黒幕の私が転生したら、なぜか勇者パーティ全員に求婚されてます

タマ マコト

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第13話「告白と断罪の狭間で」

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 その日の空は、やけに青かった。

 雲が少しだけ流れていて、
 風は穏やかで、
 村の子どもたちは走り回っていて。

 ――世界は、何も知らない顔をしていた。

 パン屋の手伝いを早めに切り上げて、
 リュミエは、ひとりで丘に向かっていた。

 村の外れ。
 魔物騒ぎが起きる前から、
 よくミナと寝転がって空を見ていた、
 あの小さな丘。

 今日は、違う用事で来ている。

 丘の上には、もう三人がいた。

「来たか」

 先に気づいたのはロウだった。
 立ったまま、村の方角を見下ろしていた彼は、
 リュミエを一瞥してから、わずかに顎を引く。

 アレンは草の上に座り込み、
 棒切れで土に何かを描いていた。
 セイルはその隣で、地図を広げて風で飛ばされないよう押さえている。

 カグラは、いつものように少し離れた木の幹にもたれていた。
 影の中にいても、その視線だけは鋭く光っている。

「……全員、ありがとうございます」

 喉が乾いて、声が少し掠れた。

「わたしから、“話があります”って言ったのに、
 逃げたくなってる自分がいて、ちょっと腹立ちます」

 自嘲混じりの言葉。
 アレンが棒切れをくるくる回しながら、無理に笑った。

「逃げてもいいぞ?」

「ダメです。
 言わなきゃいけないこと、山ほどあるんで」

 自分で言って、自分でうなだれる。

 セイルが静かに地図を畳んだ。

「では、聞かせてください。
 あなたが“何をしてきたか”を」

 その言い方は、残酷なほど正確だった。

 “何をされたか”ではなく、
 “何をしてきたか”。

 リュミエは深く息を吸い込み、
 胸の奥の空気をひとつ全部吐き出した。

 そして、膝をついた。

 立って話せるような内容じゃない。

 草の上に両手をつき、
 頭を軽く下げる姿勢で、
 震える声を無理やり引っ張り出した。

「……わたしは、イリス=ノワールとして、
 〈影蜘蛛〉として、生きていました」

 風が、ふっと弱くなる。

 空が、一瞬だけ、音をなくしたみたいに静かになる。

「王国同士の戦争を、何度も煽りました。
 あちこちの国境線で、
 “ここは領土問題として炎上させやすい”とか、
 “ここで暴動を起こせば、別の国が得をする”とか、
 そんな計算ばっかりしてました」

 言葉ひとつ出すたびに、
 胸の内側が削れていくような感覚。

「魔物の暴走も、引き起こしました。
 あの村の周りにあったみたいな魔法陣――
 ああいうの、最初に考えたの、わたしです。
 戦場の前に地面に刻んで、
 “敵が一番集まったタイミングで”地獄を開くための仕掛けとして」

 セイルの指が、膝の上でぎゅっと握られた。

 アレンの握っている棒が、
 ぽき、と音を立てて折れた。

「勇者パーティを……」

 そこまで言って、喉がひゅっと鳴る。

 視界の端で、アレンがわずかに顔を上げた。

「何度も窮地に追い込みました。
 あなたたちが向かう先には、
 だいたい、わたしが“手を入れた戦場”がありました」

 魔物の数を調整し、
 敵軍の配置を少しだけ変え、
 味方の補給路を微妙に細くして。

「全部、〈勇者〉という“駒”が、
 どこまで抗えるのかを測るためでした。
 あなたたちが倒れれば、
 世界はどう揺れるのか。
 あなたたちが勝ち続ければ、
 世界はどこまで引きずられるのか」

 アレンの拳が、膝の上で白くなるほど握りしめられている。

「勇者って、すごく“使いやすい”んです。
 困っている人を見れば助けるから。
 だからわたしは、
 勇者が絶対に無視できない場所に“困ってる人”を配置しました」

「……配置って言い方やめろ」

 アレンの低い声。

 怒っている。
 当たり前だ。

 リュミエは、目を閉じて続ける。

「助ければ助けるほど、
 世界は勝手に動いてくれました。
 あなたたちがどこへ向かうか予測できれば、
 別の場所を手薄にできました。
 ――それを、ずっと、楽しんでいたわけじゃないです」

 そこだけは、どうしても言いたかった。

「楽しくはなかった。
 でも、“これが自分の存在理由だ”って思い込んでました。
 役に立たなくなったら捨てられるから。
 だから、世界をぐちゃぐちゃに動かすことでしか、
 自分を保てませんでした」

 ロウの奥歯がきしむ音が聞こえた。

「故郷を焼かれたこと、あるんですよね」

 リュミエは、恐る恐るロウの方を見た。

「……はい。俺の村も、戦争の余波で」

「その“余波”の一部を、
 わたしは作っていました」

 ロウの目が、細くなる。

 怒り、悲しみ、呆れ、諦め――
 いろんな感情が混ざった目。

 でも、そこに“殺意だけ”がないことが、
 逆に辛かった。

「ごめんなさい」

 そんな言葉で済むとは、これっぽっちも思っていない。

 それでも、最初に出てきたのはそれだった。

「謝って済むことじゃないのは、わかってます。
 覚えていなくても、罪が消えるわけじゃない。
 わたしが“覚えてなかったからセーフ”なんて、
 そんな都合のいい話、ないのもわかってます」

 セイルが眼鏡を外し、
 片手で顔を覆った。

 長い指先が、額から鼻筋にかけて震えている。

 賢者として追い続けてきた“黒幕”が、
 今、自分の前で泣きながら膝をついているという現実。

 理性では処理しきれない矛盾が、
 そこにあった。

「魔物の暴走を引き起こしたときも、
 “どうすれば一番効率よく被害を出せるか”だけ考えてました。
 “この村でこのくらい”“この街道でこのくらい”って、
 数字の羅列でしか世界を見てませんでした」

 カグラが立っていた木から、
 一歩、離れた。

 そして、無言で拳を握りしめ――

 ドン、と。

 丘の側面にある岩に、拳を叩きつけた。

 鈍い音。
 拳から血が滲む。

 でも、カグラの表情は変わらない。

 変わらないのに、
 その目の奥はぐちゃぐちゃだった。

 あいつの声。
 あいつの指示。

 自分の手を汚させてきた“黒幕”の正体が、
 今、「嫌だ」と泣いている少女と同一人物だなんて、
 笑えない悪い冗談みたいだ。

「……お前を、殺したい気持ちは、正直、ある」

 カグラが低く言った。

 リュミエの肩がびくりと震える。

「俺の手を汚した“主”と、
 今ここで泣いてるお前を、
 同じところまで引きずり下ろして、
 全部まとめて消してしまえたら楽だろうなって、
 何度も思った」

「……そう、ですよね」

 リュミエは笑おうとして、
 笑えなかった。

「楽に、なりたいですよね。
 あたしがいなくなれば」

「だが」

 カグラはそれ以上言わず、
 視線を逸らした。

 岩に滲んだ血が、
 じわりと広がっていく。

 セイルは顔を覆ったまま、
 静かな声で問いかけた。

「――あなたは、今、どうしたいんですか」

 とても、単純な質問。
 でも、あまりにも残酷な問い。

「自分を、どうしたいと思っている」

 リュミエは、草を握りしめた。

 指の間に、土が食い込む。

「……わたしは」

 本当は、“生きたい”と言いたかった。

 怖くても、
 痛くても、
 今の村で笑っていたいと、
 叫びたかった。

 けれど――

「わたしを、処罰してほしいです」

 出てきたのは、逆の言葉だった。

 アレンが、顔を上げる。

 ロウが、目を見開く。

 セイルの指が固まる。

 カグラが、息を飲む。

「わたしがどんなに“今”を頑張っても、
 “前”で流した血は消えません。
 わたしが覚えていなくても、
 誰かにとっては、“家族を殺した黒幕”のままです」

 震える声で、それでも最後まで言い切る。

「だから――勇者様。
 王国の罪を裁く権利がある人として、
 わたしを、処罰してください」

 頭を深く下げた。

 額が土に当たる。

 冷たくて、少し湿っていて、
 そこに、自分の涙がぽたりと落ちた。

「牢に入れるでも、処刑するでも、
 王都に連れて行って公開裁判でも、
 なんでもいいです。
 “黒幕”の罪を、ちゃんと“世界に見える形”で終わらせてほしい」

 言いながら、
 心のどこかで“助けて”と叫んでいる自分がいる。

 処罰されたくない。
 ここにいたい。
 パンを焼きたい。
 ミナと笑いたい。
 アレンと喧嘩したい。
 セイルと言い合いしたい。
 ロウに説教されたい。
 カグラの影にお茶を置きたい。

 全部、捨てたくない。

 でも、捨てなきゃいけない。

 そうやって、自分を責める声が、
 頭の中で大合唱していた。

 丘の上に、沈黙が落ちる。

 長い、長い、沈黙。

 風の音だけが、草を撫でていく。

 アレンの拳は、まだ白いまま。
 ロウは歯を食いしばり、視線を地面に固定している。
 セイルは顔を覆った手を下ろせず、
 カグラは岩に立てた拳から血を垂らしながら、空を睨んでいる。

 誰も、すぐには答えを出せなかった。

 「許す」と言うには、重すぎる。
 「殺す」と言うには、近すぎる。

 怒りと、悲しみと、迷いと、
 それから、まだ名前のつけられない感情が、
 四人の胸の中で渦巻いている。

 アレンの喉が、かすかに動いた。

 何かを言おうとして、
 飲み込んだ。

 ロウの拳が、膝の上で震えた。
 剣を抜いてしまえば楽になる、と一瞬思って、
 その手を膝に押さえつける。

 セイルは、理性で何かを組み立てようとして、
 感情が邪魔をして、言葉にならない。

 カグラは壁を殴り続けたい衝動を抑え、
 ただ、血のついた拳を握りしめていた。

 沈黙は、断罪にも赦しにもならない。

 ただ、そこに――“狭間”として存在する。

 リュミエは土に額をつけたまま、
 誰も答えない時間の長さに、
 薄々気づき始めていた。

(あ、これ、すぐには……
 決められないやつだ)

 当たり前だ。

 前世で撒いた血と、
 今ここで流している涙を、
 一瞬で天秤にかけて「はい、こっち」と言える人間なんて、
 そうそういない。

 それがわかっているからこそ、
 余計に胸が痛い。

 心臓が、嫌なリズムで鳴る。

 今ここで「やっぱり処罰やめてください」って言えたら、
 どれだけ楽か。

 でも、それを言った瞬間、
 イリス=ノワールとしての自分を完全に否定してしまう気がして――
 それもできなかった。

 丘の上の沈黙は、
 やがて、ゆっくりと夕陽に染まり始めた。

 オレンジ色の光が、
 泣きじゃくる少女の背中と、
 拳を握りしめた勇者たちの影を、
 長く長く伸ばしていく。

 告白と断罪の狭間で。

 まだ誰も、一歩を踏み出せずにいた。
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