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Kapitel 02
神代の邪竜 03
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耀龍が発射した光線の着弾直後、凄まじい轟音と爆風が巻き起こって周囲を呑みこんだ。
標的から離れているアキラまで熱風が届いた。ヴィントはアキラを片腕に抱いて標的に背を向けた。自身を盾にして庇ったが、アキラにも衝撃波がビリビリと伝わった。怒濤の爆発音が、アキラの悲鳴すらも掻き消した。
局所貫徹型《徹砲》――――耀龍が麗祥のプログラムを解析・再構築した即席の攻性プログラム。エネルギーの分散を極力抑え、射程を狭く影響範囲を絞り、貫通力を増した代物だ。《徹砲》そのものでも膨大なエネルギー量によって射線上にあるものをことごとく消し去る。さらにその威力を強化したなら、独力で展開する牆壁では到底持ち堪えられまい。
それでも霜髪の怪物には致命傷とはならないと予測する。戦闘不能に至れば望ましい。それも高望みなら、手足の一本でも稼働不能となればよしとする。
「はっ、はっ、はあっ……」
滞空する耀龍は、身体を大きく上下させて呼吸しつつ、標的を見据えていた。着弾地点から煙が立ち上り、標的の姿はまだ目視できない。
予測どおりの結果となったのだろうか。期待と不安が入り混じる。幼い頃から並よりも聡く、秀でた実力を持っていたが故に、このように展開を案じることは慣れない感覚だった。
「耀龍様。お身体に支障ございませんか」
「縁花こそ、ネェベルごっそり使っちゃったけど大丈夫?」
「問題ありません」
言葉のとおり、縁花はいつもどおり平然としていた。
耀龍は本来、攻性プログラムを得手としない。プログラムそのものは麗祥から貸与され、原動力として縁花のネェベルを使用した。《徹砲》に必要なネェベル量は厖大であり、プログラム実行者ひとりでは数発が限度。耀龍はプログラムの技術や知識こそ習熟しているが、ネェベルの総量に於いて縁花のほうが上回る。故に、耀龍は縁花のネェベルを使用した。
プログラム実行者以外のネェベルを使用する場合、その受け渡しの際に損耗が生じ、通常よりも多くのネェベルが必要となる。縁花は他者に《徹砲》を発動するに足るネェベルを渡してもまだ顔色ひとつ変えないほどに、体質的にネェベルに恵まれていた。
アキラはいまだに煙が晴れない着弾地点を凝視し、小刻みに震えた。
「あ……あれ……ティエン、生きて……る?」
「ネェベル反応はあります」
ヴィントは煙に隠された標的を睨んだ。様々な可能性を逡巡したわけではなく、脅威に直面したシンプルな本能として、緊張が解けなかった。
耀龍と縁花は標的近くの地面に降り立った。充分に警戒しつつ近づいた。〝飛鱗〟は動作しないようだ。主人の意識がないからだろうか。
次第に煙が薄まって標的を目視できた。
霜髪の怪物は地面に仰向けの大の字で倒れていた。衣服は破れ、皮膚の一部が爛れたように見えた。想定内ではあるものの、《徹砲》を上回る威力を受けて形状を保っているのは、やはり驚異的な肉体の頑丈さだ。ルフトの斬撃が通らないのも頷ける。
耀龍は動かない怪物をしばらく観察したのち、はあ、と息を吐いた。
「麗にも手伝ってもらって拘束しよう。麗、動けるかな」
耀龍は麗祥のほうを振り向いた。
「耀龍様!」と縁花が声を上げた。
怪物の三叉の尾が地面から跳ね上がった。尾の先端が刃物のようにギラリと光って耀龍に襲いかかった。
完全に気を抜いていた。このタイミング、この間合い、牆壁の創出は間に合わない。距離が近すぎて回避することもできない。
ザシュウッ! ブシュッ! ドスンッ!
縁花は耀龍を押し退けた。三叉の尾は縁花の足や腕を切り裂き、腹部に突き刺さった。
「耀龍様! お逃げくだッ……」
ズガァンッ! ――いつの間にか起き上がっていた霜髪の怪物が、縁花の顔面を殴り飛ばした。
2メートルを超える巨体が吹き飛び、耀龍は咄嗟に縁花の行く先に目を奪われた。その隙に、黒い腕に首を捕まえられた。必死に身動きしてもびくともせず、足が地面を離れた。指が首にめりこんで気道を締めた。
「アッ……カハッ……カッ」
窒息させられるのが早いか、首を折られるのが早いか、どちらにせよ耀龍には体捌きで以て抵抗する術はなかった。
「ティエン、ダメーッ!」
アキラが叫ぶと、霜髪の怪物の意識がそちらへ向いた。耀龍の首を持って片腕で吊り上げたまま、アキラのほうへ顔を向けた。
カッキィンッ!
縁花は、耀龍の首を掴む霜髪の怪物の腕に刀剣を突き立てたが、表面の黒い鱗に弾かれてしまった。
(やはり通らん)
縁花は霜髪の怪物からの反撃を予想して構えた。
しかし、霜髪の怪物は耀龍から手を離した。自分を攻撃した縁花のことなど何も気にならない様子で、地面を蹴って目の前から消えた。
彼奴の関心の矛先は予測できた。縁花は「ヴィント!」と警戒を促した。
霜髪の怪物はヴィントの視界で消失し、再び現れた。そのときにはもう眼前にいた。
(ダメだ。何度でも消える! 追い切れないッ……)
霜髪の怪物は、ヴィントが構える刀身を素手で捕まえて握り締めた。ヴィントを得物ごと突き飛ばした。
自分を守ってくれる存在がいなくなったアキラは、霜髪の怪物と正面から対峙した。
紫水晶の眼光は、とても冷たく見えた。おそらく、手折らんほど握っていた素っ首が実の弟のものだと分かっていない。ティエンと呼びかけられて振り向いたのも、己のことだと認識してではない。自分と過ごした時間もそっくり忘れてしまったに違いない。
此処にいるのは、自分が知っている〝ティエン〟とは異なる存在。姿形が変容し、記憶を喪失し、人格も入れ替わってしまったなら、最早同一の存在であるはずがない。
会いたいと願った人は、もうこの世にいない。
――いない。いないんだ、どこにも。
もう二度と会えなくてもいいから、生きていてほしかった。
いや、本当は最後にもう一度だけ会いたい。強くて自信家でワガママで、でも優しくて……そんな在るが儘のキミに、会いたかった。
霜髪の怪物は手を天に掲げた。
アキラは、それが自分の首を掻き切ろうとする動作だと悟っても避けようとしなかった。
恋に心臓を捧げられるかと問われたとき、弟に世話が要る内は死ねないと思った。自分は家族のことを忘れて放り出すような無責任な人間ではないつもりでいた。しかし、実際に絶望してしまったらどうだ。もうどうとでもなれ。こんな世界、どうとでもなってしまえ。
会いたいと毎夜毎夜願った。何度も祈った。たったひとつの願いが叶わぬなら、現実など生きるにはつらすぎる。喪失感と寂寥感に溺れて息ができない。もう充分に耐えた自覚はある。もうこれ以上は耐えられない。もう、終わりにしたい。
ザクウッ! ――視界を一閃が切り裂いて血飛沫が舞い散った。
アキラが流した血ではなかった。縁花は霜髪の怪物の爪を手甲で受け止めた。強靱な爪はそれを打ち砕き、縁花の皮膚を裂いた。
縁花はアキラを抱えて上空に飛び上がり、霜髪の怪物から距離を取った。
「諦めてはいけません、姑娘。我が主は兄君の幸せを、兄君と貴女との再会を、お望みです。その望みを叶えられるのは貴女だけです。貴女の望みも同じはず。どうか最後まで諦めないでください」
「ユェンさん……それは……」
――そんなことを言ってもどうしようもないじゃないか。
最早、アキラには絶望しかなかった。自分ひとりがんばってもどうにもならないのに、諦めるなと鼓舞されるのはお門違いだ。自分が何か間違っているなら、何かやるべきことがあるなら、出し惜しみせずに教えてほしい。この命を懸けても構わないから。
「どうしたらいいんですか……。どうしたらっ……ティエンが戻ってくるんですか……ッ」
アキラは必死に言葉を絞り出した。縁花の衣服を握り締め、表情を歪めてどうにか涙を堪えた。
ヴオンッ、ヴンッ、ヴンッ。
霜髪の怪物が宙を軽く掻くように手を動かすと、数本の光の槍のようなものが生じた。
それらは、滞空している縁花に矛先を向け、一斉に発射された。
縁花は牆壁を展開して光の槍の直撃を防いだ。
次の瞬間には、再び光の槍が発射された。縁花はアキラを腕に抱いたまま中空を飛行してそれらを回避した。
霜髪の怪物は光の槍を間髪を空けず次々に創出しては、縁花目がけて発射した。
まさに無尽蔵のネェベル。息切れひとつ見てとれない。プログラムを起動実行するタイムラグさえもない。麗祥の言うとおり、彼の者にはプログラムという概念が必要ない。呼吸をするように当たり前にネェベルを恣意に扱える。
地表では、ルフトとヴィントが、霜髪の怪物を直接攻撃しようと試みるが〝飛鱗〟に邪魔をされて接近することさえ儘ならなかった。
耀龍は霜髪の怪物から解放されてすぐに麗祥の許へ向かった。麗祥の腹部の傷口を復元する為だ。
「すまないな、龍。すぐにでも縁花の加勢に行きたいだろうに……」
「縁花は大丈夫だよ。オレたちのなかで一番、戦闘能力も実戦経験もある」
「そうだな……。だから、アレは縁花と姑娘しか見ていない」
麗祥は額に脂汗を浮かべていた。耀龍が傷口を塞いでゆくにつれて楽になってはゆくが、腹を破られた衝撃は、貴族の令息には当然、慣れないものだった。
霜髪の怪物は、自身にとって最も滋養となるものと、脅威であるものとを、本能で分かっている。麗祥が観察する限り、彼奴が意識的に視線を向けたのは、そのふたつだけだ。それ以外のものは、彼奴にとって取るに足らないものだ。軽く手を振れば払い除けられる程度の虫螻と変わらない。
「これから……どうする、龍」
「いま考えてる」
「私の独自攻性プログラムも、私たちの最大火力である《徹砲》も効かなかった」
「効かなかったわけじゃない。ダメージは与えた。もう一度《徹砲》を実行すれば勝機はある」
「縁花は何発まで耐えられる。通常起動よりもお前を経由するほうが遙かにネェベルの消耗は激しいのだぞ」
「分かってる。縁花なら大丈夫」
「本当に保つのか。あの侍従は、お前の望みならば何でもやるぞ。文字どおり、己の命を懸けて。お前がやれと命じれば、命をすり減らしてネェベルを絞り出す。お前はそれでよいのか。お前の望みの為にあの侍従を失うことになったとして、惜しくはないのか」
「じゃあ天哥々を見捨てろって言うのかよッ」
耀龍は麗祥に向かって怒鳴った。その表情に冷静さはなかった。末っ子らしい楽天的気質は完全に鳴りを潜めた。
それほどまでに事態は切迫していた。どうする、いま考えている、などという問答は上辺だけのものだ。あの神代から蘇った霜髪の怪物を相手にするには、縁花を電池が如く消費するしか手立てがないことは分かり切っていた。
「違う。選べと言っているのだ。お前が最も大切にすべきものは何なのか……」
麗祥の傷口は、耀龍のお陰で塞がった。大量の血液を失った所為で疲労感や眩暈はあるが、自分の足で立つ体力は残っている。
麗祥は蹌踉めきながらも立ち上がった。霜髪の怪物へと目線を向けた。
「先ほどは《邪視》をあのままにしておけないと言ったが、私たちにできる策は尽きた。今は選択すべきときだ」
「ッ……そんな簡単に言うなよ。第一、オレが天哥々よりも縁花の命をとったらどうするつもり」
麗祥は、心配ないさ、とでも言うように微笑んだ。
「そのときは私ひとりで天哥々をお救いするまで。私にはお前の侍従のような者はいないのでな」
霜髪の怪物は光の槍を上空へ打ち上げると同時に、地面を蹴って高く跳び上がった。縁花の高度よりも高く跳び、降り注ぐ光の槍とともに縁花目がけて急降下。縁花の牆壁は光の槍を相殺したが、霜髪の怪物はその間隙を縫って縁花に襲いかかった。
縁花は黒曜石の爪を刀剣で受け止め、弾き返した。
霜髪の怪物は空中でくるりと身を翻し、足の爪を縁花の肩にかけた。
ジャギィイッ!
縁花の胴体は袈裟切りに大きく切り裂かれた。
「ユェンさん!」「縁花ッ‼」
アキラの悲鳴のような声が谺した。耀龍の顔面は一気に蒼白。
縁花の体躯がぐらりと斜めに傾き、真っ赤な血液が雨のように地表に降り注いだ。
霜髪の怪物はいまだ宙にある縁花を足場にして高く飛び上がった。手の平を天に突き上げると、自身よりも大きな白球が生じた。
あれは《徹砲》レベルの威力がある、と耀龍と麗祥は瞬時に察知した。
耀龍は中空に飛び上がり、霜髪の怪物と縁花の間に割って入った。多重の牆壁を展開した。急造の物理牆壁だ。あの白球の威力に耐え得るかは分からない。しかし、何もせずに見ているわけにはいかなかった。敬愛する兄と天秤にかけて迷うくらいには、この侍従を失いがたく思っているのだから。
キラッ。――霜髪の怪物の背後で何かが赤く輝いた。
彼奴が手に翳す白球の目映さにも負けぬその輝きは、一瞬の内に視界を駆け抜けた。
ズドォォオオーーンッ!
赤い彗星が天から降ってきて霜髪の怪物を射止めて地表に突き刺さった。
耀龍と麗祥は、霜髪の怪物の墜落地点を見て目を瞠った。
彼らの父親――赫=ニーズヘクルメギルの族長――赫暁自らがその場にいた。自身の背丈ほどもある大剣を振り下ろした恰好で、怪物の三叉の尾を根元から切断していた。
クッハハハハハーッ、と赫暁は愉快そうな笑い声を漏らした。
「ハッ。これならば鋼の鱗も斬れるか。流石は《大剣グラム》よ。綾を親父殿の許まで走らせた甲斐があるというものだ」
赫暁は地面に突き刺さった大剣を片手でヒョイと持ち上げて肩に担いだ。
赫暁と霜髪の怪物は、互いを牽制し合うように視線をかち合わせて睨み合った。
霜髪の怪物は、関心のあるものにしか目を留めない。おそらく、この場で最も脅威たり得る存在は、立ちはだかる偉丈夫だと見抜いた。
「己を犠牲にして侍従を庇うなど感心せんな、耀龍」
縁花を背にして滞空する耀龍の頭上に、よく知った声が降ってきた。
耀龍は顔を引き上げてその人物を見上げた。
「一大哥」
赫一瑪はスーッと耀龍と同じ高度まで降りてきた。耀龍と麗祥を数秒ずつ無言で観察した。
大事ないか、という一言も無かった。怒っているのか惘れているのかさえも分からない。相変わらず、同じ母親の腹から生まれた弟である耀龍でさえ、表情から感情を読み取れない。純粋に愚弟の心配をするような人でないことは分かりきっているけれど。
「どうしてここに」
「お前たちとてここに辿り着いたのだ。父上に辿り着けぬわけがあるまい」
「じゃあ父様は、天哥々がここに閉じこめられてるって知ってたってこと?」
「ああ。天尊が目覚めぬこともな」
「それも分かってて放っておいたのッ?」
赫一瑪の周囲に巡らされた視線が、耀龍のほうを向いて停止した。耀龍を通り越し、縁花の腕に抱かれるアキラに届いた。
「〝鍵〟はお前が持っている」
「アキラか……」
耀龍は、自分は父と兄の手の平の上で踊らされていたのだと悟った。
自分と麗祥は自ら手掛かりを掴んでこの場に辿り着いたつもりだったが、その実、《邪視》と《オプファル》を引き合わせる役目を知らず知らずの内に負わされていた。
父と兄はいつから事態を把握し、画策していたのだろうか。天尊が連行されてすぐか、拘禁期間の完了時か、耀龍がアキラを保護したときか。父と兄が、用がなければ訪れることがない耀龍の館で、アキラと遭遇したのもきっと故意だ。父の部屋に盗聴器を仕掛けたこともバレているのかもしれない。その上で、素知らぬ顔をして食いつきそうな情報を流した。
耀龍は率直に悔しかった。甘く見られていると思った。しかし、怒りよりも、その計略を見抜けなかった自身を恥じた。父と兄、この世で最も栄華を誇る一族を統べる族長とその補佐、彼の者たちの慎重さと狡猾さを見誤った。
「とはいえ、《邪視》がああも自由になったのは想定外だ。《邪視》を意の儘に御そうなど、先代も浅慮なことを」
赫一瑪は天に向かってスッと手を挙げた。
ボンッ! ――赫一瑪の頭上に自身よりも大きな火球が生じた。
耀龍と麗祥は、火球に目を見開いた。それを放つのは、牽制が目的とは思えなかった。目標物を完全に焼き払う為の火力。耀龍と麗祥は霜髪の怪物に対して本気で立ち向かわねばと心を決めたが、それは縁花の助言があったからだ。しかし、赫一瑪は最初から一切の躊躇がない。
「一大哥! やめッ……」
耀龍の制止は間に合わず、赫一瑪は手を振り下ろした。火球は地上にいる霜髪の怪物目がけて急降下。
それと同時に赫暁はタンッと地を蹴って宙に飛び上がった。
ゴォォオオオオオッ!
火球は霜髪の怪物を呑みこんだ。まるであらかじめ油が撒かれていたかのように一気に地表や樹木を焼き、火柱を上げて囂々と燃え盛る。
赫暁は赫一瑪たちとほぼ同じ高度に上がってきた。
その視点は霜髪の怪物に固定していた。この男には、あの火焔に焼かれてどのような結果になるか予想できた。火焔のなかにあって一向に朽ちない黒い人影を目視し、予想どおりだと余裕の笑みを浮かべた。
「加減したか?」と赫暁が赫一瑪に尋ねた。
「いいえ」
「お前の火力をものともせんか。以前よりも格段に手強くなったと考えていい。今回は俺の腕一本程度で済めば上々だな」
「父上が腕を差し出すと仰有るなら、先んじて私が同じものを差し出します。それが、族長補佐の務めであり、長子の務めです」
「あまり背負うな。お前に何かあると俺がお前の母上に顔向けできん」
ハハハッ、と赫暁は笑い飛ばした。
ヴオンッ、ヴンッ、ヴンッ。
いまだ燃え盛る火焔のなかに在る黒い人影の頭上に、いくつもの光の槍が生まれた。先ほど縁花に向けられたものが、赫暁たちへと矛先を向ける。
赫暁が人影のほうへ急発進するとほぼ同時に、光の槍が発射された。
赫暁は光の槍へと真っ向から突き進んだ。
バジンッ! ドンッ、バジンッ、バジンッ! ――大剣を振り回して光の槍を薙いですべて掻き消した。
地表に突き刺さるように着地して大剣を振り下ろした。
ズドォオンッ! ――斬撃の威力で地面が割れ、火焔をも割いた。
火焔が晴れて姿を現した黒い人影の正体は、やはり霜髪の怪物。赫暁を凝視して歯を剥き出しにして笑った。
人語を解さない怪物が、初めて表情に感情を表出させた。それはおそらくは、享楽。
「お前たちはどれほど動ける」
赫一瑪は地表にいる赫暁を注視しつつ、耀龍と麗祥へ尋ねた。
耀龍の顔色には疲労が滲んでおり、麗祥は腹部を攻撃された際に衣服が破れていた。この兄が尋ねたのは自分たちの身を案じたわけではないことは、彼らも理解していた。戦力の正確な把握が目的だ。
「ほぼ当たり前に動けるよ。オレは大したケガしてないし、麗の負傷は治したから」
「ではお前たちでアレの足留めを。私が相手をする。お前たちでは手緩い。アレはお前たち程度が本気になったところで死なん」
耀龍は、赫一瑪の口振りに嫌な予感がした。実の弟から見ても、感情が読み取れない、冷淡な人だ。一族の名誉や利益の為ならば、親兄弟も躊躇なく切り捨ててしまうのではないかという気がした。
「オレたち、一大哥に協力するなんて言ってないよ」
赫一瑪は耀龍へと目線を向けた。甘ったれの末弟がはっきりと反抗したのは少々意外だった。
麗祥が「龍ッ」と咄嗟に諫めたが、耀龍は閉口しなかった。
父・族長に次ぐ権力者である長兄に物申すなど、下から数えたほうが早い弟たちには大それたことだ。長兄と彼らには親子に近いほどの年齢差があり、影響力の大小はそれ以上の格差だ。
麗祥などは天尊に対するのと同様に長兄を敬愛しており、面と向かって逆らうことなど考えたこともない。
「協力を拒否するわけじゃない。父様と一大哥が《邪視》をどうするつもりか分からない。だから確約が欲しい。天哥々を殺さないって約束して」
耀龍の目は真剣そのものだった。これは交渉ではない、懇願だ。大好きな兄を殺さないでくれと必死に乞うている。
耀龍自身も、自分と赫一瑪の間で交渉が成立しないことは理解している。赫一瑪が求めるものは、一時の助力だ。それがあれば仕事がやりやすくなるという程度の要求だ。耀龍が協力を拒んだとて、霜髪の怪物を排除すると決心すれば迷いなくそうする。
耀龍は、赫一瑪が甘えを許してくれる優しい兄ではないと知っていても、懇願するしかなかった。
「愚かな。殺すつもりならアレが幼い頃にとうにそうしている」
赫一瑪は目線を、耀龍から足許へと移した。
「我らが父上は、我が子に手をかけるなどなさらぬ、決して」
赫一瑪の足許、そのさらに先、地上では赫暁と霜髪の怪物が互いの得物を交叉させていた。
ガギンッ、カキン、カキィンッ! ――硬質な剣戟の響き。
霜髪の怪物は目にも留まらぬ攻撃を繰り出したが、赫暁は大剣を振り回してものともしなかった。大剣の重量を感じさせない動作の軽やかさ、リズムを刻んでいるかのような足捌き、遊興遊戯に興じているようでさえあった。
「カカカカッ」
赫暁は絶えず愉快そうな笑い声を上げた。
「なんと楽しそうに……。あのように凶悪な怪物を相手にしているというのに」
赫暁と霜髪の怪物の交叉を見ていたルフトとヴィントは、呆気に取られた。彼奴と対峙すれば目で追うこともできず、ただの一撃を喰らわされないよう必死だった。自分たちの我武者羅が莫迦らしくなりそうなほど、赫暁は楽しげに見えた。
赫=ニーズヘクルメギルは、今でこそエインヘリヤルに劣らぬ武力を有すと言われるが、もとはといえば武門の一族。そのなかでも当代族長・赫暁は最高と称される武人のひとりだ。ルフトとヴィントは、已むに已まれぬ事由によって仕方なく武器を取った自分たちとは、明白に格が違う才能と武技に半ば見惚れた。
(動きは鋭いが獣と変わらんな)
赫暁は、五兄弟の内、天尊には最も熱心に武術を指導した自覚がある。その甲斐あって、天尊は幼い頃から武技の才に突出し、長じて優秀な戦士となった。《雷鎚》と賞賛されるまでに至った。
しかしながら、霜髪の怪物には、教えこんだ武技の名残はなかった。肉体の強靱さに任せて本能の儘に眼前の敵を滅ぼさんと鋭利な爪を振り回すばかり。天尊の武芸の師であり自身も高名な武人である赫暁には、動物的な攻撃を回避して往なすのは決して不可能ではなかった。
無尽蔵なネェベルは確かに恐るべきものであるが、効果的な場面で発揮されてこそ大きな意味を持つ。霜髪の怪物に自身の能力を戦術的に活用する術があるとは考え難い。
赫暁が思索していると、視界の外で何かが空を切る音がした。本能的に回避すべきだと判断して身体を捻った。
正体は三叉の尾のひとつだった。切断したはずのそれは霜髪の怪物に繋がっていた。
「もう再生したかッ」
赫暁はやや体勢を崩した。その隙を突いて霜髪の怪物は、赫暁の大剣を握る腕を足でダンッと古城の外壁に踏みつけた。
赫暁は大剣から手を離した。落下した大剣の腹を蹴り上げ、自由なほうの腕で大剣の柄を掴み取った。
ザンッ! ――霜髪の怪物の脚は、下から撥ね上げるようにして切断された。
霜髪の怪物はぐらりと体勢を崩した。
ガッチャアンッ!
――《黒轄》
霜髪の怪物は黒いコの字型の飛来物によって身体を挟まれてその場に固定された。
それを為したのは耀龍と麗祥。ふたりは霜髪の怪物を中心に左右に分かれて同時にプログラムを起動した。
ふたりがかりの多重の拘束。内部プロテクトを何重にも施した。先ほどのように触れるだけで瞬時に解析・解除などできないはずだ。
霜髪の怪物は反射的に身動ぎしたが黒い枷が弾け飛ぶことはなかった。
やるじゃないか、と赫暁は賞賛して宙に飛び上がった。
耀龍と麗祥も拘束を維持したまま上空に飛翔した。
拘束された霜髪の怪物は、三人を目で追って空を見上げた。そこで目を瞠った。
巨大な火焔の輪が、揺らめきながら車輪のようにぐるぐると回っていた。空や雲を濛々と焦がしているかのようだった。広大な空をまるで夕焼けのように朱に染め上げる火輪を、赫一瑪は背負っていた。
「一切灰燼――――《第十八歌》」
巨大な火輪は天空でほどけて広がり、水の溜まった膜を突いて破ったかのように、夥しい大火が一斉に地上に降り注いだ。
大火は地表に広がって霜髪の怪物ごと古城も森林の一角も呑みこんだ。それを遮るものなど存在しなかった。呑みこまれた物質は途轍もない火焔と熱量によって、悉く黒炭と化した。或いは蒸発して消えてなくなった。ありとあらゆる有機物は死滅した。自然厳しくも緑豊かだった森林は辺り一面真っ黒と化し、古城はまるごと焼かれ、焦げたケーキのように朽ち果てた。
熒閂の最新話はクロスフォリオにて先行公開( https://xfolio.jp/portfolio/ke1sen/series/1023833 )
標的から離れているアキラまで熱風が届いた。ヴィントはアキラを片腕に抱いて標的に背を向けた。自身を盾にして庇ったが、アキラにも衝撃波がビリビリと伝わった。怒濤の爆発音が、アキラの悲鳴すらも掻き消した。
局所貫徹型《徹砲》――――耀龍が麗祥のプログラムを解析・再構築した即席の攻性プログラム。エネルギーの分散を極力抑え、射程を狭く影響範囲を絞り、貫通力を増した代物だ。《徹砲》そのものでも膨大なエネルギー量によって射線上にあるものをことごとく消し去る。さらにその威力を強化したなら、独力で展開する牆壁では到底持ち堪えられまい。
それでも霜髪の怪物には致命傷とはならないと予測する。戦闘不能に至れば望ましい。それも高望みなら、手足の一本でも稼働不能となればよしとする。
「はっ、はっ、はあっ……」
滞空する耀龍は、身体を大きく上下させて呼吸しつつ、標的を見据えていた。着弾地点から煙が立ち上り、標的の姿はまだ目視できない。
予測どおりの結果となったのだろうか。期待と不安が入り混じる。幼い頃から並よりも聡く、秀でた実力を持っていたが故に、このように展開を案じることは慣れない感覚だった。
「耀龍様。お身体に支障ございませんか」
「縁花こそ、ネェベルごっそり使っちゃったけど大丈夫?」
「問題ありません」
言葉のとおり、縁花はいつもどおり平然としていた。
耀龍は本来、攻性プログラムを得手としない。プログラムそのものは麗祥から貸与され、原動力として縁花のネェベルを使用した。《徹砲》に必要なネェベル量は厖大であり、プログラム実行者ひとりでは数発が限度。耀龍はプログラムの技術や知識こそ習熟しているが、ネェベルの総量に於いて縁花のほうが上回る。故に、耀龍は縁花のネェベルを使用した。
プログラム実行者以外のネェベルを使用する場合、その受け渡しの際に損耗が生じ、通常よりも多くのネェベルが必要となる。縁花は他者に《徹砲》を発動するに足るネェベルを渡してもまだ顔色ひとつ変えないほどに、体質的にネェベルに恵まれていた。
アキラはいまだに煙が晴れない着弾地点を凝視し、小刻みに震えた。
「あ……あれ……ティエン、生きて……る?」
「ネェベル反応はあります」
ヴィントは煙に隠された標的を睨んだ。様々な可能性を逡巡したわけではなく、脅威に直面したシンプルな本能として、緊張が解けなかった。
耀龍と縁花は標的近くの地面に降り立った。充分に警戒しつつ近づいた。〝飛鱗〟は動作しないようだ。主人の意識がないからだろうか。
次第に煙が薄まって標的を目視できた。
霜髪の怪物は地面に仰向けの大の字で倒れていた。衣服は破れ、皮膚の一部が爛れたように見えた。想定内ではあるものの、《徹砲》を上回る威力を受けて形状を保っているのは、やはり驚異的な肉体の頑丈さだ。ルフトの斬撃が通らないのも頷ける。
耀龍は動かない怪物をしばらく観察したのち、はあ、と息を吐いた。
「麗にも手伝ってもらって拘束しよう。麗、動けるかな」
耀龍は麗祥のほうを振り向いた。
「耀龍様!」と縁花が声を上げた。
怪物の三叉の尾が地面から跳ね上がった。尾の先端が刃物のようにギラリと光って耀龍に襲いかかった。
完全に気を抜いていた。このタイミング、この間合い、牆壁の創出は間に合わない。距離が近すぎて回避することもできない。
ザシュウッ! ブシュッ! ドスンッ!
縁花は耀龍を押し退けた。三叉の尾は縁花の足や腕を切り裂き、腹部に突き刺さった。
「耀龍様! お逃げくだッ……」
ズガァンッ! ――いつの間にか起き上がっていた霜髪の怪物が、縁花の顔面を殴り飛ばした。
2メートルを超える巨体が吹き飛び、耀龍は咄嗟に縁花の行く先に目を奪われた。その隙に、黒い腕に首を捕まえられた。必死に身動きしてもびくともせず、足が地面を離れた。指が首にめりこんで気道を締めた。
「アッ……カハッ……カッ」
窒息させられるのが早いか、首を折られるのが早いか、どちらにせよ耀龍には体捌きで以て抵抗する術はなかった。
「ティエン、ダメーッ!」
アキラが叫ぶと、霜髪の怪物の意識がそちらへ向いた。耀龍の首を持って片腕で吊り上げたまま、アキラのほうへ顔を向けた。
カッキィンッ!
縁花は、耀龍の首を掴む霜髪の怪物の腕に刀剣を突き立てたが、表面の黒い鱗に弾かれてしまった。
(やはり通らん)
縁花は霜髪の怪物からの反撃を予想して構えた。
しかし、霜髪の怪物は耀龍から手を離した。自分を攻撃した縁花のことなど何も気にならない様子で、地面を蹴って目の前から消えた。
彼奴の関心の矛先は予測できた。縁花は「ヴィント!」と警戒を促した。
霜髪の怪物はヴィントの視界で消失し、再び現れた。そのときにはもう眼前にいた。
(ダメだ。何度でも消える! 追い切れないッ……)
霜髪の怪物は、ヴィントが構える刀身を素手で捕まえて握り締めた。ヴィントを得物ごと突き飛ばした。
自分を守ってくれる存在がいなくなったアキラは、霜髪の怪物と正面から対峙した。
紫水晶の眼光は、とても冷たく見えた。おそらく、手折らんほど握っていた素っ首が実の弟のものだと分かっていない。ティエンと呼びかけられて振り向いたのも、己のことだと認識してではない。自分と過ごした時間もそっくり忘れてしまったに違いない。
此処にいるのは、自分が知っている〝ティエン〟とは異なる存在。姿形が変容し、記憶を喪失し、人格も入れ替わってしまったなら、最早同一の存在であるはずがない。
会いたいと願った人は、もうこの世にいない。
――いない。いないんだ、どこにも。
もう二度と会えなくてもいいから、生きていてほしかった。
いや、本当は最後にもう一度だけ会いたい。強くて自信家でワガママで、でも優しくて……そんな在るが儘のキミに、会いたかった。
霜髪の怪物は手を天に掲げた。
アキラは、それが自分の首を掻き切ろうとする動作だと悟っても避けようとしなかった。
恋に心臓を捧げられるかと問われたとき、弟に世話が要る内は死ねないと思った。自分は家族のことを忘れて放り出すような無責任な人間ではないつもりでいた。しかし、実際に絶望してしまったらどうだ。もうどうとでもなれ。こんな世界、どうとでもなってしまえ。
会いたいと毎夜毎夜願った。何度も祈った。たったひとつの願いが叶わぬなら、現実など生きるにはつらすぎる。喪失感と寂寥感に溺れて息ができない。もう充分に耐えた自覚はある。もうこれ以上は耐えられない。もう、終わりにしたい。
ザクウッ! ――視界を一閃が切り裂いて血飛沫が舞い散った。
アキラが流した血ではなかった。縁花は霜髪の怪物の爪を手甲で受け止めた。強靱な爪はそれを打ち砕き、縁花の皮膚を裂いた。
縁花はアキラを抱えて上空に飛び上がり、霜髪の怪物から距離を取った。
「諦めてはいけません、姑娘。我が主は兄君の幸せを、兄君と貴女との再会を、お望みです。その望みを叶えられるのは貴女だけです。貴女の望みも同じはず。どうか最後まで諦めないでください」
「ユェンさん……それは……」
――そんなことを言ってもどうしようもないじゃないか。
最早、アキラには絶望しかなかった。自分ひとりがんばってもどうにもならないのに、諦めるなと鼓舞されるのはお門違いだ。自分が何か間違っているなら、何かやるべきことがあるなら、出し惜しみせずに教えてほしい。この命を懸けても構わないから。
「どうしたらいいんですか……。どうしたらっ……ティエンが戻ってくるんですか……ッ」
アキラは必死に言葉を絞り出した。縁花の衣服を握り締め、表情を歪めてどうにか涙を堪えた。
ヴオンッ、ヴンッ、ヴンッ。
霜髪の怪物が宙を軽く掻くように手を動かすと、数本の光の槍のようなものが生じた。
それらは、滞空している縁花に矛先を向け、一斉に発射された。
縁花は牆壁を展開して光の槍の直撃を防いだ。
次の瞬間には、再び光の槍が発射された。縁花はアキラを腕に抱いたまま中空を飛行してそれらを回避した。
霜髪の怪物は光の槍を間髪を空けず次々に創出しては、縁花目がけて発射した。
まさに無尽蔵のネェベル。息切れひとつ見てとれない。プログラムを起動実行するタイムラグさえもない。麗祥の言うとおり、彼の者にはプログラムという概念が必要ない。呼吸をするように当たり前にネェベルを恣意に扱える。
地表では、ルフトとヴィントが、霜髪の怪物を直接攻撃しようと試みるが〝飛鱗〟に邪魔をされて接近することさえ儘ならなかった。
耀龍は霜髪の怪物から解放されてすぐに麗祥の許へ向かった。麗祥の腹部の傷口を復元する為だ。
「すまないな、龍。すぐにでも縁花の加勢に行きたいだろうに……」
「縁花は大丈夫だよ。オレたちのなかで一番、戦闘能力も実戦経験もある」
「そうだな……。だから、アレは縁花と姑娘しか見ていない」
麗祥は額に脂汗を浮かべていた。耀龍が傷口を塞いでゆくにつれて楽になってはゆくが、腹を破られた衝撃は、貴族の令息には当然、慣れないものだった。
霜髪の怪物は、自身にとって最も滋養となるものと、脅威であるものとを、本能で分かっている。麗祥が観察する限り、彼奴が意識的に視線を向けたのは、そのふたつだけだ。それ以外のものは、彼奴にとって取るに足らないものだ。軽く手を振れば払い除けられる程度の虫螻と変わらない。
「これから……どうする、龍」
「いま考えてる」
「私の独自攻性プログラムも、私たちの最大火力である《徹砲》も効かなかった」
「効かなかったわけじゃない。ダメージは与えた。もう一度《徹砲》を実行すれば勝機はある」
「縁花は何発まで耐えられる。通常起動よりもお前を経由するほうが遙かにネェベルの消耗は激しいのだぞ」
「分かってる。縁花なら大丈夫」
「本当に保つのか。あの侍従は、お前の望みならば何でもやるぞ。文字どおり、己の命を懸けて。お前がやれと命じれば、命をすり減らしてネェベルを絞り出す。お前はそれでよいのか。お前の望みの為にあの侍従を失うことになったとして、惜しくはないのか」
「じゃあ天哥々を見捨てろって言うのかよッ」
耀龍は麗祥に向かって怒鳴った。その表情に冷静さはなかった。末っ子らしい楽天的気質は完全に鳴りを潜めた。
それほどまでに事態は切迫していた。どうする、いま考えている、などという問答は上辺だけのものだ。あの神代から蘇った霜髪の怪物を相手にするには、縁花を電池が如く消費するしか手立てがないことは分かり切っていた。
「違う。選べと言っているのだ。お前が最も大切にすべきものは何なのか……」
麗祥の傷口は、耀龍のお陰で塞がった。大量の血液を失った所為で疲労感や眩暈はあるが、自分の足で立つ体力は残っている。
麗祥は蹌踉めきながらも立ち上がった。霜髪の怪物へと目線を向けた。
「先ほどは《邪視》をあのままにしておけないと言ったが、私たちにできる策は尽きた。今は選択すべきときだ」
「ッ……そんな簡単に言うなよ。第一、オレが天哥々よりも縁花の命をとったらどうするつもり」
麗祥は、心配ないさ、とでも言うように微笑んだ。
「そのときは私ひとりで天哥々をお救いするまで。私にはお前の侍従のような者はいないのでな」
霜髪の怪物は光の槍を上空へ打ち上げると同時に、地面を蹴って高く跳び上がった。縁花の高度よりも高く跳び、降り注ぐ光の槍とともに縁花目がけて急降下。縁花の牆壁は光の槍を相殺したが、霜髪の怪物はその間隙を縫って縁花に襲いかかった。
縁花は黒曜石の爪を刀剣で受け止め、弾き返した。
霜髪の怪物は空中でくるりと身を翻し、足の爪を縁花の肩にかけた。
ジャギィイッ!
縁花の胴体は袈裟切りに大きく切り裂かれた。
「ユェンさん!」「縁花ッ‼」
アキラの悲鳴のような声が谺した。耀龍の顔面は一気に蒼白。
縁花の体躯がぐらりと斜めに傾き、真っ赤な血液が雨のように地表に降り注いだ。
霜髪の怪物はいまだ宙にある縁花を足場にして高く飛び上がった。手の平を天に突き上げると、自身よりも大きな白球が生じた。
あれは《徹砲》レベルの威力がある、と耀龍と麗祥は瞬時に察知した。
耀龍は中空に飛び上がり、霜髪の怪物と縁花の間に割って入った。多重の牆壁を展開した。急造の物理牆壁だ。あの白球の威力に耐え得るかは分からない。しかし、何もせずに見ているわけにはいかなかった。敬愛する兄と天秤にかけて迷うくらいには、この侍従を失いがたく思っているのだから。
キラッ。――霜髪の怪物の背後で何かが赤く輝いた。
彼奴が手に翳す白球の目映さにも負けぬその輝きは、一瞬の内に視界を駆け抜けた。
ズドォォオオーーンッ!
赤い彗星が天から降ってきて霜髪の怪物を射止めて地表に突き刺さった。
耀龍と麗祥は、霜髪の怪物の墜落地点を見て目を瞠った。
彼らの父親――赫=ニーズヘクルメギルの族長――赫暁自らがその場にいた。自身の背丈ほどもある大剣を振り下ろした恰好で、怪物の三叉の尾を根元から切断していた。
クッハハハハハーッ、と赫暁は愉快そうな笑い声を漏らした。
「ハッ。これならば鋼の鱗も斬れるか。流石は《大剣グラム》よ。綾を親父殿の許まで走らせた甲斐があるというものだ」
赫暁は地面に突き刺さった大剣を片手でヒョイと持ち上げて肩に担いだ。
赫暁と霜髪の怪物は、互いを牽制し合うように視線をかち合わせて睨み合った。
霜髪の怪物は、関心のあるものにしか目を留めない。おそらく、この場で最も脅威たり得る存在は、立ちはだかる偉丈夫だと見抜いた。
「己を犠牲にして侍従を庇うなど感心せんな、耀龍」
縁花を背にして滞空する耀龍の頭上に、よく知った声が降ってきた。
耀龍は顔を引き上げてその人物を見上げた。
「一大哥」
赫一瑪はスーッと耀龍と同じ高度まで降りてきた。耀龍と麗祥を数秒ずつ無言で観察した。
大事ないか、という一言も無かった。怒っているのか惘れているのかさえも分からない。相変わらず、同じ母親の腹から生まれた弟である耀龍でさえ、表情から感情を読み取れない。純粋に愚弟の心配をするような人でないことは分かりきっているけれど。
「どうしてここに」
「お前たちとてここに辿り着いたのだ。父上に辿り着けぬわけがあるまい」
「じゃあ父様は、天哥々がここに閉じこめられてるって知ってたってこと?」
「ああ。天尊が目覚めぬこともな」
「それも分かってて放っておいたのッ?」
赫一瑪の周囲に巡らされた視線が、耀龍のほうを向いて停止した。耀龍を通り越し、縁花の腕に抱かれるアキラに届いた。
「〝鍵〟はお前が持っている」
「アキラか……」
耀龍は、自分は父と兄の手の平の上で踊らされていたのだと悟った。
自分と麗祥は自ら手掛かりを掴んでこの場に辿り着いたつもりだったが、その実、《邪視》と《オプファル》を引き合わせる役目を知らず知らずの内に負わされていた。
父と兄はいつから事態を把握し、画策していたのだろうか。天尊が連行されてすぐか、拘禁期間の完了時か、耀龍がアキラを保護したときか。父と兄が、用がなければ訪れることがない耀龍の館で、アキラと遭遇したのもきっと故意だ。父の部屋に盗聴器を仕掛けたこともバレているのかもしれない。その上で、素知らぬ顔をして食いつきそうな情報を流した。
耀龍は率直に悔しかった。甘く見られていると思った。しかし、怒りよりも、その計略を見抜けなかった自身を恥じた。父と兄、この世で最も栄華を誇る一族を統べる族長とその補佐、彼の者たちの慎重さと狡猾さを見誤った。
「とはいえ、《邪視》がああも自由になったのは想定外だ。《邪視》を意の儘に御そうなど、先代も浅慮なことを」
赫一瑪は天に向かってスッと手を挙げた。
ボンッ! ――赫一瑪の頭上に自身よりも大きな火球が生じた。
耀龍と麗祥は、火球に目を見開いた。それを放つのは、牽制が目的とは思えなかった。目標物を完全に焼き払う為の火力。耀龍と麗祥は霜髪の怪物に対して本気で立ち向かわねばと心を決めたが、それは縁花の助言があったからだ。しかし、赫一瑪は最初から一切の躊躇がない。
「一大哥! やめッ……」
耀龍の制止は間に合わず、赫一瑪は手を振り下ろした。火球は地上にいる霜髪の怪物目がけて急降下。
それと同時に赫暁はタンッと地を蹴って宙に飛び上がった。
ゴォォオオオオオッ!
火球は霜髪の怪物を呑みこんだ。まるであらかじめ油が撒かれていたかのように一気に地表や樹木を焼き、火柱を上げて囂々と燃え盛る。
赫暁は赫一瑪たちとほぼ同じ高度に上がってきた。
その視点は霜髪の怪物に固定していた。この男には、あの火焔に焼かれてどのような結果になるか予想できた。火焔のなかにあって一向に朽ちない黒い人影を目視し、予想どおりだと余裕の笑みを浮かべた。
「加減したか?」と赫暁が赫一瑪に尋ねた。
「いいえ」
「お前の火力をものともせんか。以前よりも格段に手強くなったと考えていい。今回は俺の腕一本程度で済めば上々だな」
「父上が腕を差し出すと仰有るなら、先んじて私が同じものを差し出します。それが、族長補佐の務めであり、長子の務めです」
「あまり背負うな。お前に何かあると俺がお前の母上に顔向けできん」
ハハハッ、と赫暁は笑い飛ばした。
ヴオンッ、ヴンッ、ヴンッ。
いまだ燃え盛る火焔のなかに在る黒い人影の頭上に、いくつもの光の槍が生まれた。先ほど縁花に向けられたものが、赫暁たちへと矛先を向ける。
赫暁が人影のほうへ急発進するとほぼ同時に、光の槍が発射された。
赫暁は光の槍へと真っ向から突き進んだ。
バジンッ! ドンッ、バジンッ、バジンッ! ――大剣を振り回して光の槍を薙いですべて掻き消した。
地表に突き刺さるように着地して大剣を振り下ろした。
ズドォオンッ! ――斬撃の威力で地面が割れ、火焔をも割いた。
火焔が晴れて姿を現した黒い人影の正体は、やはり霜髪の怪物。赫暁を凝視して歯を剥き出しにして笑った。
人語を解さない怪物が、初めて表情に感情を表出させた。それはおそらくは、享楽。
「お前たちはどれほど動ける」
赫一瑪は地表にいる赫暁を注視しつつ、耀龍と麗祥へ尋ねた。
耀龍の顔色には疲労が滲んでおり、麗祥は腹部を攻撃された際に衣服が破れていた。この兄が尋ねたのは自分たちの身を案じたわけではないことは、彼らも理解していた。戦力の正確な把握が目的だ。
「ほぼ当たり前に動けるよ。オレは大したケガしてないし、麗の負傷は治したから」
「ではお前たちでアレの足留めを。私が相手をする。お前たちでは手緩い。アレはお前たち程度が本気になったところで死なん」
耀龍は、赫一瑪の口振りに嫌な予感がした。実の弟から見ても、感情が読み取れない、冷淡な人だ。一族の名誉や利益の為ならば、親兄弟も躊躇なく切り捨ててしまうのではないかという気がした。
「オレたち、一大哥に協力するなんて言ってないよ」
赫一瑪は耀龍へと目線を向けた。甘ったれの末弟がはっきりと反抗したのは少々意外だった。
麗祥が「龍ッ」と咄嗟に諫めたが、耀龍は閉口しなかった。
父・族長に次ぐ権力者である長兄に物申すなど、下から数えたほうが早い弟たちには大それたことだ。長兄と彼らには親子に近いほどの年齢差があり、影響力の大小はそれ以上の格差だ。
麗祥などは天尊に対するのと同様に長兄を敬愛しており、面と向かって逆らうことなど考えたこともない。
「協力を拒否するわけじゃない。父様と一大哥が《邪視》をどうするつもりか分からない。だから確約が欲しい。天哥々を殺さないって約束して」
耀龍の目は真剣そのものだった。これは交渉ではない、懇願だ。大好きな兄を殺さないでくれと必死に乞うている。
耀龍自身も、自分と赫一瑪の間で交渉が成立しないことは理解している。赫一瑪が求めるものは、一時の助力だ。それがあれば仕事がやりやすくなるという程度の要求だ。耀龍が協力を拒んだとて、霜髪の怪物を排除すると決心すれば迷いなくそうする。
耀龍は、赫一瑪が甘えを許してくれる優しい兄ではないと知っていても、懇願するしかなかった。
「愚かな。殺すつもりならアレが幼い頃にとうにそうしている」
赫一瑪は目線を、耀龍から足許へと移した。
「我らが父上は、我が子に手をかけるなどなさらぬ、決して」
赫一瑪の足許、そのさらに先、地上では赫暁と霜髪の怪物が互いの得物を交叉させていた。
ガギンッ、カキン、カキィンッ! ――硬質な剣戟の響き。
霜髪の怪物は目にも留まらぬ攻撃を繰り出したが、赫暁は大剣を振り回してものともしなかった。大剣の重量を感じさせない動作の軽やかさ、リズムを刻んでいるかのような足捌き、遊興遊戯に興じているようでさえあった。
「カカカカッ」
赫暁は絶えず愉快そうな笑い声を上げた。
「なんと楽しそうに……。あのように凶悪な怪物を相手にしているというのに」
赫暁と霜髪の怪物の交叉を見ていたルフトとヴィントは、呆気に取られた。彼奴と対峙すれば目で追うこともできず、ただの一撃を喰らわされないよう必死だった。自分たちの我武者羅が莫迦らしくなりそうなほど、赫暁は楽しげに見えた。
赫=ニーズヘクルメギルは、今でこそエインヘリヤルに劣らぬ武力を有すと言われるが、もとはといえば武門の一族。そのなかでも当代族長・赫暁は最高と称される武人のひとりだ。ルフトとヴィントは、已むに已まれぬ事由によって仕方なく武器を取った自分たちとは、明白に格が違う才能と武技に半ば見惚れた。
(動きは鋭いが獣と変わらんな)
赫暁は、五兄弟の内、天尊には最も熱心に武術を指導した自覚がある。その甲斐あって、天尊は幼い頃から武技の才に突出し、長じて優秀な戦士となった。《雷鎚》と賞賛されるまでに至った。
しかしながら、霜髪の怪物には、教えこんだ武技の名残はなかった。肉体の強靱さに任せて本能の儘に眼前の敵を滅ぼさんと鋭利な爪を振り回すばかり。天尊の武芸の師であり自身も高名な武人である赫暁には、動物的な攻撃を回避して往なすのは決して不可能ではなかった。
無尽蔵なネェベルは確かに恐るべきものであるが、効果的な場面で発揮されてこそ大きな意味を持つ。霜髪の怪物に自身の能力を戦術的に活用する術があるとは考え難い。
赫暁が思索していると、視界の外で何かが空を切る音がした。本能的に回避すべきだと判断して身体を捻った。
正体は三叉の尾のひとつだった。切断したはずのそれは霜髪の怪物に繋がっていた。
「もう再生したかッ」
赫暁はやや体勢を崩した。その隙を突いて霜髪の怪物は、赫暁の大剣を握る腕を足でダンッと古城の外壁に踏みつけた。
赫暁は大剣から手を離した。落下した大剣の腹を蹴り上げ、自由なほうの腕で大剣の柄を掴み取った。
ザンッ! ――霜髪の怪物の脚は、下から撥ね上げるようにして切断された。
霜髪の怪物はぐらりと体勢を崩した。
ガッチャアンッ!
――《黒轄》
霜髪の怪物は黒いコの字型の飛来物によって身体を挟まれてその場に固定された。
それを為したのは耀龍と麗祥。ふたりは霜髪の怪物を中心に左右に分かれて同時にプログラムを起動した。
ふたりがかりの多重の拘束。内部プロテクトを何重にも施した。先ほどのように触れるだけで瞬時に解析・解除などできないはずだ。
霜髪の怪物は反射的に身動ぎしたが黒い枷が弾け飛ぶことはなかった。
やるじゃないか、と赫暁は賞賛して宙に飛び上がった。
耀龍と麗祥も拘束を維持したまま上空に飛翔した。
拘束された霜髪の怪物は、三人を目で追って空を見上げた。そこで目を瞠った。
巨大な火焔の輪が、揺らめきながら車輪のようにぐるぐると回っていた。空や雲を濛々と焦がしているかのようだった。広大な空をまるで夕焼けのように朱に染め上げる火輪を、赫一瑪は背負っていた。
「一切灰燼――――《第十八歌》」
巨大な火輪は天空でほどけて広がり、水の溜まった膜を突いて破ったかのように、夥しい大火が一斉に地上に降り注いだ。
大火は地表に広がって霜髪の怪物ごと古城も森林の一角も呑みこんだ。それを遮るものなど存在しなかった。呑みこまれた物質は途轍もない火焔と熱量によって、悉く黒炭と化した。或いは蒸発して消えてなくなった。ありとあらゆる有機物は死滅した。自然厳しくも緑豊かだった森林は辺り一面真っ黒と化し、古城はまるごと焼かれ、焦げたケーキのように朽ち果てた。
熒閂の最新話はクロスフォリオにて先行公開( https://xfolio.jp/portfolio/ke1sen/series/1023833 )
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