虚構の国のアリス達

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<第二十三話・魔術師の決断>

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 ちょっと待て、と思った。
 あの市川美亜を簡単に排除できない理由が、彼女の家にあるのではないか――という予想は立っていたけれども。まさか、彼女の親が議員であるとは、想像もしていなかった。

「俺、テレビとかニュースとかよく見ないけど……与党の衆議員っつーのがどんだけ凄いのかはなんとなくわかるぞ……?」
「もう一つオマケしてあげようか。彼女の叔父さんの方は、県議会議員だよ」
「そういう家系かよ……」

 そりゃまあ、影響力やらコネクションやらいろいろ面倒であったはずである。彼女がいじめの主犯とわかっていても、学校側がそうそう対応できなかった理由の一つであったのはまず間違いないだろう。そもそも、いじめそのものを公にしたくなかった学校である。その主犯が議員の娘で県議会議員の姪ともなれば、最低でも大騒ぎになるのもは明白だ。
 というか。

――校長が出てきて口止めしてくるっていうのは随分と大げさだとは思ってたけど……そういう事情があったわけかよ。

 こんな風に圧力かけられたら、子供達がストレスを抱え込んで成績を下げたり、不登校になったりするのも無理ないではないか。
 本来ならば子供達を率先して守るべきはずの立場の教師が――いくらなんでも、酷すぎる。

『これが高校だったら、退学処分ってやり方もできなくはなかったんだろうけど。小学校で、義務教育。十四歳未満だから何が問題が起きても逮捕できる年齢でさえない。そもそも大前提として退学・停学なんて学校側でさせられないのに、おまけで親がこれじゃね。下手な手を打てば、学校側が訴えられる事態になりかねない』
『そんな、悪いのはあっちなのに……!』
『そう、どう考えても諸悪の根源は市川美亜なのに、それを父親の機転と人脈で覆されかねないんだよ。こっちは普通の公立の学校法人なんだから。……だったら彼女を在籍させたまま改心させられるのかって話だけど、それが難しいのは君もなんとなくわかってるんじゃないのかい?』
『小倉君でも、無理だと思うの?』
『無理というか、限りなく厳しいかな』

 絶望的な面持ちの隆に追い討ちをかけるがごとく、港が告げる。

『ある意味、彼女は僕と“同族”だから。あれは、ただの子供のいじめの主犯じゃない。たった一人で、言葉で、暴力さえも用いずに人心を掌握して集団を操る力を持っている……立派な“魔女”だ』

 魔女。その一見するとファンタジーな言葉が、どこか有純の心にもすとんと落ちてきた。
 ただ彼女自身が発した台詞だけを記録して書き出しても、そこまで酷い行為や行動をしているようには思われないだろう。それなのに状況を使い、“使徒”を使い、周囲の者達の心理を誘導して思いのままに操っている。
 下手をしたら、どんな異世界の魔法使いよりも恐ろしい、魔女。確かに、そんな相手にどう立ち向かっていけばいいのかと思うのも無理はないことだろう。ましてや戦力が、無力な子供達だけというのならば尚更そうだ。大人達は一切頼ることができないのだから。

『勿論、そういう力を持っている人は世の中にそれなりの数いると思うよ。そしてそれを、人の為世の為に使っている素晴らしい人もたくさん存在している。でも、そういう才能の活かし方を“意図的に”誤る人が時々存在するんだよね。市川美亜は、まさにそういう類の人間。彼女は自分がしていることが本気で悪だと思っていない。教室に、自分の為の独裁国家を作ることが、間違いだとは全く考えていないって印象だ。何度か直接言葉を交わしたけど明白だったよ。あれは、第三者がどうこう言って意見を変えられるようなタイプじゃない。非行に走る生徒を仮に“芯が曲がる”と表現するなら彼女の場合は……最初から“芯と呼ばれるものが存在しない”だ』
『説得しても、無意味ってこと?』
『この世界に絶対なんてものはないから、ゼロだとは言わないけれど。ほぼほぼ無意味だと思っていいと考えてるよ。注意すれば彼女は当然のように“自分の世界を自分のために動かして何がいけない?”と返してくるだろうさ。……そういえば、彼女三年生の終わりの終わりに転校してきたんだっけね。前の学校でも相当やらかしていたんじゃないかと思うんだけど、どうかなあ……』

 ああそういうことか、と合点がいった。それだけ強烈な少女を、なんで有純が把握していなかったのかと思ったら――彼女は三年の終わりまでこの学校にいなかったということなのか。
 そして、三年の終わりの終わりならば、掌握は無理と判断して大人しくしていたのかもしれない。いや、さすがにそれは有純の予想の範疇を出ないけれども。港の言葉が正しいならば、美亜は“どこかで歪んだ”ではなく“最初から崩れていた”というタイプであるように聞こえる。家庭環境で急におかしくなったとか、きっとそういうことではないのだろう。本人の意識で、ひっそりと潜伏した期間はあるかもしれないにせよ。

『人狼ゲームで言うならば、最初から吊るすべき人狼がわかっているような状態だ。でも、既にみんなの心は市川美亜に洗脳されて”狂人”に変わりつつある。占い師が指をさしたら最後、そっちがPPで狼に仕立て上げられるっていう状況だ。だから誰も彼女を糾弾できない。環境的にも排除できないし、ましてやさっき言ったように説得してどうこうできるような相手でもないことは明白だ』

 そもそも、と港は続ける。

『仮にみんなが、彼女の洗脳を抜け出してこっちに味方してくれても。僕らみんなで彼女を孤立させて追い詰めるような行為をしたら、今度は逆に僕たちの方が彼女を“いじめている”状況になってしまいかねない。それは倫理的にどうかと思うし、根本的な“いじめ問題の解決”にはなっていない。報復合戦にもなれば完全に堂々巡り。もっと言えば僕らが一年耐えても、彼女は進級すれば必ず同じことを繰り返すさ。少なくともあと二年、どこかのクラスが犠牲になることは確定的だ』
『じゃ、じゃあどうすればいいの!?八方塞がりじゃないか!』
『そうだね。……だから唯一、方法があるとすれば一つだけだと思っている』

 方法?この状況を覆す方法など、本当にあるというのだろうか。固唾を飲んで見守る有純の前で、港はにっこりと笑った。

『彼女に自分の意思で、いじめ行為をやめさせるか……あるいは、この学校から出て行くように仕向けることだ』

 それは、と有純は思う。
 確かにそれが、一見すると理想であるように思えるけれど。そんな方法、本当にあるのだろうか。

「僕もさ。彼女と同種の……一種魔術師だっていう自覚が昔からあったからさ。人が何に悩んでいるのかとか、その解決方法だとか。そういうものの答えは、いつもすぐに出せるタイプだったんだ。だから、目立たない生徒だったのに、僕の周りに人が集まることは少なくなかった。小学生レベルじゃない頭脳があるって自覚もあったし、推理力や観察力もあった。子供の悩みの根本を見抜くなんてわけないことだったんだよ。そうやって頼られるたび思っていたものさ……ああ、僕の力って、このために存在してたんだなって」

 だからね、と。現実の港は告げる。

「だから今回は、初めてのケースだったんだ。ここまで難易度の高い問題を突きつけられたっていうのも、僕と同格のライバルが存在しそれを打倒さないといけないっていうのもね。不謹慎と思うかもしれないけれど、個人的には燃えてたんだよ。何がなんでも、このクラスの問題を解決してみせるぞってね。必ず四年三組が終わる前に、僕の手で決着をつけてやるつもりだったんだ」
「でも、いじめをやめさせるのも出て行くようにするのも……ようは市川美亜自身の心を変えさせないとダメってことだろ。改心は無理だって、さっきお前が自分自身で言ったじゃないか」
「そう。だから考えた。改心なんてするはずのない彼女の、それでも行為だけでもやめたいと思わせるのにはどうしたらいいかってね」

 いくつも手を試したんだよ、と港。

「彼女のいじめ行為が、被害者に一切影響を及ぼせなくなったならどうか、とか。被害者が全くダメージを受けなくなるとか、むしろいじめを行うことで彼女自身が不快になるようにできたならどうだろうとか。もしくは彼女の標的そのものがいなくなったらどうなるんだろうか、とかね」

 ようやく、話が繋がってきた気がする。港がどうやって一人、クラスの問題と戦おうとしたのか。そしてその結果が――どうであったのかということを。

「次の場所に行こうか、有純さん」

 そして、彼はにっこりと笑って、有純の手を握ったのである。

「見せたいものはまだ、あと少し残っているからね」
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