82 / 138
そばにいたい
しおりを挟む
出来ることならもっとアレンシカに近づきたかった。
アレンシカはいつもウィンノルを見ては悲しそうにしているのを誰にも悟らせないよう気丈に振る舞っている。
その心を気休めでもいいから少しでも晴れさせたかった。
しかし王立学園の勉強は一介の地方領の学校レベルで学んだ人間にはとてつもなく難しく、また貴族特有の学問は平民には分からないことだらけだったので、一緒のクラブに入って一緒に楽しむ夢はまだ諦めなくてはならなかった。
ウィンノルはクラブに入っていないのでアレンシカが傷つくことは少なかったが、それでも学園の庭園は見事なのでダシにして他の人とデートをしている姿が何回も見られ、その度にアレンシカは傷ついていた。早く入部してもっとガードしたくても、それでも勉強がそれを許してくれない。
今まで優秀だと言われ続けていてもそれが本当にただの驕りだったのだと知るのはすぐだった。
今までテスト前に勉強なんてしたこともなかったが、空いた時間のすべてを勉強に費やしてなんとか結果が実を結んだ。
それでも横でひどく顔を青褪めているアレンシカが気になった。
(何それ何それ何それ!)
エイリークは知らなかった。アレンシカがどれだけウィンノルに責められているか。まさかそれで傷つけているなんて。
「アレンシカは全然俺のレベルになっていないんだ。」
「えー、嘘お。ウィンノル様可哀想ー。」
「自分は王子だから、優秀な者が婚約者でないと俺の責任になってしまうのに。」
「確かにぃ、二位だったのって平民でしたよねぇ。平民にも負けてる婚約者なんてウィンノル様にふさわしくなーい。」
アレンシカのクラブが終わるまで教室で勉強しているとそんな声が聞こえた。忌々しいあの声だ。
窓から覗いて見ればあの王子が他の学生とベタベタとくっついて笑いあって話しているがその話は不快そのものだった。
(あのくっついてる相手!お前なんて下から数えたほうが早いだろーが!そうやってくっついてるけどお前がアレンシカ様より上だとでも思ってるのか!)
怒鳴りつけたかったが平民ひとりでは王族に立ち向かえない。
(お前だって自分の婚約者が悪く言われたら怒るもんだろ!一緒になって悪く言うんじゃねー!)
いつの間にか手のひらを強く握っていたせいか爪が刺さって血が出ている。
(お前のほうがアレンシカ様にふさわしくない!)
エイリークは急いでアレンシカの元へ走った。
アレンシカは花壇の前でぼんやりとしていた。それは悲しげでやってはいけないことをやってしまった時のような、取り返しのつかないことをやってしまった時のような表情だった。
何もなければそんな顔はしない。
(アイツが何か言ったんだ!)
それは確信だった。
(もしあいつがアレンシカ様を大切にしないなら、オレが大切にしたい。)
もうその時にはすでにエイリークはそう思っていた。
どうしてアレンシカのことをここまで考えているのか。
アレンシカをウィンノルから引き離したいのか。
アレンシカが傷つく姿が見たくないのか。
もうこの時にはとっくに気づいていた。
(アレンシカ様が好き。)
それでも平民が貴族の人間に想いを寄せたところで叶う訳がないことは百も承知だった。
現にアレンシカには肩書きだけは立派な婚約者がいるし、平民が隣りにいたところで誰も噂にしない。友人とすら思っていなかった人間も周りにはいた。そういう人たちにはせいぜい腰巾着くらいにしか見えなかっただろうありえないという考えは共通認識だった。
もちろんアレンシカの否になるようなことはしない。けして友人としての域が出ないように人付き合いをしたし、二人で密室に行くことは必ずしなかった。
公爵家にご厚意で遊びに行った時だって皆友人の学園生ということで優しかったが、必ず使用人の誰かが見ていたし訪問者への部屋は公爵家の方々の部屋とは遠く離れていた。万が一がないように配慮だろうが、それは公爵家の方々は自分には手が届かないことが改めて分かったことだった。
王家は雲の上の存在だが、公爵家だって平民にとって雲の上の存在。だから誰にも言えない想い。
だからせめて友人としてそばにいよう。
想いが遂げられないならせめてアレンシカが許す限り友人として。
たとえその友人関係が学園にいる間でしかいられないものだったとしても、遠くの端っこでアレンシカの幸せを願っていつか学園時代を思い出す時に「なんか平民の友達がいたな」とたまに思い出してくれるだけでいい。そう思っていたのに。
不相応にも恋したが、住む世界の違いに弱気になってそれでも一度は諦めかけてしまっていたが。
「……どうせ反抗するのなら限界までやってやる。」
エイリークは一言だけの手紙をまた丁寧にしまった。
アレンシカはいつもウィンノルを見ては悲しそうにしているのを誰にも悟らせないよう気丈に振る舞っている。
その心を気休めでもいいから少しでも晴れさせたかった。
しかし王立学園の勉強は一介の地方領の学校レベルで学んだ人間にはとてつもなく難しく、また貴族特有の学問は平民には分からないことだらけだったので、一緒のクラブに入って一緒に楽しむ夢はまだ諦めなくてはならなかった。
ウィンノルはクラブに入っていないのでアレンシカが傷つくことは少なかったが、それでも学園の庭園は見事なのでダシにして他の人とデートをしている姿が何回も見られ、その度にアレンシカは傷ついていた。早く入部してもっとガードしたくても、それでも勉強がそれを許してくれない。
今まで優秀だと言われ続けていてもそれが本当にただの驕りだったのだと知るのはすぐだった。
今までテスト前に勉強なんてしたこともなかったが、空いた時間のすべてを勉強に費やしてなんとか結果が実を結んだ。
それでも横でひどく顔を青褪めているアレンシカが気になった。
(何それ何それ何それ!)
エイリークは知らなかった。アレンシカがどれだけウィンノルに責められているか。まさかそれで傷つけているなんて。
「アレンシカは全然俺のレベルになっていないんだ。」
「えー、嘘お。ウィンノル様可哀想ー。」
「自分は王子だから、優秀な者が婚約者でないと俺の責任になってしまうのに。」
「確かにぃ、二位だったのって平民でしたよねぇ。平民にも負けてる婚約者なんてウィンノル様にふさわしくなーい。」
アレンシカのクラブが終わるまで教室で勉強しているとそんな声が聞こえた。忌々しいあの声だ。
窓から覗いて見ればあの王子が他の学生とベタベタとくっついて笑いあって話しているがその話は不快そのものだった。
(あのくっついてる相手!お前なんて下から数えたほうが早いだろーが!そうやってくっついてるけどお前がアレンシカ様より上だとでも思ってるのか!)
怒鳴りつけたかったが平民ひとりでは王族に立ち向かえない。
(お前だって自分の婚約者が悪く言われたら怒るもんだろ!一緒になって悪く言うんじゃねー!)
いつの間にか手のひらを強く握っていたせいか爪が刺さって血が出ている。
(お前のほうがアレンシカ様にふさわしくない!)
エイリークは急いでアレンシカの元へ走った。
アレンシカは花壇の前でぼんやりとしていた。それは悲しげでやってはいけないことをやってしまった時のような、取り返しのつかないことをやってしまった時のような表情だった。
何もなければそんな顔はしない。
(アイツが何か言ったんだ!)
それは確信だった。
(もしあいつがアレンシカ様を大切にしないなら、オレが大切にしたい。)
もうその時にはすでにエイリークはそう思っていた。
どうしてアレンシカのことをここまで考えているのか。
アレンシカをウィンノルから引き離したいのか。
アレンシカが傷つく姿が見たくないのか。
もうこの時にはとっくに気づいていた。
(アレンシカ様が好き。)
それでも平民が貴族の人間に想いを寄せたところで叶う訳がないことは百も承知だった。
現にアレンシカには肩書きだけは立派な婚約者がいるし、平民が隣りにいたところで誰も噂にしない。友人とすら思っていなかった人間も周りにはいた。そういう人たちにはせいぜい腰巾着くらいにしか見えなかっただろうありえないという考えは共通認識だった。
もちろんアレンシカの否になるようなことはしない。けして友人としての域が出ないように人付き合いをしたし、二人で密室に行くことは必ずしなかった。
公爵家にご厚意で遊びに行った時だって皆友人の学園生ということで優しかったが、必ず使用人の誰かが見ていたし訪問者への部屋は公爵家の方々の部屋とは遠く離れていた。万が一がないように配慮だろうが、それは公爵家の方々は自分には手が届かないことが改めて分かったことだった。
王家は雲の上の存在だが、公爵家だって平民にとって雲の上の存在。だから誰にも言えない想い。
だからせめて友人としてそばにいよう。
想いが遂げられないならせめてアレンシカが許す限り友人として。
たとえその友人関係が学園にいる間でしかいられないものだったとしても、遠くの端っこでアレンシカの幸せを願っていつか学園時代を思い出す時に「なんか平民の友達がいたな」とたまに思い出してくれるだけでいい。そう思っていたのに。
不相応にも恋したが、住む世界の違いに弱気になってそれでも一度は諦めかけてしまっていたが。
「……どうせ反抗するのなら限界までやってやる。」
エイリークは一言だけの手紙をまた丁寧にしまった。
153
あなたにおすすめの小説
腐男子ですが何か?
みーやん
BL
俺は田中玲央。何処にでもいる一般人。
ただ少し趣味が特殊で男と男がイチャコラしているのをみるのが大好きだってこと以外はね。
そんな俺は中学一年生の頃から密かに企んでいた計画がある。青藍学園。そう全寮制男子校へ入学することだ。しかし定番ながら学費がバカみたい高額だ。そこで特待生を狙うべく勉強に励んだ。
幸いにも俺にはすこぶる頭のいい姉がいたため、中学一年生からの成績は常にトップ。そのまま三年間走り切ったのだ。
そしてついに高校入試の試験。
見事特待生と首席をもぎとったのだ。
「さぁ!ここからが俺の人生の始まりだ!
って。え?
首席って…めっちゃ目立つくねぇ?!
やっちまったぁ!!」
この作品はごく普通の顔をした一般人に思えた田中玲央が実は隠れ美少年だということを知らずに腐男子を隠しながら学園生活を送る物語である。
夫には好きな相手がいるようです。愛されない僕は針と糸で未来を縫い直します。
伊織
BL
裕福な呉服屋の三男・桐生千尋(きりゅう ちひろ)は、行商人の家の次男・相馬誠一(そうま せいいち)と結婚した。
子どもの頃に憧れていた相手との結婚だったけれど、誠一はほとんど笑わず、冷たい態度ばかり。
ある日、千尋は誠一宛てに届いた女性からの恋文を見つけてしまう。
――自分はただ、家からの援助目当てで選ばれただけなのか?
失望と涙の中で、千尋は気づく。
「誠一に頼らず、自分の力で生きてみたい」
針と糸を手に、幼い頃から得意だった裁縫を活かして、少しずつ自分の居場所を築き始める。
やがて町の人々に必要とされ、笑顔を取り戻していく千尋。
そんな千尋を見て、誠一の心もまた揺れ始めて――。
涙から始まる、すれ違い夫婦の再生と恋の物語。
※本作は明治時代初期~中期をイメージしていますが、BL作品としての物語性を重視し、史実とは異なる設定や表現があります。
※誤字脱字などお気づきの点があるかもしれませんが、温かい目で読んでいただければ嬉しいです。
生まれ変わりは嫌われ者
青ムギ
BL
無数の矢が俺の体に突き刺さる。
「ケイラ…っ!!」
王子(グレン)の悲痛な声に胸が痛む。口から大量の血が噴きその場に倒れ込む。意識が朦朧とする中、王子に最後の別れを告げる。
「グレン……。愛してる。」
「あぁ。俺も愛してるケイラ。」
壊れ物を大切に包み込むような動作のキス。
━━━━━━━━━━━━━━━
あの時のグレン王子はとても優しく、名前を持たなかった俺にかっこいい名前をつけてくれた。いっぱい話しをしてくれた。一緒に寝たりもした。
なのにー、
運命というのは時に残酷なものだ。
俺は王子を……グレンを愛しているのに、貴方は俺を嫌い他の人を見ている。
一途に慕い続けてきたこの気持ちは諦めきれない。
★表紙のイラストは、Picrew様の[見上げる男子]ぐんま様からお借りしました。ありがとうございます!
【完結済】あの日、王子の隣を去った俺は、いまもあなたを想っている
キノア9g
BL
かつて、誰よりも大切だった人と別れた――それが、すべての始まりだった。
今はただ、冒険者として任務をこなす日々。けれどある日、思いがけず「彼」と再び顔を合わせることになる。
魔法と剣が支配するリオセルト大陸。
平和を取り戻しつつあるこの世界で、心に火種を抱えたふたりが、交差する。
過去を捨てたはずの男と、捨てきれなかった男。
すれ違った時間の中に、まだ消えていない想いがある。
――これは、「終わったはずの恋」に、もう一度立ち向かう物語。
切なくも温かい、“再会”から始まるファンタジーBL。
全8話
お題『復縁/元恋人と3年後に再会/主人公は冒険者/身を引いた形』設定担当AI /c
【完結】第三王子、ただいま輸送中。理由は多分、大臣です
ナポ
BL
ラクス王子、目覚めたら馬車の中。
理由は不明、手紙一通とパン一個。
どうやら「王宮の空気を乱したため、左遷」だそうです。
そんな理由でいいのか!?
でもなぜか辺境での暮らしが思いのほか快適!
自由だし、食事は美味しいし、うるさい兄たちもいない!
……と思いきや、襲撃事件に巻き込まれたり、何かの教祖にされたり、ドタバタと騒がしい!!
『君を幸せにする』と毎日プロポーズしてくるチート宮廷魔術師に、飽きられるためにOKしたら、なぜか溺愛が止まらない。
春凪アラシ
BL
「君を一生幸せにする」――その言葉が、これほど厄介だなんて思わなかった。
チート宮廷魔術師×うさぎ獣人の道具屋。
毎朝押しかけてプロポーズしてくる天才宮廷魔術師・シグに、うんざりしながらも返事をしてしまったうさぎ獣人の道具屋である俺・トア。
でもこれは恋人になるためじゃない、“一目惚れの幻想を崩し、幻滅させて諦めさせる作戦”のはずだった。
……なのに、なんでコイツ、飽きることなく俺の元に来るんだよ?
“うさぎ獣人らしくない俺”に、どうしてそんな真っ直ぐな目を向けるんだ――?
見た目も性格も不釣り合いなふたりが織りなす、ちょっと不器用な異種族BL。
同じ世界観の「「世界一美しい僕が、初恋の一目惚れ軍人に振られました」僕の辞書に諦めはないので全力で振り向かせます」を投稿してます!トアも出てくるので良かったらご覧ください✨
ある日、木から落ちたらしい。どういう状況だったのだろうか。
水鳴諒
BL
目を覚ますとズキリと頭部が痛んだ俺は、自分が記憶喪失だと気づいた。そして風紀委員長に面倒を見てもらうことになった。(風紀委員長攻めです)
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる