ぐいぐい攻める美女は筋肉男と付き合いたい

狭山雪菜

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プロローグ

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保田やすだくん、私と付き合って」

夏休みが間もなく始まろうとしていた、高校1年生の7月中旬。保田聡やすださとしは、同学年一の美女と名高い松本愛花まつもとまなかに呼び出された。

「…は…?」

朝登校した時に下駄箱に入っていた半分に折られた淡いピンクの花柄の絵が描かれた紙。開くと
『放課後、体育館裏に来てください』
と、書かれた文字は丸っこい字で、女子が書いたものだと分かった…が、差し出し人の名前が書いていなかったため誰が書いたのか分からなかった。
どうせ遊び半分だろうと、無視する事も出来たがなんとなく気になったので呼び出された場所へ行く事にしたのだった。
目の前にいる美女、松本愛花は肩までのセミロングの艶のあるピンク色の髪を下ろし制服の白いYシャツと黒のスカートを履いていた。センターで分けた前髪から覗く額は丸く、柔らかい曲線の眉の下にこぼれ落ちそうな錯覚をしてしまうぱっちりとした大きな瞳、頬は何故か赤く染まっていて、唇はツヤツヤで小さくぷっくりと膨らんでいる。学則で決まっているYシャツをスカートの中にしまっているため、腰の細さが際立ちスタイルの良さを表している。

ーーそれに比べ…

俺は身長180センチある巨体で彼女を見下ろしていた。元々身長は高かったのだが、中学の頃に始めた剣道で筋肉と基礎体力の向上で、胸板は厚く腕も脚も太い。黒い短髪の髪にキリッと上がってる眉、鋭い一重の目は人々を威圧してしまうらしい。
そんな同じ学年のマドンナ的存在が俺を呼び出し、付き合ってほしいと告げている。
もしかしてと思い俺は、キョロキョロと周りを見渡すも、誰も居ない事を確認した。

「…なんで周りを見てるの?」

眉をキュッと寄せて、疑問の顔を見せる。

「…罰ゲームかなんかと思って」
「なんでっ!?」

目を見開き驚く彼女に俺は、目が落ちそうだなと思った。

「ひどいっ!私の気持ちを疑うなんてっ!」

と顔を手で覆う彼女が泣き声になったので慌てて、

「わっ悪いっ!なんでもするからっ許してくれっ!」
「…何でも…?」
「ああっ!」

と彼女の周りをウロウロしていたら、彼女のか細い声が聞こえ、コクコクと頷くとパッと顔を上げた彼女は、涙など微塵もない変わらぬ可愛い顔でにっこりと笑い

「じゃっ!付き合ってね!」

と恐ろしい事を言ったのだった…



**********************



「保田ー!彼女が来てるぞー」

そう言った同じ剣道部員の先輩が、道場の出入口で待つ愛花が来た事を知らせてきた。
愛花と(強引に)付き合う事になって1週間。部活終わりに差し掛かるぐらいに、部活動をやっていない彼女が俺の事を迎えに来ることが増えた。
最初は美人で有名な愛花が剣道部に顔を出した事に衝撃が走ったが、1週間も経つと見慣れた光景となっていた。
初日からお互いの名前で呼び合う事を強制され、スマホの番号とメッセージアプリも交換させられた。

「まっ愛花、もうすぐ終わるから」
「うん…見学してもいいかな?」
「ああ」

言い慣れない女子の苗字じゃない名前を噛んでしまうが、愛花は気にする事なく中へと入り、間もなく部活が終わるために道場の端に出していた俺の荷物が置いてある近くの場所に座る。
ちなみに、俺のリュックに彼女が付けた頭にヒマワリを付けたゆるキャラのぬいぐるみをつけたために、すぐに俺の荷物かどうかわかる。

「本当美しいな…」

隣で俺たちのやりとりを見ていた先輩がボソリと呟き、俺は確かにそうだと、心の中で全力で頷いた。

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