天啓によると殿下の婚約者ではなくなります

ふゆきまゆ

文字の大きさ
55 / 138

崩れる

しおりを挟む
あの後どうしたのかは覚えていない。
気がついたら大切な友人二人が側にいてふかふかのソファに膝にもふかふかのクッション、肩にはブランケットを掛けられて温かいミルクティーを持って座っていた。
顔を上げるとさっきまでの光景は当然ない。

「あ、気づいたですか?」

目が合うといつも通りの様子のプリムがいた。すぐ隣りには対象的に酷く心配した顔をしたエイリーク。

「すみません……ボクたちが来るのが遅くなったから連れ出すのが遅くなってしまって……。最初は保健室に連れて行こうと思ったんですけど、あそこはまだ校舎なので他の人の目につくと思って、ここは寮の談話室なんです。今の時間なら誰もいないので……。」

「ずっとぼんやりしてて、私たちが何を言っても反応なかったですからー。やっと戻ってこれましたね。」

エイリークはアレンシカのすぐ側に跪きそっとアレンシカの顔を仰ぎ見ている。

「おうちに連絡しましたから、お迎えが来たら帰りましょー。それまでここでお休みですー。荷物も取ってきましたからー。」

すぐ近くの椅子の上にはアレンシカの荷物が乗っていた。

「……ありがとう。」

「ここでのんびりしてましょー。クッキーもありますよ。チョコとーアーモンドとーオレンジピール。」

差し出された皿の上に綺麗に並んだクッキー。一つを手に取り食べてみる。

「……美味しいね。」

「一昨日買ってきたんですけどー、美味しいですよね。」

アレンシカが一つ食べるとプリムは二つ食べた。香ばしい味がアレンシカの心を落ち着かせていく。

「お茶、おかわりありますからいつでも注ぎますね。」

「ありがとう、まだ大丈夫。」

ただここで静かに座って、迎えが来るまで二人の会話を聞いたりぼんやりとしていた。

「ところで、二人はここにいて大丈夫なの?」

「今日はテストの返却だけでしたし、クラブも休んだので。プリムはあれです、従者特権。」

「アレンシカ様がお休みするって言ったらいいよーって言われました。」

「そうなんだ……。」

それからアレンシカはまたしばらくぼんやりしていたがポツリと言った。

「僕、二人を巻き込んじゃったね。」

「……アレン様。」

「せっかくの二人の時間を、クラブ活動だって成績に影響するし……二人ともクラブ入ってからも色々頑張ってたのに……同じことしちゃってる。」

それはここ最近に自分に起きている出来事と同じことを言っているのだと二人には分かった。プリムはアレンシカの侍従としてリリーベル家に起きていることは聞かされているし、エイリークは最近たまに怒っているプリムから不敬ギリギリの王家の愚痴を聞かされる時があった。

「違う、……違いますよアレン様。ボクがここにいたくているんです。……大事な友達だから。悲しい時にはそばにいたいんです。」

アレンシカに何が起きたのか、寮に送った後で手続きの時に周りに聞いてきたので話を繋ぎ合わせて察することができた。でもここまでのことが起きていたなんて知らなかった。アレンシカはけして弱音を言う人ではないからというのも理由ではあるが、それでも側にいたのにここまで酷い状態になっているなんて知らないことが悔しかった。

「今二人の時間を奪って、家にも迷惑をかけて、殿下にも……恥をかかせて、本当に……本当に、僕は最低だ。」

「違います。そんなことは絶対に絶対にないんです。」

「アレンシカ様がお出かけしてたのはー、無理に連れてかれてたからでしょー?それってお仕事ですよねー?」

「……それでも絶対に頑張らなくてはいけないのに、それなのに、あんな……。」

落ち着いたはずのアレンシカの心が再びざわめいていく。身体が震え泣きたくないのに涙が次から次へと溢れ出てくる。止めようにもどうにもならず目を抑えても隙間から流れ出ていく。

「僕は、僕が、家にも殿下にも迷惑をかけて、」

プリムが肩を抱きしめエイリークが手を握った。それでも涙は止まらない。

「どうすればいいの?僕はどこまで、何をすれば、頑張れば、もっと努力が、でも、何をしても、」

「アレンシカ様。」

「僕は、もう……何も出来ない。」

泣き崩れるアレンシカに、二人はただ静かに寄り添い肩をなで擦ることしか出来なかった。
しおりを挟む
感想 75

あなたにおすすめの小説

婚約破棄を望みます

みけねこ
BL
幼い頃出会った彼の『婚約者』には姉上がなるはずだったのに。もう諸々と隠せません。

腐男子ですが何か?

みーやん
BL
俺は田中玲央。何処にでもいる一般人。 ただ少し趣味が特殊で男と男がイチャコラしているのをみるのが大好きだってこと以外はね。 そんな俺は中学一年生の頃から密かに企んでいた計画がある。青藍学園。そう全寮制男子校へ入学することだ。しかし定番ながら学費がバカみたい高額だ。そこで特待生を狙うべく勉強に励んだ。 幸いにも俺にはすこぶる頭のいい姉がいたため、中学一年生からの成績は常にトップ。そのまま三年間走り切ったのだ。 そしてついに高校入試の試験。 見事特待生と首席をもぎとったのだ。 「さぁ!ここからが俺の人生の始まりだ! って。え? 首席って…めっちゃ目立つくねぇ?! やっちまったぁ!!」 この作品はごく普通の顔をした一般人に思えた田中玲央が実は隠れ美少年だということを知らずに腐男子を隠しながら学園生活を送る物語である。

夫には好きな相手がいるようです。愛されない僕は針と糸で未来を縫い直します。

伊織
BL
裕福な呉服屋の三男・桐生千尋(きりゅう ちひろ)は、行商人の家の次男・相馬誠一(そうま せいいち)と結婚した。 子どもの頃に憧れていた相手との結婚だったけれど、誠一はほとんど笑わず、冷たい態度ばかり。 ある日、千尋は誠一宛てに届いた女性からの恋文を見つけてしまう。 ――自分はただ、家からの援助目当てで選ばれただけなのか? 失望と涙の中で、千尋は気づく。 「誠一に頼らず、自分の力で生きてみたい」 針と糸を手に、幼い頃から得意だった裁縫を活かして、少しずつ自分の居場所を築き始める。 やがて町の人々に必要とされ、笑顔を取り戻していく千尋。 そんな千尋を見て、誠一の心もまた揺れ始めて――。 涙から始まる、すれ違い夫婦の再生と恋の物語。 ※本作は明治時代初期~中期をイメージしていますが、BL作品としての物語性を重視し、史実とは異なる設定や表現があります。 ※誤字脱字などお気づきの点があるかもしれませんが、温かい目で読んでいただければ嬉しいです。

生まれ変わりは嫌われ者

青ムギ
BL
無数の矢が俺の体に突き刺さる。 「ケイラ…っ!!」 王子(グレン)の悲痛な声に胸が痛む。口から大量の血が噴きその場に倒れ込む。意識が朦朧とする中、王子に最後の別れを告げる。 「グレン……。愛してる。」 「あぁ。俺も愛してるケイラ。」 壊れ物を大切に包み込むような動作のキス。 ━━━━━━━━━━━━━━━ あの時のグレン王子はとても優しく、名前を持たなかった俺にかっこいい名前をつけてくれた。いっぱい話しをしてくれた。一緒に寝たりもした。 なのにー、 運命というのは時に残酷なものだ。 俺は王子を……グレンを愛しているのに、貴方は俺を嫌い他の人を見ている。 一途に慕い続けてきたこの気持ちは諦めきれない。 ★表紙のイラストは、Picrew様の[見上げる男子]ぐんま様からお借りしました。ありがとうございます!

【完結済】あの日、王子の隣を去った俺は、いまもあなたを想っている

キノア9g
BL
かつて、誰よりも大切だった人と別れた――それが、すべての始まりだった。 今はただ、冒険者として任務をこなす日々。けれどある日、思いがけず「彼」と再び顔を合わせることになる。 魔法と剣が支配するリオセルト大陸。 平和を取り戻しつつあるこの世界で、心に火種を抱えたふたりが、交差する。 過去を捨てたはずの男と、捨てきれなかった男。 すれ違った時間の中に、まだ消えていない想いがある。 ――これは、「終わったはずの恋」に、もう一度立ち向かう物語。 切なくも温かい、“再会”から始まるファンタジーBL。 全8話 お題『復縁/元恋人と3年後に再会/主人公は冒険者/身を引いた形』設定担当AI /c

【完結】第三王子、ただいま輸送中。理由は多分、大臣です

ナポ
BL
ラクス王子、目覚めたら馬車の中。 理由は不明、手紙一通とパン一個。 どうやら「王宮の空気を乱したため、左遷」だそうです。 そんな理由でいいのか!? でもなぜか辺境での暮らしが思いのほか快適! 自由だし、食事は美味しいし、うるさい兄たちもいない! ……と思いきや、襲撃事件に巻き込まれたり、何かの教祖にされたり、ドタバタと騒がしい!!

『君を幸せにする』と毎日プロポーズしてくるチート宮廷魔術師に、飽きられるためにOKしたら、なぜか溺愛が止まらない。

春凪アラシ
BL
「君を一生幸せにする」――その言葉が、これほど厄介だなんて思わなかった。 チート宮廷魔術師×うさぎ獣人の道具屋。
毎朝押しかけてプロポーズしてくる天才宮廷魔術師・シグに、うんざりしながらも返事をしてしまったうさぎ獣人の道具屋である俺・トア。 
でもこれは恋人になるためじゃない、“一目惚れの幻想を崩し、幻滅させて諦めさせる作戦”のはずだった。 ……なのに、なんでコイツ、飽きることなく俺の元に来るんだよ? 
“うさぎ獣人らしくない俺”に、どうしてそんな真っ直ぐな目を向けるんだ――? 見た目も性格も不釣り合いなふたりが織りなす、ちょっと不器用な異種族BL。 同じ世界観の「「世界一美しい僕が、初恋の一目惚れ軍人に振られました」僕の辞書に諦めはないので全力で振り向かせます」を投稿してます!トアも出てくるので良かったらご覧ください✨

ある日、木から落ちたらしい。どういう状況だったのだろうか。

水鳴諒
BL
 目を覚ますとズキリと頭部が痛んだ俺は、自分が記憶喪失だと気づいた。そして風紀委員長に面倒を見てもらうことになった。(風紀委員長攻めです)

処理中です...