11 / 104
第11話 騎士の力とヒーラーの憂鬱
しおりを挟む走り込みが終わったあとは、騎士について幾人かに別れて剣を学ぶようだ。
「皆さんは1人を除き、すぐに我々等超えていくでしょう! ですが『基礎』だけはしっかり覚えて下さいね。 どんなに素晴らしいジョブを貰っても最低限の事が出来なければ、意味を成しませんよ!たとえ剣に於いて最強の『剣聖のジョブ』を持っていても暫くは我々には勝てませんし、基礎を学んだ方がより強くなれます!学ぶと言う事は絶対に大切なのです!」
その1人は俺の事だろう。
だが可笑しい。
4人全員がこの場に居ない。
大樹だけが居ないのであればまだ解る。
ジョブやスキルを奪ったからな。
だが、他の3人までもが居ないのは不気味だ。
何か企んでいる可能性が高い。
一応警戒位した方が良いかも知れない。
『気になるなら、僕が様子を見てこようか?』
テラスちゃんの声が聞こえてきた。
『お願いしてよいかな』
分体とはいえ『天照様に使い走りをさせた』なんて爺ちゃんに知れたら、地獄を見るかもしれない。
『暇だから、散歩ついでに行ってくるね』
そう言うとテラスちゃんは行ってしまった。
◆◆◆
俺事、工藤祐一は驚きを隠せない。
「ほらほら、どうしました! そんな剣じゃゴブリンすら斬れませんよ!」
騎士からの指導は実戦的で『何処からでも掛かって来い』そう言われた。
しかも、騎士側は躱すだけで一切攻撃して来ないという話だった。
確かに騎士は強いと思う。
だが、俺にだって意地はある。
俺は剣道部のレギュラーにして剣道2段。
中学の時は全国大会で優勝した事もある。
そんな俺が『騎士』のジョブを貰ったんだ。
真剣を持っての戦いじゃ勝てないかも知れないが、木刀なら通じる筈だ。
今迄、気が遠くなる程竹刀や木刀を振ってきた。
手にはタコが出来ている。
『度肝を抜いてやる』
そう思い、上段から木刀を振りおろした。
だが…
「素人にしては筋が良いでしすね、ですがそんな素直な技じゃ私には通用しませんし、魔物には通用しません!」
俺の攻撃は簡単に躱されてしまった。
「嘘だろう」
俺は青春のほぼ全てを剣道に捧げてきたのに…
「なぁ~にが『嘘だろう』ですか? これが現実です。以前の召喚者の中にも剣の経験者はいましたが、最初から通用した者は1人もおりません。まぁ、1か月もしたら私も含んで誰も貴方に勝てないでしょうがね」
悔しくて仕方が無い。
この騎士に勝てるのは、俺の技術や腕じゃない。
女神様から貰った『ジョブ』のおかげで成長して勝つ。
ただそれだけ…
そういう事だ…俺の8年間は此処ではなんの役にも立たない。
そう言う事だ。
「本当に通用しないのか…」
「しませんね『剣道』ですよね? そんなのは平和な世界のお遊びでしょう? 盗賊を殺し、魔獣を斬る為のこの世界の剣を学んだ我々に通用するわけが無い! 今迄来られた異世界の方の殆どは人すら殺した事が無いのですから仕方ないと思いますよ…余り気に病まないで下さい…この世界の剣を学んで暫くしたら、皆さんは直ぐに私なんかより強くなれますから」
悔しくて仕方が無い。
頑張って学んだ『剣道』が否定された。
平和な日本じゃ『人斬り』さえ居ない。
言われてしまえば、俺にはなにも言い返せない。
『技』も『技術』も俺は未熟だ。
悔しい…剣道が負けたんじゃない。
俺が負けたんだ。
もし、此処に来たのが、昔の侍ならきっと違った筈だ。
「そろそろ、此方も攻撃しますよ」
そう言いながら騎士は手を前にだした。
木刀すら使わないのかよ…
「幾ら何でも…えっ」
俺の木刀をかいくぐりビンタが飛んできた。
俺は思わず目を瞑ったが、実際にはビンタされず、その手は俺の首を優しく触った。
「これが実戦ならもうその首は刎ねられています」
悔しい。
此処に居るのが、俺じゃ無くて宮本武蔵か柳生十兵衛だったら違った筈だ。
だが、此処にそんな人物は居ない。
負けるのが悔しいんじゃない。
『剣道』を馬鹿にされても言い返せない。
そんな自分が悔しいんだ。
◆◆◆
「大樹大丈夫なの?」
「しっかりしろ!」
「本当に大丈夫かい」
走り込みで苦しそうに走る俺の様子に気が付いた大河が、傍の騎士に俺の状態を報告した為、そのまま俺はヒーラーの元に連れて来られた。
可笑しな事に同級生の中で俺だけが、走り込みについていけてなかった。
何が起きているのか解らない。
俺達の中で一番運動が嫌いな、塔子ですら余裕で走っていたのに、俺だけが、追いつけていない。
「ハァハァ、少し息苦しくて、足が痛いが大丈夫だ」
仲間に弱みは見せられないからこう言ったが…大丈夫じゃねーよ。
「運動不足からいきなり走ったので肉離れを起こしたようですね」
ヒーラーはこう言うがどう考えても可笑しいだろう。
「ハァハァ、俺は『勇者』のジョブを持っているんだぞ、それが何故こうなるんだ」
多分ジョブの影響だろうか?塔子は楽々走っていた。
流石に部活をやっている奴程じゃないが、俺の運動神経は悪くない。
幾らなんでも、塔子以下になるなんてわけが無い。
『可笑しい』
幾ら何でも、これは無い。
「あははははっ!嫌ですね!たとえ勇者であっても最初は、そんな物ですよ! 召喚された直後は、騎士はおろか、衛兵にすら勝てないのは当たり前の事ですよ!他の方に比べて大樹様は『ジョブ』に上手く体が馴染んでないだけだと思います!何しろ『勇者のジョブ』ですから、馴染むのに時間がかかるのでしょう!召喚された直後は、ゴブリンには辛うじて勝てる。そんなもんですよ!」
「そ、そうなのか?」
『馴染んでない』それだけなら別に良い。
力が手に入るまでの我慢だ。
「ドラゴンだって卵から孵ったばかりなら農夫に叩き殺される。それと同じです。尤も異世界の方は1か月もしたら皆さん簡単にオーガを狩れる位強くなり、特に勇者は竜種すら倒せるようになりますから、それまでの辛抱ですよ!」
「本当か!そういう事は早めに言ってくれ!心配して損した!」
暫く我慢すれば…あとは好き放題出来る。
「すみません、言葉足らずでした」
「それで、俺が普通の騎士より強くなるのにどれ位掛かるんだ!」
「そうですね、1週間もあれば余裕じゃないですか?」
あぶねーな。
ちゃんと教えてくれよ。
平城の時に理人とやりやっていたら、負けたのは俺じゃ無いか。
1週間か…理人に絡むのは1週間後からだ。
借りを返して無様に叩きのめしてから追放してやる。
「ありがとう」
「今日は念の為、このまま休んでいた方が良いでしょう。それじゃ何かありましたらまた呼んで下さい」
そう言うとヒーラーは帰っていった。
「まぁ良いんじゃないか? 理人を血祭りにあげるのは、暫くは様子見って事で」
「そうだよ、下手に仕掛けて玉砕より遙かに良いよ!それじゃ今日はこのままさぼっちゃいますか」
それまでは手をまわして城から出て行かせ―ねーようにしないとな。
「大樹に聖人、お前等サボりたいだけだろうが!まぁお前達居た方が退屈しねーから良いけどな!俺もあんな暑い中走りたくねーから気持ちは解る!それで塔子はどうするんだ?」
「そうですわね、私は苦しんでいる理人でも見てくるとしますか…無能ゆえに訓練についていけずに苦しそうにしている理人…考えただけでゾクゾクしますわね」
「うわぁ…塔子って虫とかの手足千切って遊んでいたりしそうだよね」
「聖人…私そんなのは幼稚園で卒業していますよ」
「あはははっそうなんだ!うん行ってらっしゃい」
普通にしていれば綺麗なお嬢様にしか見えねーのに…この性格。
塔子は俺以上に狂っているよな。
「塔子らしいな」
「ああっ塔子らしい」
「僕も大概性格悪いけど『S』という意味では塔子には負けるね」
そうか、直接手を下さなくても『無様な姿を見る』それもありだな。
理人の無様な姿を暫くは楽しむとするか。
◆◆◆
弱りましたね…王に伝えねばなりませんが、どう説明しましょうか…
報告すればきっと王や姫の機嫌を損ねてしまいます。
さっきは咄嗟に嘘を言いましたが…どう考えても、そんな事はあり得ません。
あの勇者大樹は不完全ながら『魅了』を使ったと王から聞きました。
その力を使って女性に不埒な真似をしたそうですが、それを聞いて王は凄く喜ばれていたようです
確かにやった事は酷い事かも知れませんが『こんなに早くに勇者の力が発動した』のですから王にとっては喜ばしい事でしょう。
確かに、その子には気の毒ですが勇者の為です。
女の犠牲の一つや二つ問題ありません。
それに『大魔道』なのですから同じパーティで行動させるのに好都合です。
『そのまま犠牲になって貰い、止めた無能にも犠牲になって貰う』それで良い。
王もそう考えていた筈です。
まぁ、貴重な『大魔道のジョブ持ち』ですが戦力として使えれば問題はありません。『勇者』が戦力として使い、他も自由にすれば良い。あくまで『勇者』優先です!それに価値のない『無能』は死んでも誰も困りません。
倫理が無い訳ではありません。
ですが、そこ迄『勇者』はこの世界に必要なのです!
此処で問題なのは勇者が『魅了』を使ったという事です。
勇者の覚醒が遅れる事はよくある事です。
ですが『魅了』を使えたと言う事は、既に勇者の力に目覚めたと言う事になります。
覚醒した状態の勇者が通常の走り込みにすら耐えられない等、過去にはありませんでした。
最悪、心臓疾患や病持ちの『欠陥勇者』の可能性すら考えないとならないかも知れません。
これで折角『機嫌が良かった王がまた不機嫌になりそう』ですね…
宰相殿の頭が剥げない様に祈るばかりです。
49
あなたにおすすめの小説
間違い召喚! 追い出されたけど上位互換スキルでらくらく生活
カムイイムカ(神威異夢華)
ファンタジー
僕は20歳独身、名は小日向 連(こひなた れん)うだつの上がらないダメ男だ
ひょんなことから異世界に召喚されてしまいました。
間違いで召喚された為にステータスは最初見えない状態だったけどネットのネタバレ防止のように背景をぼかせば見えるようになりました。
多分不具合だとおもう。
召喚した女と王様っぽいのは何も持っていないと言って僕をポイ捨て、なんて世界だ。それも元の世界には戻せないらしい、というか戻さないみたいだ。
そんな僕はこの世界で苦労すると思ったら大間違い、王シリーズのスキルでウハウハ、製作で人助け生活していきます
◇
四巻が販売されました!
今日から四巻の範囲がレンタルとなります
書籍化に伴い一部ウェブ版と違う箇所がございます
追加場面もあります
よろしくお願いします!
一応191話で終わりとなります
最後まで見ていただきありがとうございました
コミカライズもスタートしています
毎月最初の金曜日に更新です
お楽しみください!
ReBirth 上位世界から下位世界へ
小林誉
ファンタジー
ある日帰宅途中にマンホールに落ちた男。気がつくと見知らぬ部屋に居て、世界間のシステムを名乗る声に死を告げられる。そして『あなたが落ちたのは下位世界に繋がる穴です』と説明された。この世に現れる天才奇才の一部は、今のあなたと同様に上位世界から落ちてきた者達だと。下位世界に転生できる機会を得た男に、どのような世界や環境を希望するのか質問される。男が出した答えとは――
※この小説の主人公は聖人君子ではありません。正義の味方のつもりもありません。勝つためならどんな手でも使い、売られた喧嘩は買う人物です。他人より仲間を最優先し、面倒な事が嫌いです。これはそんな、少しずるい男の物語。
1~4巻発売中です。
いきなり異世界って理不尽だ!
みーか
ファンタジー
三田 陽菜25歳。会社に行こうと家を出たら、足元が消えて、気付けば異世界へ。
自称神様の作った機械のシステムエラーで地球には帰れない。地球の物は何でも魔力と交換できるようにしてもらい、異世界で居心地良く暮らしていきます!
神の加護を受けて異世界に
モンド
ファンタジー
親に言われるまま学校や塾に通い、卒業後は親の進める親族の会社に入り、上司や親の進める相手と見合いし、結婚。
その後馬車馬のように働き、特別好きな事をした覚えもないまま定年を迎えようとしている主人公、あとわずか数日の会社員生活でふと、何かに誘われるように会社を無断で休み、海の見える高台にある、神社に立ち寄った。
そこで野良犬に噛み殺されそうになっていた狐を助けたがその際、野良犬に喉笛を噛み切られその命を終えてしまうがその時、神社から不思議な光が放たれ新たな世界に生まれ変わる、そこでは自分の意思で何もかもしなければ生きてはいけない厳しい世界しかし、生きているという実感に震える主人公が、力強く生きるながら信仰と奇跡にに導かれて神に至る物語。
凡人がおまけ召喚されてしまった件
根鳥 泰造
ファンタジー
勇者召喚に巻き込まれて、異世界にきてしまった祐介。最初は勇者の様に大切に扱われていたが、ごく普通の才能しかないので、冷遇されるようになり、ついには王宮から追い出される。
仕方なく冒険者登録することにしたが、この世界では希少なヒーラー適正を持っていた。一年掛けて治癒魔法を習得し、治癒剣士となると、引く手あまたに。しかも、彼は『強欲』という大罪スキルを持っていて、倒した敵のスキルを自分のものにできるのだ。
それらのお蔭で、才能は凡人でも、数多のスキルで能力を補い、熟練度は飛びぬけ、高難度クエストも熟せる有名冒険者となる。そして、裏では気配消去や不可視化スキルを活かして、暗殺という裏の仕事も始めた。
異世界に来て八年後、その暗殺依頼で、召喚勇者の暗殺を受けたのだが、それは祐介を捕まえるための罠だった。祐介が暗殺者になっていると知った勇者が、改心させよう企てたもので、その後は勇者一行に加わり、魔王討伐の旅に同行することに。
最初は脅され渋々同行していた祐介も、勇者や仲間の思いをしり、どんどん勇者が好きになり、勇者から告白までされる。
だが、魔王を討伐を成し遂げるも、魔王戦で勇者は祐介を庇い、障害者になる。
祐介は、勇者の嘘で、病院を作り、医師の道を歩みだすのだった。
最強の異世界やりすぎ旅行記
萩場ぬし
ファンタジー
主人公こと小鳥遊 綾人(たかなし あやと)はある理由から毎日のように体を鍛えていた。
そんなある日、突然知らない真っ白な場所で目を覚ます。そこで綾人が目撃したものは幼い少年の容姿をした何か。そこで彼は告げられる。
「なんと! 君に異世界へ行く権利を与えようと思います!」
バトルあり!笑いあり!ハーレムもあり!?
最強が無双する異世界ファンタジー開幕!
日本列島、時震により転移す!
黄昏人
ファンタジー
2023年(現在)、日本列島が後に時震と呼ばれる現象により、500年以上の時を超え1492年(過去)の世界に転移した。移転したのは本州、四国、九州とその周辺の島々であり、現在の日本は過去の時代に飛ばされ、過去の日本は現在の世界に飛ばされた。飛ばされた現在の日本はその文明を支え、国民を食わせるためには早急に莫大な資源と食料が必要である。過去の日本は現在の世界を意識できないが、取り残された北海道と沖縄は国富の大部分を失い、戦国日本を抱え途方にくれる。人々は、政府は何を思いどうふるまうのか。
俺は善人にはなれない
気衒い
ファンタジー
とある過去を持つ青年が異世界へ。しかし、神様が転生させてくれた訳でも誰かが王城に召喚した訳でもない。気が付いたら、森の中にいたという状況だった。その後、青年は優秀なステータスと珍しい固有スキルを武器に異世界を渡り歩いていく。そして、道中で沢山の者と出会い、様々な経験をした青年の周りにはいつしか多くの仲間達が集っていた。これはそんな青年が異世界で誰も成し得なかった偉業を達成する物語。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる