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お付き合い
しおりを挟む「悪いが、君の気持ちには応えられない」
高校3年生に進級したと同時に、この県立高校の化学教師、林田信太郎に告白した。
しかし、あっけなく告白は却下された私、茂木結菜は、あと数ヶ月で18歳の女子高生だ。
肩より少し長い黒い髪、身長は156センチと低いが、顔が小さくスラリと伸びた脚でスタイル良く見える。膝上15センチのミニスカートにした制服と、結ばないで下げている髪に隠れてピアスの穴が開いている。
これまで、病欠以外で休む事なく学校に通ってこれたのは、私が告白したこの人、林田先生のおかげだ。
入学して少しした時、本来授業するはずだった1年生の化学の先生は、急に決まった出張で居なくなったため、臨時で来た林田先生が教壇に立った瞬間、雷に打たれたような衝撃を受けた事を今でも覚えている。
この気持ちが何なのか分からず、数日間彼の事を考えては、用もないのに職員室に行って彼の姿を見れた日は、一日嬉しかった。
そしてこれが恋だと気がついたのは、1年の終わる3学期。
廊下で彼が他の女子生徒とーー多分先輩だったと思うーー気さくに笑いながら話していたのを見て、強烈なムカつきを覚えたからだ。あとになって…あれは嫉妬だったと分かったけど、普段怒る事も無かった私は自分の中の感情に酷く戸惑い驚いた。
恋と気がついてからは開き直って、私という存在を認識して欲しいし彼の視界に入りたくて、2年になって選択授業を苦手だった化学にした。
他のクラスの担任だった先生が、学級委員にも顔を出していると他のクラスの子に聞いて、立候補してクラスの学級委員にもなった。
徐々に顔を覚えて貰い、少しずつ話すようになったけど、まだ気さくには話してくれない。
関係が全然進まずヤキモキしていたのだけど3年生になり、奇跡的に彼が私のクラスの担任となり嬉しくて、放課後彼と一緒に居たくて学級委員となった私は、たまたま2人きりになった職員室で、つい告白したら断られてしまったのだ。
林田信太郎ーー32歳、独身。2年生の時彼女は居ないと言っていたのを聞いていたので、今も居ないと思う。細身で背が高く176センチあり、中学高校はバスケ部、黒い髪と銀縁の丸いメガネ、担当は化学。いつも白衣その下は、いつもYシャツに無地のネクタイで、スーツかジャージの濃い色味のズボンが多い。
これが私が知っている彼の情報。ほぼ分からない事だらけだけど、ひとつだけ言えるのはーー彼の時折みせる困ったような笑い顔が、とってもとっても可愛いのだ!
ということで、その場で振られた私は落ち込んでしまうどころか、職員室での告白もタイミングが悪かったな、と反省した。
ーーまだよく知りもしない人から告白されて、オッケーもらうなんて調子良すぎる
なので、少しずつ私を知ってもらうために、彼にアピールをする事にしたのだった。
**************
「先生、好き」
クラスの学級委員と選択授業の生徒として私を無下には出来ないと踏んで、2人きりになるとさりげなく彼に近寄って好きと言う作戦を開始した。
それでも2人きりにならないように回避しようと告白を抵抗する彼も、最初はいちいち反論したり、私を嗜めたりしていた。
「やめなさい」
「君の君たちには応えられない」
「同じクラスの○○くんと仲良くしてみたらどうだ?」
「年上をからかうな」
「好きじゃない」
「しつこい」
などと、ことごとく振られた私だったけれども、だんだんと先生の口調が崩れて素の彼が現れて、それはそれで嬉しかった。
初めての告白から2ヶ月、しつこくほぼ毎日告白し続けた甲斐あって、2人きりになっても彼は私を警戒して来なくなった。
「先生、好き」
「あっそ」
放課後、今日も私の告白を流す彼。視聴覚室の長机が数十列並び、一番前の長机に並べられた沢山の紙。2人で一枚ずつとり8枚取り、学年の生徒に渡す複数の修学旅行の書類を、まとめて冊子状にし、ホチキスで留めている。
この学校は3年生の1学期、期末の後すぐに修学旅行がある。そのあとに夏休みに入るので進学率の多い学校特有の、本格的な受験シーズンを前に思い出を作る行事があるのだ。
他の学級委員達もいたのだが、部活やバイトなどで帰ってしまい、3分の1までに減った書類を私と先生で、黙々とまとめている。
残り数枚ずつとなった所で、先生が口を開いた。
「茂木、もうあとはやるから帰りなさい、日が暮れる」
「は~い」
机の上にあるホチキスで留めた冊子を机の上でトントンと揃え、まだバラの書類を向きを変えて重ね、机の上を片付ける。ある程度片付いたので先生を見ると長机とセットになっている椅子に座り、出来上がった冊子のセット数を数えていた。真剣に数えるその横顔は、すごくカッコよくてドキドキする。反対にこちらを見ない彼に寂しくなり、どうしてか触りたくなった私は、彼の肩に手を触れた。
「…先生」
「っ!茂木っ」
ばっと振り返った先生は驚きで目を見張り、勢いよく振り返ったために机の上にあった書類が何枚か床に落ちる。
「先生…好き」
今までと違う沈んだ声色に自分でも驚いているのだけど、先生はもっと驚いている。
「…茂木、俺は…」
何か今は否定的な言葉を聞きたくない私は、彼の唇に人差し指を押し当てた。
「…結菜…って呼んで」
そう私が言うと眉を寄せた先生が、私をじっと見つめる。
「…ごめん、なさい…好きなの」
さっき呼んだ時に見た彼の驚く顔に、私自身ショックを受けた事を知った。
ーー流石に…もうだめかな…
なら、と最後の思い出に、彼の唇に自分の唇を重ね、すぐに離れた。
「…茂木…っ」
「最後にするっ」
涙が溢れて、目の前が歪み先生の顔が見えなくなる。泣く女が一番面倒くさいのに、ぽろぽろ溢れる涙が止まらない。
「…自分が何をしているのか…分かっているのか」
しばらく泣いていた私に、問いかける彼の声が怒りを含んでいるのが分かる。聞いたこともない静かに怒る声。
「…分かってますっ…セーショウネン健全育成条例に違反しましたっ!」
「そうじゃないし、それは…茂木じゃなくて、俺が罰せられるんだが…」
「でも、でもっ、好きなんですっ!」
叫ぶように告白をすると、ガタガタッと椅子の倒れる音がしたと同時に、身体が動かなくなって目の前が暗くなる。頬に流れる涙が、何か布と固いものに当たって吸い取られていく。視界がクリアになると、真っ白な先生の白衣が目の前にあって息苦しくなった原因は、彼に抱きしめられていたからだった。
「…先生」
「…っ、…分かっているのかっ…教師と付き合うという事は、他の男と違って一緒に出かけられないし、秘密にしないといけないんだぞっ」
彼の手が私の後頭部を掴み、彼の胸板に押しつけられる。
「…知ってるっ!すごく色々、考えたもんっ」
何とか腕を動かして、彼の背中の白衣をギュッと握ると、抱きしめる力が強くなる。
「…いいのか、本当に…?」
まるで断って欲しいみたいな言い方をする先生に、
「うん、好き、先生がっ、好きっ」
顔を横に振って想いを告げた。
こうして、私ー茂木結菜と、先生ー林田信太郎は付き合う事になったのだ。
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