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リクエスト 三人の子供 子供シリーズ② 独身皇帝と秘書官
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「お父様って、乙女心を分かっていないわっ!」
泣きそうな顔をした茶色の髪の毛の女の子――ヨナは、こぼれ落ちそうなくらい大きな黒い瞳に涙を溜めていた。
朝早くから起きて始まった王族の歴史勉強会。お昼を挟んだその後にはダンスとマナーの授業をこなしたヨナは、生まれたばかりの息子達と過ごす私のいるサロンまでやってきた。
「ヨナ、どうしたの?」
彼女の大きな瞳に溢れた涙を拭うと、本格的に泣き出してしまった彼女は母である私に抱きついた。
「あっ!おねえさまっずるいっ!」
「あーあー!」
ヨナの母親のナンシーに、そう言って小さな男の子も無邪気に抱きついた。ヨナの弟であるヨルクは今年7歳、単語もままならない生まれたばかりの妹とこのサロンで過ごしていたが、大好きな姉が私に抱きついていたから一緒に抱きついてきたのだ。
「どうしたの、小さなお姫様」
彼女の頭のてっぺんにキスをすると、ヨナはやっと顔を上げた。
「…お父様がっ、私に婚約者は要らないと言ったの!」
「…陛下が?…どうしてそんな話になったの」
常日頃から娘を溺愛している皇帝であり私の夫であるヨークは、冗談で『娘を嫁にやらんっ!』と言っているが、国を統治する上では婚姻と子孫繁栄は避けて通れないので皇帝がそんな事を言うとは思えなくてにわかに信じられないと目を見開くと、ヨナは大きく頷いた。
「本当だよっ!だってそう言ってたもんっ!」
娘の額にある髪をどかして、露わになった額に口づけをもう一度落とすと彼女を落ち付かせるために、私は微笑んだ。
「…このことは私が陛下に聞くわ、だから心配しないで、ヨナには誰よりも幸せになれる相手を見つけるわ」
「本当っ?」
「ええ、大切な娘だもの、世界で一番幸せになってもらうわ」
「えー!おねぇさまだけずるいっ!ぼくは?」
「ヨルク…も、もちろん幸せになるわ…でも、まだ生まれたばかりの妹とお遊びするお仕事が残っているわ」
「…そうだった!ぼくはもう、おしごとしているんだった」
「ふふ、そうよ…ほらっ、可愛いお顔に涙は似合わないから、気分を変えてお茶でも飲みましょう、ヨナの好きなお菓子を用意させるわ」
「…うんっ!」
ヨナがサロンに入ってきた時は、悲しみでいっぱいだったのに、今はヨルクともにこにこと喋っている。
――いつもの元気なヨナに戻って良かったわ……それにしても子供相手に大人気ないわね
ホッとしたが、愛娘を想うヨークの事もわからなくもない。
――今ヨナが結婚して去ってしまうなら、私も反対するもの
だけど、ヨナはまだ10歳になったばかりだ。結婚なんて早いし、婚約者の選定もまだ始まっていないそんな子相手にヨークはショックを受けさせたのだ。
――さて、どうしましょうかね
ヨナとヨルクの笑い声が響くサロンでニコニコ子供達を見ていたナンシーは、この後会う予定の夫の娘に嫌われたと焦った顔を思い描いた。
***************
「あなた」
国家の最高権力者の部屋は意外と質素で、煌びやかなものがあまりない。落ち着けるシンプルなインテリアの部屋で、夫の帰りを待っていると、日付が変わる前に夫のヨークがやってきた。その顔は疲れており、激務だったことを知らせる。
「ナンシー、戻った」
湯には浸かったのだろう、黒いガウンの下は寝衣を着ていた。帰りの遅い夫に、私はもう横になろうとベッドに入った時に彼は来たのだ。
ヨークはベッドに入ると私の側で横になった。
「あなた、お疲れ様」
「ありがとう、ナンシーもお疲れ様」
私の頭を撫でた後に、ヨークの顔が近寄り軽く唇が重なる。額をくっつけて顔を近づけたまま、見つめ合うといつものやり取りが始まる。
「今日はどうだった?」
「ヨルクは幼い妹を可愛がってくれて助かってますわ」
「そうか」
「…今日…ヨナが泣いてましたわ…お父様に意地悪を言われたと」
「ゔっ…そうか」
「あなた」
そのまま流そうとするヨークに、わざと低い声を落として呼ぶと観念したのかヨークがため息を吐いた。
「…まだ早いだろっ、今から旦那の選定を始めたら俺は剣を抜きそうだ」
「ですが、いつかは…」
「それは分かっているが…最近好きだと言っていた絵本の王子様がいいと無邪気に言われたら………すまん」
私が何も言わずにじっとヨークを見ていたら、バツが悪くなったのか謝った。
「…私もまだヨナに相手が出来るのは早いと思いますわ…ですから」
「…分かってる…明日、時間を作ってヨナと話すよ」
「ええ…きっとあの子も喜びますわ」
そう言ってヨークに身を寄せると、彼は私を抱きしめた。彼の匂いに包まれた私は安心してしまい、眠気が襲ってくる。
「ナンシー、おやすみ」
「おやすみなさい…あなた」
彼の唇を額に感じながら、私は眠りについた。
***************
「…だがな、まだお父様が一番でいいじゃないか」
謝罪のはずが、いつの間にか娘に婚約者を作ることをやめさせようとしているヨークに、私を含めヨークの秘書官達も苦笑する。
「だけど、絵本の王子さまはおひめさまを迎えにくるのよ」
「む…その王子とやらが侵入しないように警備を強化せねばいけないな」
「王子さまってわるいひとなの?」
紅茶を飲みながら2人のやり取りを聞きながら過ごす、とても平和で幸せで微笑ましい時間となった。
泣きそうな顔をした茶色の髪の毛の女の子――ヨナは、こぼれ落ちそうなくらい大きな黒い瞳に涙を溜めていた。
朝早くから起きて始まった王族の歴史勉強会。お昼を挟んだその後にはダンスとマナーの授業をこなしたヨナは、生まれたばかりの息子達と過ごす私のいるサロンまでやってきた。
「ヨナ、どうしたの?」
彼女の大きな瞳に溢れた涙を拭うと、本格的に泣き出してしまった彼女は母である私に抱きついた。
「あっ!おねえさまっずるいっ!」
「あーあー!」
ヨナの母親のナンシーに、そう言って小さな男の子も無邪気に抱きついた。ヨナの弟であるヨルクは今年7歳、単語もままならない生まれたばかりの妹とこのサロンで過ごしていたが、大好きな姉が私に抱きついていたから一緒に抱きついてきたのだ。
「どうしたの、小さなお姫様」
彼女の頭のてっぺんにキスをすると、ヨナはやっと顔を上げた。
「…お父様がっ、私に婚約者は要らないと言ったの!」
「…陛下が?…どうしてそんな話になったの」
常日頃から娘を溺愛している皇帝であり私の夫であるヨークは、冗談で『娘を嫁にやらんっ!』と言っているが、国を統治する上では婚姻と子孫繁栄は避けて通れないので皇帝がそんな事を言うとは思えなくてにわかに信じられないと目を見開くと、ヨナは大きく頷いた。
「本当だよっ!だってそう言ってたもんっ!」
娘の額にある髪をどかして、露わになった額に口づけをもう一度落とすと彼女を落ち付かせるために、私は微笑んだ。
「…このことは私が陛下に聞くわ、だから心配しないで、ヨナには誰よりも幸せになれる相手を見つけるわ」
「本当っ?」
「ええ、大切な娘だもの、世界で一番幸せになってもらうわ」
「えー!おねぇさまだけずるいっ!ぼくは?」
「ヨルク…も、もちろん幸せになるわ…でも、まだ生まれたばかりの妹とお遊びするお仕事が残っているわ」
「…そうだった!ぼくはもう、おしごとしているんだった」
「ふふ、そうよ…ほらっ、可愛いお顔に涙は似合わないから、気分を変えてお茶でも飲みましょう、ヨナの好きなお菓子を用意させるわ」
「…うんっ!」
ヨナがサロンに入ってきた時は、悲しみでいっぱいだったのに、今はヨルクともにこにこと喋っている。
――いつもの元気なヨナに戻って良かったわ……それにしても子供相手に大人気ないわね
ホッとしたが、愛娘を想うヨークの事もわからなくもない。
――今ヨナが結婚して去ってしまうなら、私も反対するもの
だけど、ヨナはまだ10歳になったばかりだ。結婚なんて早いし、婚約者の選定もまだ始まっていないそんな子相手にヨークはショックを受けさせたのだ。
――さて、どうしましょうかね
ヨナとヨルクの笑い声が響くサロンでニコニコ子供達を見ていたナンシーは、この後会う予定の夫の娘に嫌われたと焦った顔を思い描いた。
***************
「あなた」
国家の最高権力者の部屋は意外と質素で、煌びやかなものがあまりない。落ち着けるシンプルなインテリアの部屋で、夫の帰りを待っていると、日付が変わる前に夫のヨークがやってきた。その顔は疲れており、激務だったことを知らせる。
「ナンシー、戻った」
湯には浸かったのだろう、黒いガウンの下は寝衣を着ていた。帰りの遅い夫に、私はもう横になろうとベッドに入った時に彼は来たのだ。
ヨークはベッドに入ると私の側で横になった。
「あなた、お疲れ様」
「ありがとう、ナンシーもお疲れ様」
私の頭を撫でた後に、ヨークの顔が近寄り軽く唇が重なる。額をくっつけて顔を近づけたまま、見つめ合うといつものやり取りが始まる。
「今日はどうだった?」
「ヨルクは幼い妹を可愛がってくれて助かってますわ」
「そうか」
「…今日…ヨナが泣いてましたわ…お父様に意地悪を言われたと」
「ゔっ…そうか」
「あなた」
そのまま流そうとするヨークに、わざと低い声を落として呼ぶと観念したのかヨークがため息を吐いた。
「…まだ早いだろっ、今から旦那の選定を始めたら俺は剣を抜きそうだ」
「ですが、いつかは…」
「それは分かっているが…最近好きだと言っていた絵本の王子様がいいと無邪気に言われたら………すまん」
私が何も言わずにじっとヨークを見ていたら、バツが悪くなったのか謝った。
「…私もまだヨナに相手が出来るのは早いと思いますわ…ですから」
「…分かってる…明日、時間を作ってヨナと話すよ」
「ええ…きっとあの子も喜びますわ」
そう言ってヨークに身を寄せると、彼は私を抱きしめた。彼の匂いに包まれた私は安心してしまい、眠気が襲ってくる。
「ナンシー、おやすみ」
「おやすみなさい…あなた」
彼の唇を額に感じながら、私は眠りについた。
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「…だがな、まだお父様が一番でいいじゃないか」
謝罪のはずが、いつの間にか娘に婚約者を作ることをやめさせようとしているヨークに、私を含めヨークの秘書官達も苦笑する。
「だけど、絵本の王子さまはおひめさまを迎えにくるのよ」
「む…その王子とやらが侵入しないように警備を強化せねばいけないな」
「王子さまってわるいひとなの?」
紅茶を飲みながら2人のやり取りを聞きながら過ごす、とても平和で幸せで微笑ましい時間となった。
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結婚後の内容も読んでみたくなりました✨