最後に一つだけ。あなたの未来を壊す方法を教えてあげる

椿谷あずる

文字の大きさ
2 / 5

2

しおりを挟む

「ど、どうしよう……」

 床に割れた破片が散らばっている。
 覗き込んだ扉の先。生徒会室の室内で生徒会会計のアメリが今にも泣きそうな様子で狼狽している。その視線は足元に散らばる割れたカップ片を見つめていた。しかもあれは……!

「まずいわね」

 私はすぐにそのカップがカインの物であると気付いた。だって私がカインの為に用意したものだったから。もちろんアメリもその事実に気付いているようだった。

「やっちゃったなあ、彼女。あのカップ、カインのお気に入りだろ? しかもかなり値が張る」
「ええ……そうよ」

 そのカップは唯一無二の特注製であった。一般庶民としてギリギリの状態でこの学園に通っているアメリには、到底弁償できる代物では無い。

「うーん……」
「どうしたそんなに唸って」

 不思議そうにウィルが顔を覗き込む。

「ええ、ちょっとね。……仕方ないか。ウィル、貴方はここで待っててもらえる」
「待つって……え?」
「いいから」

 ポカンとした彼にそう告げて、私は一人、生徒会室に足を踏み入れた。

「アメリ、貴女大丈夫?」
「ル、ルーミア先輩!」

 私の一声にアメリは大きく肩を震わせる。
 私は彼女の元に近づき、様子を窺った。アメリは今にも泣き出しそうになりながらも声を絞り出した。

「わ、私……カイン先輩にお茶を入れようと思って用意していて……」

 なるほど、それでカップを割ってしまったのか。

「そうだったの」

 私は努めて優しい声を出した。

「ルーミア先輩、私どうしたらいいですか?」

 彼女の視線が私に向けられる。
 一瞬だけ、このカップを割ったのは貴女だと言って、突き放してしまいたい気持ちに駆られた。
 噂で聞いたことがある。彼女はカインの事が好きらしい。お茶を入れようとしたのも、きっとそのためだろう。婚約者は私なのに。……でもまさかそんな嫉妬心で、彼女を冷たくあしらう訳にもいかないだろう。

「先輩……」
「……」

 アメリの目から大粒の涙が零れ落ちそうになっている。私としたことが、彼女のその姿を見てしまうと、なんとかしてかばってあげなければいけないと思ってしまった。

「アメリ、大丈夫よ。私が何とかしてあげるから」

 私はそう言って彼女の肩をそっと撫でた。

「ここは私が割ったってことにするわ」
「え?」

 アメリは驚いたように私を見つめた。

「で、でも……」
「大丈夫。私がやったって言った方が角が立たないと思うから」
「そ、そんな……。ルーミア先輩、でもこれカイン先輩のお気に入りだったカップですよ」

 彼女が私の服の裾を掴む。

「……アメリだって、そのことは知ってるでしょ?」

 私は彼女の手の上に自分の手を重ねた。そしてゆっくりと諭すように彼女に語り掛ける。

「この事は私と貴女だけの秘密にしましょう? そうすれば誰も傷つかなくて済むから」
「は、はい……」

 アメリは小さく頷いた。

「あ、ありがとうございます、ルーミア先輩」

 私を見つめる彼女の瞳にはうっすらと涙の膜が張っている。それを見て私はほんの少しだけ優越感に浸っていた。今、この瞬間だけ彼女には私が神様にでも見えているかもしれない。

 こうして少しの同情の気持ちから、私が彼女の罪を被ることにした。

 ……うん、まあそれがいけなかったのだ。

しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

復讐は静かにしましょう

luna - ルーナ -
恋愛
王太子ロベルトは私に仰った。 王妃に必要なのは、健康な肉体と家柄だけだと。 王妃教育は必要以上に要らないと。では、実体験をして差し上げましょうか。

地味令嬢を馬鹿にした婚約者が、私の正体を知って土下座してきました

ほーみ
恋愛
 王都の社交界で、ひとつの事件が起こった。  貴族令嬢たちが集う華やかな夜会の最中、私――セシリア・エヴァンストンは、婚約者であるエドワード・グラハム侯爵に、皆の前で婚約破棄を告げられたのだ。 「セシリア、お前との婚約は破棄する。お前のような地味でつまらない女と結婚するのはごめんだ」  会場がざわめく。貴族たちは興味深そうにこちらを見ていた。私が普段から控えめな性格だったせいか、同情する者は少ない。むしろ、面白がっている者ばかりだった。

【完結】婚約破棄されたら、呪いが解けました

あきゅう
恋愛
人質として他国へ送られた王女ルルベルは、その国の人たちに虐げられ、婚約者の王子からも酷い扱いを受けていた。 この物語は、そんな王女が幸せを掴むまでのお話。

【完結】恋人との子を我が家の跡取りにする? 冗談も大概にして下さいませ

水月 潮
恋愛
侯爵家令嬢アイリーン・エヴァンスは遠縁の伯爵家令息のシリル・マイソンと婚約している。 ある日、シリルの恋人と名乗る女性・エイダ・バーク男爵家令嬢がエヴァンス侯爵邸を訪れた。 なんでも彼の子供が出来たから、シリルと別れてくれとのこと。 アイリーンはそれを承諾し、二人を追い返そうとするが、シリルとエイダはこの子を侯爵家の跡取りにして、アイリーンは侯爵家から出て行けというとんでもないことを主張する。 ※設定は緩いので物語としてお楽しみ頂けたらと思います ☆HOTランキング20位(2021.6.21) 感謝です*.* HOTランキング5位(2021.6.22)

【完結】私ではなく義妹を選んだ婚約者様

水月 潮
恋愛
セリーヌ・ヴォクレール伯爵令嬢はイアン・クレマン子爵令息と婚約している。 セリーヌは留学から帰国した翌日、イアンからセリーヌと婚約解消して、セリーヌの義妹のミリィと新たに婚約すると告げられる。 セリーヌが外国に短期留学で留守にしている間、彼らは接触し、二人の間には子までいるそうだ。 セリーヌの父もミリィの母もミリィとイアンが婚約することに大賛成で、二人でヴォクレール伯爵家を盛り立てて欲しいとのこと。 お父様、あなたお忘れなの? ヴォクレール伯爵家は亡くなった私のお母様の実家であり、お父様、ひいてはミリィには伯爵家に関する権利なんて何一つないことを。 ※設定は緩いので、物語としてお楽しみ頂けたらと思います ※最終話まで執筆済み 完結保証です *HOTランキング10位↑到達(2021.6.30) 感謝です*.* HOTランキング2位(2021.7.1)

僕の我儘で傲慢な婚約者

雨野千潤
恋愛
僕の婚約者は我儘で傲慢だ。 一日に一度は「わたくしに五分…いいえ三分でいいから時間を頂戴」と僕の執務室に乗り込んでくる。 大事な話かと思えばどうでも良さそうなくだらない話。 ※設定はゆるめです。細かいことは気にしないでください。

【完結】悪役令嬢の反撃の日々

ほーみ
恋愛
「ロゼリア、お茶会の準備はできていますか?」侍女のクラリスが部屋に入ってくる。 「ええ、ありがとう。今日も大勢の方々がいらっしゃるわね。」ロゼリアは微笑みながら答える。その微笑みは氷のように冷たく見えたが、心の中では別の計画を巡らせていた。 お茶会の席で、ロゼリアはいつものように優雅に振る舞い、貴族たちの陰口に耳を傾けた。その時、一人の男性が現れた。彼は王国の第一王子であり、ロゼリアの婚約者でもあるレオンハルトだった。 「ロゼリア、君の美しさは今日も輝いているね。」レオンハルトは優雅に頭を下げる。

だって悪女ですもの。

とうこ
恋愛
初恋を諦め、十六歳の若さで侯爵の後妻となったルイーズ。 幼馴染にはきつい言葉を投げつけられ、かれを好きな少女たちからは悪女と噂される。 だが四年後、ルイーズの里帰りと共に訪れる大きな転機。 彼女の選択は。 小説家になろう様にも掲載予定です。

処理中です...