辺境の侯爵家に嫁いだ引きこもり令嬢は愛される

狭山雪菜

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日常

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この屋敷に着いてから、1週間が経ち、ソフィアの1日が決まってきた。

「ソフィア様、キース様が帰られました」

アガサのひと言で、部屋から出て玄関ホールへと向かい、キースを出迎える。そのままエスコートされ、一緒に食堂へと行き、向かい合わせで食事を摂る。食後にアガサと一緒に執務をするために席を外すキースを見送ると、彼が執務をしている間に玄関ホール横の部屋に行き、お茶の準備を指示して待っていると1時間ほどで戻ってくるキースとお茶をして部屋の前までエスコートをされ1日が終わる。
朝はキースが早く出かけるので、見送りはしないで休むようにと強く言われた。
部屋からあまり出ないソフィアを心配してキースはよく、不自由はないか聞いてくるのだが、散歩をするにも使用人がワラワラと付いてくるし、喉が渇く前にお茶を出され、本を読もうかなと呟けば、すぐに準備され出歩く必要がないのだ。

ーーこの屋敷の使用人たちはやっぱり優秀すぎだわ


とりあえず当主であるキースの好みを知るべく、アガサに毎日聞くのだが、
「これと言って好きな物はないと思います」
と即座に返された。
では甘さ控えめの物にしようとしたのだが、そういえばムール領は交通の便が発達しているが、「積雪が続くこの時期は交通量を調整しているために、食糧は貴重となる」と書物に書いてあったのを思いだした。それならば保存品で何かないかと、ショウに聞くと
「でしたら、フルーツを乾燥させた保存食がございますので、そちらを小麦粉に混ぜてみてはいかがでしょう」
と提案してくれたので早速料理長に伝えるために、ショウと一緒に食堂へと向かった。



食堂に着き、奥へと続くドアを開けて入ると、3人の白い制服を着た使用人がご飯を食べていた。私とショウに気がつくと、慌てて立ち上がり頭を下げた。
「お初にお目に掛かります、ソフィア様」
3人のうちの1人が、頭を上げ私に声をかけた。
「私は料理長をやってます、ヤンと申します」
彼は金色の長い髪を後ろにまとめ、瞳は黒く一重のつり目で私よりも頭ひとつ分ほどの高さ身長だ。
「いつも美味しい料理をありがとう、ヤン」
「ありがとうございます…ところで…どうしてこちらへ?何か粗相でも?」
途端に不安そうな顔になったので、心配することはないと顔を振り否定した。
「ヤンに提案があってきたの、毎日出しているお茶菓子なんだけど…」
とお茶菓子をドライフルーツに替えることを提案すると、うんうんと頷きメモを取り始めた。周りにいた2人のシェフも、不思議な表情で私達の話を聞いている。
「では、早速本日から作ってみましょう」
そう言って、ニカッと笑った顔がきつい眼差しを和らげ、優しい雰囲気になったので私も笑顔が溢れた。
すると、3人の料理人がひゅっと息を飲み、私を凝視したのだった。


「?」
私が首を傾げると、ショウが私とヤンとの間に入り視界を遮った。
「お嬢様、そろそろ」
にっこりと私を見て、次の予定を知らせるショウ。
「もうそんな時間?では、ヤンよろしくお願いしますわ」
軽くお辞儀をして部屋から出た。



「…凄い笑顔の破壊力ヤバいですね」
「息も止まる美しさって本当にあるんですね」
「……あの人に微笑まれたらヤバいな…お前ら菓子作りやるぞ」
頭を掻くヤンが指示を出し、他の2人が元気に返事をした。
「「はいっ」」

 



********************



焼き上がった赤いイチゴのドライフルーツのスポンジケーキに生クリームが添えられたお盆がテーブルに置かれ、セッティングされていく。綺麗な盛り付けに感動していると、ヤンが入ってきた。
「ヤン!すごく綺麗だわっ!ありがとう」
小皿の上に小さくカットされたスポンジケーキと生クリームが載ってあって、どうぞと渡された。
「こちらが試食用です、本当は早めに食べてもらいたかったのですが、夕飯前だと食事が入らなくなると、ショウさんにお聞きしまして」
「まぁ、ありがとう…んっ、美味しいわ」
備え付けられたフォークを取り口へと運ぶと、口いっぱいに広がるほんのり甘い生地といちごの甘さが合ってお茶請けもよさげだ。頬に手を添えて、美味しい美味しい、と告げると
「ソフィア様喜んでいただけて光栄です」
と目元を赤く染めたヤンが照れた。

「…そこで何をしている」

低く唸る声が室内に響き渡り、ハッと声のする方へ顔を向けると、ヤンと私を見るむっつりとした表情のキースが入口に立っていた。


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