欲しがり病の妹を「わたくしが一度持った物じゃないと欲しくない“かわいそう”な妹」と言って憐れむ(おちょくる)姉の話 [完]

ラララキヲ

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33>>こうして話はすり変わる

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「そんな……っ、そんな、違いますわっ。
 わたくしが想っているのはティオレイド様の事だけです!
 あんな姉の事なんかっ!!」

 自分の頬に添えられたティオレイドの手に自分の手を添えてマリリンは必死な表情で伝えた。

あの人はわたくしをからかって楽しんでいるのですっ! だからわたくし……っっ!
 わたくしが一番に考えているのはティオレイド様だけですわっ! ティオレイド様を一番に思っておりますものっ!!」

「でもカリンナお義姉ねぇ様が何かしてきたらマリリンは無視出来ないだろう? お義姉ねぇ様もそれが分かっていて私に構うんだよ……マリリンが自分の方へ意識を向けるって知ってるから……」

 少し寂しそうに顔を曇らせたティオレイドにマリリンは焦る。

「そんなっ?! それは違いますわ?! お姉様はティオレイド様の事を……っ!!」

 言いたくない言葉にマリリンは言葉を詰まらせた。
 そんなマリリンにティオレイドは苦笑する。

「私の婚約者はマリリンだ。そこにカリンナお義姉ねぇ様の気持ちは関係が無いよ。
 マリリンが私だけを見ていてくれたら、カリンナお義姉ねぇ様が何を言ってきたとしても取り合う必要は無いんじゃないかな」

「でも……姉ですし……」

 これが赤の他人なら完全無視も出来るかもしれないが、一緒の家に住んでいる姉を無視するなんてマリリンには考えられなかった。
 そもそもカリンナに妹のマリリンの方なのだ。手頃な場所で優越感を感じられる相手が姉なのだ。返り討ちに遭う事も多いが──むしろ返り討ちにしか遭っていないのだが──最近ではティオレイドの事でカリンナに勝てる事が多い──とマリリンは思っている──のに、それを自分から遠ざけるのはどうにも……マリリンにはどうにも受け入れ難い様な気がした……。
 そんなマリリンにティオレイドは優しく声を掛ける。

「マリリン。
 侯爵家に入れば、嫌いな人とも笑って会話をしなければいけなくなるんだ。カリンナお義姉ねぇ様の事は、その予行演習だと思えばいいんじゃないかな」

「予行……演習……ですか?」

「そうだよ。相手を嫌いだからと顔に出して無視していたらそこから足を掬われるかもしれないからね。好きでもない相手でも笑って挨拶出来なくちゃ。嫌味を言われても笑って受け流さないといけない。
 ……泣いては……いけないんだよ……」

 そう言ってティオレイドはマリリンの濡れた頬を指で撫でた。

「ティオレイド様……」

「勿論。私の前ではいくらでも泣いて良いよ。
 でもこれからマリリンは私の伴侶として色んな人に会わなくちゃいけなくなる。お義姉ねぇ様にはまだマリリンへの愛情がある。けど、これからマリリンが会う人にはこちらに憎しみを抱いている人もいるかもしれない。そんな人に侯爵家として弱みを見せてはいけないんだ。誰がいつマリリンにやいばを向けるか分からないからね……。
 だからね、マリリン。
 マリリンの純粋で無邪気な可愛さは、これからは私にだけ、見せてはくれないかい?
 私の伴侶として、表向きは侯爵家の立派な夫人として、……私といる時だけは本来の可愛らしいマリリンとして……一生側にいてくれないだろうか……」

 唇が触れてしまうんじゃないかと思う程に近付いたティオレイドの美しい顔にマリリンは見惚れ、耳の鼓膜を震わせるティオレイドの甘い声はマリリンをウットリと溶かす。
 頬に感じるティオレイドの手の温かさがジワリジワリとマリリンの体に染み込んで、マリリンの世界はティオレイド一色に染められた気がした。

「ティ……ティオレイドさま……わたくし…………」

「……ダメ……だろうか……?」

 ジッと見つめられていた瞳が一転、悲しげに揺れてマリリンの心を刺激する。
 カリンナの事とか色々考えていたマリリンはその瞬間何も考えられずに口を開いた。

「ダメだなんてっ……そんなっ、わたくしっ!

 ティオレイド様のお側に居られるならわたくし、なんだっていたしますわ!!」

 マリリンの言葉を聞いて
 ティオレイドは心の底から幸せそうに笑った。



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