真実の愛に婚約破棄を叫ぶ王太子より更に凄い事を言い出した真実の愛の相手

ラララキヲ

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 静まりかえった会場内に、扉の開く音が響く。

 開いた扉から、この国の国王が姿を現した。
 その瞬間、全ての人が国王陛下に向かって最敬礼の姿勢を取る。そんな会場の中にコツ、コツ、と国王が歩く足音だけが響く。

 ユイリーも慌てて王太子の後ろに控えて頭を下げたが、本来ならば男爵令嬢など壇上に居てはいけない存在であり、彼女が行く場所は王太子の後ろでは無く降壇して侯爵令嬢の後ろなどに控えるべきだった。
 そんな事すら学園を卒業するというのに理解していない令嬢に、国王陛下の側近たちは眉をひそめた。

 壇上に上がり王太子の前に立った父である国王陛下に、フィオルドは青褪めながら改めて一礼した。

「……何故、父上がここに?」

 思った事をそのままに質問する。

「息子の卒業式に親として参列する事がそんなに不思議か?」

 息子の質問に国王は冷めた声で答えた。

「いえっ! ……嬉しいです!」

「そうか……。何やら随分、羽目を外しておる声が聞こえたが、お前はアトーシャン侯爵令嬢との婚約を破棄してそこな令嬢と婚約をし直すと申すか?」

 直球な国王陛下の言葉にフィオルドは体を強張こわばらせて姿勢を正した。
 背中に流れる冷や汗に気づかれないように真剣な顔を作って父である国王陛下の目を見つめる。
 自分が真剣であり本気なのだと父に認めてもらう為に。

「っ!! …………はい!
 私は、ここに居るユイリー・フフム男爵令嬢と結ばれたいと思っております!」

 フィオルドの言葉にユイリーは顔を上げて瞳を潤ませた。
 国王陛下はまだ他の者に声をかけていない。その中で顔を上げるなど、何を考えているのかと、国王陛下の近衛騎士は目付きを鋭くする。
 フィオルドは自分の後ろにいるユイリーに気付いてはいないが、国王陛下はそのユイリーの仕草に呆れ、溜息を吐いた。
 そして諦めたように頭を振り、顎を一撫でした。

「…………では許可しよう」

 国王陛下の言葉にユイリーは歓喜して舞い上がった。笑顔でフィオルドと抱き合い「よかったね!」と顔を見合わせる。
 そんな2人を余所に、国王陛下は会場内に目を向ける。
 コホンと1つ咳払いして会場内を見渡した。

「皆の者、面を上げよ」

 その言葉に会場内の全ての人が姿勢を戻した。
 それを見てフィオルドは顔を強張こわばらせる。自分は兎も角、国王陛下へ下げていた頭をユイリーは勝手に上げはしなかったか?嬉しさの余り抱きしめてしまったが、それはしてよかったことなのか?フィオルドはゾッとするような寒気を感じた。
 しかしフィオルドの心配に気付く事なくユイリーははしゃぐ。黄色い声は小さくとも静かな会場内によく響き、国王陛下の前であるのに態度を改めないユイリーにフィオルドは生きた心地がしなくなった。

「…………」 

 国王陛下がユイリーを一瞥し、その目をフィオルドに向けた。
 慌ててフィオルドはユイリーの口を塞いで頭を下げさせた。
 モガッと、何をされたのか理解出来ずに小さく暴れるユイリーを見て、国王陛下は誰もが分かるほどに呆れて溜息を吐いて会場へと目を向けた。  

「……今この場において、王太子フィオルド・ジ・カルダムとレミリナ・アトーシャン侯爵令嬢の婚約を破棄する。勿論、フィオルドの不貞が破棄の理由である。この責を取り、フィオルド・ジ・カルダムは王位継承権を剥奪はくだつし王族籍から除籍する。今この時より平民となれ」

「え……?」

 フィオルドが唖然とした。

「同時に、王太子を誑かした罪により、ユイリー・フフム男爵令嬢の貴族籍を剥奪はくだつ。平民とする」

「……え??」
 
 次はユイリーが唖然あぜんとする番だった。
 開いた口が塞がらない2人を置き去りにして国王陛下は続ける。

「さて、平民となった2人は“真実の愛”で結ばれておる。故にここで2人の婚姻を許そう。

 フィオルド。ユイリー。
 そなたらは今この時より夫婦となった」

 自分を慈悲深い瞳で見てくる父である国王陛下の言葉の意味が分からずフィオルドは思考が停止した。
 ユイリーも何が始まったのか分からない。
 しかし国王陛下は止まらない。

「フィオルドはその血筋の為、子が出来ぬ様に処置する事となるが、2人が離れず暮らせるように、北にある大地に小さな家を与えてやろう。小さな畑もな。子が出来ぬとも2人の間に"真実の愛"があれば問題なかろう。幸せに暮らせ」

 フィオルドの頭に王家が所有する北の辺境の大地が思い浮かぶ。隣国との国境が近く、人里は遠い。魔物が多い森が広がり、そもそも大地が荒れ果てていて畑を作ったところで作物が育つのか……。人が住みたがらない場所。人が住めない場所……。そんな所へ行けと父は言うのだ。
 それは実質、追放と同じであった。
 
「皆も、これから苦難に立ち向かう2人に最後の祝福を与えてやってくれ。
 新しく家族となった2人に盛大な拍手を」

 そう言ってフィオルドとユイリーに目をやり、手を叩き出した国王陛下に、最初はみんな戸惑ったが、徐々に拍手の数は増えていき、直ぐに会場内が溢れんばかりの拍手の音で包まれた。

 おめでとう、と言われても困ってしまう。
 フィオルドとユイリーは互いに結婚する事を望んだが、それは平民となる事ではなかった。
 フィオルドは王太子をやめる事など考えてすらいなかった。ただ性悪な婚約者に罪を認めさせ、真実愛する女性と結ばれようと思っただけだった。レミリナが反省するなら側室にしてあげるくらい譲歩じょうほしてあげようとさえ思っていたのに。
 蓋を開けてみれば何故か自分は平民に落とされて北の大地への追放になっていた。ユイリーと結婚出来ても全く1つも嬉しくない。
 フィオルドは自然と震え出した体をどうにか立たせて、父である国王を凝視した。
 しかし国王はフィオルドを見るのを止め会場内に目を向けると、その手のひらを胸の前にスッと立てた。
 それだけで鳴り響いていた拍手は鳴り止む。

「さて、王太子の席を空席のままにはしておれん。順位にのっとり、第二王子であるヴィンセントが繰り上がる。皆そのように」

 国王陛下の言葉に、会場中の皆が頭を下げて「御意」と返事をした。
 茫然自失ぼうぜんじしつなフィオルドはそれすら理解出来ない。したくないと脳が拒絶する。
 そんなフィオルドに抱きつきながらユイリーは心底混乱していた。なんでこんな事になっているか理解出来ない。

「え? え? ……え?」

 とキョロキョロと周りを見渡してユイリーは混乱する。
 そんなユイリーを胸元にぶら下げたままで、フィオルドは後悔に呑み込まれていた。
 何故、男爵令嬢を妻にしても変わらずその地位に立っていられると思ったのか。
 生まれた時から周りの者たちが勝手に動いてフィオルドの良いようにお膳立てしてくれるのが当たり前になっていた。だから今回も、周りが勝手に自分の望み通りに叶えてくれると思ったのかもしれない。
 フィオルドが望んだのだから、フィオルドの望みのままに世界は動く筈だったのに。実際はそうはならなかった。
 フィオルドは視界に入ったレミリナに視線を向けた。
 レミリナは体を丸め、両手で顔を覆っている。
 小刻みに震える体から、泣いているのだと分かった。
 レミリナの事を鬱陶うっとうしいと思い始めたのはいつからだっただろうかと、フィオルドは思考が定まらない頭でそんな事をふと思った。




 
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