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第19話 目指すもの
しおりを挟む「それで、リヒトはどれ位の獲物を狩れるようになりたいの?」
別に俺は、英雄や勇者になりたい訳じゃない。
レイラと一緒にちょっと贅沢をして暮らせればそれで充分だ。
「そうだね、最終的にはオーガが狩れれば充分だよ!」
「へっ? 真面目に言っているの?普通、もっと上を目指すもんじゃ無いの?」
まぁ、確かに若者がいう事じゃ無い。
大人に混じって生活していたからか、俺は少し枯れているのかも知れない。
だが、ゼウスさんが言っていた。
『冒険者になって、幸せに暮らしているのは案外、C~Dに多いんだ!S級やA級になると義務が発生するから名誉はあるが危ない目に遭いやすい。人間B級になるとどうしても上を見たくなる…家族を持って、普通の幸せを目指すならC級で充分なんだよ』と。
確かに食堂や酒場で家族自慢するような冒険者は、そのランクの人間が多かった気がする。
俺が目指すのは、英雄でも勇者でもS級冒険者でもない。
『毎日を楽しく生きる』そういう冒険者だ。
「確かに夢が無いって言われそうだけど…俺はレイラと一緒に面白可笑しく生きられれば充分!冒険者としてオーガを狩れれば、1人前以上って言われているから…その位の実力でも良いと思っている」
冒険をする冒険者は死ぬ。
そう、ゼウスさんは言っていた。
尤も『それでも俺は天才だからS級だけどな』なとニカッと笑っていたけど…
「それは半分あってるけど、半分違うよ! 実力は出来るだけつけた方が良いよ! 但し、S級並みの実力をつけても、他人には見せず、C級で留まるのが、恐らく正解だと思う…」
確かにそうかも知れない。
冒険者をしていれば、自分の意図せぬ所で危ない目に遭う可能性はある。
確かにそうだ。
「うん、そうだね…」
「あのね、ゼウスに影響を随分受けているようだけど…彼奴の意見は可笑しい事もあるから、自分でも考えた方が良いよ」
「確かにそうだね」
「それじゃ、リヒトは初心者だから、今日は基本から行こうか?」
「一体何をすれば良いの?」
「本来は、走り込みからの体力作りだけど、リヒトは農作業しながらも、体を鍛えていたのを知っているから、それは免除…だから、そうだね! 私と殴り合いをしてみる? 手加減するから!」
「えーーっ!俺、レイラを殴ったり出来ないよ!」
「あのね…リヒトの攻撃が私に当たると思う?」
剛腕のレイラ…
駆け出し冒険者の俺の攻撃があたる訳無い。
「…思わない…だけど、奴隷紋があるからレイラは俺に攻撃できないんじゃないかな?」
「それなら大丈夫、奴隷紋って相手に対して、殺意を込めた時に発動するから、普通の組手や訓練位なら問題は無い筈だよ」
「そう? それなら、やってみようかな?」
「それじゃ、私は防御無しで躱すだけしかしないよ?攻撃してみなよ」
レイラは本当に手をブラブラさせて構えすらしない。
「それじゃ行くよ!」
確かに俺は冒険者として初心者も良い所だ。
だが、体だけは作ってきた。
少し…位は…
「どうした?どうした? かすりもしないねぇ」
「ハァハァゼイゼイ…なんで?」
「攻撃が単純すぎるのさ…もっと緩急をつけたり工夫しないとね」
「ハァハァ…そうか」
約1時間動きっぱなしで攻撃を仕掛けたが…
「ハァハァ…もう駄目だ」
全くかすりもしなかった。
「約1時間か、まぁ初日にしては頑張ったね、今日はこの位にして帰ろう…続きはまた明日…ほら…」
そう言うとレイラは俺に背を向けた。
恥ずかしいけど動けない俺は、そのままおぶさった。
「ごめん…」
「初めての組手で1時間も休まず動けた方が凄いよ、帰ったらマッサージしてあげるから、今日はゆっくりしよう」
「うん、レイラありがとう」
俺はレイラの背に揺られながら…静かに眠ってしまった。
◆◆◆
「あの…レイラ、今日はゆっくりするんじゃないの?」
「うん…だから『ゆっくりする』んじゃない?」
「え~と」
「ちょっとだけ頑張ろう…ね、新婚なんだし…」
「そうだね…」
レイラは…凄くタフだな…
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