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第85話 緑川さん 説得
しおりを挟むやはり緑川さんは上手くなじめていない気がする。
テラス教ではこれでも良い。
最低線教会に来て話を聞けば、お金が貰える。
だが、木崎君達のようにそれ以外にも仕事や生きがいを見出している人も居る。
緑川さんの奥さんたちは皆、しっかりと仕事をしだした。
アルカさんは、猟師に混じって狩をしているし、シルカさんは子供相手に学問を教えるのを手伝っている。
そしてイルカさんは教会の治療院を手伝っていた。
そんななか、緑川さんだけが何もしていない。
同郷のよしみだ…俺が少し気に掛けるしかないのかな。
「緑川さん、少し良いかな?」
「神代くん、何かようかい?」
この人は俺のクラスの担任だった。
割と熱血漢で、正義感が強かった筈なんだけどな…今はそれも見る影も無い。
何だか、まるで炊き出しに並ぶ浮浪者ように教会に来てお金を貰っていく。
これは、信者として最低限の義務は果たしている。
だが、此の場所に緑川さんには居て欲しくない。
「緑川さんはこの国やテラス教を見てどう思いますか?」
「私には解らないんだ…」
「それじゃ、少しお話ししましょう。あそこの子供やお母さん達を見てどう思いますか?」
「どうって…なんとも」
「あのお母さんね、元娼婦でした。あそこの子供はそれでもお金が無くてパンも真面に食べる事も出来なくて死に掛けた事もありました」
「何だって!」
「知っていますか?スラムの貧しい場所で立っている娼婦の値段、銅貨3枚、日本円にしたら3000円にもならないんですよ。それじゃ真面に生活なんて出来ませんよね」
「そこ迄酷いのかい」
「スラムでは普通に餓死する人間、体を売り続けた結果性病で死んでいく人間、子供を奴隷に売る人間、そんなのは日常茶飯事です」
「…」
「信じられませんか? 木崎君の連れている少女も元は盗賊です。 貧しかったからそれしか生きる方法が無かったんです。全部を女神や国のせいとは言いませんが、神なら権力者なら救えた筈です」
「本当にそう思うのかい?」
「はい、例えば王女や王の王冠です。あれを売れば100人単位の人間が5年間は生活が出来るでしょう…だけどしないじゃないですか? 緑川さんは教師だったんでしょう? 独裁者の居る国は住みやすい国かどうか解らない訳無いでしょう」
「独裁者?」
「王や、王女は異世界だから紛らわしいですが間違いなく独裁者でその周りの貴族はその利権を貪っている人達じゃないですか?」
「それは、此処の世界では仕方が無いのじゃないか?」
「では私達の国は、仕方ないで済まさないで頑張った結果、変わったのではないですか? 緑川さんが授業で選挙の大切さを俺に教えた筈ですよ」
「確かにな」
「俺は思うのです。結局は女神も国も救わない人が山ほど居る、ですがテラス教なら確実に救えている。敢えて、此処は先生と呼びますが、先生は、あのお母さんにテラス教は間違っているから、今から娼婦に戻れ。あの子達にもう一回食べ物に困る生活に戻れと言えますか?」
「そんな事言える訳ないだろう」
「それならば、どちらが正しいか緑川さんにも解る筈です。 それに考えて下さい。王女はペテン師です。」
「それは言い過ぎじゃないかね」
「あの王女は大きな嘘をついた。『元の世界に帰れる保証は今は出来ません。ですが宮廷魔術師に頼んで送還呪文も研究させる事も約束します』とね」
「それの何処が嘘なんだね」
「緑川さん、此の世界に来た地球人は我々が初めてではありません。過去に沢山居ます。彼だって同じ事を頼んでいたそうです。ですが未だにそれは見つかっていません」
「それはどう言う事だ」
「いまだに無理と言う事は、良い方で研究はしているが実現できない。悪い方だと研究すらしていない。そういう事だと思いますよ」
「あははははっ確かにそうだ、私はそんな事も見破れなかったのか?」
「それで緑川さん、今後どうしますか?」
「どうするかとは?」
「今必要なのは、教育や学問です。元教師なのですから、力を貸して貰えませんか?」
「私にも何か手伝えることがあるのかい」
「勿論です」
「そう言われては頑張るしかないね、うん力を貸すよ」
「それじゃお願いします」
これで大丈夫かな…
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