宥める。馬の耳が後ろに倒れ、鼻息が白い線になって出る。賊の一人が「なんだ」と囁く。その囁きは霧に飲まれて、周りの空気の温度だけを下げた。
音は、すぐに光になった。上から、落ちてきた。雷のようにまっすぐではなく、水がこぼれ落ちるみたいに、静かで、広がりながら。銀だった。銀としか言いようのない、冷たいのに熱を持つ色。霧の粒ひとつひとつに光が宿って、世界が一瞬、別の向きに裏返る。夜の黒が、銀の裏地を見せた。
「……なに、あれ」
ローザは立ち上がってしまっていた。フリッツが腕を伸ばして庇おうとするより早く、光は賊の足元に落ちて、彼らの影を長くした。影の先に、別の影が重なる。巨大な、羽の形にも、翼のない獣の形にも見える輪郭。霧が、その輪郭に沿って震えている。
低い音が、はっきりと音になった。咆哮ではない。怒りではない。名を名乗るような、宣言の音。胸の内側がその音を覚えてしまう種類の、最初の一音。
「ひ、ひっ……!」
一番背の高い男が尻餅をつき、棍棒を落とした。乾いた音。他の影も後ずさり、霧の中で足をもつらせる。
「逃げろ!」
誰かが叫んだ。次の瞬間、四つの影は四方に割れて、霧を撒き散らしながら消えていった。残ったのは、銀の光の名残。霧の輪郭に貼り付いて震える微細な粒と、馬の荒い鼻息、そして彼ら三人の、言葉にならない呼吸だけ。
ローザは窓枠に手を添えたまま、天を見上げた。そこに“いる”と、体のどこかが分かっていた。目で見える形を持たないのに、確かにそこに“存在”がある。銀の光が細くなり、薄くなり、やがて雲の裏に吸い込まれていく。その間、彼女は目を逸らせなかった。逸らせば、二度と見られない気がして。
「今のは……」
フリッツが言葉を探す。
「雷ではない。魔法でも」
「竜だ」
ハロルドが、吐き出すように言った。手綱を持つ手が汗で滑っている。
「見たことはない。だが、今のは竜だ。古い、古い何かの音だ」
フリッツは頷くことも否定することもせず、剣を鞘に半分戻した。
「お嬢様、怪我は?」
「ううん。大丈夫」
ローザはようやく座り直した。膝の上の布袋が、さっきより温かい。種は、彼女の体温を受け取っていた。胸の鼓動が少し落ち着くまで、彼女は目を閉じた。瞼の裏で、銀の光がまだ揺れている。揺れは小さくなり、点になり、やがて線にもならない記憶の粒になる。
「追ってこないといいが」
ハロルドが周囲を見回し、馬の首を撫でた。
「今の光が何者であれ、あれが味方である保証はない。急ごう」
「はい」
フリッツが御者台の脇に移動し、歩調を合わせて警戒に立った。馬車はゆっくりと動き出し、霧を切り分けて進む。霧は戻ろうとするが、車輪が形を与え、道を残す。
ローザは布袋を握りながら、窓の外の白い世界を眺めた。さっきまでの恐怖が、すべて消えたわけではない。体はまだ、逃げ出したい方角を探している。けれど、心のどこか、深い場所に、小さな火が灯っていた。誰かがいた。彼女の上に、確かに。あれは偶然かもしれない。彼女のためではないかもしれない。けれど、あの光は、賊を退け、彼女たちを通した。
窓に額を寄せた。冷たいガラスが皮膚に触れ、思考が少し澄む。あの音。名を名乗る音。彼女は心の中で、何度も聞き直す。低く、広く、遠いのに近い。言葉ではないのに意味があった。意味は、簡単には言語に置き換わらない。けれど、彼女にはなんとなく分かった。――おまえは見えているか、と問われた気がした。見えている、と答えた気がした。
「ローザ様」
フリッツが窓越しに声をかける。
「大丈夫ですか?」
「ええ」
「怖かったら、言ってください。人は、怖いと言葉にした時が一番強い」
「……エミリアに似てること言うのね」
「エミリア様?」
「私の侍女。私の、お医者さん」
「いい方なんですね」
「とても」
会話が短く終わり、また夜の音が戻る。森の入り口が見えてきた。霧は濃く、木々の影は高く、枝は互いに腕を組むように絡み合っている。入り口に立つ古い石の標が、半分苔に飲まれていた。そこに刻まれた古い文字が、霧の水滴に濡れて、読めない。
彼女は布袋から一粒、種を取り出した。フリッツが振り返る。
「ローザ様?」
「お守り。……投げないわ。ただ、握っていたいの」
「分かりました」
種は冷たく、指先の体温を少しずつ奪っていく。その冷たさが、逆に彼女の体の熱を確かめさせる。生きている。指先に、心臓の脈が届く。
森の中は、噂通り音が増えた。見えない鳥、見えない獣、見えない風。葉を叩く雨のような音もするのに、雨は降っていない。霧が音を増やし、形を変えて返してくる。誰かの足音にも、木の実の落ちる音にも聞こえる。ローザは目を閉じて、分類しようとした。分からない音は、すぐに想像が上書きする。だから、たぶん、これはただの葉の音。ただの枝のきしみ。
馬車はゆっくり、慎重に進む。道の脇にぽっかりと開いた空地を見つけ、ハロルドが手綱を引いた。
「ここで野営しよう。森の中で無理に進むより、霧が薄くなるのを待つのがいい」
フリッツが頷き、焚き火の準備に取りかかる。湿った空気の中で火はなかなか上がらないが、やがて小さな赤が生まれ、黒を押しのけ始める。ローザは馬車から降り、火のそばに手をかざした。指先がじんわりと温まる。さっき握った種の冷たさが、内側から消えていく。
「少し食べましょう」
フリッツが固いパンを分け、干し肉を小さく切る。ハロルドが革袋から水を回す。三人で輪になり、火を囲む。火の向こうで、互いの顔が少しだけ柔らかくなる。
「王都には戻らないのですか」
ハロルドが唐突に問いを投げた。ローザは一瞬だけ迷って、首を横に振る。
「戻る場所は、あるようで、ないの。戻れないわけじゃない。ただ、戻っても、届かないから」
「届かない」
「ええ。声も、手も。温室の土だけが、届く場所だった」
ハロルドは「そうか」とだけ言って、それ以上は聞かなかった。彼の胸の内にも、届かない場所があるのかもしれない。
火のはぜる音。霧の向こうで、また遠い低音が揺れた。さっきの音とは違う。もっと小さく、もっと遠い。けれど、同じ響きの一部。ローザは顔を上げる。フリッツも、ハロルドも、耳をそばだてた。
「聞こえるか」
「……ええ」
それは挨拶のようでもあり、監視の合図のようでもある。彼女は胸の中で、言葉にならない返事を返した。ありがとう、とも、またね、とも違う。ただ、こちらにいる、とだけ。
「休もう。交代で見張りをする」
フリッツが火のそばに毛布を広げる。ローザは頷き、毛布に身を入れた。地面の固さが背中に伝わる。ごつごつはしているのに、不思議と安心する。大地は柔らかくはないが、受け止めることをやめない。
目を閉じると、銀の光の残像が深いところで細く伸びて、彼女の意識を縫い止めた。今夜、彼女は初めて、伝説を遠目に見た。笑い話のために用意された舞台の外側で、ほんものの影が、こちらを見ていた。
眠りに落ちる直前、エミリアの声が聞こえた気がした。「同じ星を見ましょう」と。彼女は空を見上げる。霧の幕の向こう、星は見えない。けれど、そこに星があることは、知っている。見えないものを、あると信じる練習を、彼女は土から学んだ。
火が小さくなり、霧が寄ってくる。寄ってきて、火に遠慮して留まる。森の呼吸と、馬の寝息と、人の微かな寝返り。彼女は銀花の種を胸に抱き、静かに目を閉じた。胸の鼓動は、馬の呼吸と少しずつ合い、やがて森の低い音とも合った。三つのリズムが重なって、ひとつの輪になる。その輪の外側で、銀の影が、ゆっくりと空を巡った。
――夜明け前。火の最後の赤が消える頃、霧の端で何かが一度だけ光った。彼女は眠っていた。けれど、その光は彼女の夢の中で、ちゃんと見られていた。夢の中の温室に、小さな芽が顔を出した。芽は銀色ではなく、ただの緑だった。けれど、十分だった。芽は、前に向かっていた。彼女もまた、前に向かっていた。霧の森の真ん中で。銀の目に見守られながら。
42
あなたにおすすめの小説
無能扱いされ、パーティーを追放されたおっさん、実はチートスキル持ちでした。戻ってきてくれ、と言ってももう遅い。田舎でゆったりスローライフ。
さくら
ファンタジー
かつて勇者パーティーに所属していたジル。
だが「無能」と嘲られ、役立たずと追放されてしまう。
行くあてもなく田舎の村へ流れ着いた彼は、鍬を振るい畑を耕し、のんびり暮らすつもりだった。
――だが、誰も知らなかった。
ジルには“世界を覆すほどのチートスキル”が隠されていたのだ。
襲いかかる魔物を一撃で粉砕し、村を脅かす街の圧力をはねのけ、いつしか彼は「英雄」と呼ばれる存在に。
「戻ってきてくれ」と泣きつく元仲間? もう遅い。
俺はこの村で、仲間と共に、気ままにスローライフを楽しむ――そう決めたんだ。
無能扱いされたおっさんが、実は最強チートで世界を揺るがす!?
のんびり田舎暮らし×無双ファンタジー、ここに開幕!
追放された公爵令息、神竜と共に辺境スローライフを満喫する〜無敵領主のまったり改革記〜
たまごころ
ファンタジー
無実の罪で辺境に追放された公爵令息アレン。
だが、その地では神竜アルディネアが眠っていた。
契約によって最強の力を得た彼は、戦いよりも「穏やかな暮らし」を選ぶ。
農地改革、温泉開発、魔導具づくり──次々と繁栄する辺境領。
そして、かつて彼を貶めた貴族たちが、その繁栄にひれ伏す時が来る。
戦わずとも勝つ、まったりざまぁ無双ファンタジー!
パーティーから追放され、ギルドから追放され、国からも追放された俺は、追放者ギルドをつくってスローライフを送ることにしました。
さくら
ファンタジー
勇者パーティーから「お前は役立たずだ」と追放され、冒険者ギルドからも追い出され、最後には国からすら追放されてしまった俺――カイル。
居場所を失った俺が選んだのは、「追放された者だけのギルド」を作ることだった。
仲間に加わったのは、料理しか取り柄のない少女、炎魔法が暴発する魔導士、臆病な戦士、そして落ちこぼれの薬師たち。
周囲から「無駄者」と呼ばれてきた者ばかり。だが、一人一人に光る才能があった。
追放者だけの寄せ集めが、いつの間にか巨大な力を生み出し――勇者や王国をも超える存在となっていく。
自由な農作業、にぎやかな炊き出し、仲間との笑い合い。
“無駄”と呼ばれた俺たちが築くのは、誰も追放されない新しい国と、本物のスローライフだった。
追放者たちが送る、逆転スローライフファンタジー、ここに開幕!
俺を凡の生産職だからと追放したS級パーティ、魔王が滅んで需要激減したけど大丈夫そ?〜誰でもダンジョン時代にクラフトスキルがバカ売れしてます~
風見 源一郎
ファンタジー
勇者が魔王を倒したことにより、強力な魔物が消滅。ダンジョン踏破の難易度が下がり、強力な武具さえあれば、誰でも魔石集めをしながら最奥のアイテムを取りに行けるようになった。かつてのS級パーティたちも護衛としての需要はあるもの、単価が高すぎて雇ってもらえず、値下げ合戦をせざるを得ない。そんな中、特殊能力や強い魔力を帯びた武具を作り出せる主人公のクラフトスキルは、誰からも求められるようになった。その後勇者がどうなったのかって? さぁ…
【完結】特別な力で国を守っていた〈防国姫〉の私、愚王と愚妹に王宮追放されたのでスパダリ従者と旅に出ます。一方で愚王と愚妹は破滅する模様
岡崎 剛柔
ファンタジー
◎第17回ファンタジー小説大賞に応募しています。投票していただけると嬉しいです
【あらすじ】
カスケード王国には魔力水晶石と呼ばれる特殊な鉱物が国中に存在しており、その魔力水晶石に特別な魔力を流すことで〈魔素〉による疫病などを防いでいた特別な聖女がいた。
聖女の名前はアメリア・フィンドラル。
国民から〈防国姫〉と呼ばれて尊敬されていた、フィンドラル男爵家の長女としてこの世に生を受けた凛々しい女性だった。
「アメリア・フィンドラル、ちょうどいい機会だからここでお前との婚約を破棄する! いいか、これは現国王である僕ことアントン・カスケードがずっと前から決めていたことだ! だから異議は認めない!」
そんなアメリアは婚約者だった若き国王――アントン・カスケードに公衆の面前で一方的に婚約破棄されてしまう。
婚約破棄された理由は、アメリアの妹であったミーシャの策略だった。
ミーシャはアメリアと同じ〈防国姫〉になれる特別な魔力を発現させたことで、アントンを口説き落としてアメリアとの婚約を破棄させてしまう。
そしてミーシャに骨抜きにされたアントンは、アメリアに王宮からの追放処分を言い渡した。
これにはアメリアもすっかり呆れ、無駄な言い訳をせずに大人しく王宮から出て行った。
やがてアメリアは天才騎士と呼ばれていたリヒト・ジークウォルトを連れて〈放浪医師〉となることを決意する。
〈防国姫〉の任を解かれても、国民たちを守るために自分が持つ医術の知識を活かそうと考えたのだ。
一方、本物の知識と実力を持っていたアメリアを王宮から追放したことで、主核の魔力水晶石が致命的な誤作動を起こしてカスケード王国は未曽有の大災害に陥ってしまう。
普通の女性ならば「私と婚約破棄して王宮から追放した報いよ。ざまあ」と喜ぶだろう。
だが、誰よりも優しい心と気高い信念を持っていたアメリアは違った。
カスケード王国全土を襲った未曽有の大災害を鎮めるべく、すべての原因だったミーシャとアントンのいる王宮に、アメリアはリヒトを始めとして旅先で出会った弟子の少女や伝説の魔獣フェンリルと向かう。
些細な恨みよりも、〈防国姫〉と呼ばれた聖女の力で国を救うために――。
本物の聖女じゃないと追放されたので、隣国で竜の巫女をします。私は聖女の上位存在、神巫だったようですがそちらは大丈夫ですか?
今川幸乃
ファンタジー
ネクスタ王国の聖女だったシンシアは突然、バルク王子に「お前は本物の聖女じゃない」と言われ追放されてしまう。
バルクはアリエラという聖女の加護を受けた女を聖女にしたが、シンシアの加護である神巫(かんなぎ)は聖女の上位存在であった。
追放されたシンシアはたまたま隣国エルドラン王国で竜の巫女を探していたハリス王子にその力を見抜かれ、巫女候補として招かれる。そこでシンシアは神巫の力は神や竜など人外の存在の意志をほぼ全て理解するという恐るべきものだということを知るのだった。
シンシアがいなくなったバルクはアリエラとやりたい放題するが、すぐに神の怒りに触れてしまう。
お荷物認定を受けてSSS級PTを追放されました。でも実は俺がいたからSSS級になれていたようです。
幌須 慶治
ファンタジー
S級冒険者PT『疾風の英雄』
電光石火の攻撃で凶悪なモンスターを次々討伐して瞬く間に最上級ランクまで上がった冒険者の夢を体現するPTである。
龍狩りの一閃ゲラートを筆頭に極炎のバーバラ、岩盤砕きガイル、地竜射抜くローラの4人の圧倒的な火力を以って凶悪モンスターを次々と打ち倒していく姿は冒険者どころか庶民の憧れを一身に集めていた。
そんな中で俺、ロイドはただの盾持ち兼荷物運びとして見られている。
盾持ちなのだからと他の4人が動く前に現地で相手の注意を引き、模擬戦の時は2対1での攻撃を受ける。
当然地味な役割なのだから居ても居なくても気にも留められずに居ないものとして扱われる。
今日もそうして地竜を討伐して、俺は1人後処理をしてからギルドに戻る。
ようやく帰り着いた頃には日も沈み酒場で祝杯を挙げる仲間たちに報酬を私に近づいた時にそれは起こる。
ニヤついた目をしたゲラートが言い放つ
「ロイド、お前役にたたなすぎるからクビな!」
全員の目と口が弧を描いたのが見えた。
一応毎日更新目指して、15話位で終わる予定です。
作品紹介に出てる人物、主人公以外重要じゃないのはご愛嬌()
15話で終わる気がしないので終わるまで延長します、脱線多くてごめんなさい 2020/7/26
『追放令嬢は薬草(ハーブ)に夢中 ~前世の知識でポーションを作っていたら、聖女様より崇められ、私を捨てた王太子が泣きついてきました~』
とびぃ
ファンタジー
追放悪役令嬢の薬学スローライフ ~断罪されたら、そこは未知の薬草宝庫(ランクS)でした。知識チートでポーション作ってたら、王都のパンデミックを救う羽目に~
-第二部(11章~20章)追加しました-
【あらすじ】
「貴様を追放する! 魔物の巣窟『霧深き森』で、朽ち果てるがいい!」
王太子の婚約者ソフィアは、卒業パーティーで断罪された。 しかし、その顔に絶望はなかった。なぜなら、その「断罪劇」こそが、彼女の完璧な計画だったからだ。
彼女の魂は、前世で薬学研究に没頭し過労死した、日本の研究者。 王妃の座も権力闘争も、彼女には退屈な枷でしかない。 彼女が求めたのはただ一つ——誰にも邪魔されず、未知の植物を研究できる「アトリエ」だった。
追放先『霧深き森』は「死の土地」。 だが、チート能力【植物図鑑インターフェイス】を持つソフィアにとって、そこは未知の薬草が群生する、最高の「研究フィールド(ランクS)」だった!
石造りの廃屋を「アトリエ」に改造し、ガラクタから蒸留器を自作。村人を救い、薬師様と慕われ、理想のスローライフ(研究生活)が始まる。 だが、その平穏は長く続かない。 王都では、王宮薬師長の陰謀により、聖女の奇跡すら効かないパンデミック『紫死病』が発生していた。 ソフィアが開発した『特製回復ポーション』の噂が王都に届くとき、彼女の「研究成果」を巡る、新たな戦いが幕を開ける——。
【主な登場人物】
ソフィア・フォン・クライネルト 本作の主人公。元・侯爵令嬢。魂は日本の薬学研究者。 合理的かつ冷徹な思考で、スローライフ(研究)を妨げる障害を「薬学」で排除する。未知の薬草の解析が至上の喜び。
ギルバート・ヴァイス 王宮魔術師団・研究室所属の魔術師。 ソフィアの「科学(薬学)」に魅了され、助手(兼・共同研究者)としてアトリエに入り浸る知的な理解者。
アルベルト王太子 ソフィアの元婚約者。愚かな「正義」でソフィアを追放した張本人。王都の危機に際し、薬を強奪しに来るが……。
リリア 無力な「聖女」。アルベルトに庇護されるが、本物の災厄の前では無力な「駒」。
ロイド・バルトロメウス 『天秤と剣(スケイル&ソード)商会』の会頭。ソフィアに命を救われ、彼女の「薬学」の価値を見抜くビジネスパートナー。
【読みどころ】
「悪役令嬢追放」から始まる、痛快な「ざまぁ」展開! そして、知識チートを駆使した本格的な「薬学(ものづくり)」と、理想の「アトリエ」開拓。 科学と魔法が融合し、パンデミックというシリアスな災厄に立ち向かう、読み応え抜群の薬学ファンタジーをお楽しみください。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる