【しっかり書き換え版】『異世界でたった1人の日本人』~ 異世界で日本の神の加護を持つたった1人の男~

石のやっさん

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第75話 【閑話】あるシスターの生涯

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私の名前はマドラ。

小さな教会でシスターをしています。

「あの…リンゴ一つ銅貨1枚(1000円)なんて酷すぎます!」

今日は、私の教会で保護している子供の誕生日です。

普段は買い物には来ないで、支援して頂いている物で生活しているのですが、今日くらいは美味しい物を食べさせてあげたくて買い物に来ました。

「なに言っているんだい! リンゴや芋1個、銅貨1枚は普通じゃ無いか?」

「そんな訳ありまん…あれっ!」

私は気が触れたのでしょうか?

周りのお店の商札全部が可笑しな事に高額なのです。

銅貨5枚じゃ…到底、教会の子達に何も買ってあげられません。

世の中が可笑しくなってしまったのでしょうか?

そのまま、トボトボと歩いて帰るしかありませんでした。

この状況でも大変なのに、更に追い打ちが掛ります。

「シスター、倉庫の食料がそろそろ無くなります」

「そんな、何故そんな事になっているのですか?」

「それが、最近信者の方からの寄進が減ってきています」

そう言われて見れば、教会に顔を出される方も此処暫く、急に減り最近では数人しか見かけなくなりました。

「何故、その様な事になっているのでしょうか?」

「それが、最近『テラス教』というのが巷に蔓延しておりまして…女神教から抜けて行く信者が増えています」

「離団する者が居るのですか? 邪教に惑わされる信者などいりません。イシュタス様は本当に存在し、教皇様は各国の王より上の存在、王ですら『破門』を恐れる。それが我が教団なのです。 もし、離団するなら、ただの離団ではなく『破門』にする。そう伝えなさい」

此の世界で一番怖いのは『破門』です。

王や貴族ですら…恐れるのですから、これで目を覚ましてくれる筈です。


◆◆◆

ですが…可笑しな事に一向に事態は良くなりません。

「誰も教会に来ないようですが、しっかりと伝えたのですか?」

「はい、あのシスター言いにくいのですが…皆さん破門で良いそうです」

「そんな…」

私はどうしたら良いのでしょうか?

私は我慢できますが、此処には沢山の孤児がいます。

「マドラ様…お腹すいたよー」

「パンも無いの…」

「何か食べたいよ」

今迄は私はただ祈るだけで良かった。

教会からも殆ど外出しないで生活が出来た…

それがとうとう、此処に誰も来なくなりました。

熱心な信者もいたのに。

誰も来ません。

居るのは…26人の孤児だけだ。

どうしましょう…

何か売るものはないかな…銀の食器にそうだ祭事に使う金のイシュタス様の像があった。

これなら、お金になる。

銀の食器は兎も角、女神様の像、これには手をつけたくありませんでした。

断腸の思いでそれらを手放す決意で出かけたのです。

ですが、お店に入った瞬間。

「すみません、イシュタス教の方の物は買い取り出来ません」

何を言われたのか解りませんでした…

この国は確かに他の宗教もあるけど…一番多いのは私達だ。

私達、しいては教皇様に逆らえば、王とて生きていけない。

そう言われています。

更に言うなら…勇者召喚はイシュタス様の力を借りないと出来ません。

此の世界を救い続けているのはイシュタス様なのです。

「この世界を救い続けていたのはイシュタス様です。その使徒たる私達から物が買えない…」

「はぁ~、あんたら邪教の使徒が何を言うんだ! 皆を救ってくれる神は唯一絶対神、テラス様だ、そして理人様こそが救世主だ」

「邪教に犯された存在『破門』です」

「上等、上等…あのな、潰れかけた店で借金生活していた俺を救ったのは勇者でも何でもない。テラス教団だ。特に理人様は死ぬ気で金を稼いで、そのお金を皆に配っているんだ。解かるか? 自分は贅沢しないで殆ど全部の金だぞ」

「そんな…」

「そんなじゃねーよ! 女神?あいつこそが諸悪の元じゃねーのか! お前の所の教皇は贅沢して宝石迄身に着けているよな?それなのに、俺らに何もくんねーじゃねーか!」

「私達は皆の心を救おうと頑張っていました!」

私達は献身的に人を救い生きて来たのです。

それがなんで此処迄言われなくちゃならないのです。

女神イシュタス様は他の居るかどうか解らない存在ではなく…

『本当に居て世界を救っている』のです。

「なぁ、ならシスターさんよ、お前娼婦か奴隷になってその金全部誰かにやればいいじゃん」

「何故そういう話になるのですか?」

「テラス教の方々が来るまで、この辺りの貧しい女は皆、体を売って生活していたよ。今の俺の嫁も娼婦だった時期がある。俺が病気の時に俺を助ける為に体を売っていたんだ。お前達が高いポーションを売りつけたからな」

「そんな事ありません。ポーションは材料費が高額で銀貨2枚は良心的です」

「俺の病気はその銀貨2枚のポーションが2日に1回必要だった。だがお前達は決して安く販売したりしない。だから俺の嫁はポーション欲しさに街角に立った。幼馴染で俺以外に体を許した事が無い嫁がだぞ!」

「確かにお気の毒だと思いますが、幾ら言われても私にはどうする事も出来ませんでした」

「ならば、俺を救おうと体を売った嫁はアンタより遙かにえれえーし、慈悲深いだろうが!」

「そんな体を売るなんて女神を信仰するシスターが出来る訳ない」

イシュタス様は処女神。子供を作る以外の性交を嫌う。

それに教会が娼婦なんか認められない。

「だから、あんたら本気で人を救う気があるのか? テラス教徒の幹部の一人は『元聖女様』だぜ。人を救う為に無料で治療しているぜ。最も塔子様に頼らなくてもテラス教の信者は余裕があるからポーション所かハイポーションだって普通に買えるんだ。なぁ、あんたどう思う! 教皇はよう、偉そうな事言うけど、だれも救わねーじゃねーか!テラス様の使徒とは大違いだな!」

ここ迄嫌われているの…

イシュタス様…私はどうすれば良いのですか?

子供達を飢えさせてはいけない。

だから、どうしたら助けて貰えるのか。

どうしたら買い取って貰えるのか。

頭を下げました。

そうしたら…『買取は出来ねー!俺はただの信者だが、一瞬でアンタらを救えるぜ! 子供も連れてきな!』

この店主はそう答えたのです。

藁にもすがるつもりでした。

最悪、奴隷として娼館に売られるのか? そう思いました。

だが、子供まで一緒の意味が解りませんでした。

一旦教会に戻り、再び此処へ子供を連れてきました。

店主が言うまま。子供を連れてついていきました。

『子供が救われるなら…それで良い』

そう自分に言い聞かせました。

ついて行った先にあったのは、はテラス教の教会? 神社と言う場所でした。

凄く綺麗な男の子が神社の中で祈りを捧げており、どうやらその方が教皇様みたいな地位の方の様です。

私は藁にもすがるつもりで走り、その方の傍にいきました。

「此処に来れば、助けて貰えるって聞きました。子供達を助けて下さい! 私はどうなっても構いません!」

「貴方はテラス様を信じますか? 邪教を捨てテラス様を信じるなら直ぐに救いますよ」

心の中に迷いはありました。

今迄の私は…止めよう。

子供たちを飢えさせる位なら悪魔にだって魂を売るわ。

「信じます、信じますから…救って下さい!」

「解りました…はい」

「金貨10枚、10枚も貸してくれるのですか? 有難うございます、これで飢えが凌げます。子供達が…えっ」

嘘でしょう。私だけでなく、理人様は子供一人一人に金貨10枚を渡しています。

何が起きているのでしょうか?

「違いますよ?これは貸すのではなく差し上げるのです。良いですか?確かに心を救うのは大切です。ですが飢えに苦しみ貧困にあえぐ者を救うのは『お金』や『食料』です。少なくとも私はそう考えます。」

確かにそうだわ。

際に今の私じゃ子供は救えない。

だからこそ、未来ではなく、今そこで苦しむ人たちを救うにはこの方法しか無い。

これなら、娼婦だろうがスラムの人間でも救える。

「ですが、お金を配る、そんな事に意味があるのですか?」

「富は皆で分け合う物です。教皇の杖一つ売り払えば、何千の人が救えるのでしょうか? 枢機卿が住む館や領地を売り払えば、きっと何万もの方が救われる筈です。俺は誰かが富を独占するのでなく、全ての人が救われる世界。それを作りたいのです」


私は一体何をしていたのでしょうか?

教会の為に集めたお金は本当に全部人を救う為に使われていたのでしょうか?

違う…この人の言う通りです。

誰もが知っています。

教皇が住む聖教国の大聖堂兼城で教皇は贅沢をしている。

煌びやかな聖騎士に囲まれ、美食を食べている。

人々が如何に苦しみ、飢えても教皇や上位神官は飢えない。

『騙されている』だれもが一度は疑問にもちます。

だが、それは言えない。

「私は邪教のシスターでした。ですが人々を救いたい、その気持ちは本当です。こんな私でもテラス様を信じるなら人を救えるのでしょうか?」

「貴方ならきっと救えますよ」

この時見た理人様は、教皇とは違い、本当に気高い存在に私には見えた。


◆◆◆

「皆…このムカつく女神像壊しちゃいましょうか?」

「「「「「「「「「「「「「「「「は~い」」」」」」」」」」」」」」」」

私は馬鹿でした。

こんな邪神の様な女を祀っていたなんて。

此奴は誰も救わない『イシュタス』『女神教』そんな者は人を救わない。

「此奴が悪いんだよね」

「そうよ!この馬鹿女が皆を苦しめていたのよ!だからやっつけちゃいましょう」

「はーい」

「泥団子ぶつけてやるーー」

「鋸で斬っちゃえーーっ」

皆で思い思い壊した後、最後は火にくべて燃やしました。

それから、3日後…テラス様の像が届きました。

それと同時に大量のお金も部屋に運び込まれてきました。

なんでも拝みに来た信者の方に銀貨5枚配るのだそうだ。

邪教のシスターだった私に、この新しい神社を理人様は任してくれるました。

今、私の本当の救済が始まる。

今迄とは全く違う…本当に私は人を救う事が出来るのだから。

「貴方はテラス様を信じますか~」

「貴方はテラス様を信じますか~」

子供達と共に頑張ります。

その後マドラは実に20にも及ぶ教会の責任者の説得に回り。

その全部を『テラス教の神社』に変えた。

68歳で亡くなるまでテラス様を信じイシュタスを呪い続けた彼女の葬儀には沢山の信者が見送りに来た。




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