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調子
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その日は何故だかベッドから出たくなくて、目が覚めてからも肩まで上掛けを自分の身を隠すようにしっかり掛けたままだった。それでもメイドにノックをされればそんなささやかな抵抗を止めてしっかり起きてしまう自分が恨めしい。
だが起きてからもささやかな抵抗は続いたままだった。いつもより明らかにゆっくりとした動きで着替え、緩慢な様子で食事をする。馬車に乗るまでの時間もただただ遅かった。そんないつもより様子の違うアレンシカにメメイド達も執事のディオールも戸惑い心配したが、何も言わずアレンシカを見送るしかなかった。
それは何故だ、なんてアレンシカには理由はとっくに知っていた。馬車の中でただ憂鬱に暗く今後のことを考える。いつもの凛とした雰囲気はなりを潜め、誰が見ても不安そうだ。きっとこのまま学園に入れば、友人達はものすごく心配してしまうだろう。だから早く調子を戻さなければ。そうは思っても心は落ち着かず不安になるばかり。こんな調子ではいけないのに。
馬車を開ける前にアレンシカは叱咤する為に自分で自分の全身を叩いた。
「おはようございます、アレン様。」
「おはよーございますー。」
いつも通りに友人たちが出てきてアレンシカは少しだけホッとした。少なくとも先程までのガチガチに固まった身ではない。にこやかに笑顔の二人が来てアレンシカは嬉しかった。
だがそれでも二人は気づいてしまう。
「アレン様どうかしましたか?!具合悪いですか?」
「んー?アレンシカ様も夜ふかしですか?私と一緒ですねー。」
「馬鹿、アンタと一緒にしないで!大丈夫ですか、教室に行かないで保健室に行きませんか!あ、でも今ならそのままご自宅に戻られたほうが……」
「大丈夫だよ、二人とも。ありがとう、全然平気だよ。」
何とか誤魔化しながらいつも通りにしても気づかないのは大多数だろう。二人にはいつもと歴然に違う目の前のアレンシカに戸惑っていた。
「でも、でも……!」
「じゃあ私はアレンシカ様の鞄持ってあげますねー。出来る従者なのでー。」
「出来る従者ならアレン様を保健室に連れてってよ!」
「出来る従者なのでアレンシカ様が行きたいとこに行きます。止めるのはダメなとこだけですー。」
「……ありがとうエイリ。でも本当に平気なんだよ。」
「…………それなら……。でも本当に駄目だったらボクにもたれ掛かってくださいね!すぐに保健室連れていきます!」
「ありがとう。」
二人が気にかけてくれる優しさに、ずっと冷えていた身に暖かさが灯った。
「テスト返しほど緊張することはないね。」
「エイリーク君緊張するんですか?」
「アンタはもっと緊張したほうがいい。」
学園に入ってからピリピリとした雰囲気。入学してから皆慣れてきたとはいえそれでも好き好む者はあまりいないだろう。
エイリークは受け取った結果をいつもと同じように静かに見た後で制服のポケットにしまう。
「ま、ボクは貴族のアンタと違って退学されちゃうからボクくらいの緊張感を持てと言われても無理なんだろうけどね。」
「エイリーク君はボクに認められた優秀な人なのでー、退学されないと思いますけどねー。」
「で、アンタはどうなの?」
「ボクですか?これ見ます?」
「どうせひっどいのは目に見えてるけど……丸増えてる‼」
ポイッと渡されたテスト用紙。バツが多いのは相変わらずであるが、以前より明らかに丸が増えている。もちろんエイリークと比べてしまうと雲泥の差ではあるのだが前回と比べれば進歩だ。
「私のゆーしゅーさがとうとうテスト結果にも現れたですね。よく出来ましたよテスト君。」
「ま、それもこれもアレンシカ様が隅から隅まで丁寧に教えてくれた結果でしょ!」
「ふふん。でもエイリーク君も教えてくれましたねー。ありがとうございますー。」
「……ふ、ふん!まあアレンシカ様の従者としてもっと精進しなよね!テスト結果が良くても順位は……全然駄目じゃん!」
「そうなんですよねー。前と同じで。何ででしょー?」
「そりゃ他の人も必死にやってるからでしょ?頭の出来はみんなプリムより上だろうし。」
「こういうのを不覚と言うのです。覚えました。」
「アンタはアレン様の従者なんだから、もっともっとアレン様に相応しくならないと!こんな順位じゃ全然駄目なんだから!ね、アレン様……あれ?アレン様は?」
エイリークが振り向くとそこには先程までいたアレンシカの姿がない。確かにそこで席に座ってテスト結果を見ていたのに。
「んもー、勝手にいなくなるなんて困ったご主人様ですー。」
「アンタが従者なんだから着いて行かなくちゃ駄目でしょ!学校だから安全だと思うけど……アレン様今日調子悪かったしどこに行ったか……。保健室かな……。ほら行くよ!」
エイリークがプリムの腕を引っ張って立ち上がらせた時、周りが先程より人が少ないことに気づいた。テスト結果で一喜一憂する生徒達が減り、騒々しいことには変わりないものの声は少ない。
「もうお昼ですしねー、みんな外の結果見てるのかも。」
「あ、そうじゃん。もうトップ十が貼ってあるじゃん。ほら行くよプリム。」
「えー。」
「保健室じゃなくてそっちにいるかも。アンタは載ってないから意味ないだろうけどね。」
少しだけ渋りつつも素直に着いていくプリムを認め腕から手を離したエイリークは、テスト順位の掲示場に揃って歩き出した。
だが起きてからもささやかな抵抗は続いたままだった。いつもより明らかにゆっくりとした動きで着替え、緩慢な様子で食事をする。馬車に乗るまでの時間もただただ遅かった。そんないつもより様子の違うアレンシカにメメイド達も執事のディオールも戸惑い心配したが、何も言わずアレンシカを見送るしかなかった。
それは何故だ、なんてアレンシカには理由はとっくに知っていた。馬車の中でただ憂鬱に暗く今後のことを考える。いつもの凛とした雰囲気はなりを潜め、誰が見ても不安そうだ。きっとこのまま学園に入れば、友人達はものすごく心配してしまうだろう。だから早く調子を戻さなければ。そうは思っても心は落ち着かず不安になるばかり。こんな調子ではいけないのに。
馬車を開ける前にアレンシカは叱咤する為に自分で自分の全身を叩いた。
「おはようございます、アレン様。」
「おはよーございますー。」
いつも通りに友人たちが出てきてアレンシカは少しだけホッとした。少なくとも先程までのガチガチに固まった身ではない。にこやかに笑顔の二人が来てアレンシカは嬉しかった。
だがそれでも二人は気づいてしまう。
「アレン様どうかしましたか?!具合悪いですか?」
「んー?アレンシカ様も夜ふかしですか?私と一緒ですねー。」
「馬鹿、アンタと一緒にしないで!大丈夫ですか、教室に行かないで保健室に行きませんか!あ、でも今ならそのままご自宅に戻られたほうが……」
「大丈夫だよ、二人とも。ありがとう、全然平気だよ。」
何とか誤魔化しながらいつも通りにしても気づかないのは大多数だろう。二人にはいつもと歴然に違う目の前のアレンシカに戸惑っていた。
「でも、でも……!」
「じゃあ私はアレンシカ様の鞄持ってあげますねー。出来る従者なのでー。」
「出来る従者ならアレン様を保健室に連れてってよ!」
「出来る従者なのでアレンシカ様が行きたいとこに行きます。止めるのはダメなとこだけですー。」
「……ありがとうエイリ。でも本当に平気なんだよ。」
「…………それなら……。でも本当に駄目だったらボクにもたれ掛かってくださいね!すぐに保健室連れていきます!」
「ありがとう。」
二人が気にかけてくれる優しさに、ずっと冷えていた身に暖かさが灯った。
「テスト返しほど緊張することはないね。」
「エイリーク君緊張するんですか?」
「アンタはもっと緊張したほうがいい。」
学園に入ってからピリピリとした雰囲気。入学してから皆慣れてきたとはいえそれでも好き好む者はあまりいないだろう。
エイリークは受け取った結果をいつもと同じように静かに見た後で制服のポケットにしまう。
「ま、ボクは貴族のアンタと違って退学されちゃうからボクくらいの緊張感を持てと言われても無理なんだろうけどね。」
「エイリーク君はボクに認められた優秀な人なのでー、退学されないと思いますけどねー。」
「で、アンタはどうなの?」
「ボクですか?これ見ます?」
「どうせひっどいのは目に見えてるけど……丸増えてる‼」
ポイッと渡されたテスト用紙。バツが多いのは相変わらずであるが、以前より明らかに丸が増えている。もちろんエイリークと比べてしまうと雲泥の差ではあるのだが前回と比べれば進歩だ。
「私のゆーしゅーさがとうとうテスト結果にも現れたですね。よく出来ましたよテスト君。」
「ま、それもこれもアレンシカ様が隅から隅まで丁寧に教えてくれた結果でしょ!」
「ふふん。でもエイリーク君も教えてくれましたねー。ありがとうございますー。」
「……ふ、ふん!まあアレンシカ様の従者としてもっと精進しなよね!テスト結果が良くても順位は……全然駄目じゃん!」
「そうなんですよねー。前と同じで。何ででしょー?」
「そりゃ他の人も必死にやってるからでしょ?頭の出来はみんなプリムより上だろうし。」
「こういうのを不覚と言うのです。覚えました。」
「アンタはアレン様の従者なんだから、もっともっとアレン様に相応しくならないと!こんな順位じゃ全然駄目なんだから!ね、アレン様……あれ?アレン様は?」
エイリークが振り向くとそこには先程までいたアレンシカの姿がない。確かにそこで席に座ってテスト結果を見ていたのに。
「んもー、勝手にいなくなるなんて困ったご主人様ですー。」
「アンタが従者なんだから着いて行かなくちゃ駄目でしょ!学校だから安全だと思うけど……アレン様今日調子悪かったしどこに行ったか……。保健室かな……。ほら行くよ!」
エイリークがプリムの腕を引っ張って立ち上がらせた時、周りが先程より人が少ないことに気づいた。テスト結果で一喜一憂する生徒達が減り、騒々しいことには変わりないものの声は少ない。
「もうお昼ですしねー、みんな外の結果見てるのかも。」
「あ、そうじゃん。もうトップ十が貼ってあるじゃん。ほら行くよプリム。」
「えー。」
「保健室じゃなくてそっちにいるかも。アンタは載ってないから意味ないだろうけどね。」
少しだけ渋りつつも素直に着いていくプリムを認め腕から手を離したエイリークは、テスト順位の掲示場に揃って歩き出した。
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