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前編
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某山奥にあるキャンプ場のコテージ。この場所はメディアなどで紹介され今一番人気のキャンプ場で、連日大盛況だ。
ある春の日のお昼前。二つのバスがこのキャンプ場の駐車場に着いた。ゾロゾロとバスから出てきた50名ほどの老若男女は、リュックを背負い登山着姿でキャンプ場入り口へと向かっていた。
およそ東京ドーム1000個分の広い土地に、間隔をあけて点々と無数のウッドデッキの上に半ドーム型の白いテントが立っている。テント群の間には小川が流れ小魚を釣りする事も出来る、子供にも人気の場所だ。
テントの中はシングルベッドが二つ置かれ、右奥に一人用の小さなソファーが二つとミニテーブル、テント内に急激な気温の変化にも対応出来るエアコン完備。そして、入ってすぐ左側のテントの側に、テーブルに湯沸しポットと紅茶やコーヒーのスティックサービス。大きな棚にはミニ冷蔵庫と金庫。ウッドデッキにはアウトドアのテーブルと椅子、BBQ用の長方形のグリル台が備わっている。
お風呂とトイレは案内所にあり、キャンプデビューや旅行、子供連れにとっては自然を体感出来る観光地となりつつあった。
そんな場所に、何故か私がいるかと言えば…
「え~本日は、え~、このキャンプ場にご来場いただきありがとうございます、え~今人気のソロキャンプデビューツアーでの、え~、部屋割りなんですが、え~、バスでお渡しした紙に書いてありますので、え~、簡単なマップも付いてますので、え~、それを頼りに、え~、各自移動してください、え~、分からない事がありましたら、え~、中央にあります、え~、案内所までお願いします」
メガネを掛けた黒髪の50代のおじさんが、バスで移動してきた観光客相手に説明をしていたのだが、え~が多すぎて内容が入って来なかった。
事の発端は、テレビで見たこのキャンプ場に惹かれ、キャンプをしたくなったのだ。ただ問題があるとすれば、アウトドア派よりもインドア派で、周りは結婚や育児に追われている友人しか居なくて、気軽に声をかけられない事だった。
一人で行けるお金はあるけど、一人でできるか分からない。
諦め悪くネットサーフィンをしていたら、今ならソロキャンプデビューが出来る体験ツアーのプランがあるみたいだった。
最近ではソロキャンプという言葉が流行語大賞になる程人気になった、アウトドア体験の未経験者を増やしてさらに盛り上げようと沢山のツアープランがあるのだ。
先程テレビで見たキャンプ場のサイトにあったオリジナルプランに、『平日限定、部屋は相部屋、持ち物は登山用の服装と宿泊用の着替え、最長4泊5日で途中帰宅可能、宿泊中にキャンプのノウハウ教えます!』とあったので、会社の有給が溜まっていた私は、ツアーに参加する事にしたのだった。
「篠原匠さん、こちらはテント内にあります金庫の鍵です、暗証番号と併用して使ってください」
「あ、はい、ありがとうございます」
先程説明をしていたおじさんから、アクリル棒の付いた貴重品入れのキーを貰い、バスの中で貰った紙に書かれたテント場所へと向かったのだった。
**************
私が泊まるテントは、キャンプ場入り口から一番離れた場所にある一画だった。今日のために揃えた登山用のリュックを背負い、濃緑のサファリハットという唾の広い帽子の中に髪を入れ、黒のTシャツの上には明るい青色のジッパー付の防水の上着、濃緑色のパンツは防寒タイプで服が伸びて、動きやすい物を身につけた私が到着すると、すでに中に人がいた。
「あ、よろしく…」
軽く挨拶しようとしたら、そこに居たのは男の人で、私の思考が止まった。
ーーえっ、何で何でっ!
と軽くパニックになっていると、ボサボサ頭の黒髪の男の人は私を見て一瞬止まったのだが、すぐに動きペコリと頭を下げた。
「よろしくお願いします」
彼も到着したばかりみたいで、テントの中に入ると、シングルベッドが二つ、ベッド同士の間にはナイトテーブルが二つ並び、ライトと電子置き型時計、充電用のコンセントが置かれていた。
「…どっちにします?」
「あ、じゃあこっちで」
入ってすぐどっちのベッドの使用するかを軽く聞かれて、私は入口を背に入った時に見えた左側のベッドを使う事にして、お互い無言で自分の荷物の整理始めた。
私は貰った書類に目を通し、スマホ予約サイトを見て驚愕した。両方とも性別の所に"男"と書いてあるのだ。
何かの間違いだし、性別に印をつけた事ないと思って、もう一度ツアーの予約の手順を試しにやってみたら、性別の欄にボタンを押す所があったのに、気がつき自分の不手際だと凹んだ。
ーー篠原匠という名前も男とも連想される名前だから…しょうがないよね
色々悩んで泊まるだけだし、悩むのが馬鹿らしくなった私は考えるのを放棄して、キャンプを楽しむ事にしたのだった。
「俺は長崎龍未です、よろしく」
「あっ、篠原匠です、こちらこそよろしく」
軽く持ってきた荷物を整理していたら、"お昼の材料を案内所まで取りに来てください"と拡声機を使ったアナウンスが入ったので、二人で取りに行く事にした。
その案内所までの道のりでお互い自己紹介をしながら歩き、今回ソロキャンプが初めて、彼はアニメの影響で、私はテレビの特集を見て興味を持ちツアーに申し込んだ事を知った。
彼は36歳、私は32歳と歳の近い社会人という事もあり打ち解け、食材の荷物を持ってテントへ帰る頃には、二人は龍さん、匠と、呼び合いタメ口で話すようになった。
彼は165cmの私よりも背が高く、身長は185cm、システムエンジニアで年末年始に自社開発しているシステムにトラブルが起きたため休みなしで働いていたのだが、やっと遅い年末年始休暇を貰えた、らしい。激務らしく出発のギリギリまで寝ていて、急いで着替えたから身だしなみが良くないと、ぼやいていた。確かに前髪で目は隠れていて、無精髭がポツポツと生えていた。
私がトングや包丁、まな板など軽い調理器具が入った正方形の箱を持ち、龍さんが野菜やお肉など重い物を持ってくれた。
龍さんは貰った紙を見ながら、グリル台の中ある炭に火を起こし、うちわで空気を送る。私はその後ろで火の起こし方を見ながら、グリル台の側にテーブルを引っ張り野菜を切ったり、お肉の下味をつけていた。
火の火力が安定すると、龍さんはグリル台に網を置いた。
「これで網が温まるまで2分位だって」
そう言いながら、私の背後から野菜を盛り分けている姿を覗き見る。
「器用だね」
「一応、一人暮らし長いから」
「凄いなぁ俺はカップ麺で済ませちゃうんだよね」
「まぁ楽だよね」
そんな他愛のない話をしながら、塩胡椒をまぶしたバラ肉と、ステーキ肉、豚肉とソーセージが載った大きなお皿を龍さんに渡すと、彼はグリル台に一枚一枚トングで取って焼いていく。
ジュージューとお肉が焼ける音と、煙が上がって美味しそうな匂いが立ち込める。
「美味しそう」
「だな」
プラスチックの平らなお皿に焼き上がったお肉を二人で分けて食べると、格別に美味しく感じて笑いながら食事を摂っていた。
**************
片付けを済ませて調理器具が入った箱を持って案内所に戻ろうとすると、龍さんは案内所にある売店で飲み物を買うからついてくる事になった。私の荷物を持とうとしたのだが、私がやったのは食材を切る事だけだったので、丁寧に断った。
それでも私の周りをウロウロするので、大きな犬に遊んでと絡まれているみたいで、可愛いと思ってしまった…のは秘密だ。
「ああ、別に返して来なくてもいいのよ、夜ご飯も作って食べるんだから!」
と案内所にいた、女性に言われそのまま持って帰る事になり、買い物が終わった龍さんが持って行くと聞かなかった。
「夜はお鍋を借りられるので、キャンプ飯を作ってみたいです」
「キャンプ飯か…焼くだけだと夜きついしね、夕飯までに調べようか」
「はい!あっ、龍さんのオススメのアニメも見ちゃおうかなぁ」
「じゃあ一緒に観ようよ」
彼がソロキャンプを知ったというアニメを一緒に見ることとなり、キャンプ飯のレシピも一緒に探す事になったのだった。
**************
夜、といっても18時から始めたキャンプ飯の料理。龍さんがグリル台の火を起こし、少しコツを掴んだのかテキパキと効率よく準備していった。
私は案内所から借りてきたダッチオーブンと呼ばれる鉄の鍋に、鶏肉と玉ねぎ、マッシュルームを一口サイズに切って、お皿によけておく。これから作るのは、ビーフストロガノフだ。煮込むだけと材料の少なさに二人で決めた。他愛のない話をしながら料理を作り、20時前にはウッドデッキのテーブルに出来上がった料理が並び、龍さんが小川のバケツに置いていた冷えた缶ビールを取り二人で乾杯をした。
「お疲れ様」
「お疲れ様でした」
ビールを飲み料理のビーフストロガノフ、アヒージョ、ソーセージと、売店で買って両面を焼いた塩むすびを美味しい、美味しいと言いながら食べた。
21時少し過ぎて簡単に片付けを済ませると、お風呂に行こうと誘われて、その時はじめて性別を誤解されている事に気がついた。
テントの外に居たが、彼の手首を掴みテントの中へと引っ張っていれると、彼は何故か慌てていた。
「あの、っ私…そのっ、女なんですっ」
「へっ?!」
「予約した時にミスしちゃって、あのっ、もし嫌でしたら案内所に言いに行くのでっ…すいません、騙したみたいにっ…」
「…匠って…えっ?女の子っ?」
「はい、昔から男みたいな名前でしてっ…おっ女の子って…なっ、なのでお風呂は私後で行くので、先にっ」
「っ!それはダメだよ!夜道に一人は危ないよ!一緒に行こう!待ち合わせすればいいし」
「でも…、ごめんなさい…迷惑なら言ってください…すいません」
しょぼんと謝る私を龍さんは、とんでもないと優しく受け入れてくれて、しかも夜道は危ないとまで言ってくれる。消灯時間じゃないからキャンプ場の電柱は点いていて明るいのだが、全く優しい人だ。
「おっ、お風呂終わったら案内所のフロアで待ち合わせしよう」
龍さんは、そう言って私達はお風呂へ行った。
**************
案内所にあるお風呂に入り疲れた身体を癒し、待ち合わせの約束の時間にフロアに行くと、彼はすでに壁際の木のベンチに座って待っていた。
「すいませんっ」
「あ…いや、平気」
彼が私を見て驚いた感じだったので、そうだ、帽子をしていないと気がついた。ずっとウッドデッキで過ごしていたので、日焼け対策として帽子をしていたのだった。
肩までかかったセミロングの髪は、ドライヤーも掛けたのでサラサラで、湯船に浸かったので血行も良くなり頬が赤い。
パジャマ替わりの紺色のジャージを着た私を見ていた龍さんは、ぎこちなく動き出した。
「じゃ、じゃじゃ、いいい、行こうかっ」
とーー
ある春の日のお昼前。二つのバスがこのキャンプ場の駐車場に着いた。ゾロゾロとバスから出てきた50名ほどの老若男女は、リュックを背負い登山着姿でキャンプ場入り口へと向かっていた。
およそ東京ドーム1000個分の広い土地に、間隔をあけて点々と無数のウッドデッキの上に半ドーム型の白いテントが立っている。テント群の間には小川が流れ小魚を釣りする事も出来る、子供にも人気の場所だ。
テントの中はシングルベッドが二つ置かれ、右奥に一人用の小さなソファーが二つとミニテーブル、テント内に急激な気温の変化にも対応出来るエアコン完備。そして、入ってすぐ左側のテントの側に、テーブルに湯沸しポットと紅茶やコーヒーのスティックサービス。大きな棚にはミニ冷蔵庫と金庫。ウッドデッキにはアウトドアのテーブルと椅子、BBQ用の長方形のグリル台が備わっている。
お風呂とトイレは案内所にあり、キャンプデビューや旅行、子供連れにとっては自然を体感出来る観光地となりつつあった。
そんな場所に、何故か私がいるかと言えば…
「え~本日は、え~、このキャンプ場にご来場いただきありがとうございます、え~今人気のソロキャンプデビューツアーでの、え~、部屋割りなんですが、え~、バスでお渡しした紙に書いてありますので、え~、簡単なマップも付いてますので、え~、それを頼りに、え~、各自移動してください、え~、分からない事がありましたら、え~、中央にあります、え~、案内所までお願いします」
メガネを掛けた黒髪の50代のおじさんが、バスで移動してきた観光客相手に説明をしていたのだが、え~が多すぎて内容が入って来なかった。
事の発端は、テレビで見たこのキャンプ場に惹かれ、キャンプをしたくなったのだ。ただ問題があるとすれば、アウトドア派よりもインドア派で、周りは結婚や育児に追われている友人しか居なくて、気軽に声をかけられない事だった。
一人で行けるお金はあるけど、一人でできるか分からない。
諦め悪くネットサーフィンをしていたら、今ならソロキャンプデビューが出来る体験ツアーのプランがあるみたいだった。
最近ではソロキャンプという言葉が流行語大賞になる程人気になった、アウトドア体験の未経験者を増やしてさらに盛り上げようと沢山のツアープランがあるのだ。
先程テレビで見たキャンプ場のサイトにあったオリジナルプランに、『平日限定、部屋は相部屋、持ち物は登山用の服装と宿泊用の着替え、最長4泊5日で途中帰宅可能、宿泊中にキャンプのノウハウ教えます!』とあったので、会社の有給が溜まっていた私は、ツアーに参加する事にしたのだった。
「篠原匠さん、こちらはテント内にあります金庫の鍵です、暗証番号と併用して使ってください」
「あ、はい、ありがとうございます」
先程説明をしていたおじさんから、アクリル棒の付いた貴重品入れのキーを貰い、バスの中で貰った紙に書かれたテント場所へと向かったのだった。
**************
私が泊まるテントは、キャンプ場入り口から一番離れた場所にある一画だった。今日のために揃えた登山用のリュックを背負い、濃緑のサファリハットという唾の広い帽子の中に髪を入れ、黒のTシャツの上には明るい青色のジッパー付の防水の上着、濃緑色のパンツは防寒タイプで服が伸びて、動きやすい物を身につけた私が到着すると、すでに中に人がいた。
「あ、よろしく…」
軽く挨拶しようとしたら、そこに居たのは男の人で、私の思考が止まった。
ーーえっ、何で何でっ!
と軽くパニックになっていると、ボサボサ頭の黒髪の男の人は私を見て一瞬止まったのだが、すぐに動きペコリと頭を下げた。
「よろしくお願いします」
彼も到着したばかりみたいで、テントの中に入ると、シングルベッドが二つ、ベッド同士の間にはナイトテーブルが二つ並び、ライトと電子置き型時計、充電用のコンセントが置かれていた。
「…どっちにします?」
「あ、じゃあこっちで」
入ってすぐどっちのベッドの使用するかを軽く聞かれて、私は入口を背に入った時に見えた左側のベッドを使う事にして、お互い無言で自分の荷物の整理始めた。
私は貰った書類に目を通し、スマホ予約サイトを見て驚愕した。両方とも性別の所に"男"と書いてあるのだ。
何かの間違いだし、性別に印をつけた事ないと思って、もう一度ツアーの予約の手順を試しにやってみたら、性別の欄にボタンを押す所があったのに、気がつき自分の不手際だと凹んだ。
ーー篠原匠という名前も男とも連想される名前だから…しょうがないよね
色々悩んで泊まるだけだし、悩むのが馬鹿らしくなった私は考えるのを放棄して、キャンプを楽しむ事にしたのだった。
「俺は長崎龍未です、よろしく」
「あっ、篠原匠です、こちらこそよろしく」
軽く持ってきた荷物を整理していたら、"お昼の材料を案内所まで取りに来てください"と拡声機を使ったアナウンスが入ったので、二人で取りに行く事にした。
その案内所までの道のりでお互い自己紹介をしながら歩き、今回ソロキャンプが初めて、彼はアニメの影響で、私はテレビの特集を見て興味を持ちツアーに申し込んだ事を知った。
彼は36歳、私は32歳と歳の近い社会人という事もあり打ち解け、食材の荷物を持ってテントへ帰る頃には、二人は龍さん、匠と、呼び合いタメ口で話すようになった。
彼は165cmの私よりも背が高く、身長は185cm、システムエンジニアで年末年始に自社開発しているシステムにトラブルが起きたため休みなしで働いていたのだが、やっと遅い年末年始休暇を貰えた、らしい。激務らしく出発のギリギリまで寝ていて、急いで着替えたから身だしなみが良くないと、ぼやいていた。確かに前髪で目は隠れていて、無精髭がポツポツと生えていた。
私がトングや包丁、まな板など軽い調理器具が入った正方形の箱を持ち、龍さんが野菜やお肉など重い物を持ってくれた。
龍さんは貰った紙を見ながら、グリル台の中ある炭に火を起こし、うちわで空気を送る。私はその後ろで火の起こし方を見ながら、グリル台の側にテーブルを引っ張り野菜を切ったり、お肉の下味をつけていた。
火の火力が安定すると、龍さんはグリル台に網を置いた。
「これで網が温まるまで2分位だって」
そう言いながら、私の背後から野菜を盛り分けている姿を覗き見る。
「器用だね」
「一応、一人暮らし長いから」
「凄いなぁ俺はカップ麺で済ませちゃうんだよね」
「まぁ楽だよね」
そんな他愛のない話をしながら、塩胡椒をまぶしたバラ肉と、ステーキ肉、豚肉とソーセージが載った大きなお皿を龍さんに渡すと、彼はグリル台に一枚一枚トングで取って焼いていく。
ジュージューとお肉が焼ける音と、煙が上がって美味しそうな匂いが立ち込める。
「美味しそう」
「だな」
プラスチックの平らなお皿に焼き上がったお肉を二人で分けて食べると、格別に美味しく感じて笑いながら食事を摂っていた。
**************
片付けを済ませて調理器具が入った箱を持って案内所に戻ろうとすると、龍さんは案内所にある売店で飲み物を買うからついてくる事になった。私の荷物を持とうとしたのだが、私がやったのは食材を切る事だけだったので、丁寧に断った。
それでも私の周りをウロウロするので、大きな犬に遊んでと絡まれているみたいで、可愛いと思ってしまった…のは秘密だ。
「ああ、別に返して来なくてもいいのよ、夜ご飯も作って食べるんだから!」
と案内所にいた、女性に言われそのまま持って帰る事になり、買い物が終わった龍さんが持って行くと聞かなかった。
「夜はお鍋を借りられるので、キャンプ飯を作ってみたいです」
「キャンプ飯か…焼くだけだと夜きついしね、夕飯までに調べようか」
「はい!あっ、龍さんのオススメのアニメも見ちゃおうかなぁ」
「じゃあ一緒に観ようよ」
彼がソロキャンプを知ったというアニメを一緒に見ることとなり、キャンプ飯のレシピも一緒に探す事になったのだった。
**************
夜、といっても18時から始めたキャンプ飯の料理。龍さんがグリル台の火を起こし、少しコツを掴んだのかテキパキと効率よく準備していった。
私は案内所から借りてきたダッチオーブンと呼ばれる鉄の鍋に、鶏肉と玉ねぎ、マッシュルームを一口サイズに切って、お皿によけておく。これから作るのは、ビーフストロガノフだ。煮込むだけと材料の少なさに二人で決めた。他愛のない話をしながら料理を作り、20時前にはウッドデッキのテーブルに出来上がった料理が並び、龍さんが小川のバケツに置いていた冷えた缶ビールを取り二人で乾杯をした。
「お疲れ様」
「お疲れ様でした」
ビールを飲み料理のビーフストロガノフ、アヒージョ、ソーセージと、売店で買って両面を焼いた塩むすびを美味しい、美味しいと言いながら食べた。
21時少し過ぎて簡単に片付けを済ませると、お風呂に行こうと誘われて、その時はじめて性別を誤解されている事に気がついた。
テントの外に居たが、彼の手首を掴みテントの中へと引っ張っていれると、彼は何故か慌てていた。
「あの、っ私…そのっ、女なんですっ」
「へっ?!」
「予約した時にミスしちゃって、あのっ、もし嫌でしたら案内所に言いに行くのでっ…すいません、騙したみたいにっ…」
「…匠って…えっ?女の子っ?」
「はい、昔から男みたいな名前でしてっ…おっ女の子って…なっ、なのでお風呂は私後で行くので、先にっ」
「っ!それはダメだよ!夜道に一人は危ないよ!一緒に行こう!待ち合わせすればいいし」
「でも…、ごめんなさい…迷惑なら言ってください…すいません」
しょぼんと謝る私を龍さんは、とんでもないと優しく受け入れてくれて、しかも夜道は危ないとまで言ってくれる。消灯時間じゃないからキャンプ場の電柱は点いていて明るいのだが、全く優しい人だ。
「おっ、お風呂終わったら案内所のフロアで待ち合わせしよう」
龍さんは、そう言って私達はお風呂へ行った。
**************
案内所にあるお風呂に入り疲れた身体を癒し、待ち合わせの約束の時間にフロアに行くと、彼はすでに壁際の木のベンチに座って待っていた。
「すいませんっ」
「あ…いや、平気」
彼が私を見て驚いた感じだったので、そうだ、帽子をしていないと気がついた。ずっとウッドデッキで過ごしていたので、日焼け対策として帽子をしていたのだった。
肩までかかったセミロングの髪は、ドライヤーも掛けたのでサラサラで、湯船に浸かったので血行も良くなり頬が赤い。
パジャマ替わりの紺色のジャージを着た私を見ていた龍さんは、ぎこちなく動き出した。
「じゃ、じゃじゃ、いいい、行こうかっ」
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