天啓によると殿下の婚約者ではなくなります

ふゆきまゆ

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出発

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突然やって来て目の前の本人を無理やり起こすやいなやそんなことを言うプリムに当然ながら驚いた。

「こんな朝早くに、どうしたの?!そもそもなんでここに⁉」

「外に出る許可はもちろん貰ってますー。従者なのでー。」

「いやでもまだ外暗いよ?!それにここはリリーベルの家で!」

「ああーアレンシカ様がいないーどうしようー探さなきゃー探さなきゃー。」

アレンシカはまさに今目の前にいるのにプリムの言っていることはおかしい。その割には大して驚いても慌ててもいないいつも通りの様子だった。

「きっとアレンシカ様はもう何もかも嫌になって出ていったに決まってますー、外はこんなに暗いのにー。」

「いや、あのね、プリム、その」

「ああー上着もないー。きっと暖かい上着で外に行ったんだー。」

「いや、今コートを着せているのはプリムで……。」

「ああー荷物もないー。あれもこれもないー。大きな鞄もないですー。」

「あの、いつの間に僕の荷物が……?」

着の身着のまま外出用の上着を着せられて大きな鞄を持ったプリムに手を引かれて部屋から出る。まだ朝日も登っていないので廊下は静まりかえり誰もいなかった。

「プリム様。」

「あーディオールさんー、どうしましょアレンシカ様いませんよねー?」

「ディオール丁度いいところに、あの、何がなんだから分からなくてプリムを止めてくれるとありがたいんだけど……。」

タイミング良く廊下を歩いてやって来た筆頭執事のディオールに慌てて助けを求める。しかし何が何だか分からない様子を見ても眉ひとつ動かさず平静なディオールからまさかの言葉が返ってきた。

「ええ、確かにアレンシカ様がいませんね。」

「え⁉」

プリムに同意したディオールはプリムの持っていたアレンシカの荷物を持つ。

「プリム様、荷馬車の様子をお願いします。アレンシカ様はきっと荷馬車で出て行かれましたから。」

「はーい。」

パタパタと楽しげな様子で駆けていくプリム。まだ暗い時間なのを気を遣ってかいつもより足音は静かだか軽やかだ。

「ディオール、それでこれはどういう……?」

プリムがいなくなってやっとまともに話しが聞けそうなディオールに聞いてみてもただ黙って首を横にふるばかり。
ただどうやらアレンシカは今からどこかに行かなければいけないということしか分からない。信頼しているプリムやディオールが関わっているので悪いことにはならないことは分かっていても、何も聞かされていない以上心配しかない。
そのままディオールに誘導される形で使用人がよく使う裏口から外に連れ出された。外はまだ真っ暗で人の様子もいない。ただ少しだけ離れたところに荷馬車が鎮座していた。日用品や食材を運ぶ為のものなので屋根はあるが簡素な作りだ。

「アレンシカ様はーこの荷馬車で出ていってしまったんですねー。」

いつの間にかまた側にいたプリムがのんきに言った。話の内容はのんきではないが。

「準備は出来ましたかプリム様。」

「出来ましたよししょー。もうバッチリ快適な馬車ですねえ。」

「あの、本当に何も分からないから説明してほしいんだけど……。」

二人は声を落としながらも楽しげだがアレンシカは置いてけぼりで何を聞いても有効な返事が返ってこない。

「どうすればいいんだろ……。」

「アレンシカ。」

「お父様!」

疎外感と混乱でどうしたらいいか分からない中裏口から父親が出てきた。頼りの執事も向こう側の中やっとまともに話が出来そうな人が来てホッとする。

「お父様、これはいったいどういうことなんですか?」

「……アレンシカ、よく聞いてくれ。これからアレンシカはある場所に行きなさい。」

「ある場所とは?」

「それは、万が一の為に言わないほうがいい。だが行き先は安全な場所だ。安心していい。」

リリーベル当主が関わっているということは責任を持った上での行いではある。ただ父に聞いても明確な答えは得られない不安はあった。

「でも何も分からないままなのは……。」

「分かっている。しかしこんなことしか出来ない父親を許してくれ。」

「許すも何も、分からないことだらけなんですが……。」

「大丈夫。これでも当主だからね。せっかくだから羽根を伸ばしてきなさい。」 

「そうは言ってもまだ学園が…それに夏休みの間は……。」

「それも心配しなくていい。」

「でも……。」

「さあ行きなさい。」

アレンシカは父に手を引かれて荷馬車に乗る。

「よろしいですか。」

「はい大丈夫です。アレンシカをよろしくお願いします。」

静かに佇んで待っていた御者に父が挨拶をした。今までいたのか分からないほどに静かな佇まいのその人はいかにも質素な服を着ているが、とても普段から物資を運ぶ為の質素な荷馬車を運転している人にはそぐわぬ凛とした静かさだった。

「出来る限り奥にいなさい。身体に気をつけるんだぞ。」

「いってらっしゃーい、じゃなかったアレンシカ様どこー。」 

「お気をつけて。」

最後にアレンシカを見て三者三様に見送る。父は最後にアレンシカの顔をよく見てから静かに扉を閉めた。それを確認した御者が御者台に座ると荷馬車はゆっくり走り出す。

三人に揃って見送られたアレンシカは混乱したままリリーベル公爵家を離れていくことになった。
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