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勝手だろ」とでも言いたげに、自分の上司を下から睨みつけていた。
「そんなくだらん理由で休むバカがどこにいる! それも何度も何度も同じ理由で定期的に! そんなふざけた勤め方する奴なんか民間の会社にもいないぞ! お前にとって家族サービスは仕事より大事なことなのか! ええ⁉」
この日の湯浅は、周囲には酷く腹を立てているように見えた。
だが橋本はそれに対しても眉一つ動かさなかった。まるで自分の行いに罪悪感を覚えていない様子で、「最低限のノルマを達成したうえで権利を使っているのだから、いちいち赤の他人に口出しされる筋合いはない」とでも言いたげな表情を崩さなかった。バケツをひっくり返したような湯浅の言葉も、一キロ先の道路工事の音程度の、大して心に残らない人畜無害な雑音と同様のものとして受け止めているように、周囲の人間には見えていた。
だがそんな橋本のそっけない態度に呆れて引き下がるような真似は、今日の湯浅はしなかった。
自分は昨日、橋本がろうあ者の女と一緒にいるところを偶然目撃した、もしくはその目撃情報を誰かから聞かされた。だが自分はその光景、もしくは話を微塵も信じちゃいない。こいつは自分のことしか考えられない身勝手でいい加減な男で間違いない。こいつにそんな家族思いな一面があるわけない。
そんな心の中を周囲の人間に勘づかせている湯浅は、橋本への質問を同情のない取り調べへと変化させていった。
「本当にそんな妹居るのか」
湯浅が橋本の胸ぐらをつかみ、無理矢理席を立たせて問いただし始めた。それでも橋本は表情を変えない。
「そんな都合のいい妹が本当にいるのかって聞いてるんだ。本当はその辺の女はべらかして遊んでたんじゃないのか? それをうちの娘に見られたから、とっさにそんな嘘をついたんじゃないのか?」
「おい、湯浅君」
それまで黙って見ていた山下が、自分の席を立ち、その場から湯浅に声をかけた。
「さすがに言いすぎだって。橋本君が休みを取るのは、別にいつものことじゃないか」
だが湯浅の口は止まらない。頼れる同期にして自分の上司でもある男の言葉も無視して、橋本への尋問を続けていく。
「耳が聞こえない妹を可愛がる? 人のことなんか微塵も考えられないお前がそんなことしないことくらい、ここにいる全員が知ってるんだ。仲間が必死こいて仕事してる中、お前は一人で遊んでたんだよな? そうなんだろ!」
湯浅が橋本に精神的な揺さぶりをかける。
事の真相を人に話させるという行為は、容疑者に自白を取らせることを仕事にしている警察官の専売特許だった。当然その技術は、親や教師が子供に向かってする尋問とは格が
「そんなくだらん理由で休むバカがどこにいる! それも何度も何度も同じ理由で定期的に! そんなふざけた勤め方する奴なんか民間の会社にもいないぞ! お前にとって家族サービスは仕事より大事なことなのか! ええ⁉」
この日の湯浅は、周囲には酷く腹を立てているように見えた。
だが橋本はそれに対しても眉一つ動かさなかった。まるで自分の行いに罪悪感を覚えていない様子で、「最低限のノルマを達成したうえで権利を使っているのだから、いちいち赤の他人に口出しされる筋合いはない」とでも言いたげな表情を崩さなかった。バケツをひっくり返したような湯浅の言葉も、一キロ先の道路工事の音程度の、大して心に残らない人畜無害な雑音と同様のものとして受け止めているように、周囲の人間には見えていた。
だがそんな橋本のそっけない態度に呆れて引き下がるような真似は、今日の湯浅はしなかった。
自分は昨日、橋本がろうあ者の女と一緒にいるところを偶然目撃した、もしくはその目撃情報を誰かから聞かされた。だが自分はその光景、もしくは話を微塵も信じちゃいない。こいつは自分のことしか考えられない身勝手でいい加減な男で間違いない。こいつにそんな家族思いな一面があるわけない。
そんな心の中を周囲の人間に勘づかせている湯浅は、橋本への質問を同情のない取り調べへと変化させていった。
「本当にそんな妹居るのか」
湯浅が橋本の胸ぐらをつかみ、無理矢理席を立たせて問いただし始めた。それでも橋本は表情を変えない。
「そんな都合のいい妹が本当にいるのかって聞いてるんだ。本当はその辺の女はべらかして遊んでたんじゃないのか? それをうちの娘に見られたから、とっさにそんな嘘をついたんじゃないのか?」
「おい、湯浅君」
それまで黙って見ていた山下が、自分の席を立ち、その場から湯浅に声をかけた。
「さすがに言いすぎだって。橋本君が休みを取るのは、別にいつものことじゃないか」
だが湯浅の口は止まらない。頼れる同期にして自分の上司でもある男の言葉も無視して、橋本への尋問を続けていく。
「耳が聞こえない妹を可愛がる? 人のことなんか微塵も考えられないお前がそんなことしないことくらい、ここにいる全員が知ってるんだ。仲間が必死こいて仕事してる中、お前は一人で遊んでたんだよな? そうなんだろ!」
湯浅が橋本に精神的な揺さぶりをかける。
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