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苗
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お金を預かってもらってからは気兼ねなくのびのびと町を楽しめるようになった。先程までは懐にお金が入っていることもあって自分でも身体が上手く動かずオドオドしているような気がしていたが、今は違いしっかり堂々と歩けている実感がある。もしかしたらそういった態度も見られていたかもしれない。財布を預かっているメイメイを見ても自分より堂々としていたから預けて良かったと思う。
「目的は果たしてしまいましたが、まだ楽しまれてはいかがでしょう。」
「そうですね……。うん、せっかくなら。」
荷馬車にいた時も含めれば閉じこもっていた時は長かった。町にも興味があるし、せっかくならもう少し楽しみたい。
「メイメイとジュスティは町に来たことはある?」
「はい。私もジュスティもエレシュカ様が来る前に領を学び、土地勘を養う為にも何度か町にも来ています。」
のんびりした町でも悪いことを考える人は少なからずいる。それにもし追手が来ても素早く対処が出来るように念には念の為に領内の土地を学んだでいたらしい。
「僕の為に……ありがとう。」
「いいえ、私共もエレシュカ様と共に町に来ることを楽しみにしておりました。だからとても楽しく学んでいましたよ。」
メイメイは優しく笑ってアレンシカを見て言った。
「それに紹介したい場所もあるんです。エレシュカ様に楽しんでいただきたくて。」
「ありがとう……メイメイ。それじゃあメイメイに案内をしてもらいますね。」
「俺もいますけどね。」
「ジュスティの一番好きなところは酒場でしょ。」
「はあー?!」
メイメイとジュスティのそんな何気ないやり取りを見てアレンシカは久しぶりに楽しくて笑った気がした。
「ここは種苗店です。」
「王都とは違ってやっぱり食べ物の種苗が多いですね。」
「エレシュカ様は植物がお好きと聞きましたのでもしご興味があればと思いこちらにもお連れいたしましたがいかがでしょう。」
「園芸クラブではお茶用のハーブや防虫薬にする為の薬草くらいしか作れなかったけど、こういった植物ももちろん好きだよ。それに王国民を支える大切な植物。嫌いな人はいないです。」
「良かったです。」
「王都との違いを楽しめるのもまた現地に行く醍醐味ですね。」
生えかけの種芋、小さくて模様のある種、まだ細い芽の苗、色々な種苗が店に並んでいる。王都にある園芸用の花屋とは全然違う。レイシーラ飛び地領は王国でも端の方。王都から随分遠くに来ているのだと実感する。
(ライトン伯爵はお父様とも何度も会っているし、ここにいる苗たちが植わって立派に実になる畑も何度も見ているんだろうなあ……。)
父とは違いあまり家から出ないアレンシカは父がどういう思いで遠出の仕事をしているのかほんの少しだけ分かったような気がした。実際にはもっと大変なことが山ほどあるし、アレンシカには少しも見せていないがきっと身の危険が迫ったことも一度や二度ではないだろう。でも父は息子の目から見ても仕事が好きなことが分かる。それ以上の楽しみを見出しているのかもしれない。ここに来る前に見た畑の緑はまだまだ小さかったけど、この苗たちが立派に育った畑の前で楽しそうに仕事をしている姿が目に浮かんだ。
ただでさえ帰って来る日がまちまちなのに、こんなことになっては次にいつ会えるか本当にもう分からなくなってしまった父を思う。
(お父様……こんなことになってしまって、大丈夫だろうか……。)
父親のことを考えていたら寂しくなってしまった。あんなに大掛かりにひっそりとアレンシカを逃しても、夜も開けてもうとっくに自分が公爵家にいないことが明らかになっているはずだ。王家も関わる用事をふいにしてしまった自分を逃した父はどうなってしまうのだろう。公爵家は大丈夫だろうか。ディオールは、プリムは。
レイシーラに来てから情報を知ってからずっとアレンシカは沈んでしまう気持ちを持ち直したりまた沈んだりを繰り返している。
「なーおっちゃん!この種類じゃなくて、丸いやつ!丸いやつの種芋ないの?!」
「それ以外今はないよ。こっちのゴツゴツの方はあるんだからそっちにしなさい。」
「えー、丸い方が子ども達がよく食べるんだよ!久しぶりに帰ってきた息子も丸い方が好きなのに!頼むよー!」
「どうせ植えて半年しないと食えないんだ。一週間したら入るからまた来な!」
「ちぇー、じゃあこっちは!紫キャロットの種!」
アレンシカの後ろでは他の客と店主が何やら話している。あまり大きくない店に大きな声が響く為、その会話が何だか気になってつい一度チラリと声の方を見てしまう。アレンシカの沈みそうな気持ちを吹き飛ばすようなカラッとした声だった。
「エレシュカ様、そろそろ出ましょうか。」
「あ、そうですね。」
苗や種はさすがに持ち帰れないのであまりいては冷やかしに見えてしまうかもしれない。興味はあるが今は別の意味で手を出せない品物だ。アレンシカは手に持っていた苗を元の場所に並べて、メイメイに促されるまま外に出ようとした。
「あっ!」
「目的は果たしてしまいましたが、まだ楽しまれてはいかがでしょう。」
「そうですね……。うん、せっかくなら。」
荷馬車にいた時も含めれば閉じこもっていた時は長かった。町にも興味があるし、せっかくならもう少し楽しみたい。
「メイメイとジュスティは町に来たことはある?」
「はい。私もジュスティもエレシュカ様が来る前に領を学び、土地勘を養う為にも何度か町にも来ています。」
のんびりした町でも悪いことを考える人は少なからずいる。それにもし追手が来ても素早く対処が出来るように念には念の為に領内の土地を学んだでいたらしい。
「僕の為に……ありがとう。」
「いいえ、私共もエレシュカ様と共に町に来ることを楽しみにしておりました。だからとても楽しく学んでいましたよ。」
メイメイは優しく笑ってアレンシカを見て言った。
「それに紹介したい場所もあるんです。エレシュカ様に楽しんでいただきたくて。」
「ありがとう……メイメイ。それじゃあメイメイに案内をしてもらいますね。」
「俺もいますけどね。」
「ジュスティの一番好きなところは酒場でしょ。」
「はあー?!」
メイメイとジュスティのそんな何気ないやり取りを見てアレンシカは久しぶりに楽しくて笑った気がした。
「ここは種苗店です。」
「王都とは違ってやっぱり食べ物の種苗が多いですね。」
「エレシュカ様は植物がお好きと聞きましたのでもしご興味があればと思いこちらにもお連れいたしましたがいかがでしょう。」
「園芸クラブではお茶用のハーブや防虫薬にする為の薬草くらいしか作れなかったけど、こういった植物ももちろん好きだよ。それに王国民を支える大切な植物。嫌いな人はいないです。」
「良かったです。」
「王都との違いを楽しめるのもまた現地に行く醍醐味ですね。」
生えかけの種芋、小さくて模様のある種、まだ細い芽の苗、色々な種苗が店に並んでいる。王都にある園芸用の花屋とは全然違う。レイシーラ飛び地領は王国でも端の方。王都から随分遠くに来ているのだと実感する。
(ライトン伯爵はお父様とも何度も会っているし、ここにいる苗たちが植わって立派に実になる畑も何度も見ているんだろうなあ……。)
父とは違いあまり家から出ないアレンシカは父がどういう思いで遠出の仕事をしているのかほんの少しだけ分かったような気がした。実際にはもっと大変なことが山ほどあるし、アレンシカには少しも見せていないがきっと身の危険が迫ったことも一度や二度ではないだろう。でも父は息子の目から見ても仕事が好きなことが分かる。それ以上の楽しみを見出しているのかもしれない。ここに来る前に見た畑の緑はまだまだ小さかったけど、この苗たちが立派に育った畑の前で楽しそうに仕事をしている姿が目に浮かんだ。
ただでさえ帰って来る日がまちまちなのに、こんなことになっては次にいつ会えるか本当にもう分からなくなってしまった父を思う。
(お父様……こんなことになってしまって、大丈夫だろうか……。)
父親のことを考えていたら寂しくなってしまった。あんなに大掛かりにひっそりとアレンシカを逃しても、夜も開けてもうとっくに自分が公爵家にいないことが明らかになっているはずだ。王家も関わる用事をふいにしてしまった自分を逃した父はどうなってしまうのだろう。公爵家は大丈夫だろうか。ディオールは、プリムは。
レイシーラに来てから情報を知ってからずっとアレンシカは沈んでしまう気持ちを持ち直したりまた沈んだりを繰り返している。
「なーおっちゃん!この種類じゃなくて、丸いやつ!丸いやつの種芋ないの?!」
「それ以外今はないよ。こっちのゴツゴツの方はあるんだからそっちにしなさい。」
「えー、丸い方が子ども達がよく食べるんだよ!久しぶりに帰ってきた息子も丸い方が好きなのに!頼むよー!」
「どうせ植えて半年しないと食えないんだ。一週間したら入るからまた来な!」
「ちぇー、じゃあこっちは!紫キャロットの種!」
アレンシカの後ろでは他の客と店主が何やら話している。あまり大きくない店に大きな声が響く為、その会話が何だか気になってつい一度チラリと声の方を見てしまう。アレンシカの沈みそうな気持ちを吹き飛ばすようなカラッとした声だった。
「エレシュカ様、そろそろ出ましょうか。」
「あ、そうですね。」
苗や種はさすがに持ち帰れないのであまりいては冷やかしに見えてしまうかもしれない。興味はあるが今は別の意味で手を出せない品物だ。アレンシカは手に持っていた苗を元の場所に並べて、メイメイに促されるまま外に出ようとした。
「あっ!」
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