碧眼の小鳥は騎士団長に愛される

狭山雪菜

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仮面舞踏会1

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ーー満月の夜、仮面舞踏会当日。


ユルア令嬢の家に泊まると家族に告げて、彼女の屋敷でシンプルな赤いAラインのドレスに着替え、軽くお化粧と長い銀髪はそのままに、赤いカチューシャをして2人で馬車に乗り仮面舞踏会の会場へと出発した。
彼女は私と同じデザインの青いドレスで、馬車内で隣に座る。
「こちらが入場と参加券としての証の仮面ですわ」
そっと大切そうに運んでいた木箱を取り出すと、中から二つの赤い羽と宝石が散らばっている顔半分が隠れる程の大きさの仮面を渡された。
「こちらが…なんて美しいのでしょう」
宝物に触れるように受け取ると、感銘の声が漏れる。
「付けますわ」
ユルアはアリカの頭の後ろで紐を結ぶ。少しだけ視界が狭まるが、馬車にある扉の小窓から鏡のように見える自分の顔は、ぱっと見ても誰だか分からない。やってくれたユルアに同じように仮面をつけると、お互い顔を見合わせて、ふふふっと笑い合う。
「今日は大人の雰囲気を味わいましょう」
「ええ、楽しみましょう」
と2人で出る初めての仮面舞踏会に期待に胸を膨らませた。



*********************



「君も今夜が初めてなのかい?」

仮面舞踏会の会場は、王城の近くにある公共の大ホールを貸し切って行われていた。キラキラと輝くシャンデリアと赤い絨毯、ダンスをする仮面を付けた人々に、談笑する仮面を付けた人々。同じ仮面をしているために、不思議と同じ顔に見えてしまう。強いて言えば瞳の色以外は見分けがつかない。
到着してしばらくすると、ドキドキとしていた気持ちも萎み早くも帰りたくなった。ユルアとはぐれてしまい、壁際にある大きな花瓶の横に立って隠れているのに、すぐに見つかってしまう。
「…ええ、初めてです」
口元がひくつくのを感じながらも、なんとか声を出した。
誰もかれも私が1人になった途端に声を掛けては、同じ事を繰り返し聞き、どうにか個室へと連れ込もうとする。一番最悪だったのは、腕を掴まれ連れ去ろうとした男だった。
泣きたくなるのを我慢し、身体に力を入れたら諦めて去って行ってしまった。
「ちっ、ならこんな所に来るなよなっ」
そんな捨て台詞を吐いて。

ーー何が、っ紳士の集まりよっ!

心の中で悪態をつきながら、当たり障りのない会話をしていたら、ねっとりと執拗に身体を舐め回す視線に悪寒が走る。
最初に声を掛けられた所からじわじわと近寄り距離も近くなってきているし、薄気味悪い視線からも逃げたくなってきた。
「どうだろうか、このあと一緒に…」
いつの間にか壁にまで追いやられていた私は、同じ仮面を付けた男が、私の顔の横の壁に手を置き身動きが取れない。
耳元に唇を寄せ私を誘う男の近寄る顔に、私は顔を背けぎゅっと目を瞑ると、
「失礼、その子に用事かな」
低く深みのある声が聞こえると、壁に手を置いた男が声のする方を見てギョッとして私から離れた。
「きっ…貴様はっ…騎士…」
「ここでは仮面をして楽しむと聞いたのだが?」
慌てた男に被さる声も、やはりずっと聞いていたくなる落ち着いた声色で、私はしばらくぼうっと見惚れてしまう。
脱兎のごとく逃げる男を見送ると、改めて彼の方に身体を向けて向かい合わせになる。
私よりも頭が2つほど高い彼は、短髪黒髪に赤い仮面の間からは、黒い瞳が私を見下ろす。スラッと伸びた足、黒いタキシードを着ていてガッシリした身体から漂う雰囲気は、百獣の王みたいに威厳がある。
「邪魔をしたのか?」
フッと口元を綻ばせ、急に砕けた口調に戸惑う。
「…いえ…助かりました、ありがとうございます」
いつもの癖でカーテシーをすると、彼はくくっと笑う。
「そうか、ならいい…さっきから絶えず声をかけられているみたいだから、少し休まないか?」
今まで声をかけられてきた男の人とは違い、嫌悪感など全く感じられなかった。
そう言って差し出された手を、私はそっと重ねた。

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