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しおりを挟むそして、パーティー当日。
私はもちろん会場に姿を見せていた。
一曲目のダンスを終え、カインとアメリが2階から降りてくる。二人は互いに目を合わせながら楽しそうに会話を交わしていた。
もはや隠す気などないようだ。周囲の生徒達は、二人を見ながらひそひそとささやきき合っていた。
「やあ、ルーミア」
「ルーミア先輩、ごきげんよう」
「……カイン、それにアメリ」
二人はあらかじめ決めていたかのように、私の前で足を止めた。
カインはアメリの腰に手を回したまま、微笑む。
「今日はとても綺麗だね」
「……そうかしら、ありがとう」
私はぎこちなく微笑み返した。
カインはふっと真剣な顔になり、言った。
「実は今日、君にどうしても伝えたいことがあるんだ」
「何かしら?」
彼は迷わず、まっすぐ私の目を見て告げた。
「ルーミア、俺と婚約破棄してくれないか?」
「……」
「君と婚約破棄をして、アメリと結婚することにしたんだ」
そう言って、カインはアメリを愛おしそうに抱き寄せた。
私は黙って、二人の光景を見つめた。
数秒の沈黙の後、私は静かに口を開いた。
「そう」
「……ルーミア先輩?」
私の反応が想像していたものでは無いことに戸惑いを覚えたのだろう。アメリが私の反応を窺うように顔を覗き込む。
私はそんなアメリににっこりと微笑んだ。
「おめでとう、二人とも」
「え……」
これもまた想定外の反応だったらしい。私のあっさりとした態度に、アメリはきょろきょろと周りを見回す。
「どうかした?」
「いっ、いえ」
怯えた小動物のように視線を逸らすアメリ。
だが、すぐに思いついたようにカインを見上げ、その瞳に向けて言葉を紡ぐ。
「あ、あのカイン先輩……ルーミア先輩との婚約破棄だなんて、い、いくらなんでも酷すぎではありませんか? もしかして、私のせい……?」
あらまあ。見事な軌道修正だ。
自分は不本意でこの状況に巻き込まれている――そんな立ち位置を演じている。あくまで私を助けたいというスタンスとは、お見事である。
でも当然、カインはアメリを切り捨て、私の味方になるような男ではない。
カインは有無を言わさずに彼女を抱き寄せた。彼女の瞳につたう涙を指ですくう。
「アメリ、婚約破棄の件は気にしなくていい。君のせいじゃない。俺が君を本気で愛してしまったんだ」
「先輩……」
茶番だ。
ここ最近、私が悩んできたことは一体何だったのかと思わずにはいられないほどの茶番だった。開いた口が塞がらないとは正にこのこと。いよいよそんな二人に付き合うことさえ、馬鹿らしく思えてくる……これは二人の中でどれだけ計算されたお芝居なのかは知らないが、いい加減そろそろお開きにしたくなってきた。
「ごめんなさい、カイン先輩、ルーミア先輩」
カインの腕の中で、そう言いながらもちらりとアメリは私の姿を横目で確認していた。この余裕よ。安定の地位を得て安心しているのか、彼女の口元がどことなく緩んでいるのが目に映った。よかったわね、お望み通りで。もうすぐ終わるわよ。
「ふう」
私はため息を一つ吐いた。そして。
「ねえ、カイン」
「ん?」
「……別に婚約破棄も、貴方がアメリを愛してしまったことも、別に構わない、でもね。……ねえ、最後に一つだけ。教えてあげるわ」
「なんだい、ルーミア?」
不思議そうにカインが首をひねる。隣で同じようにアメリも首をひねった。
「貴方は……あの日のカップが割れた事件をきっかけに彼女に惹かれたようだけど」
「……ああ、そうだ」
彼は頷いた。その目には一点の曇りもない。本当にこの男、隠す気すら微塵も無いらしい。本当に心の底からアメリの事を想っているのだろう。なんとおめでたい。
でもそれならば、何を言っても大丈夫よね。
私は大きく息を吸い込んだ。そして……。
「本当にカップを割ったのは、私じゃなくてアメリよ」
私はすうっと右手人差し指をアメリへと向けた。まるで今まで我慢してきたことの全てを吐き出すかのように。
ほんの少しの静寂が訪れた。
カインが言葉の意味を頭で理解出来るようになったのは、それからもう少し後のことだった。
「……え? 待て。なんだって?」
カインは目を丸くする。「いやまさか」と小さく言葉を漏らした。
そして、ゆっくりと隣にいるアメリへ視線を向けた。
アメリもまた、目を大きく見開いて、固まったまま動けない。
「……」
「……」
言葉を失って呆然と立ち尽くす二人。
「な、何を……」
カインが口を開くが、私は遮る。
「仕方ないわね、それじゃ何度だって言ってあげるわ。あなたの大切なカップを割ったのは、私じゃなくて彼女よ。彼女が可哀想だから、代わりに私が庇っただけ」
「っ」
「……」
再び沈黙が訪れる。
肌で感じる。ああ、場が凍っているんだなと。
「な、何を……言っているんだ、君は……!」
「?」
「何を言いだすかと思えば、ルーミア、君という女性は……!」
怒声を上げるカイン。
彼に続くように、アメリが顔を覆って泣き出した。
「ルーミアさん、酷い……!」
悪役は完全に私だ。
「何を根拠にそんな話をするんだ!」
「そうですよ」
「根拠……ですか」
「ないだろ!」
「ないでしょ?」
こうして、彼らにとって都合のいい、断罪される舞台が整った……はずだった。
「あ、俺、見ました」
手を挙げたのはウィルだった。
「う、嘘よ! そんな言葉、誰でも……!」
「なんなら証拠もありますよ?」
ウィルが魔法を唱えると、空中に映像が浮かび上がった。
そこに映るのは、カップを壊して動揺しているアメリの姿。
「なん……で?」
「いやー記録を取るのが、書記の仕事なんで」
――いや、そこまでするのは書記の仕事じゃないだろ。
「アメリ、本当なのか?」
カインが問う。
「…………はい、私が割りました」
観念したように、アメリはがくりと膝をついた。
「アメリ……」
さて、彼女ばかりを悪者にするのも可愛そうだ。お次はカインの番である。
私は、呆然とするカインに向けてにこりと微笑む。
「さて、こんな時、なんて言うのかしら?」
「わ……」
「わ?」
「悪かった……」
「素直でよろしい」
素直に頭を下げるカイン。
これで、私の物語はおしまいだ――と思ったら。
「それで」
「ん?」
エンドロールが流れているにも関わらず、彼は再び話を続けた。
「何かしら」
「反省はしたんだ。婚約破棄の話は……無かったことに出来ないか?」
あら、まだ望みを捨てていなかったのね。
確かに名門のカインの家に嘘をつくような人間を迎えいれるわけにはいかない。ここは私とヨリを戻すのが最善の選択肢なんだろうけど。
「どうだろう?」
「……そうね」
私は真っすぐ、彼の瞳を見つめた。
「ごめんなさい。そっちのは予定通り、進めるわ」
===
あれから数日後の生徒会室。
今日も元気にウィルと机を磨いている。
「で、結局、婚約破棄したのに生徒会に残るって……やりづらくないの?」
「まあ、多少」
「多少って」
ウィルが苦笑いを浮かべる。
「そんなことよりあなたこそ、私がいなくなったら、やりづらくなるんじゃない?」
「……多少は」
「多少って」
そんな掛け合いをしていた時。
がしゃん。
部屋の奥から、何かが割れる音。
「どうする?」
「見に行きましょうか?」
私たちは、同時に口元を緩ませた。
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完結したお話を探して辿り着きました。短いですが、とても面白かったです♪
その後、ウィルとくっついたりするのでしょうか?それはそれで面白そうです☺
巡り巡ってようこそおいでくださいましたー!
しかも感想までいただけるとは、ありがとうございます!!
二人の関係が単なるコンビになるのかくっつくのか、この先お話が続いたらどちらに転ぶにせよきっと面白いことになるとは思いますね〜。