31 / 104
#18:A beauty in male attire
A beauty in male attire 01
しおりを挟む
荒菱館高等学校・三年生某教室。
美作は自分の席で通話中。通話の相手は朝からまだ姿を見ていないこの学園の王様・渋撥だ。美作から渋撥へ電話をかけてその理由が判明した。現在ベッドの中だという。
渋撥は早起きが得意ではない。起きなければならない時間を寝過ごしてはよく学校を休んでいる。今日も例に漏れずそれだ。
「あー近江さん、今日ガッコ休まはるんですか。へぇ~今日ですか~……そうでっか~」
〈何や。嬉しそうやな〉
「えっ? イヤイヤ、そんなことありまへんがな」
〈…………〉
(電話越しやのにプレッシャー感じるッ)
渋撥の沈黙に美作は凍りついた。下手なことを言うと次に会ったときに拳が飛んできそうだ。
お前のことなんか別にどうでもええけどな、と言い残して渋撥は電話を切った。
美作はスマートフォンをポケットに突っこみ、肩を揺らしてフッフッフッと笑みを漏らした。
「グッタイミーンッ! 神様おおきにぃー‼」
美作が大声を上げて天井に向かってガッツポーズを突き上げた。
クラスメイトたちはザワッと身構えて美作を凝視する。
「美作君がひとりで高笑いしとるで。近江さんにドツかれすぎてついに頭イッてもうたか」
「美作君が一番ドツかれとるからな」
昼休み。
同高校・一年生某教室。
禮は自分の席で金髪の青年とふたりきりで話しこんでいた。たまに笑い声が混じり、にこやかでとても仲のよい雰囲気だった。禮は美作に完全に気を許しており、一見して付き合っている男女に見えるほど距離感も近かった。
そこには日常的に禮の周りを取り巻いている男子生徒諸君も、数少ない同性であり昼休みはよく一緒にいる杏の姿もなかった。
禮の隣の席に陣取っていた美作は、ふうと一息吐いた。今までの談笑とは少々声の調子を変えて「あのな」と話を切り出した。
「俺、大事な話あるんやけど。……近江さんいてはったらしにくい相談」
「うん? 何? ハッちゃんいてたらあかん話って」
「ココで言うのもアレやから……ガッコ終わったらちょお残っといてくれるか?」
「教室で待ってたらええの? ソレお願い?」
「お願い」
美作は熟れた仕草で手の平を縦に立ててパチッと片目を閉じた。
「うん、ええよ。純ちゃんのお願いなら」
「禮ちゃんはほんまええ子や✨」
虎徹や由仁など普段禮の周囲を取り巻いている男子生徒諸君は、教壇の周囲に集まっていた。教室の最前方からほぼ最奥の禮と美作を観察していた。
自分の席は禮の席の近くであるくせに、誰も席へ戻ろうとはしなかった。その理由は、禮と美作が割って入りにくいほど仲がよいからというだけではない。彼ら新入生が美作に逆らうことは〝立場上〟許されないというのが最も大きな理由だ。
荒菱館高校では最上級生というだけでも新入生とは別格。しかも美作はそこの№2、最強の暴君の右腕だ。本来ならば新入生など簡単に接点すら持つことのできない存在なのだ。
「何ちゅうか、親密そうな雰囲気やな」
大鰐はそう言い、ズコーッと豪快な音を立てて紙パックのジュースを啜った。
確かに俺らなんかよりは親密そうに見えるな、と幸島が返した。
「マトモな男やったら禮ちゃんと仲ようして当たり前や。禮ちゃん邪険にでけんのはへーちゃんくらい。へーちゃんB専なんか?」
大鰐は虎徹から身に覚えのない称号を与えられてムッとした。
「俺の美的センスは正常や。あの女、あんなカオしとるけどノーミソは男や。そんなんと仲ようして何の得があんねん」
「え? カワイイ子と仲ようするだけでメンタルヘルス的に得してるやん」
「オドレはカオが好みやったら中身気にせえへんのか。キッショイ」
「禮ちゃん中身もカワイイ女のコや。禮ちゃんが男に見えてるへーちゃんのほうが変やで」
「変人のオマエに言われたない」
大鰐は紙パックジュースのストローから口を離して言い捨てた。
虎徹は心外という顔をして幸島に目線を移した。
「ハルちゃんかて禮ちゃんカワイイ思うやろ? 俺よりへーちゃんのほうがおかしいよなあ?」
「そらまあ、なあ……その辺にゴロゴロいてるレベルちゃうのは確かやな。禮みたいな女がココにいてるのが奇跡や」
幸島の同意を得た虎徹は、それ見たことかと得意気に大鰐に目を遣った。
大鰐はツーンと明後日のほうを向いたまま決して賛同しなかった。
由仁は虎徹に「なあ」と声をかけ、禮のほうを指差した。
「禮ちゃんが自分以外の男と仲よう話してんのに虎徹君邪魔しに行かへんねんな」
「サスガにアソコに邪魔に入る気にはなんねーだろ。ニコニコしてっけどあの人、荒菱館の№2だもん」
そう言った脩一が「なあ」と杏に同意を求めたが、返事はなかった。
杏は真剣な表情で禮と美作を凝視していた。他の者は観察していると言っても視界に入れたり入れなかったりを装っているのに、彼女にそのようなさりげなさの演出は一切なかった。
「ふたりで何話してると思う?」
「あー? 告白、とかな」
杏は視線を固定したまま疑問を口にした。
大鰐は投げ遣りに答えた。中身を全て飲み干した紙パックをグチャッと握り潰し、それを教壇の端に置いてあるゴミ箱に向かってポーンと投げた。
「なっ! 禮は近江さんのオンナやで。純さんが手ぇ出したりするワケないやんッ」
「そうは言うても女絡みなら分かれへんやろ。しかも№2は近江さんと違てなかなかイケメンや。顔も中身も女好きするタイプやで」
「純さんがイケメンでも、禮は近江さんが好きなんやから顔なんか関係ないねん!」
「顔が関係ないとしても、端から見てめちゃめちゃ親密やで。男でも女でも嫌いやったらあの距離で話さへんやろ」
「ふたりとも元からフレンドリーな性格なだけやッ」
「何でオマエはそんな必死やねん」
「別に必死ちゃうッ」
「オマエいっつもウルサイけど今はいつもよりも数倍声デカイで」
大鰐が冷静に指摘し、杏はビタッと停止した。
大鰐は幸島に「なあ」と同意を求め、彼もコクンと頷いた。
大鰐と幸島、四つの目にじーっと注視されると、杏の肩がふるふると震えだした。
「うるっさぁーいッ!」
頬を真っ赤にした杏は、大鰐の耳元で渾身の大声を炸裂させた。
昼休みが終わりに近づき、美作は教室から出て行った。
それを見計らって杏はタタタタッと小走りに禮の席に近づいた。
「純さんと何話してたん?」
杏は禮の机に両手を突いて真正面から問いかけた。
禮は「別に何も」と答えたが杏は納得しなかった。あんなに話しこんでいたのにそのようなはずがないと確信を持って続けた。
男子生徒諸君もゾロゾロと禮と杏のほうへ近づいてきた。
「相談あるさかい後でねって」
「相談……ッ⁉ どんな?」
「さあ? ハッちゃんいてたらしにくいて言うてたよ」
「告白」
それはまさか……、と杏が顔色を変えたところで、大鰐がズバリ放言した。
「近江さんいてはったらしにくい相談って告白やろ?」
「むしろ告白以外に何があんねん」
他の男子諸君もそうだよなと口々に大鰐に賛同した。場所も時間も改めて折り入ってする相談など他に思い当たらなかった。
杏は真剣な面持ちを禮に近づけた。
「……禮、それ、話聞くん?」
「え、うん。純ちゃんお願いって言うてたし」
「あかん! 純さんが禮に告ったら近江さんとモメることくらい禮にも分かるやろッ」
「荒菱館のトップと№2が女取り合ってモメる展開は最悪やな」
「あははー。何で純ちゃんがウチに告るん」
禮は、杏と幸島の発言を杞憂とばかりに笑い飛ばした。
彼らはのほほんとしている禮を見て惘れた溜息を吐いた。
「女子校育ちの鈍さは異常」
「女だけ集めて育てた弊害か? 男も男だけぎょうさん一箇所に集めたらこうなるンか」
「男だけ集めたら童貞になるに決まってんだろ。悲しみが生まれるだけ」
どうていって何、と禮は無邪気に尋ねた。軽口を叩いていた男子たちは一斉に閉口した。
「そんなんどうでもええねん、禮! 純さんに告られたらアンタどうするんッ」
「ほんまにそーゆー話ちゃうよ」
「何でちゃうって断言でけるん」
杏に問い詰められた禮は由仁を指差した。
由仁は自分を指差して首を傾げた。完全に油断していた。禮と№2との間に自分が入ることなど想像するはずもなかった。
「だって純ちゃん、ゆんちゃんも一緒にって言うてた」
「へ? 俺??」
放課後。
禮と由仁は美作の言いつけどおり、教室に残っていた。残れと言われていない杏や大鰐、幸島、虎徹、脩一――――所謂いつものメンバーも居残っていた。
美作から禮だけならまだしも、大して面識もない由仁にお声がかかるなど道理では考えられない。何かが起こる予兆に違いないから見逃す手はない。彼らは好奇心旺盛で物見高かった。
他のクラスメイトの姿はとうになかった。居残っているメンバーは禮の席の周辺に好きに腰掛けていたので教室は伽藍としていた。
さして騒がしくもない教室に、美作がついにやって来た。
美作は教室に居残っているメンバーを一瞥して「あ~れ~?」と漏らした。とはいえいつも禮を取り巻いている面々も共に残っているだろうことは想定の範疇。驚いた様子も気分を害した様子もなかった。
「何でこんな人数いてんねんな。俺は禮ちゃんと由くんにしか残ってくれ言うてへんで」
(何で俺のフルネーム把握済みなんや。恐るべし情報網№2!)
由仁は内心ドキッとした。
虎徹と脩一は由仁の両隣をガッチリと固めてシュタッと手を挙げた。
「保護者デス」
「ヒマやったからて正直に言えや」
美作は次に幸島と大鰐のほうへ視線を移して「自分らは?」と尋ねた。
「明日数学で当てられるさかい予習を✨」
「ウソ吐けッ」
大鰐は渾身の真面目な顔を作ったのに、由仁から素早く否定された。
美作は小さな嘆息を漏らして腕組みをした。杏については特に何を咎めることもしなかった。
「アンズちゃんはええとしても男どもはいてるだけ酸素の無駄なんやけど、まあどーでもええか」
(サラッとヒドイことをッ)
(ニコニコしとるけど男には冷たいな)
三年間も〝ほぼ男子校〟という環境にどっぷりと浸かっている最上級生が、毎日厭というほど囲まれている男という存在に今更優しくしてやる道理など皆無だった。最上級生にとって昨日今日入ってきた新入生など、何の役にも立たない案山子のようなものだ。立っているだけ無駄だというのに、この案山子は口まできく。
美作は腕を組んだ姿勢から禮にじっと視線を送った。禮は目が合うとニコッと微笑んでくれた。
「ウチにごよーじて何?」
「禮ちゃんにお願いがあるんやけど……聞いてくれるか」
「うん。純ちゃんのお願いやったらええよ」
(なんちゅう無防備な天使✨✨ 禮ちゃんにちょっとでも手ぇ出したら間違いなく近江さんに殺されるけど、やっぱカワイイねんな~。花を愛でるのはごく当たり前の情緒や。カワイイもんをカワイイと思うことは罪ちゃうハズ)
美作は思わずニヤケてしまいそうな口許をパシッと手で押さえた。
気を引き締めるためにコホッと咳払いをひとつ、キリッと真面目な表情を作った。
「ほな禮ちゃん」
「うん。何?」
「学ラン着てくれ」
美作は自分の席で通話中。通話の相手は朝からまだ姿を見ていないこの学園の王様・渋撥だ。美作から渋撥へ電話をかけてその理由が判明した。現在ベッドの中だという。
渋撥は早起きが得意ではない。起きなければならない時間を寝過ごしてはよく学校を休んでいる。今日も例に漏れずそれだ。
「あー近江さん、今日ガッコ休まはるんですか。へぇ~今日ですか~……そうでっか~」
〈何や。嬉しそうやな〉
「えっ? イヤイヤ、そんなことありまへんがな」
〈…………〉
(電話越しやのにプレッシャー感じるッ)
渋撥の沈黙に美作は凍りついた。下手なことを言うと次に会ったときに拳が飛んできそうだ。
お前のことなんか別にどうでもええけどな、と言い残して渋撥は電話を切った。
美作はスマートフォンをポケットに突っこみ、肩を揺らしてフッフッフッと笑みを漏らした。
「グッタイミーンッ! 神様おおきにぃー‼」
美作が大声を上げて天井に向かってガッツポーズを突き上げた。
クラスメイトたちはザワッと身構えて美作を凝視する。
「美作君がひとりで高笑いしとるで。近江さんにドツかれすぎてついに頭イッてもうたか」
「美作君が一番ドツかれとるからな」
昼休み。
同高校・一年生某教室。
禮は自分の席で金髪の青年とふたりきりで話しこんでいた。たまに笑い声が混じり、にこやかでとても仲のよい雰囲気だった。禮は美作に完全に気を許しており、一見して付き合っている男女に見えるほど距離感も近かった。
そこには日常的に禮の周りを取り巻いている男子生徒諸君も、数少ない同性であり昼休みはよく一緒にいる杏の姿もなかった。
禮の隣の席に陣取っていた美作は、ふうと一息吐いた。今までの談笑とは少々声の調子を変えて「あのな」と話を切り出した。
「俺、大事な話あるんやけど。……近江さんいてはったらしにくい相談」
「うん? 何? ハッちゃんいてたらあかん話って」
「ココで言うのもアレやから……ガッコ終わったらちょお残っといてくれるか?」
「教室で待ってたらええの? ソレお願い?」
「お願い」
美作は熟れた仕草で手の平を縦に立ててパチッと片目を閉じた。
「うん、ええよ。純ちゃんのお願いなら」
「禮ちゃんはほんまええ子や✨」
虎徹や由仁など普段禮の周囲を取り巻いている男子生徒諸君は、教壇の周囲に集まっていた。教室の最前方からほぼ最奥の禮と美作を観察していた。
自分の席は禮の席の近くであるくせに、誰も席へ戻ろうとはしなかった。その理由は、禮と美作が割って入りにくいほど仲がよいからというだけではない。彼ら新入生が美作に逆らうことは〝立場上〟許されないというのが最も大きな理由だ。
荒菱館高校では最上級生というだけでも新入生とは別格。しかも美作はそこの№2、最強の暴君の右腕だ。本来ならば新入生など簡単に接点すら持つことのできない存在なのだ。
「何ちゅうか、親密そうな雰囲気やな」
大鰐はそう言い、ズコーッと豪快な音を立てて紙パックのジュースを啜った。
確かに俺らなんかよりは親密そうに見えるな、と幸島が返した。
「マトモな男やったら禮ちゃんと仲ようして当たり前や。禮ちゃん邪険にでけんのはへーちゃんくらい。へーちゃんB専なんか?」
大鰐は虎徹から身に覚えのない称号を与えられてムッとした。
「俺の美的センスは正常や。あの女、あんなカオしとるけどノーミソは男や。そんなんと仲ようして何の得があんねん」
「え? カワイイ子と仲ようするだけでメンタルヘルス的に得してるやん」
「オドレはカオが好みやったら中身気にせえへんのか。キッショイ」
「禮ちゃん中身もカワイイ女のコや。禮ちゃんが男に見えてるへーちゃんのほうが変やで」
「変人のオマエに言われたない」
大鰐は紙パックジュースのストローから口を離して言い捨てた。
虎徹は心外という顔をして幸島に目線を移した。
「ハルちゃんかて禮ちゃんカワイイ思うやろ? 俺よりへーちゃんのほうがおかしいよなあ?」
「そらまあ、なあ……その辺にゴロゴロいてるレベルちゃうのは確かやな。禮みたいな女がココにいてるのが奇跡や」
幸島の同意を得た虎徹は、それ見たことかと得意気に大鰐に目を遣った。
大鰐はツーンと明後日のほうを向いたまま決して賛同しなかった。
由仁は虎徹に「なあ」と声をかけ、禮のほうを指差した。
「禮ちゃんが自分以外の男と仲よう話してんのに虎徹君邪魔しに行かへんねんな」
「サスガにアソコに邪魔に入る気にはなんねーだろ。ニコニコしてっけどあの人、荒菱館の№2だもん」
そう言った脩一が「なあ」と杏に同意を求めたが、返事はなかった。
杏は真剣な表情で禮と美作を凝視していた。他の者は観察していると言っても視界に入れたり入れなかったりを装っているのに、彼女にそのようなさりげなさの演出は一切なかった。
「ふたりで何話してると思う?」
「あー? 告白、とかな」
杏は視線を固定したまま疑問を口にした。
大鰐は投げ遣りに答えた。中身を全て飲み干した紙パックをグチャッと握り潰し、それを教壇の端に置いてあるゴミ箱に向かってポーンと投げた。
「なっ! 禮は近江さんのオンナやで。純さんが手ぇ出したりするワケないやんッ」
「そうは言うても女絡みなら分かれへんやろ。しかも№2は近江さんと違てなかなかイケメンや。顔も中身も女好きするタイプやで」
「純さんがイケメンでも、禮は近江さんが好きなんやから顔なんか関係ないねん!」
「顔が関係ないとしても、端から見てめちゃめちゃ親密やで。男でも女でも嫌いやったらあの距離で話さへんやろ」
「ふたりとも元からフレンドリーな性格なだけやッ」
「何でオマエはそんな必死やねん」
「別に必死ちゃうッ」
「オマエいっつもウルサイけど今はいつもよりも数倍声デカイで」
大鰐が冷静に指摘し、杏はビタッと停止した。
大鰐は幸島に「なあ」と同意を求め、彼もコクンと頷いた。
大鰐と幸島、四つの目にじーっと注視されると、杏の肩がふるふると震えだした。
「うるっさぁーいッ!」
頬を真っ赤にした杏は、大鰐の耳元で渾身の大声を炸裂させた。
昼休みが終わりに近づき、美作は教室から出て行った。
それを見計らって杏はタタタタッと小走りに禮の席に近づいた。
「純さんと何話してたん?」
杏は禮の机に両手を突いて真正面から問いかけた。
禮は「別に何も」と答えたが杏は納得しなかった。あんなに話しこんでいたのにそのようなはずがないと確信を持って続けた。
男子生徒諸君もゾロゾロと禮と杏のほうへ近づいてきた。
「相談あるさかい後でねって」
「相談……ッ⁉ どんな?」
「さあ? ハッちゃんいてたらしにくいて言うてたよ」
「告白」
それはまさか……、と杏が顔色を変えたところで、大鰐がズバリ放言した。
「近江さんいてはったらしにくい相談って告白やろ?」
「むしろ告白以外に何があんねん」
他の男子諸君もそうだよなと口々に大鰐に賛同した。場所も時間も改めて折り入ってする相談など他に思い当たらなかった。
杏は真剣な面持ちを禮に近づけた。
「……禮、それ、話聞くん?」
「え、うん。純ちゃんお願いって言うてたし」
「あかん! 純さんが禮に告ったら近江さんとモメることくらい禮にも分かるやろッ」
「荒菱館のトップと№2が女取り合ってモメる展開は最悪やな」
「あははー。何で純ちゃんがウチに告るん」
禮は、杏と幸島の発言を杞憂とばかりに笑い飛ばした。
彼らはのほほんとしている禮を見て惘れた溜息を吐いた。
「女子校育ちの鈍さは異常」
「女だけ集めて育てた弊害か? 男も男だけぎょうさん一箇所に集めたらこうなるンか」
「男だけ集めたら童貞になるに決まってんだろ。悲しみが生まれるだけ」
どうていって何、と禮は無邪気に尋ねた。軽口を叩いていた男子たちは一斉に閉口した。
「そんなんどうでもええねん、禮! 純さんに告られたらアンタどうするんッ」
「ほんまにそーゆー話ちゃうよ」
「何でちゃうって断言でけるん」
杏に問い詰められた禮は由仁を指差した。
由仁は自分を指差して首を傾げた。完全に油断していた。禮と№2との間に自分が入ることなど想像するはずもなかった。
「だって純ちゃん、ゆんちゃんも一緒にって言うてた」
「へ? 俺??」
放課後。
禮と由仁は美作の言いつけどおり、教室に残っていた。残れと言われていない杏や大鰐、幸島、虎徹、脩一――――所謂いつものメンバーも居残っていた。
美作から禮だけならまだしも、大して面識もない由仁にお声がかかるなど道理では考えられない。何かが起こる予兆に違いないから見逃す手はない。彼らは好奇心旺盛で物見高かった。
他のクラスメイトの姿はとうになかった。居残っているメンバーは禮の席の周辺に好きに腰掛けていたので教室は伽藍としていた。
さして騒がしくもない教室に、美作がついにやって来た。
美作は教室に居残っているメンバーを一瞥して「あ~れ~?」と漏らした。とはいえいつも禮を取り巻いている面々も共に残っているだろうことは想定の範疇。驚いた様子も気分を害した様子もなかった。
「何でこんな人数いてんねんな。俺は禮ちゃんと由くんにしか残ってくれ言うてへんで」
(何で俺のフルネーム把握済みなんや。恐るべし情報網№2!)
由仁は内心ドキッとした。
虎徹と脩一は由仁の両隣をガッチリと固めてシュタッと手を挙げた。
「保護者デス」
「ヒマやったからて正直に言えや」
美作は次に幸島と大鰐のほうへ視線を移して「自分らは?」と尋ねた。
「明日数学で当てられるさかい予習を✨」
「ウソ吐けッ」
大鰐は渾身の真面目な顔を作ったのに、由仁から素早く否定された。
美作は小さな嘆息を漏らして腕組みをした。杏については特に何を咎めることもしなかった。
「アンズちゃんはええとしても男どもはいてるだけ酸素の無駄なんやけど、まあどーでもええか」
(サラッとヒドイことをッ)
(ニコニコしとるけど男には冷たいな)
三年間も〝ほぼ男子校〟という環境にどっぷりと浸かっている最上級生が、毎日厭というほど囲まれている男という存在に今更優しくしてやる道理など皆無だった。最上級生にとって昨日今日入ってきた新入生など、何の役にも立たない案山子のようなものだ。立っているだけ無駄だというのに、この案山子は口まできく。
美作は腕を組んだ姿勢から禮にじっと視線を送った。禮は目が合うとニコッと微笑んでくれた。
「ウチにごよーじて何?」
「禮ちゃんにお願いがあるんやけど……聞いてくれるか」
「うん。純ちゃんのお願いやったらええよ」
(なんちゅう無防備な天使✨✨ 禮ちゃんにちょっとでも手ぇ出したら間違いなく近江さんに殺されるけど、やっぱカワイイねんな~。花を愛でるのはごく当たり前の情緒や。カワイイもんをカワイイと思うことは罪ちゃうハズ)
美作は思わずニヤケてしまいそうな口許をパシッと手で押さえた。
気を引き締めるためにコホッと咳払いをひとつ、キリッと真面目な表情を作った。
「ほな禮ちゃん」
「うん。何?」
「学ラン着てくれ」
0
あなたにおすすめの小説
後宮の胡蝶 ~皇帝陛下の秘密の妃~
菱沼あゆ
キャラ文芸
突然の譲位により、若き皇帝となった苑楊は封印されているはずの宮殿で女官らしき娘、洋蘭と出会う。
洋蘭はこの宮殿の牢に住む老人の世話をしているのだと言う。
天女のごとき外見と豊富な知識を持つ洋蘭に心惹かれはじめる苑楊だったが。
洋蘭はまったく思い通りにならないうえに、なにかが怪しい女だった――。
中華後宮ラブコメディ。
俺様上司に今宵も激しく求められる。
美凪ましろ
恋愛
鉄面皮。無表情。一ミリも笑わない男。
蒔田一臣、あたしのひとつうえの上司。
ことあるごとに厳しくあたしを指導する、目の上のたんこぶみたいな男――だったはずが。
「おまえの顔、えっろい」
神様仏様どうしてあたしはこの男に今宵も激しく愛しこまれているのでしょう。
――2000年代初頭、IT系企業で懸命に働く新卒女子×厳しめの俺様男子との恋物語。
屈辱と愛情
守 秀斗
恋愛
最近、夫の態度がおかしいと思っている妻の名和志穂。25才。仕事で疲れているのかとそっとしておいたのだが、一か月もベッドで抱いてくれない。思い切って、夫に聞いてみると意外な事を言われてしまうのだが……。
私の守護霊さん
Masa&G
キャラ文芸
大学生活を送る彩音には、誰にも言えない秘密がある。
彼女のそばには、他人には姿の見えない“守護霊さん”がずっと寄り添っていた。
これは——二人で過ごした最後の一年を描く、かけがえのない物語。
ちょっと大人な物語はこちらです
神崎未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない
ちょっと大人な短編物語集です。
日常に突然訪れる刺激的な体験。
少し非日常を覗いてみませんか?
あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ?
※本作品ではGemini PRO、Pixai.artで作成した生成AI画像ならびに
Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。
※不定期更新です。
※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。
日本酒バー「はなやぎ」のおみちびき
山いい奈
ライト文芸
★お知らせ
3月末の非公開は無しになりました。
お騒がせしてしまい、申し訳ありません。
引き続き、どうぞよろしくお願いいたします。
小柳世都が切り盛りする大阪の日本酒バー「はなやぎ」。
世都はときおり、サービスでタロットカードでお客さまを占い、悩みを聞いたり、ほんの少し背中を押したりする。
恋愛体質のお客さま、未来の姑と巧く行かないお客さま、辞令が出て転職を悩むお客さま、などなど。
店員の坂道龍平、そしてご常連の高階さんに見守られ、世都は今日も奮闘する。
世都と龍平の関係は。
高階さんの思惑は。
そして家族とは。
優しく、暖かく、そして少し切ない物語。
愛された側妃と、愛されなかった正妃
編端みどり
恋愛
隣国から嫁いだ正妃は、夫に全く相手にされない。
夫が愛しているのは、美人で妖艶な側妃だけ。
連れて来た使用人はいつの間にか入れ替えられ、味方がいなくなり、全てを諦めていた正妃は、ある日側妃に子が産まれたと知った。自分の子として育てろと無茶振りをした国王と違い、産まれたばかりの赤ん坊は可愛らしかった。
正妃は、子育てを通じて強く逞しくなり、夫を切り捨てると決めた。
※カクヨムさんにも掲載中
※ 『※』があるところは、血の流れるシーンがあります
※センシティブな表現があります。血縁を重視している世界観のためです。このような考え方を肯定するものではありません。不快な表現があればご指摘下さい。
JKメイドはご主人様のオモチャ 命令ひとつで脱がされて、触られて、好きにされて――
のぞみ
恋愛
「今日から、お前は俺のメイドだ。ベッドの上でもな」
高校二年生の蒼井ひなたは、借金に追われた家族の代わりに、ある大富豪の家で住み込みメイドとして働くことに。
そこは、まるでおとぎ話に出てきそうな大きな洋館。
でも、そこで待っていたのは、同じ高校に通うちょっと有名な男の子――完璧だけど性格が超ドSな御曹司、天城 蓮だった。
昼間は生徒会長、夜は…ご主人様?
しかも、彼の命令はちょっと普通じゃない。
「掃除だけじゃダメだろ? ご主人様の癒しも、メイドの大事な仕事だろ?」
手を握られるたび、耳元で囁かれるたび、心臓がバクバクする。
なのに、ひなたの体はどんどん反応してしまって…。
怒ったり照れたりしながらも、次第に蓮に惹かれていくひなた。
だけど、彼にはまだ知られていない秘密があって――
「…ほんとは、ずっと前から、私…」
ただのメイドなんかじゃ終わりたくない。
恋と欲望が交差する、ちょっぴり危険な主従ラブストーリー。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる