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23>>妹の居ぬ間に
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「ティオレイド様」
ティオレイドが一人になった瞬間に滑り込む様にカリンナが名前を呼んだ。
カリンナの方を向いたティオレイドに、挨拶をしようとしていた人たちが空気を読んで少し離れる。
「どうしたんだい。
カリンナお義姉様」
「まぁ! フフ、そんな風にティオレイド様に呼ばれるなんて、思ってもみませんでしたわ」
「私は兄弟が居ないからね。折角だからそう呼ばせて貰おうかと思って。君の婚約者殿の事も婚姻が済んだら『お義兄様』と呼ばせて貰おうかな」
「フフ、ロッシュ様が萎縮してしまいますわ」
そんな話をしながらカリンナは自然な流れでティオレイドの隣に立った。親族としての距離感を保っているので周りがそんな二人を見ておかしく思う事は無い。“婚約者の姉”と“妹の婚約者”が話をする事は別段不自然な事は無い。
二人は穏やかな表情で会話する。
「妹はどうですか? 粗相などしておりませんか?」
「全く問題無いよ。色々聞いていたからもっと面白い事があるかと思っていたけれど、何事もなく終わりそうだね」
「まぁ、フフフ。婚約披露パーティーで何が起こると言うのですか」
……そんな感じでティオレイドと会話をしていたカリンナの視界に、会場に帰って来たマリリンの姿が映った。
マリリンもティオレイドの側で微笑んでいるカリンナの姿を見て、驚いた顔をしている。
「マリリンが戻って来たみたいですのでわたくしも戻りますわね」
「あぁ、何も言わなくてもいいのかい?」
ティオレイドがゆっくり歩きながらも気持ちが急いでいるのが分かるマリリンを見ながらカリンナに聞いた。
横目にカリンナを見るティオレイドの目の奥で感情が煌めく。それを見たカリンナもまた表の顔には出さずに目の奥でティオレイドにしか分からない感情を見せる。微笑むその瞳の奥は本当に楽しそうだ。
「えぇ、……それがいいのですわ」
そう言って軽く頭を下げたカリンナがティオレイドから離れた。マリリンにも軽く微笑んでから背を向けた姉にマリリンは内心苛立つ。
──何をしていたのお姉様!?──
唇を噛みたくなる様な気持ちをグッと抑えてマリリンは笑顔でティオレイドの横に立つ。
「ごめんなさい、ティオレイド様。
……先程お姉様がいらしてましたけど……何かわたくしの事で言っていましたか?」
窺うように上目遣いで聞いてきたマリリンにティオレイドは優しく微笑む。
「いいや。一人になった私の話し相手をしてくれていただけだよ」
マリリンの質問に不思議そうな顔をして返事をしたティオレイドにマリリンはそれ以上何も言えない。
「……席を外してしまって、申し訳ありません……」
「気にしないで。さぁ、挨拶がまだ残っているよ。可愛い顔で笑っておくれ」
そう言ってティオレイドは少し不服そうな表情になっていたマリリンの頬を優しく撫でた。そして撫でた手をマリリンの顎に添えてマリリンの顔を上に向かせると自分の顔を少し近付けて瞳を合わせる。
間近で優しく見つめられてマリリンはサッと頬を染めた。
「……っ! ティオレイド様ったらっ!」
「フフ、……貴女は可愛いね」
ティオレイドの言葉にマリリンは先程までのカリンナへの不満を忘れた。
そんな自分の事を遠目から姉が楽しそうに見つめている事にも気付かずに……
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「ティオレイド様」
ティオレイドが一人になった瞬間に滑り込む様にカリンナが名前を呼んだ。
カリンナの方を向いたティオレイドに、挨拶をしようとしていた人たちが空気を読んで少し離れる。
「どうしたんだい。
カリンナお義姉様」
「まぁ! フフ、そんな風にティオレイド様に呼ばれるなんて、思ってもみませんでしたわ」
「私は兄弟が居ないからね。折角だからそう呼ばせて貰おうかと思って。君の婚約者殿の事も婚姻が済んだら『お義兄様』と呼ばせて貰おうかな」
「フフ、ロッシュ様が萎縮してしまいますわ」
そんな話をしながらカリンナは自然な流れでティオレイドの隣に立った。親族としての距離感を保っているので周りがそんな二人を見ておかしく思う事は無い。“婚約者の姉”と“妹の婚約者”が話をする事は別段不自然な事は無い。
二人は穏やかな表情で会話する。
「妹はどうですか? 粗相などしておりませんか?」
「全く問題無いよ。色々聞いていたからもっと面白い事があるかと思っていたけれど、何事もなく終わりそうだね」
「まぁ、フフフ。婚約披露パーティーで何が起こると言うのですか」
……そんな感じでティオレイドと会話をしていたカリンナの視界に、会場に帰って来たマリリンの姿が映った。
マリリンもティオレイドの側で微笑んでいるカリンナの姿を見て、驚いた顔をしている。
「マリリンが戻って来たみたいですのでわたくしも戻りますわね」
「あぁ、何も言わなくてもいいのかい?」
ティオレイドがゆっくり歩きながらも気持ちが急いでいるのが分かるマリリンを見ながらカリンナに聞いた。
横目にカリンナを見るティオレイドの目の奥で感情が煌めく。それを見たカリンナもまた表の顔には出さずに目の奥でティオレイドにしか分からない感情を見せる。微笑むその瞳の奥は本当に楽しそうだ。
「えぇ、……それがいいのですわ」
そう言って軽く頭を下げたカリンナがティオレイドから離れた。マリリンにも軽く微笑んでから背を向けた姉にマリリンは内心苛立つ。
──何をしていたのお姉様!?──
唇を噛みたくなる様な気持ちをグッと抑えてマリリンは笑顔でティオレイドの横に立つ。
「ごめんなさい、ティオレイド様。
……先程お姉様がいらしてましたけど……何かわたくしの事で言っていましたか?」
窺うように上目遣いで聞いてきたマリリンにティオレイドは優しく微笑む。
「いいや。一人になった私の話し相手をしてくれていただけだよ」
マリリンの質問に不思議そうな顔をして返事をしたティオレイドにマリリンはそれ以上何も言えない。
「……席を外してしまって、申し訳ありません……」
「気にしないで。さぁ、挨拶がまだ残っているよ。可愛い顔で笑っておくれ」
そう言ってティオレイドは少し不服そうな表情になっていたマリリンの頬を優しく撫でた。そして撫でた手をマリリンの顎に添えてマリリンの顔を上に向かせると自分の顔を少し近付けて瞳を合わせる。
間近で優しく見つめられてマリリンはサッと頬を染めた。
「……っ! ティオレイド様ったらっ!」
「フフ、……貴女は可愛いね」
ティオレイドの言葉にマリリンは先程までのカリンナへの不満を忘れた。
そんな自分の事を遠目から姉が楽しそうに見つめている事にも気付かずに……
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