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#20:Home sweet home
Leave from sweet dream. 02
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神流渋粋――――死亡。享年二十九。死因、交通事故。大型トラックとの正面衝突。ほぼ即死とみられる。
その日は、前日の夜から雨が降り続く雨天。同氏は通常バイク通勤だが、雨天の為に徒歩にて出社。同日帰宅時、信号無視をしている子ども及び走行中の大型トラックを発見。ドライバーは強雨による視界不良の為に子どもを視認できず。同氏は子どもを庇い、大型トラックの前に飛び出したものと思われる。事故を目撃していた通行人により救急、及び警察に連絡。救急車内にて応急処置、総合病院にて外科手術が行われるも、心肺の蘇生ならず。
渋粋の葬儀が終わって数日。
撥香は抜け殻だった。病院で死亡宣告を聞き、この世の終わりのような悲鳴を上げたきり、ずっと魂の無い身体だけが其処に在るようだった。誰が声をかけても、何を聞いても、反応は乏しかった。昼も夜も関係なくほとんどの時間を、瞼を閉ざして過ごした。
瞼を閉じると微睡みの中に渋粋の笑顔が浮かんでくる。その背中を追いかけて、こちらを振り返るあなたはいつも微笑みかけてくれる。名前を呼んで抱き留めてくれる。手を繋いで、体を繋いで、何処まででも一緒に行ける。渋粋との甘美な思い出だけが、撥香の命をどうにかこうにか繋いでいた。
「イッキ君――……」
撥香は、我が子とふたりきりになった家の中でたまにポツリとその名前を紡いだ。
何度名前を呼んでももう返事はない。何度求めても温かく抱き締められることはない。どれだけ求めても触れられない。どれだけ探しても見つからない。何処をどんなに探しても渋粋の温もりが見つからない。渋粋の気配が漂うこの家から、痕跡が消えてゆく。この狭い空間から渋粋の匂いすらも消えてしまったら、一体何処に自身を繋いでおけばよいのだろう。
撥香は常に渋粋を思い起こし、時に満たされ、時に涙した。楽園も地獄も同じところに在って、不安定だった。
渋撥は、撥香が渋粋の名を紡ぐ度に、少しずつ剥がれて、崩れて、壊れてゆく気がした。
渋粋はこの家の太陽だった。太陽を中心に笑顔がクルクルと回っていた。太陽が落とされた家のなかは、闇ばかりが広がって奈落へと続いていた。奈落の先に渋粋が待っているとしたら、撥香は喜んでそちらへ進んでいったろう。
或る日、渋撥は夜中に突然目を覚ました。目を覚ました切欠は分からない。何の故あってか生来勘が鋭い。何となく胸騒ぎがした。
ベッドから抜け出し自分の部屋を出て、両親の寝室を覗いた。其処に横たわっているはずの母親の姿がなかった。葬儀が終了してからこちら、撥香はこの家から外に出ることはほとんどなかった。おそらく、この家が渋粋との思い出が最も残る場所であり、染み着いた渋粋の痕跡に縋っていたから。そのような撥香が家から姿を消すなど只事ではない。
「ハッカ、どこ行った……?」
撥香の行き先を考えてみると、思いつく場所はひとつしかなかった。渋撥が知る限り、この家以外で渋粋との思い出が強く残っている場所。
撥香は、ひとりで海に向かって砂浜に立っていた。
夜空には大きな月が浮かんでおり、海面が月光を反射しててらてらと光っている。空と海の境界が其処に在った。
サクッ、サクッ、と砂を踏み鳴らして波打ち際へと進んだ。ひんやりとした砂の心地も、足にかかる波も気持ちよい。
ざざざざぁ……ざざざざぁあ。
寄せては返す波の音が、まるで催眠術のように楽しかった思い出を引き出した。
夜の海があんなにも恐ろしかったのに、嘘みたいに平気になった。渋粋が好きだと言ってくれて、何度もドライブがてら連れてきてくれて、渋撥が生まれてからは三人でよく遊びに来た。自宅から海は近かったから、夏の度にといわず年がら年中訪れた。暑い日は海水を掛け合って戯れ、寒い日は身を寄せ合って他愛もない話をした。
波の音に紛れて笑い声が聞こえる。渋撥が珍しくはしゃいで、渋粋と撥香が笑い合い、明るい声がクルクル回って弾ける。夏も冬も、いつも太陽が燦々と降り注いでいたね。
「イッキ君……どこ?」
自分が泣いているのか笑っているのか、黙っているのか叫んでいるのか、立っているのか座りこんでいるのか、起きているのか眠っているのか、分からない。何も分からない。天地が逆転しても分からない。どうでもいい。そんなことはどうでもいい。このまま世界が終わってしまったっていい。あなたがいない毎日が続いてゆく意味なんて無い。
「会いたい……会いたいんよ……」
雲の中にいるというのなら空にまでも捜しに行く。海の中にいるのなら海底までも捜しに行く。この体が、抜け殻になってしまったこの体が、もっと自由になればよいのに。重たい体から抜け出して魂だけになって、あなたに会いに行きたい。
あなたに会いたいのに。あなたにもう一度会う為なら何でもするのに。神様は残酷で、あなたが何処にいるのかすらも教えてくれない。これが神様から与えられた運命だというのなら、いくらでも祈るから、命も捧げるから、今すぐ終わりにしてほしい。
ざざざざぁ……ざざざざぁあ。
撥香は膝下にかかる海面を見詰めた。寄せては返す波が優しく手招きしている。この優しい波に身を委ねたら、渋粋の許へ誘ってくれるような気がした。
――ねえ、イッキ君。そこにいてる?
撥香はゆっくりと歩き出した。
一歩一歩足を踏み出す度に体が軽くなってゆく。苦しくて悲しくて重たい肉体から抜け出し、魂だけで好きなところに飛んでいける。
「ハッカ――…………」
波の音に紛れて渋粋の声が聞こえた。撥香は少女のようににっこりと微笑んだ。
「ハッカァーーッ‼」
しっかりと声が聞こえた。これは幻聴ではない。このように生々しい声が幻であるはずがない。生ある肉体から張り上げられたものだ。
撥香は引かれるように声の方角へ振り返った。
「ハッカ!」と、渋撥が弾丸のように飛びこんできた。
「ハッちゃん……?」
撥香は驚いて目を大きくした。
渋撥は力いっぱい撥香にしがみついた。それ以上先へ撥香を進ませるわけにはいかなかった。
撥香は渋撥を受け止めきれず、両膝からフッと力が抜けてその場に座りこんだ。座した体勢で海面はすでに胸の辺りまで来ていた。
渋撥は、胸まで海に浸かってもぼんやりしている撥香の体を激しく揺さぶった。
「ハッカ行くな! どこにも行くな!」
「だって……イッキ君が……」
「イッキは……ッ」
渋撥はギリッと奥歯を噛んだ。喉まで出かかった言葉を呑みこんだ。それを言ってしまえば、母親を絶望させることは分かり切っていた。
「ハッカ!」
男の太い声で呼びかけられた。
人影が砂浜を走ってきたかと思うと、躊躇なく海のなかへ入った。バシャバシャッ、と水音を立てて撥香と渋撥に近づいた。
「何してんねんお前!」と言うや否や、攘之内は両手で撥香を抱え上げた。渋撥に、お前も来い、と命じて抱きかかえた撥香を砂浜へと運んだ。
攘之内は撥香を砂浜に座らせてホッと一息吐いた。
撥香にかける言葉は見つからなかった。撥香は脱力しきっており、本当に気の抜けた抜け殻のようだった。
「ジョー……。イッキ君が……どこにも……いてへんの。家にも、ここにも……どこにも……。イッキ君、何で……どこに行ってしもたん……。こ……こんな……ウチこんな……恐いモンがあるなんて……しらんかった……」
誰にも愛されないと諦めていた頃は、これほどまでに恐ろしいものなどなかった。孤独に生きる恐怖など、愛するものを喪失することに比べればどうということはない。自分の価値が如何ほどかとか、自分のルーツがどうとか、自分の居場所は何処かとか、自分の人生がどうとか、そのようなものは問うだけ無駄だ。愛するあの人がいないのに、自分がいる意味なんて無い。
「ウチ……ウチ、もうあかんのよ……ジョー」
やめて、連れて行かんといて。イッキ君をどこにも連れてかんといて。どこまででも一緒に行くからイッキ君をウチから奪らんといて。
イッキ君はウチのすべて。ウチからイッキ君を奪ったら何も残れへん。イッキ君がいなくなった日に、ウチの世界は終わったんや。
「何もあかんことあれへん!」
攘之内は弾かれたように撥香を抱き締めた。
「俺がッ! 俺が何でもしたる! お前とお前とイッキの子の為やったら俺が何でもしたるさかい、そんなこと言うな! 頼むさかい、お前まで死なんでくれ!」
撥香の為にしてやれることなど本当に僅かなものだと自覚している。撥香が心から望んでいることを知りつつも叶えてやることは誰にもできない。何を言ったところでその場しのぎの嘘と大差ない。それでも衝動的に思ったことが口を突いて出た。攘之内は撥香が絶望に潰れるのを見ていられなかった。
――何で行ってしもたんや。ひとりでそんな先を走ってくな。ハッカにはお前が必要なんや。
イッキ――――!
攘之内さえも胸中で渋粋を呼んだ。目の前の女たったひとりも泣き止ますこともできない。腕尽くで足を停めさせることしかできない。情けない。無力だ。無能だ。
「アンタァこんなとこで何してんの!」
女性の悲鳴じみたヒステリックな声。撥香は聞き覚えがあった。久し振りに聞く、母親の声だった。
何故、今更、どうして、この場所で。撥香は砂浜を駆け寄ってくる母親の姿を呆然と見詰めた。
「ひふみ」と渋撥が言った。
一二三――――それは祖母の名前。撥香は一度も語ったことがなかったが、渋撥は祖母の存在も連絡先も知っていた。撥香が家にいないことに気づいた渋撥は、此処に向かう前に祖母に連絡をしていた。祖母から攘之内へと連絡が行き、攘之内は思いつく限りの行き先を伝えた。別々に行き先を当たり、攘之内のほうが先に撥香に辿り着いたのだった。
「アンタ、子どももいてるのに何するつもり⁉ 子どもひとり残してどこ行くつもりよ!」
撥香の母は、撥香の顔の真正面から叱りつけた。
撥香は無言で母親の顔を見詰めた。会わなかったのはほんの数年。それなのに、母は随分と老いて見えた。老いて深い皺が増えたが母の顔は忘れようもない。相変わらず癖のようにヒステリックな表情をする。
大人になった撥香は、もう母親の機嫌に畏縮することはなかった。だから、そのような表情で叱りつけるのは、自分を真剣に案じているからだと分かった。
「ハッちゃん、何でお母はんのこと」
撥香から尋ねられた渋撥は、何を言っているのかという表情をした。
「渋粋君が……アンタの旦那がね、よう渋撥をウチに会わせに来てくれてたんよ」
撥香の母は努めて気を落ち着け、しっかりと言い聞かせるように話した。
「アンタと一緒に住み始めたときかてちゃんと挨拶に来はった。渋撥が生まれたのも一番に知らせてくれはった。たまにアンタに内緒で渋撥を連れ出してウチに会わせてくれはったんよ。撥香には内緒にしといてくれって。ウチとアンタの不仲を知ってはったのに、それでも撥香のおかんで、渋撥のばーちゃんやからって」
最初に渋粋に会ったのは、撥香と暮らし始めたと単身挨拶に来たときだった。そのときは勝手にしろと突っぱねた。我が子はとうに自分の手許から離れたと思っていた。忙しさのあまり我が子を顧みず、充分に愛さず、視界にも入れなくなった事実を考えれば、血の繋がった親子といえども疎遠になるのは当然の報いだった。本心では、諦めることで己の過失や後悔、反省から逃れたかった。撥香が離れていってくれれば、自分を苛む存在はなくなる。
次に渋粋がやって来たとき、撥香が無事に子どもを産んだ報告を聞かされた。ふたりしてベビー用品を準備した話や、名前をつけた話、撥香の近況。もう縁は切れたと思っていたのに、母子ともに健康だと聞いて嬉しかった。
最初は撥香の夫を、忘れてしまいたい自責の念を蘇らせる厄介な存在だと思っていた。かつて母親の責務を投げ出してしまった事実は消せない。それなのに、赤ん坊の顔を見てからは、祖母としての責務を与えられた気がした。それを誇らしく感じ始めた。母親を辞めたのは自分なのに、祖母でありたいなんて、自分本位だ。自分から撥香の話を聞き出すことは憚られた。しかし、渋粋から撥香の話を聞くことは待ち遠しくなった。
彼の話し方は、我が子が如何に幸福であるか伝わってきた。彼は自分が撥香をどれだけ愛しているか、どれだけ渋撥を可愛がっているかを、生き生きと話した。
「ほんまええ男やったわ、アンタの旦那」
撥香の母の目から一筋の涙が伝い落ちた。
「渋粋君のこと、渋粋君のお兄さんから連絡あれへんかったらウチは知らんまんまやった」
撥香の両肩に手を置いて前後に揺さぶった。そうでもしないと今の撥香には自分の声が届かない気がした。子どもに親として無条件に言い聞かせられる時期は過ぎた。その大切な時間を見過ごしたのは自身の咎だ。
夜の海で抜け殻になった撥香を見た瞬間、雷に打たれたような気がした。今にも崩れ落ちそうに打ち震える我が子を見て突き放せるわけがない。どうして、今よりもずっと子どもだったあの頃、突き放せたのだろう。取り返しのつかないことをした。許されない罪を犯した。我が子を見なくなったあの頃、この子は泣いていたのではないか。震えていたのではないか。独りぼっちだったのではないか。海に消えていこうとした今夜のように。
「何でアンタはウチを呼んでくれへんの⁉ 何でひとりでやろうとすんの⁉ アンタ、旦那がいてへんよになって、ほんまにひとりでどうにかでけるつもりやったの! ひとり残されてしもたのに、何でアンタはウチを頼ってくれへんの! ウチはアンタの母親ちゃうの!」
撥香の目線はスーと下がっていった。
やはり母親の言葉は撥香の心には響かなかった。心が欠けてしまっているから。渋粋という必要不可欠な、唯一無二の、パーツが永遠に欠けてしまったから。
「お母はんやジョーがいてくれたって……イッキ君がいてへんなら、ウチは……」
撥香の母も攘之内も、それ以上撥香にかけるべき言葉が見つからなかった。
それは神様の決めたこと。もうどうにもならないことなのだから。
渋撥が突然、撥香の腕を掴んだ。
「イッキはもうどこにもおらんッ!」
自分でもゾッと鳥肌立つほど非情な台詞を吐いた。
渋粋を喪失して絶望したのは撥香だけではない。渋撥もたったひとりの父親を、唯一無二の太陽を、永久に失った。しかし、父親との然らぬ別れを嘆いている場合ではない。己の非情さに傷ついている場合ではない。
「イッキ君……いてへんの……?」
「ッ……いてへん。どんだけ探しても無駄や。イッキはもうこの世にいてへんねん……ッ」
撥香の母も攘之内も、周囲の大人たちすべてが憚った台詞。みな、撥香を想うあまり変えることのできない現実を思い知らせることを躊躇った。渋撥にはもう躊躇っている猶予はなかった。渋粋のいる幻想と、いない現実の狭間で、撥香が危うく揺らめいていることを本能的に察していた。
「うぁぁあああっ! っうああ……! あああぁぁーーっ!」
撥香は断末魔のような叫びを上げた。気が違ってしまったかのように悲鳴を上げて涙を噴き出した。自分よりも小さな渋撥の身体に爪がめり込みそうなほどしがみついた。
――ダメや。俺じゃ繋ぎ止められへん。
渋撥は自身の無力を思い知った。
自分では撥香を捕まえておくことはできない。分かっていた。撥香の中心にはいつだって渋粋がいて、永遠に渋粋に恋している。ふたりの間に付け入る隙などありはしない。
撥香の悲鳴を聞いていると、砂浜が融けてなくなって流されてなくなってしまいそうだった。撥香の絶望に呑みこまれてしまいそうだった。この泣きじゃくるか弱い母親を守ってゆく為には、何にも甘えてはいけないと悟った。頼るべき父親はもうこの世にないのだから。
「うっく……ひっ! あああっ……ああぁっ」
「泣くなハッカ。俺がイッキになるさかい泣くな。俺がイッキの代わりになったる……オマエの為に」
撥香が渋粋しか要らないというのなら、渋粋がいなければ生きていけないのなら、渋粋に成り代わって此処に繋ぎ止める。自分にはそれができる。この世で自分にしかできない。子が母親の為に何かをするのに理由など不要だ。
撥香は泣いて泣いて泣いて、身体がなくなってしまいそうなほど泣いて泣いて、一生分の涙を流し尽くした。
あなたと歩んでいきたかった。怪我をしても、苦難を乗り越えても、楽しいことも、嬉しいことも、あなたと歩んでいきたかった。あなたと支え合って、あなたと歳をとって、あなたと愛し合って、何処までもあなたと一緒に行きたかった。
あなたとした約束、愛しているって、幸福になるって。わたしが守り続ける。あなたがいなくなっても愛は潰えない。あなたがいなくなっても道は続いてゆく。あなたと進んでいくはずだった道を、この子と――――。
その日は、前日の夜から雨が降り続く雨天。同氏は通常バイク通勤だが、雨天の為に徒歩にて出社。同日帰宅時、信号無視をしている子ども及び走行中の大型トラックを発見。ドライバーは強雨による視界不良の為に子どもを視認できず。同氏は子どもを庇い、大型トラックの前に飛び出したものと思われる。事故を目撃していた通行人により救急、及び警察に連絡。救急車内にて応急処置、総合病院にて外科手術が行われるも、心肺の蘇生ならず。
渋粋の葬儀が終わって数日。
撥香は抜け殻だった。病院で死亡宣告を聞き、この世の終わりのような悲鳴を上げたきり、ずっと魂の無い身体だけが其処に在るようだった。誰が声をかけても、何を聞いても、反応は乏しかった。昼も夜も関係なくほとんどの時間を、瞼を閉ざして過ごした。
瞼を閉じると微睡みの中に渋粋の笑顔が浮かんでくる。その背中を追いかけて、こちらを振り返るあなたはいつも微笑みかけてくれる。名前を呼んで抱き留めてくれる。手を繋いで、体を繋いで、何処まででも一緒に行ける。渋粋との甘美な思い出だけが、撥香の命をどうにかこうにか繋いでいた。
「イッキ君――……」
撥香は、我が子とふたりきりになった家の中でたまにポツリとその名前を紡いだ。
何度名前を呼んでももう返事はない。何度求めても温かく抱き締められることはない。どれだけ求めても触れられない。どれだけ探しても見つからない。何処をどんなに探しても渋粋の温もりが見つからない。渋粋の気配が漂うこの家から、痕跡が消えてゆく。この狭い空間から渋粋の匂いすらも消えてしまったら、一体何処に自身を繋いでおけばよいのだろう。
撥香は常に渋粋を思い起こし、時に満たされ、時に涙した。楽園も地獄も同じところに在って、不安定だった。
渋撥は、撥香が渋粋の名を紡ぐ度に、少しずつ剥がれて、崩れて、壊れてゆく気がした。
渋粋はこの家の太陽だった。太陽を中心に笑顔がクルクルと回っていた。太陽が落とされた家のなかは、闇ばかりが広がって奈落へと続いていた。奈落の先に渋粋が待っているとしたら、撥香は喜んでそちらへ進んでいったろう。
或る日、渋撥は夜中に突然目を覚ました。目を覚ました切欠は分からない。何の故あってか生来勘が鋭い。何となく胸騒ぎがした。
ベッドから抜け出し自分の部屋を出て、両親の寝室を覗いた。其処に横たわっているはずの母親の姿がなかった。葬儀が終了してからこちら、撥香はこの家から外に出ることはほとんどなかった。おそらく、この家が渋粋との思い出が最も残る場所であり、染み着いた渋粋の痕跡に縋っていたから。そのような撥香が家から姿を消すなど只事ではない。
「ハッカ、どこ行った……?」
撥香の行き先を考えてみると、思いつく場所はひとつしかなかった。渋撥が知る限り、この家以外で渋粋との思い出が強く残っている場所。
撥香は、ひとりで海に向かって砂浜に立っていた。
夜空には大きな月が浮かんでおり、海面が月光を反射しててらてらと光っている。空と海の境界が其処に在った。
サクッ、サクッ、と砂を踏み鳴らして波打ち際へと進んだ。ひんやりとした砂の心地も、足にかかる波も気持ちよい。
ざざざざぁ……ざざざざぁあ。
寄せては返す波の音が、まるで催眠術のように楽しかった思い出を引き出した。
夜の海があんなにも恐ろしかったのに、嘘みたいに平気になった。渋粋が好きだと言ってくれて、何度もドライブがてら連れてきてくれて、渋撥が生まれてからは三人でよく遊びに来た。自宅から海は近かったから、夏の度にといわず年がら年中訪れた。暑い日は海水を掛け合って戯れ、寒い日は身を寄せ合って他愛もない話をした。
波の音に紛れて笑い声が聞こえる。渋撥が珍しくはしゃいで、渋粋と撥香が笑い合い、明るい声がクルクル回って弾ける。夏も冬も、いつも太陽が燦々と降り注いでいたね。
「イッキ君……どこ?」
自分が泣いているのか笑っているのか、黙っているのか叫んでいるのか、立っているのか座りこんでいるのか、起きているのか眠っているのか、分からない。何も分からない。天地が逆転しても分からない。どうでもいい。そんなことはどうでもいい。このまま世界が終わってしまったっていい。あなたがいない毎日が続いてゆく意味なんて無い。
「会いたい……会いたいんよ……」
雲の中にいるというのなら空にまでも捜しに行く。海の中にいるのなら海底までも捜しに行く。この体が、抜け殻になってしまったこの体が、もっと自由になればよいのに。重たい体から抜け出して魂だけになって、あなたに会いに行きたい。
あなたに会いたいのに。あなたにもう一度会う為なら何でもするのに。神様は残酷で、あなたが何処にいるのかすらも教えてくれない。これが神様から与えられた運命だというのなら、いくらでも祈るから、命も捧げるから、今すぐ終わりにしてほしい。
ざざざざぁ……ざざざざぁあ。
撥香は膝下にかかる海面を見詰めた。寄せては返す波が優しく手招きしている。この優しい波に身を委ねたら、渋粋の許へ誘ってくれるような気がした。
――ねえ、イッキ君。そこにいてる?
撥香はゆっくりと歩き出した。
一歩一歩足を踏み出す度に体が軽くなってゆく。苦しくて悲しくて重たい肉体から抜け出し、魂だけで好きなところに飛んでいける。
「ハッカ――…………」
波の音に紛れて渋粋の声が聞こえた。撥香は少女のようににっこりと微笑んだ。
「ハッカァーーッ‼」
しっかりと声が聞こえた。これは幻聴ではない。このように生々しい声が幻であるはずがない。生ある肉体から張り上げられたものだ。
撥香は引かれるように声の方角へ振り返った。
「ハッカ!」と、渋撥が弾丸のように飛びこんできた。
「ハッちゃん……?」
撥香は驚いて目を大きくした。
渋撥は力いっぱい撥香にしがみついた。それ以上先へ撥香を進ませるわけにはいかなかった。
撥香は渋撥を受け止めきれず、両膝からフッと力が抜けてその場に座りこんだ。座した体勢で海面はすでに胸の辺りまで来ていた。
渋撥は、胸まで海に浸かってもぼんやりしている撥香の体を激しく揺さぶった。
「ハッカ行くな! どこにも行くな!」
「だって……イッキ君が……」
「イッキは……ッ」
渋撥はギリッと奥歯を噛んだ。喉まで出かかった言葉を呑みこんだ。それを言ってしまえば、母親を絶望させることは分かり切っていた。
「ハッカ!」
男の太い声で呼びかけられた。
人影が砂浜を走ってきたかと思うと、躊躇なく海のなかへ入った。バシャバシャッ、と水音を立てて撥香と渋撥に近づいた。
「何してんねんお前!」と言うや否や、攘之内は両手で撥香を抱え上げた。渋撥に、お前も来い、と命じて抱きかかえた撥香を砂浜へと運んだ。
攘之内は撥香を砂浜に座らせてホッと一息吐いた。
撥香にかける言葉は見つからなかった。撥香は脱力しきっており、本当に気の抜けた抜け殻のようだった。
「ジョー……。イッキ君が……どこにも……いてへんの。家にも、ここにも……どこにも……。イッキ君、何で……どこに行ってしもたん……。こ……こんな……ウチこんな……恐いモンがあるなんて……しらんかった……」
誰にも愛されないと諦めていた頃は、これほどまでに恐ろしいものなどなかった。孤独に生きる恐怖など、愛するものを喪失することに比べればどうということはない。自分の価値が如何ほどかとか、自分のルーツがどうとか、自分の居場所は何処かとか、自分の人生がどうとか、そのようなものは問うだけ無駄だ。愛するあの人がいないのに、自分がいる意味なんて無い。
「ウチ……ウチ、もうあかんのよ……ジョー」
やめて、連れて行かんといて。イッキ君をどこにも連れてかんといて。どこまででも一緒に行くからイッキ君をウチから奪らんといて。
イッキ君はウチのすべて。ウチからイッキ君を奪ったら何も残れへん。イッキ君がいなくなった日に、ウチの世界は終わったんや。
「何もあかんことあれへん!」
攘之内は弾かれたように撥香を抱き締めた。
「俺がッ! 俺が何でもしたる! お前とお前とイッキの子の為やったら俺が何でもしたるさかい、そんなこと言うな! 頼むさかい、お前まで死なんでくれ!」
撥香の為にしてやれることなど本当に僅かなものだと自覚している。撥香が心から望んでいることを知りつつも叶えてやることは誰にもできない。何を言ったところでその場しのぎの嘘と大差ない。それでも衝動的に思ったことが口を突いて出た。攘之内は撥香が絶望に潰れるのを見ていられなかった。
――何で行ってしもたんや。ひとりでそんな先を走ってくな。ハッカにはお前が必要なんや。
イッキ――――!
攘之内さえも胸中で渋粋を呼んだ。目の前の女たったひとりも泣き止ますこともできない。腕尽くで足を停めさせることしかできない。情けない。無力だ。無能だ。
「アンタァこんなとこで何してんの!」
女性の悲鳴じみたヒステリックな声。撥香は聞き覚えがあった。久し振りに聞く、母親の声だった。
何故、今更、どうして、この場所で。撥香は砂浜を駆け寄ってくる母親の姿を呆然と見詰めた。
「ひふみ」と渋撥が言った。
一二三――――それは祖母の名前。撥香は一度も語ったことがなかったが、渋撥は祖母の存在も連絡先も知っていた。撥香が家にいないことに気づいた渋撥は、此処に向かう前に祖母に連絡をしていた。祖母から攘之内へと連絡が行き、攘之内は思いつく限りの行き先を伝えた。別々に行き先を当たり、攘之内のほうが先に撥香に辿り着いたのだった。
「アンタ、子どももいてるのに何するつもり⁉ 子どもひとり残してどこ行くつもりよ!」
撥香の母は、撥香の顔の真正面から叱りつけた。
撥香は無言で母親の顔を見詰めた。会わなかったのはほんの数年。それなのに、母は随分と老いて見えた。老いて深い皺が増えたが母の顔は忘れようもない。相変わらず癖のようにヒステリックな表情をする。
大人になった撥香は、もう母親の機嫌に畏縮することはなかった。だから、そのような表情で叱りつけるのは、自分を真剣に案じているからだと分かった。
「ハッちゃん、何でお母はんのこと」
撥香から尋ねられた渋撥は、何を言っているのかという表情をした。
「渋粋君が……アンタの旦那がね、よう渋撥をウチに会わせに来てくれてたんよ」
撥香の母は努めて気を落ち着け、しっかりと言い聞かせるように話した。
「アンタと一緒に住み始めたときかてちゃんと挨拶に来はった。渋撥が生まれたのも一番に知らせてくれはった。たまにアンタに内緒で渋撥を連れ出してウチに会わせてくれはったんよ。撥香には内緒にしといてくれって。ウチとアンタの不仲を知ってはったのに、それでも撥香のおかんで、渋撥のばーちゃんやからって」
最初に渋粋に会ったのは、撥香と暮らし始めたと単身挨拶に来たときだった。そのときは勝手にしろと突っぱねた。我が子はとうに自分の手許から離れたと思っていた。忙しさのあまり我が子を顧みず、充分に愛さず、視界にも入れなくなった事実を考えれば、血の繋がった親子といえども疎遠になるのは当然の報いだった。本心では、諦めることで己の過失や後悔、反省から逃れたかった。撥香が離れていってくれれば、自分を苛む存在はなくなる。
次に渋粋がやって来たとき、撥香が無事に子どもを産んだ報告を聞かされた。ふたりしてベビー用品を準備した話や、名前をつけた話、撥香の近況。もう縁は切れたと思っていたのに、母子ともに健康だと聞いて嬉しかった。
最初は撥香の夫を、忘れてしまいたい自責の念を蘇らせる厄介な存在だと思っていた。かつて母親の責務を投げ出してしまった事実は消せない。それなのに、赤ん坊の顔を見てからは、祖母としての責務を与えられた気がした。それを誇らしく感じ始めた。母親を辞めたのは自分なのに、祖母でありたいなんて、自分本位だ。自分から撥香の話を聞き出すことは憚られた。しかし、渋粋から撥香の話を聞くことは待ち遠しくなった。
彼の話し方は、我が子が如何に幸福であるか伝わってきた。彼は自分が撥香をどれだけ愛しているか、どれだけ渋撥を可愛がっているかを、生き生きと話した。
「ほんまええ男やったわ、アンタの旦那」
撥香の母の目から一筋の涙が伝い落ちた。
「渋粋君のこと、渋粋君のお兄さんから連絡あれへんかったらウチは知らんまんまやった」
撥香の両肩に手を置いて前後に揺さぶった。そうでもしないと今の撥香には自分の声が届かない気がした。子どもに親として無条件に言い聞かせられる時期は過ぎた。その大切な時間を見過ごしたのは自身の咎だ。
夜の海で抜け殻になった撥香を見た瞬間、雷に打たれたような気がした。今にも崩れ落ちそうに打ち震える我が子を見て突き放せるわけがない。どうして、今よりもずっと子どもだったあの頃、突き放せたのだろう。取り返しのつかないことをした。許されない罪を犯した。我が子を見なくなったあの頃、この子は泣いていたのではないか。震えていたのではないか。独りぼっちだったのではないか。海に消えていこうとした今夜のように。
「何でアンタはウチを呼んでくれへんの⁉ 何でひとりでやろうとすんの⁉ アンタ、旦那がいてへんよになって、ほんまにひとりでどうにかでけるつもりやったの! ひとり残されてしもたのに、何でアンタはウチを頼ってくれへんの! ウチはアンタの母親ちゃうの!」
撥香の目線はスーと下がっていった。
やはり母親の言葉は撥香の心には響かなかった。心が欠けてしまっているから。渋粋という必要不可欠な、唯一無二の、パーツが永遠に欠けてしまったから。
「お母はんやジョーがいてくれたって……イッキ君がいてへんなら、ウチは……」
撥香の母も攘之内も、それ以上撥香にかけるべき言葉が見つからなかった。
それは神様の決めたこと。もうどうにもならないことなのだから。
渋撥が突然、撥香の腕を掴んだ。
「イッキはもうどこにもおらんッ!」
自分でもゾッと鳥肌立つほど非情な台詞を吐いた。
渋粋を喪失して絶望したのは撥香だけではない。渋撥もたったひとりの父親を、唯一無二の太陽を、永久に失った。しかし、父親との然らぬ別れを嘆いている場合ではない。己の非情さに傷ついている場合ではない。
「イッキ君……いてへんの……?」
「ッ……いてへん。どんだけ探しても無駄や。イッキはもうこの世にいてへんねん……ッ」
撥香の母も攘之内も、周囲の大人たちすべてが憚った台詞。みな、撥香を想うあまり変えることのできない現実を思い知らせることを躊躇った。渋撥にはもう躊躇っている猶予はなかった。渋粋のいる幻想と、いない現実の狭間で、撥香が危うく揺らめいていることを本能的に察していた。
「うぁぁあああっ! っうああ……! あああぁぁーーっ!」
撥香は断末魔のような叫びを上げた。気が違ってしまったかのように悲鳴を上げて涙を噴き出した。自分よりも小さな渋撥の身体に爪がめり込みそうなほどしがみついた。
――ダメや。俺じゃ繋ぎ止められへん。
渋撥は自身の無力を思い知った。
自分では撥香を捕まえておくことはできない。分かっていた。撥香の中心にはいつだって渋粋がいて、永遠に渋粋に恋している。ふたりの間に付け入る隙などありはしない。
撥香の悲鳴を聞いていると、砂浜が融けてなくなって流されてなくなってしまいそうだった。撥香の絶望に呑みこまれてしまいそうだった。この泣きじゃくるか弱い母親を守ってゆく為には、何にも甘えてはいけないと悟った。頼るべき父親はもうこの世にないのだから。
「うっく……ひっ! あああっ……ああぁっ」
「泣くなハッカ。俺がイッキになるさかい泣くな。俺がイッキの代わりになったる……オマエの為に」
撥香が渋粋しか要らないというのなら、渋粋がいなければ生きていけないのなら、渋粋に成り代わって此処に繋ぎ止める。自分にはそれができる。この世で自分にしかできない。子が母親の為に何かをするのに理由など不要だ。
撥香は泣いて泣いて泣いて、身体がなくなってしまいそうなほど泣いて泣いて、一生分の涙を流し尽くした。
あなたと歩んでいきたかった。怪我をしても、苦難を乗り越えても、楽しいことも、嬉しいことも、あなたと歩んでいきたかった。あなたと支え合って、あなたと歳をとって、あなたと愛し合って、何処までもあなたと一緒に行きたかった。
あなたとした約束、愛しているって、幸福になるって。わたしが守り続ける。あなたがいなくなっても愛は潰えない。あなたがいなくなっても道は続いてゆく。あなたと進んでいくはずだった道を、この子と――――。
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