15 / 31
<第十五話・悪夢は続く>
しおりを挟む
あの少女は、一体何を言ってるのだろう。有純は無償に腹が立って仕方なかった。市川美亜は完全に、あの北見とかいう少女に言いがかりをつけているだけである。消ゴムを貸してもらえなかったからといってそれがどうした。どうしても気にくわないなら、何故一対一で文句を言わない?みんなを巻き込んで、一人を晒し上げるような真似をする?
――そんなの、卑怯だろうが。
ギリ、と有純は拳を握りしめる。
――しかもああやって泣いたりしたら、完全に北見ってあの女の子の方が加害者扱いになるだろ……!
自分は、トラブルの現場を直接見ていたわけではない。あの市川美亜が、一人の少女を取り巻きと場の空気を使って糾弾し、追い詰めた場面を見ただけだ。
けして美亜は、乱暴な言葉で相手を詰ったわけではなかった。
暴力を振るったわけでもなければ、物を隠したり壊したりしたわけでもなかった。
それでも、有純には――いや、周囲で見ていた多くの子供たちには理解できていたはずだ。むしろわかっていたからこそ、あの北見とかいう少女も怯えていたのである。本当に恐ろしいものは、目に見えるわかりやすい暴力などではない。空気を自在に操ることだ。自分が正しいと強引に思い込ませ、間違ってなどいないはずの相手に強引なレッテル貼りをすることである。
あの場でどうして、北見が“私は間違っていない”“こんなことはやめて”などと口にすることができただろうか。騒いでいたのは取り巻き達数名で、きっかけを作ったのも美亜一人である。けれど彼らの言葉が周囲の空気を誘導し、さも北見が間違っているかのような印象を皆に思い込ませてしまうのだ。
既に、彼女の反論は一切通らない空気が出来上がっていた――作られていた。
間違っていると感じた子供がいてもどうして止めることができるだろう。それを勇気を出して言い出したら最後、矛先が誰に向くかなど明白なのである。少しでも安全地帯にいたい気持ちがあるならば出来ることはひとつ、沈黙しかないのだ。
「……頭おかしいんじゃねぇのか」
有純は思わず、声に出していた。
「周囲の空気を操る?自分が正しいように見せつける?……そんなもん、自分の力だけで相手に立ち向かう勇気もねぇ臆病者がやることじゃねえか!お前、取り巻きに助けられて、くっだんねぇ正義振りかざして……恥ずかしいと思わねえかよ!」
しかし、これは明らかに過去の記憶。既に終わってしまった出来事を有純が見ているだけに過ぎない。わかっていたことだが、有純がいくら叫んでも美亜達に届くことはなく、周囲の子供達も北見も一切反応する様子はなかった。
当然、掴みかかってやろうとしても、一切有純の手が触れることはない。
――くそっ……なんつー胸糞悪い光景だ……!
真っ青な顔の少女は、ひたすら美亜に許して許してと繰り返している。狼ではないことを証明しろ、なんて。そんなこと一体どすればいいというのだ。有純が疑問に思うと同時に、目の前の景色は派手な音とともに砕け散った。
「うわっ……!?」
だが、現実に帰ってきたわけではない。砕けた先の景色も、先程と同じセピア色の教室だった。この光景を有純に見せている“誰か”は、よほど事態を理解してほしくてたまらないらしい。
机に座って、俯いているのは先程吊し上げられていた北見という少女だ。
『舞花ちゃーん』
どうやら、少女北見の下の名前は“舞花”であったらしい。馴れ馴れしく彼女の側に寄っていくのは、あの吊し上げで真っ先に美亜を庇う発言を喚いた、取り巻きの少女のうちの一人だ。
『お疲れさまー舞花ちゃん。ねえ、今日は宿題いっぱいでほんと大変だったよねえ。特に国語!なんであんなにたくさん出るのか意味わかんないと思わない?』
『…………』
『ええ?無視?無視するの?おかしいなぁ、“狼じゃない”優しい優しい舞花ちゃんが、なんでそんなことするのかなぁ?』
『えっ……!?』
どうやら考え込んでいて、呼ばれる声が聞こえていなかったパターンらしい。はっとして顔を上げる舞花。己の失策を悟った少女の顔から、みるみる血の気が引いていく。
『ご、ご、ごめんなさ、いっ!ぼ、ぼ、ぼんやりしててっ!』
すると取り巻きの少女とその後ろに控えていた美亜と数名が、わざとらしく派手な笑い声をあげた。
『やっだー!舞花ちゃってば面白ーい。ご、ご、ごめんなさ、いっ!だって!ほんと人を笑わせてくれるのが上手いよねっ!ねえどうしたらそんな面白い声が出せるのー?ねえねえ教えてよぉー?』
『そ、そんな、つもりじゃ……』
『そんなつもりってなにー?ジョークも通じないの?そんなんだからいっつも独りなのよ、“狼さん”みたいよねぇ?』
『――――!』
狼になる、ということ。
それは徹底的な虐めな標的として、クラスから排除されても仕方のない存在になるということ。
有純は現場をきちんと知らないが、彼女達の物言いからしてそんな意味と受け取ってほぼ間違いはないのだろう。既に虐めでしかないだろ、とこっちとしては忌々しい気持ちでならないのだけれど。
『“ご、ご、ごめんなさ、いっ!ぼ、ぼ、ぼんやりしててっ!” 』
『似すぎ似すぎ!マジやっばー!』
ギャハハハハ!と悪意のある笑い声が上がる。怯えて吃り、ひきってしまった舞花の声を物真似してからかう少女達。その中心で、どんどん涙目になっていく舞花。
もし。この光景を見て大人が“子供同士のふざけあいであって虐めではない”なんて本気で思うのなら――そんな奴に教師になる資格はない、と有純は本気で思う。虐めというのが昔からの漫画にあるような、暴力や物を壊されるといった目に見える形だけで発生すると考えているのなら、それはとんだ時代錯誤というものだ。そうやってはっきりしない形であっても、虐めは現実に存在するのだから。
嫌ならやめてと言えばいいのに、なんていう意見も論外でしかない。やめて、と言えない空気を作ることも、加害者にとってさほど難しくもなく。そもそもやめて、なんて言っただけで虐めが終わるのなら、誰も最初から苦労なんてしていないのだ。
人の悪意は、特に子供達の悪意は、時として大人が想像もつかないほど陰湿で残酷なものである。
『狼さんじゃないなら、舞花ちゃんは優しい優しいヤギさんよね?誰かを手助けすることが大好きで、人を助けるためなら進んで大変なこともやってくれるのよね?』
そして、美亜は当然のように舞花に無理難題を突きつける。自分と、取り巻き四人を指し示して、そして。
『あたし達すっごく困ってるの。あんなに宿題出されちゃったらほんとたまんないわ。やらなきゃいけないことたくさんあるのに、そんな手間暇なんてかけてられないのよね。だからさ、舞花ちゃん。優しい優しい、舞花ちゃんは助けてくれるよね?』
『え、え……?』
『みんなの宿題、助けてくれるんじゃないの?おかしいなぁ、優しい優しいヤギさんなら助けてくれるはずなんだけどな。それとも本当は舞花ちゃん、“狼さん”なのに嘘ついてたのかなぁ?』
『ち、ち、違う!わ、私は狼じゃない!狼なんかじゃないから!!』
絶叫する舞花。それを見て、美亜はにんまりと満足げに笑って見せるのだ。そして自分のランドセルから漢字ドリルなどを取り出すと、バサバサと舞花の机の上に乗せていく。
『さすっすが優しい優しいヤギの舞花ちゃんじゃーん!私達友達だもんねー、友達を助けるのは当たり前だもんねー』
そして、美亜と、取り巻き達のドリルが大量に舞花の机の上に積み上がった。途方に暮れる舞花を残し、美亜達はランドセルを背負い直してスタスタと歩き出す。
『じゃあ後はお願いねー。みんな、帰ったらあたしの家に集合ー』
『わっかりましたー!』
教室を出ていく少女達。後に残されたのは、机の上に大量の押し付けられた宿題を積み上げた――北見舞花、ただ一人だった。
『締め切り……明後日なのに……。塾、あるのに。どうしよう……』
舞花は呟き、ついに嗚咽を漏らして泣き出した。あまりにも痛ましい光景に、有純は悔しくてたまらなくなる。自分がこの場にいたら、絶対にあの市川美亜を追いかけていって殴り飛ばしてやったというのに。
――くそっ、全部あいつがいるからいけないんじゃねーか!あいつをなんとかすれば、このクラスから虐めはなくなる、明白だろ……!?なのに、教師は一体何をしてたっていうんだ!
そして、再び砕け散る空間。どれだけ続くのだろうか、このビジョンは。砕けた先もやはり同じ、教室の風景である。違うのは登場人物だろうか。教員机に座る女性教諭と、男子生徒が一人。向かい合って座り、話をしているらしい。
『クラスの空気が良くないって聞いてるけど、それは本当なの?』
『……本当なのも、何も……』
ああ、その質問の仕方はアウトだ。有純でもそれはわかった。教師はなるべく物事を決めつけない、中立の立場で質問をしようとしたのかもしれないが――聞いている側からすればそれは“見ていればわかるはずのことを先生がわかっていないのだ”と受け取っても仕方ないだろう。
『誰が悪いのか、先生は本当にわからないんですか』
その男子生徒には見覚えがあった。確か、二年生の時に同じクラスだった。種田悠里である。つい少し前に、四年三組について聞き込みをしようとして声をかけた少年の一人だった。例のごとく、何も話してはくれなかったけれど。
『狼って呼ばれるんです。市川さんに虐められるやつは』
痩せた長身を丸めて、悠里は苦々しく語る。
『市川さんの機嫌を少しでも損ねた奴は狼にされてしまう。そうなったらもう、毎日が地獄にしかならない』
『地獄って……市川さんは女の子でしょう?』
『女の子だからなんだっていうんですか。暴力がないから怖くないとでも言うんですか。逆だってなんでわかんないんですか』
悠里は、理解の遅い教師に必死で訴えた。何もわかってない、そう言うように。
『むしろ男子の方が……あいつ相手に苦労してるし、苦しんでるってなんでわかんないんですか。俺達、簡単に“悪者”にされるのに』
――悪者……?
有純はその話を聞きながら、理解していくことになるのである。何故夏騎をして、この苛めを“極めて厄介だった”と評したのかということを。
――そんなの、卑怯だろうが。
ギリ、と有純は拳を握りしめる。
――しかもああやって泣いたりしたら、完全に北見ってあの女の子の方が加害者扱いになるだろ……!
自分は、トラブルの現場を直接見ていたわけではない。あの市川美亜が、一人の少女を取り巻きと場の空気を使って糾弾し、追い詰めた場面を見ただけだ。
けして美亜は、乱暴な言葉で相手を詰ったわけではなかった。
暴力を振るったわけでもなければ、物を隠したり壊したりしたわけでもなかった。
それでも、有純には――いや、周囲で見ていた多くの子供たちには理解できていたはずだ。むしろわかっていたからこそ、あの北見とかいう少女も怯えていたのである。本当に恐ろしいものは、目に見えるわかりやすい暴力などではない。空気を自在に操ることだ。自分が正しいと強引に思い込ませ、間違ってなどいないはずの相手に強引なレッテル貼りをすることである。
あの場でどうして、北見が“私は間違っていない”“こんなことはやめて”などと口にすることができただろうか。騒いでいたのは取り巻き達数名で、きっかけを作ったのも美亜一人である。けれど彼らの言葉が周囲の空気を誘導し、さも北見が間違っているかのような印象を皆に思い込ませてしまうのだ。
既に、彼女の反論は一切通らない空気が出来上がっていた――作られていた。
間違っていると感じた子供がいてもどうして止めることができるだろう。それを勇気を出して言い出したら最後、矛先が誰に向くかなど明白なのである。少しでも安全地帯にいたい気持ちがあるならば出来ることはひとつ、沈黙しかないのだ。
「……頭おかしいんじゃねぇのか」
有純は思わず、声に出していた。
「周囲の空気を操る?自分が正しいように見せつける?……そんなもん、自分の力だけで相手に立ち向かう勇気もねぇ臆病者がやることじゃねえか!お前、取り巻きに助けられて、くっだんねぇ正義振りかざして……恥ずかしいと思わねえかよ!」
しかし、これは明らかに過去の記憶。既に終わってしまった出来事を有純が見ているだけに過ぎない。わかっていたことだが、有純がいくら叫んでも美亜達に届くことはなく、周囲の子供達も北見も一切反応する様子はなかった。
当然、掴みかかってやろうとしても、一切有純の手が触れることはない。
――くそっ……なんつー胸糞悪い光景だ……!
真っ青な顔の少女は、ひたすら美亜に許して許してと繰り返している。狼ではないことを証明しろ、なんて。そんなこと一体どすればいいというのだ。有純が疑問に思うと同時に、目の前の景色は派手な音とともに砕け散った。
「うわっ……!?」
だが、現実に帰ってきたわけではない。砕けた先の景色も、先程と同じセピア色の教室だった。この光景を有純に見せている“誰か”は、よほど事態を理解してほしくてたまらないらしい。
机に座って、俯いているのは先程吊し上げられていた北見という少女だ。
『舞花ちゃーん』
どうやら、少女北見の下の名前は“舞花”であったらしい。馴れ馴れしく彼女の側に寄っていくのは、あの吊し上げで真っ先に美亜を庇う発言を喚いた、取り巻きの少女のうちの一人だ。
『お疲れさまー舞花ちゃん。ねえ、今日は宿題いっぱいでほんと大変だったよねえ。特に国語!なんであんなにたくさん出るのか意味わかんないと思わない?』
『…………』
『ええ?無視?無視するの?おかしいなぁ、“狼じゃない”優しい優しい舞花ちゃんが、なんでそんなことするのかなぁ?』
『えっ……!?』
どうやら考え込んでいて、呼ばれる声が聞こえていなかったパターンらしい。はっとして顔を上げる舞花。己の失策を悟った少女の顔から、みるみる血の気が引いていく。
『ご、ご、ごめんなさ、いっ!ぼ、ぼ、ぼんやりしててっ!』
すると取り巻きの少女とその後ろに控えていた美亜と数名が、わざとらしく派手な笑い声をあげた。
『やっだー!舞花ちゃってば面白ーい。ご、ご、ごめんなさ、いっ!だって!ほんと人を笑わせてくれるのが上手いよねっ!ねえどうしたらそんな面白い声が出せるのー?ねえねえ教えてよぉー?』
『そ、そんな、つもりじゃ……』
『そんなつもりってなにー?ジョークも通じないの?そんなんだからいっつも独りなのよ、“狼さん”みたいよねぇ?』
『――――!』
狼になる、ということ。
それは徹底的な虐めな標的として、クラスから排除されても仕方のない存在になるということ。
有純は現場をきちんと知らないが、彼女達の物言いからしてそんな意味と受け取ってほぼ間違いはないのだろう。既に虐めでしかないだろ、とこっちとしては忌々しい気持ちでならないのだけれど。
『“ご、ご、ごめんなさ、いっ!ぼ、ぼ、ぼんやりしててっ!” 』
『似すぎ似すぎ!マジやっばー!』
ギャハハハハ!と悪意のある笑い声が上がる。怯えて吃り、ひきってしまった舞花の声を物真似してからかう少女達。その中心で、どんどん涙目になっていく舞花。
もし。この光景を見て大人が“子供同士のふざけあいであって虐めではない”なんて本気で思うのなら――そんな奴に教師になる資格はない、と有純は本気で思う。虐めというのが昔からの漫画にあるような、暴力や物を壊されるといった目に見える形だけで発生すると考えているのなら、それはとんだ時代錯誤というものだ。そうやってはっきりしない形であっても、虐めは現実に存在するのだから。
嫌ならやめてと言えばいいのに、なんていう意見も論外でしかない。やめて、と言えない空気を作ることも、加害者にとってさほど難しくもなく。そもそもやめて、なんて言っただけで虐めが終わるのなら、誰も最初から苦労なんてしていないのだ。
人の悪意は、特に子供達の悪意は、時として大人が想像もつかないほど陰湿で残酷なものである。
『狼さんじゃないなら、舞花ちゃんは優しい優しいヤギさんよね?誰かを手助けすることが大好きで、人を助けるためなら進んで大変なこともやってくれるのよね?』
そして、美亜は当然のように舞花に無理難題を突きつける。自分と、取り巻き四人を指し示して、そして。
『あたし達すっごく困ってるの。あんなに宿題出されちゃったらほんとたまんないわ。やらなきゃいけないことたくさんあるのに、そんな手間暇なんてかけてられないのよね。だからさ、舞花ちゃん。優しい優しい、舞花ちゃんは助けてくれるよね?』
『え、え……?』
『みんなの宿題、助けてくれるんじゃないの?おかしいなぁ、優しい優しいヤギさんなら助けてくれるはずなんだけどな。それとも本当は舞花ちゃん、“狼さん”なのに嘘ついてたのかなぁ?』
『ち、ち、違う!わ、私は狼じゃない!狼なんかじゃないから!!』
絶叫する舞花。それを見て、美亜はにんまりと満足げに笑って見せるのだ。そして自分のランドセルから漢字ドリルなどを取り出すと、バサバサと舞花の机の上に乗せていく。
『さすっすが優しい優しいヤギの舞花ちゃんじゃーん!私達友達だもんねー、友達を助けるのは当たり前だもんねー』
そして、美亜と、取り巻き達のドリルが大量に舞花の机の上に積み上がった。途方に暮れる舞花を残し、美亜達はランドセルを背負い直してスタスタと歩き出す。
『じゃあ後はお願いねー。みんな、帰ったらあたしの家に集合ー』
『わっかりましたー!』
教室を出ていく少女達。後に残されたのは、机の上に大量の押し付けられた宿題を積み上げた――北見舞花、ただ一人だった。
『締め切り……明後日なのに……。塾、あるのに。どうしよう……』
舞花は呟き、ついに嗚咽を漏らして泣き出した。あまりにも痛ましい光景に、有純は悔しくてたまらなくなる。自分がこの場にいたら、絶対にあの市川美亜を追いかけていって殴り飛ばしてやったというのに。
――くそっ、全部あいつがいるからいけないんじゃねーか!あいつをなんとかすれば、このクラスから虐めはなくなる、明白だろ……!?なのに、教師は一体何をしてたっていうんだ!
そして、再び砕け散る空間。どれだけ続くのだろうか、このビジョンは。砕けた先もやはり同じ、教室の風景である。違うのは登場人物だろうか。教員机に座る女性教諭と、男子生徒が一人。向かい合って座り、話をしているらしい。
『クラスの空気が良くないって聞いてるけど、それは本当なの?』
『……本当なのも、何も……』
ああ、その質問の仕方はアウトだ。有純でもそれはわかった。教師はなるべく物事を決めつけない、中立の立場で質問をしようとしたのかもしれないが――聞いている側からすればそれは“見ていればわかるはずのことを先生がわかっていないのだ”と受け取っても仕方ないだろう。
『誰が悪いのか、先生は本当にわからないんですか』
その男子生徒には見覚えがあった。確か、二年生の時に同じクラスだった。種田悠里である。つい少し前に、四年三組について聞き込みをしようとして声をかけた少年の一人だった。例のごとく、何も話してはくれなかったけれど。
『狼って呼ばれるんです。市川さんに虐められるやつは』
痩せた長身を丸めて、悠里は苦々しく語る。
『市川さんの機嫌を少しでも損ねた奴は狼にされてしまう。そうなったらもう、毎日が地獄にしかならない』
『地獄って……市川さんは女の子でしょう?』
『女の子だからなんだっていうんですか。暴力がないから怖くないとでも言うんですか。逆だってなんでわかんないんですか』
悠里は、理解の遅い教師に必死で訴えた。何もわかってない、そう言うように。
『むしろ男子の方が……あいつ相手に苦労してるし、苦しんでるってなんでわかんないんですか。俺達、簡単に“悪者”にされるのに』
――悪者……?
有純はその話を聞きながら、理解していくことになるのである。何故夏騎をして、この苛めを“極めて厄介だった”と評したのかということを。
0
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
わたしの下着 母の私をBBA~と呼ぶことのある息子がまさか...
MisakiNonagase
青春
39才の母・真知子は息子が私の下着を持ち出していることに気づいた。
ネットで同様の事象がないか調べると、案外多いようだ。
さて、真知子は息子を問い詰める? それとも気づかないふりを続けてあげるか?
そのほかに外伝も綴りました。
迷子を助けたら生徒会長の婚約者兼女の子のパパになったけど別れたはずの彼女もなぜか近づいてくる
九戸政景
恋愛
新年に初詣に来た父川冬矢は、迷子になっていた頼母木茉莉を助け、従姉妹の田母神真夏と知り合う。その後、真夏と再会した冬矢は真夏の婚約者兼茉莉の父親になってほしいと頼まれる。
※こちらは、カクヨムやエブリスタでも公開している作品です。
還暦の性 若い彼との恋愛模様
MisakiNonagase
恋愛
還暦を迎えた和子。保持する資格の更新講習で二十代後半の青年、健太に出会った。何気なくてLINE交換してメッセージをやりとりするうちに、胸が高鳴りはじめ、長年忘れていた恋心に花が咲く。
そんな還暦女性と二十代の青年の恋模様。
その後、結婚、そして永遠の別れまでを描いたストーリーです。
全7話
天才天然天使様こと『三天美女』の汐崎真凜に勝手に婚姻届を出され、いつの間にか天使の旦那になったのだが...。【動画投稿】
田中又雄
恋愛
18の誕生日を迎えたその翌日のこと。
俺は分籍届を出すべく役所に来ていた...のだが。
「えっと...結論から申し上げますと...こちらの手続きは不要ですね」「...え?どういうことですか?」「昨日、婚姻届を出されているので親御様とは別の戸籍が作られていますので...」「...はい?」
そうやら俺は知らないうちに結婚していたようだった。
「あの...相手の人の名前は?」
「...汐崎真凛様...という方ですね」
その名前には心当たりがあった。
天才的な頭脳、マイペースで天然な性格、天使のような見た目から『三天美女』なんて呼ばれているうちの高校のアイドル的存在。
こうして俺は天使との-1日婚がスタートしたのだった。
17歳男子高生と32歳主婦の境界線
MisakiNonagase
恋愛
32歳の主婦・加恋。冷え切った家庭で孤独に苛まれる彼女を救い出したのは、ネットの向こう側にいた二十歳(はたち)と偽っていた17歳の少年・晴人だった。
「未成年との不倫」という、社会から断罪されるべき背徳。それでも二人は、震える手で未来への約束を交わす。少年が大学生になり、社会人となり、守られる存在から「守る男」へと成長していく中で、加恋は自らの手で「妻」という仮面を脱ぎ捨てていく…
診察室の午後<菜の花の丘編>その1
スピカナ
恋愛
神的イケメン医師・北原春樹と、病弱で天才的なアーティストである妻・莉子。
そして二人を愛してしまったイケメン御曹司・浅田夏輝。
「菜の花クリニック」と「サテライトセンター」を舞台に、三人の愛と日常が描かれます。
時に泣けて、時に笑える――溺愛とBL要素を含む、ほのぼの愛の物語。
多くのスタッフの人生がここで楽しく花開いていきます。
この小説は「医師の兄が溺愛する病弱な義妹を毎日診察する甘~い愛の物語」の1000話以降の続編です。
※医学描写と他もすべて架空です。
里帰りをしていたら離婚届が送られてきたので今から様子を見に行ってきます
結城芙由奈@コミカライズ連載中
恋愛
<離婚届?納得いかないので今から内密に帰ります>
政略結婚で2年もの間「白い結婚」を続ける最中、妹の出産祝いで里帰りしていると突然届いた離婚届。あまりに理不尽で到底受け入れられないので内緒で帰ってみた結果・・・?
※「カクヨム」「小説家になろう」にも投稿しています
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる