黒幕の私が転生したら、なぜか勇者パーティ全員に求婚されてます

タマ マコト

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第2話「勇者が村にやってきた、人生のバグ発生」

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「リュミエ! 聞いた!? 王都から“本物”が来るって!」

 朝いちばん、家の扉を開けた瞬間に、その声が飛び込んできた。
 隣家のミナが、ほとんど体当たりみたいな勢いで抱きついてくる。三つ編みがぶんぶん揺れて、目は完全にお祭りモードだ。

「い、痛い痛い! ちょっと、朝からテンション高すぎない?」

「高くもなるでしょ! 勇者だよ勇者! 王都の勇者パーティ様ご一行が、このド田舎の村に!!」

「“ド田舎”言うな、この村に謝れ」

「いや好きだけどさ、そういう問題じゃなくてさ! ねぇ、やばくない? 生の! 本物の! 勇者!」

 ミナは自分で言いながらくねくねしている。
 情報量の暴力みたいなテンションに、リュミエは一瞬ついていけず、瞬きをした。

「……え、ほんとに? 勇者って、あの、魔王倒したりする、あの?」

「そう、その“あの”! しかもパーティごと来るんだって! 勇者アレン、賢者セイル、聖騎士ロウ、暗殺者カグラ! 名前だけで米三杯いけるやつ!」

「人の名前でご飯食べないであげて」

 とは言いつつ、心臓がどくり、と強く打った。
 勇者アレン。
 賢者セイル。
 聖騎士ロウ。
 暗殺者カグラ。

 ひとつひとつの音が、胸の内側を指でなぞるみたいに、妙に意味ありげに響く。
 耳の奥がざわっとした。

(知ってる……? いやでも、会ったことなんて――)

 イリスとしての記憶の海を、無意識に探ってみる。
 戦況報告書、死亡者リスト、英雄の動き。
 勇者パーティ――確かにその存在は、何度も地図上で追いかけてきた。

 ただ、“直接会う”という選択肢は、最後まで一度もなかった。
 会えば壊れる。それが、自分と彼らの関係性だったから。

「リュミエ?」

「あ、ごめん。ちょっと考え事」

「なに考えてたらそこでフリーズできるの。ね、広場行こ! もうみんな集まってるって!」

 ミナは有無を言わせず、リュミエの手を掴んだ。
 その熱に引っ張られるように、リュミエは一歩を踏み出す。

 足の裏に、昨日と同じ土の感触。
 でも、世界の空気が、ほんの少しだけ違って感じた。

    ◇

 村の広場は、すでに人でいっぱいだった。
 子どもたちは最前列を陣取ってそわそわしていて、大人たちも口では「仕事があるんだがな」とか言いつつ、しっかりベストポジションを確保している。

「すっご……こんなに人いたんだ、この村」

「普段は畑に散ってるからね。こういうときだけ最大人口数えるのやめてほしい」

 ミナの愚痴に苦笑しつつ、リュミエは人の波の中で呼吸を整えた。
 ざわめき。
 期待。
 好奇心。

 それらが混ざって、広場の空気はほんのり熱を帯びている。

 ふと、リュミエのうなじを冷たいものが撫でた。
 昨日、空の下で感じた“嫌な気配”の、薄めたような残り香。

(……来る)

 確信だけが、体の中心にすとんと落ちる。
 自分でも理由がわからないのに――“重要なピース”が盤上に置かれる瞬間の、あの独特の感覚だ。

「お、来たんじゃない?」

 ミナの声と同時に、村の門の方から角笛が鳴り響いた。
 人々のざわめきが、一瞬で静まり返る。

 土の道を、ゆっくりと進んでくる馬車。
 王都の紋章が掲げられた旗が、風に翻る。

 その前後を護衛の兵士たちが固めていたが――
 目を引くのは、その中心で馬を並べている、四つの人影だった。

(……あ)

 視界に入った瞬間、肺がきゅっと縮んだ。

 先頭――笑っていた。
 太陽をそのまま人型にしたみたいな、明るさの塊。
 金色の髪が光を跳ね返し、爽やかすぎる笑みを浮かべている青年。

「勇者アレン様だ……」

 誰かの小さな声に、周囲の空気がいっせいにきらめく。
 英雄を見上げる、憧れと畏怖の混じった空気。

(まぶし……)

 リュミエは思わず、手で目を細めた。
 いや、光が眩しいんじゃない。視界の中で、彼だけが“情報量”として眩しい。

 その隣に、静かな影。
 銀縁の眼鏡をかけ、長いローブをまとった青年。
 細い指で本を抱え、視線だけで周囲を分析している。

 賢者セイル。
 理性を形にしたような、冷静さの塊。

 さらにその横に、鎧の音を立てる長身。
 磨かれた銀のプレートアーマー。
 短く刈り込まれた黒髪に、真っ直ぐな瞳。

 聖騎士ロウ。
 彼の周囲だけ、空気がぴんと張り詰めている。

 そして――
 最後のひとりだけは、そこにいるのに、そこにいないみたいだった。

 痩せぎすの体躯。
 黒いフード。
 歩幅は一定なのに、影に溶けるみたいに存在感が薄い。

 暗殺者カグラ。
 人混みの中で、姿を見失いそうになる。

 四人が馬を降りると、村長が前に出て深々と頭を下げた。

「遠路はるばるお越しくださり、誠にありがとうございます、勇者様方。こんな田舎まで……」

「いえいえ! みんなが暮らしてる場所を守るのも、俺たちの仕事ですから!」

 アレンが、まっすぐな笑顔で答える。
 声はよく通り、言葉のひとつひとつが、聞いている人の胸にぽんぽんと届いてくる。

(……うわ、これは確かに、人気出るやつだ)

 思わず心の中でツッコミを入れる。
 前世、黒幕として眺めていた“勇者”は、もっと遠くて、もっと概念的な存在だった。

 今目の前にいるアレンは、やたらと人間くさくて――それがまた、危険なくらい魅力的だった。

「このあたりで、魔物の異常な出現があったと報告を受けています。まずは詳しい話を伺ってもよろしいでしょうか」

 セイルが穏やかに口を開く。
 声は柔らかいのに、その目は一瞬たりとも周囲を観察するのをやめていない。

 ロウは無言のまま、兵士たちに視線を送る。
 数人がすぐさま周囲警戒に散っていき、広場の入口や屋根の上に配置されていく。

 一方、カグラは――
 気づけば、もう人混みの別の位置にいた。
 いつの間に動いたのか、本当にわからない。

(……あれ、完全に暗殺者の動き)

 思わずそんな感想が浮かぶ自分に、リュミエは内心で苦笑する。

(うん、暗殺者の動きに詳しい女ってなに。やめよ)

 自分で自分にツッコミを入れた、その時だった。
 アレンがくるりとこちらを向いた。

「――っと、ごめん!」

 軽い衝撃。
 人波が少し押し寄せて、アレンの体がわずかにリュミエの方へよろける。

 反射的に、リュミエの手が前に出た。
 アレンの胸当てに触れる寸前、その動きを最小限に抑える角度で。

 がし、と。
 重心が、ふわりと自分の方へ傾く感覚を、指先で受け止めた。

「大丈夫ですか、勇者様」

 口から、勝手に敬語が滑り出る。
 イリスとして、一度も直接かけたことのないはずの呼び名。

「おーっと、悪い! 助かった!」

 アレンは笑って、リュミエの手を見下ろした。
 その瞬間、瞳に何かの影が走る。

「……?」

 ほんの一瞬。
 “あれ?”と首をかしげるような、違和感の色。

 でもすぐに、いつもの太陽みたいな笑顔に戻る。

「ありがとう! 君のおかげで、華麗に転びかけたのがバレずに済んだ!」

「いや、普通にバレてましたよね今」

 思わず素で返すと、アレンはきょとんとしたあと、吹き出した。

「ははっ、そうだな! バレバレだった!」

 笑いながら、彼はじっとリュミエを見つめる。
 その視線は、さっきまでの人懐っこさとは違う、かすかな探るような色を含んでいた。

「君、反応早いね。兵士さん?」

「いえ、ただの村娘です」

「へぇ。本当に?」

 アレンは冗談めかして首をかしげる。
 でも、その目の奥だけは、笑っていなかった。

(……見透かされてる? いや、そんなはず――)

 そこへ、低い声が割り込んだ。

「アレン。人混みで知らない相手に近づきすぎだ」

「ロウ、そんなこと言うなよ。助けてもらったんだし」

「それは感謝するとしても、警戒は別だ」

 ロウが一歩近づき、リュミエとアレンの距離をさりげなく引き剝がすように間に立った。
 間近で見ると、鎧の質感と体躯の厚みがわかる。
 “壁”という言葉がよく似合う男だった。

 ちら、とロウの視線がリュミエをかすめる。
 目が合った瞬間、喉の奥がきゅっと締まる感覚に襲われた。

 真っ直ぐすぎる瞳。
 その奥に、うっすらと警戒と、測るような静けさ。

「……村の者か?」

「は、はい。リュミエって言います。この村で、バルドおじさんのところに住んでて」

「バルドの……ああ、パン屋のか」

 知っていたらしい。
 ロウの眉がわずかに緩む。

「パンはうまい。……お前のところのパンを食ってから、王都のが物足りなくなった」

「え、え、なんか褒められてる……?」

「褒めてる」

 表情はほとんど変わらないけれど、声は真剣だった。
 褒め方が直球すぎて、逆に照れる。

(なにこの人、会話のアレンジって言葉知らないの?)

 内心でそんなことを思ってしまうくらいには、緊張がほぐれた――が。

「リュミエ、さん、でしたね」

 今度は、静かな声が名前を呼んだ。
 視線を向けると、セイルが本を胸に抱えたまま、こちらを観察するように見つめている。

「さっき、勇者を支えたとき……一歩目の出し方が、非常に効率的でした」

「えっ」

「重心の移動と、転倒を防ぐ角度。訓練を受けた人間の動きに近い」

「えっ、いや、そんな大したものじゃ……」

「本人の感覚では、そうかもしれません。ですが第三者から見ると、“慣れ”がありました」

 セイルはフレームを指で押し上げ、少し困ったように笑う。

「すみません。職業柄、つい観察してしまって。賢者というのは、要するに“なんでも気になる人種”なんです」

「そ、そうなんですか……?」

「ええ。たとえば、今のあなたの瞳の動き。警戒と戸惑いが混ざっている。なのに、その奥にあるのは、“戦場を知っている人間の色”に、少し似ている」

 心臓が、どくん、と鳴った。

(戦場、なんて)

 知らないはずだ。
 この身体は、畑とパン屋と市場しか歩いたことがないのに。

 なのに――その言葉は、イリスの記憶の底に沈んでいた傷跡を、ぴたりと撫でた。

「セイル」

 カチン、と室温が下がった気がした。
 声の主は、さっきからどこにいるのかわからなかった四人目――カグラだ。

 いつの間にか、リュミエの斜め後ろに立っていた。
 気配を完全に消したまま、すっとそこに存在している。

「それ以上は、ここじゃ不向きだ」

「……そうですね。失礼しました」

 セイルが素直に引き下がる。
 カグラはフードの影から、じっとリュミエを見た。

 瞳の色は、夜の底みたいな黒。
 感情の動きがほとんど読めない。

 ただ――

(見てる)

 その視線だけは、はっきりとした意図を持っていた。
 人混みも、村長も、周りの村人たちも見ているのに、それとは別のレイヤーで“リュミエだけ”をロックオンしている。

 背中に薄い寒気が走る。
 逃げ腰になりかけた足を、ぐっと踏みとどまらせた。

「……なにか?」

 思わず問いかけると、カグラはほんの少しだけ眉を動かした。

「いや」

 短く、それだけ。
 けれど、その“いや”に含まれた意味は、妙に重かった。

(“いや、まだ断定しない”ってニュアンス……?)

 どこかで聞いた機密会議のやりとりみたいな感覚に、イリスとしての勘がざわつき始める。

「おーい、みんな。まずは村長さんとの話が先だろー?」

 アレンが場の空気を軽く叩くように声を上げる。
 彼の明るさが、緊張の糸を少しだけ緩めた。

「そう、ですね。失礼、少し興味が先走りました」

 セイルが軽く会釈し、ロウは一歩下がる。
 カグラはフードの影に表情を隠したまま、視線だけを最後までリュミエから離さなかった。

 四人が村長の方へ向き直る。
 その背中を見送りながら、リュミエは小さく息を吐いた。

(……なに、今の。なんであたし、あんなにガッツリ観察されてるの)

「リュミエ、やばかったね今!!」

 横からミナがほとんど悲鳴に近い声をあげた。

「ゆ、勇者様と会話してたし!? 賢者様にガチ分析されてたし!? 聖騎士様にパン褒められてたし!? 暗殺者様はよくわかんなかったけど目が合ったし!!」

「情報量が渋滞してる」

「ねぇ今どんな気持ち!? 心臓生きてる!? むしろ今死んで転生済みってことない!?」

「うるさい」

 そう返しながら、自分の胸に手を当てる。
 心臓は、ちゃんとそこにあった。
 ちゃんと、うるさいくらいに動いていた。

(でも……なんか、おかしい)

 胸の奥が冷えている。
 外側は熱を帯びているのに、中心だけが氷みたいに冷たい。

 四人の顔。
 声。
 視線。

 そのすべてが、“初対面のはずなのに、どこかで何度も見てきた対象”みたいに感じる。

 地図の上に置いた駒。
 報告書の文字列。
 戦況を塗り替える名前。

 “勇者パーティ”。

(人生、バグってない?)

 村娘としてのリュミエの感覚が、冗談めかしてそう呟く。
 一方で、イリスとしての冷静な部分は、静かに結論を出していた。

 ――見つかった。

 自分が。この村が。
 “物語の外側”にいたはずのプレイヤーたちに、見つけられてしまった。

    ◇

 その後、勇者パーティは村長の案内で、広場の隅に設けられた即席の会議スペースへ向かった。
 人々は距離を取りつつも、その様子を見守っている。

「魔物の出現地点と頻度を、もう一度確認させていただけますか」

 セイルの声が、風に乗って微かに聞こえてくる。
 村長が慌てて地図を広げ、最近の被害状況を説明し始める。

「……なぁ、リュミエ」

 ぽつりと、誰かが話しかけてきた。
 振り向くと、さっきの門番のひとり――ランツが、腕を組んで勇者たちを見ていた。

「なんです?」

「さっき、お前、勇者様支えるとき、一回足を引いたよな」

「え?」

「あれ、普通はとっさに前に出る。ぶつかる寸前で足を引いて、衝撃をいなしてた。……兵士でも出来るやつは少ない」

 なんでみんなそんなに観察してくるの。
 内心でツッコミながら、リュミエは引きつった笑顔を浮かべる。

「たまたまですよ、たまたま。反射神経が良かっただけです」

「そうか?」

「そうです」

 きっぱり言い切ると、ランツは「ならいいけど」と肩をすくめた。
 その表情には、完全には納得していない色が残っていた。

 リュミエは視線を勇者たちに戻す。
 アレンが明るく笑いながらも、ときどき真剣な横顔を見せる。
 セイルは村の地図と周囲の地形を何度も見比べている。
 ロウは人の出入りを確認しながら、村人たちの様子を静かに観察している。
 カグラは――どこかの屋根に移動していた。気づいたらいなかった。

(おかしいのは、あの人たちなのか。あたしなのか)

 答えはまだ出ない。
 でもひとつだけ、確信に近いものが胸にあった。

 ――この人たちが来た時点で、“静かな村娘ライフ”のフラグ、全部折れた。

 そんな予感だけは、やけに鮮明だった。

(人生のバグ発生って、たぶんこういうのを言うんだろうなぁ)

 乾いた笑いが、喉の奥でからから鳴る。
 空はやたらと青くて、雲はのんびり流れているのに、胸の中だけは嵐の前ぶれみたいにざわざわしていた。

 このとき、リュミエも勇者たちもまだ知らない。
 この小さな村での“はじめまして”が、前世から続く因縁の、二周目の開幕だということを。
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