『悪役』のイメージが違うことで起きた悲しい事故

ラララキヲ

文字の大きさ
3 / 6

3>>> ヒロインと悪役令嬢 

しおりを挟む
        
 
 
 
 
 ルーニーが見つかったのは10日後だった。
 もう彼女は生きては居ないかもしれないと思われていた10日目の朝。学園の正門の前にルーニーはボロボロの姿で汚いシーツに包まれた全裸の状態で通行人に発見された。生きているのが不思議な程だった。
 直ぐに治療院に運ばれたルーニーはできる限りの治療を受けて一命を取り留めることができた。
 しかし失っていた右足の膝から下が復活することはなかった。

 ルーニーは二週間ほどして意識を取り戻した。
 しかし目が覚めたルーニーはパニックを起こし暴れ、その度に看護師たちにより眠らされた。
 落ち着きを取り戻し、まともに会話ができるまでになったのはルーニーが保護されてから一ヶ月半以上も経ってからだった。
 ルーニーは自分の身に起こったことを騎士隊達に話した。直ぐに犯人を捕まえるべく騎士たちが動き出したが、ルーニーの失踪の痕跡を全く残さなかった者たちの犯行だった為に裏の仕事のプロや高位貴族が関わっているだろうと思われていた。だから犯人は見つかることはないだろうと……

 ルーニーは治療院の一室でただ茫然ぼうぜんとして過ごしていた。何も考えたくない。何も思い出したくない。
 だが犯人を捕まえる為には必要なんだと、思い出したくもない記憶を思い出して騎士隊の女性騎士に話さなければならなかった。相手が女性だから大丈夫なんてことは当然全く無い。ルーニーは犯人のことを聞かれる度に過呼吸を起こした。顔を見たはずなのに思い出せない。犯人の男たちの全身を一糸纏いっしまとわぬ姿で見たはずなのに、ルーニーには思い出せなかった。思い出したくもない自分の凶器ばかりが脳裏に焼き付いてルーニーの精神を追い詰めた。それはルーニーに使われた薬の副作用でもあった。

 治療院での治療は長く続けられた。
 ルーニーはその間、学園にも行けずに、友人たちの面会もすべて断って、病室に閉じこもった。少しでも体を動かさないと、と言われても、人に会いたくなかった。……人の目に自分の姿を晒したくなかった。
 そんな、ただ日々が過ぎ去るだけの日々の中で。


 ある夜、ルーニーの病室をミシディアが訪れた。





   ◇ ◇ ◇ 





「な……、に、しに……来たのよ」

 ミシディアの姿を見た瞬間にルーニーはミシディアを睨みつけてそう言っていた。
 一人でルーニーの病室へ入って来たミシディアは大きな花束を持ち、ルーニーの姿を見ると痛ましそうに眉尻を下げた。

「お加減はどお?」

 ベッドヘッドに背を持たれかける形でベッドの上に座っていたルーニーに近付きながらそう聞いたミシディアは、ルーニーの返事を聞かずにルーニーの足元のベッドの上に持っていた花束を置いた。
 その位置にはルーニーの本来あるはずの足は無く、ルーニーはその花束を蹴り飛ばしてベッドの下へ落とすこともできなかった。

「……何しに、来たのよ……」

 ルーニーはミシディアの言葉には答えずに同じ言葉を繰り返した。
 今の時間に面会が許される筈がなかった。何より面会希望者が来たらルーニーが心を許している看護師が先に聞きに来る筈なのだ。それなのに、それらも無しにミシディアはこの病室に入って来た。
 ……ルーニーは湧き上がる得体の知れない恐怖心を隠すようにミシディアを睨みつけた。
 そんなルーニーを気にすることなくミシディアは微笑む。

「ごめんなさいね、突然訪問してしまって。
 でも待てど暮らせど何も起こらないから気になってしまって」

 そう言うと困ったと言わんばかりに苦笑して眉尻を下げたミシディアが小さな溜め息を吐きながら頬に手を添えた。

「だから、この“乙女ゲーム”の今後の展開がどうなるのか、ヒロインである貴女にお聞きしに来たの」

「展、開……?」

 ルーニーにはミシディアが何を言い出したのか分からなかった。
 でも嫌な汗が湧き出してくる。
 聞きたくて聞きたくない言葉が目の前の女からつむがれそうな気がして、ルーニーは自分の口の中が乾いてくるのが分かった。
 そんなルーニーとは反対に、ミシディアは少しだけ興奮するかのように頬を染めて話し始めた。

「そうですわ。この後はどうなりますの?
 わたくし、貴女に言われた通りに“悪役令嬢”になりましたのよ! “乙女ゲーム”がどんなものなのかはわからなかったのですが、“悪役”が出る作品などは大抵同じような設定ですものね! だからわたくし前世でよく見た“悪役”を参考にして頑張りましたのよ! 自分でもよくできたと思いますわ!」

 そこまで言うとミシディアは姿勢を正してルーニーに対して少し体を斜めに見せて、扇子を広げると口元を隠して目を細めた。

「『お前たち、あの目障りな女をとらえなさい。殺す以外は何をしても構わないわ。
 わたくしに楯突くとどうなるか、その体に教え込んで差し上げなさい!!』」

 言いながらミシディアは口元を隠していた扇子をルーニーに向けるとその口元に浮かべた笑みを見せつけるようにしてルーニーを不敵に笑って睨みつけた。
 しかし直ぐにその表情を崩して恥ずかしげに笑って体をくねらせて照れた。

「なんて言って皆に指示したのよ? どうかしら? “悪役令嬢”できていた?」

 フフフ♪、と恥ずかしそうに笑うミシディアにルーニーの頭は追いつかない。
 この女はなんと言った?
 “乙女ゲームを知らない?”
 “皆に指示した?”

 ナニをイッていルの?????

 ルーニーは唖然としてミシディアを見つめた。
 その目はとても人間を見ている視線ではなかった。
 
 
 
  
        
しおりを挟む
感想 18

あなたにおすすめの小説

乙女ゲームの世界だと、いつから思い込んでいた?

シナココ
ファンタジー
母親違いの妹をいじめたというふわふわした冤罪で婚約破棄された上に、最北の辺境地に流された公爵令嬢ハイデマリー。勝ち誇る妹・ゲルダは転生者。この世界のヒロインだと豪語し、王太子妃に成り上がる。乙女ゲームのハッピーエンドの確定だ。 ……乙女ゲームが終わったら、戦争ストラテジーゲームが始まるのだ。

メインをはれない私は、普通に令嬢やってます

かぜかおる
ファンタジー
ヒロインが引き取られてきたことで、自分がラノベの悪役令嬢だったことに気が付いたシルヴェール けど、メインをはれるだけの実力はないや・・・ だから、この世界での普通の令嬢になります! ↑本文と大分テンションの違う説明になってます・・・

乙女ゲームの悪役令嬢、ですか

碧井 汐桜香
ファンタジー
王子様って、本当に平民のヒロインに惚れるのだろうか?

一家処刑?!まっぴらごめんですわ!!~悪役令嬢(予定)の娘といじわる(予定)な継母と馬鹿(現在進行形)な夫

むぎてん
ファンタジー
夫が隠し子のチェルシーを引き取った日。「お花畑のチェルシー」という前世で読んだ小説の中に転生していると気付いた妻マーサ。 この物語、主人公のチェルシーは悪役令嬢だ。 最後は華麗な「ざまあ」の末に一家全員の処刑で幕を閉じるバッドエンド‥‥‥なんて、まっぴら御免ですわ!絶対に阻止して幸せになって見せましょう!! 悪役令嬢(予定)の娘と、意地悪(予定)な継母と、馬鹿(現在進行形)な夫。3人の登場人物がそれぞれの愛の形、家族の形を確認し幸せになるお話です。

婚約者に見捨てられた悪役令嬢は世界の終わりにお茶を飲む

・めぐめぐ・
ファンタジー
魔王によって、世界が終わりを迎えるこの日。 彼女はお茶を飲みながら、青年に語る。 婚約者である王子、異世界の聖女、聖騎士とともに、魔王を倒すために旅立った魔法使いたる彼女が、悪役令嬢となるまでの物語を―― ※終わりは読者の想像にお任せする形です ※頭からっぽで

悪役令嬢の慟哭

浜柔
ファンタジー
 前世の記憶を取り戻した侯爵令嬢エカテリーナ・ハイデルフトは自分の住む世界が乙女ゲームそっくりの世界であり、自らはそのゲームで悪役の位置づけになっている事に気付くが、時既に遅く、死の運命には逆らえなかった。  だが、死して尚彷徨うエカテリーナの復讐はこれから始まる。 ※ここまでのあらすじは序章の内容に当たります。 ※乙女ゲームのバッドエンド後の話になりますので、ゲーム内容については殆ど作中に出てきません。 「悪役令嬢の追憶」及び「悪役令嬢の徘徊」を若干の手直しをして統合しています。 「追憶」「徘徊」「慟哭」はそれぞれ雰囲気が異なります。

シナリオ通り追放されて早死にしましたが幸せでした

黒姫
恋愛
乙女ゲームの悪役令嬢に転生しました。神様によると、婚約者の王太子に断罪されて極北の修道院に幽閉され、30歳を前にして死んでしまう設定は変えられないそうです。さて、それでも幸せになるにはどうしたら良いでしょうか?(2/16 完結。カテゴリーを恋愛に変更しました。)

傍観している方が面白いのになぁ。

志位斗 茂家波
ファンタジー
「エデワール・ミッシャ令嬢!貴方にはさまざな罪があり、この場での婚約破棄と国外追放を言い渡す!」 とある夜会の中で引き起こされた婚約破棄。 その彼らの様子はまるで…… 「茶番というか、喜劇ですね兄さま」 「うん、周囲が皆呆れたような目で見ているからな」  思わず漏らしたその感想は、周囲も一致しているようであった。 これは、そんな馬鹿馬鹿しい婚約破棄現場での、傍観者的な立場で見ていた者たちの語りである。 「帰らずの森のある騒動記」という連載作品に乗っている兄妹でもあります。

処理中です...