俺の可愛い幼馴染

SHIN

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退治と償い

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   この国の王族としては許されないかも知れないが、俺はベアトのためなら何でもする。何故ならベアトはだからだ。
 そんな彼女を泣かし、暴言を吐く者など許さない。

 
 俺は、ゆっくりとアリッサに近づく。
 アリッサは俺のただならぬ雰囲気に生唾を飲み込む音をたてた後、震える手で剣を構えてきた。しかし、その姿は腰が引けて様になっていない。
 
 少しずつ近づく俺にアリッサが剣を無茶苦茶に振り回す。それを身体を揺らして避けて、隙を見て剣を素手でつかんだ。
 そのまま、力を込めれば何年もドラゴンの身体に刺さっていた剣にヒビが入る。アリッサがヒッと悲鳴を上げた。
 
 悲鳴を上げる位なら剣を向けなければ良いのに。もしかしたら、彼女は壊れきれてないのかもな。
 まあ、許す気は無いけどな。


  アリッサの持つ剣をさらに力を込めて砕く。
 手に残る破片をアリッサに掛けるように落とせば、青ざめた顔で歯をガチガチとならしてしゃがみこむ。やっと、俺の逆鱗に触れたことを理解したかな。

 これぐらいで恐怖を感じるなんてそれじゃあ死ぬなんて到底無理だよ。お嬢さん。

 口元が自然と笑みをたたえているが、目は笑っていない。
 そんな俺の服を控えめに掴む者がいた。
 ベアトだ。
 ベアトは、誰もが近づく事をためらった俺にあっさり近づきちょいちょいと服を引っ張っている。それだけで、俺の中で燻る醜い感情が消えて行く。

 俺はため息をつくと、会場の護衛兵士に指示をだしてアリッサを捕らえた。それと同時に先程、会場から飛び出して行ったギルドの男が駆け込んでくる。


「もう、抑えるのも限界だ。」
「わかった。すぐに向かう。」
 

 せっかくならアリッサにもこれから起こることでも見てもらうか。
 
 俺は、父に頭を下げて地下へと向かう。もちろん愛しのベアトと共に。その後ろからは拘束されたアリッサと兵士にがついてくる。








グヲォォォン!!



 地下に響く大きな音。
 それは、目覚めたドラゴンの叫びの音。
 ドラゴンや魔物の一部には、声に魔力を乗せて相手を怯ませる事をする。  
 実際、アリッサの顔面は青を通り越し真っ白で兵士がいなければ倒れていてもおかしくはない。

 ベアトが心配そうに視線を送っているが優しい彼女が介護しないように手を繋ぎ、ドラゴンの視界に入る位置に来る。
 俺等が視界に入るやいなや、ドラゴンがブレスを吐き出してきた。ブレスはドラゴンの目の前にあった岩を溶かしこちらに向かって来ていた。
 しかし、俺に届く前に見えない壁に阻まれ消える。

 壁を出したのはベアトリーチェ。
 ベアトは、俺がギルドで騎士となろうとしたときも自ら魔法や短剣を学んでついてきてくれた。だからか、こういう荒事にはなれているのだ。


「大丈夫ですか?レオ様。」
「ああ、いつも助かるよベアト。」
「うふふ、お役に立てて光栄ですわ。」


 俺とベアトが仲良く戯れている間にも、ドラゴンのブレスが続く。だが、ベアトの壁は壊れる様子は見えない。
 
 俺等の戯れを見慣れている兵士達や、ギルドのメンバーはまたかの雰囲気のなか、先程まで恐怖で立つこともままならなかったアリッサが怒りのにじませた声で叫んだ。


「あんたら、早く化け物を倒しなさいよ!」


 その言葉を鼻で笑って見せると、アリッサの顔に赤みがさす。どうやら怒り心頭の様である。


「お前は死にたかったのだろ?」
「そ、それは。」
「ほら、お前だけこの障壁から出してやろう。」
「い、嫌っ。死にたくない!」
「ふん、死ぬ覚悟も無いのに言葉だけは達者で愚かだな。」


 少し、障壁から出してやれば慌てて死にたくないと叫び出すアリッサに、軽蔑の視線を送る。
 最初の啖呵は何処にいったのか。


「あることを教えてやろう。このドラゴンは、お前の母だ。」
「えっ。」
「ドラグネス侯爵もそれを知っていたから封印に留めてくれたんだ。」
「ドラゴンが……。」


 ベアトの瞳にアリッサの心を思い悲しみが浮かぶ。それはそうだろ、自分の母親を殺したい子などまずは居ない。


「お前の母は殺された事に表向きはなっている。しかし、本当はその身をドラゴンに変えられた。その瞬間を何人も見ているから間違いはない。」
「お、お母さん?」
「ドラグネス侯爵の願いは、愛する妻であるドラゴンをできる限り生かす事だった。」
「お父さんの……願い?」
「まさか、実の娘にそれを邪魔されるとはな。」
「いやっ、嘘よっ」


 アリッサは、取り乱したように頭をかきむしりしゃがみこんだ。
  ベアトから批難の目線が送られてきた。

 ちょっと責めすぎたか、わかったよ。


「さて、ドラグネス侯爵夫人。楽になりましょうか。」


 そう言ってドラゴンに向き直り持っていた剣の鍔を鳴らす。それに気づいたアリッサが俺にすがろうとするのを兵士がとめた。アリッサは兵士に言葉にならないなにかを叫んでいる。

 まあ、ベアトを悲しませたのは許せないが、彼女も被害者であることは代わりないか。

 剣を構えながら、なるべく優しげに声を掛ければアリッサの意識がこちらを向く。


「ドラゴンに姿を変えた者は人の時の記憶は消えて理性は働かない。ここで討たせてもらう。」
「そんな。」
「俺を怨め。母親を殺したのはこの男だと。」


 怨むことで気が晴れるなら怨まれる対象になろう。
 それが、この少女に起こった事への俺ができる償いだ。

 一呼吸、息を整え俺は走り出す。ベアトが魔法で素早さを補助してくれ、滑り込むようにドラゴンの腹辺りにくる。
 ドラゴンは俺の姿を見失い、キョロキョロと辺りを見回している。
 俺は、剣に魔力を纏わせると下から上に剣を振るった。剣に纏っていた魔力はそのままドラゴンの腹を裂き、心臓部まで到達する。

 流石にドラゴンと言えど心臓を貫かれたら終わりである。

 裂けた腹から血を撒き散らしながら、ドラゴンが地響きを立てて倒れた。遠くで防衛体勢で見ていたギルドのものたちは、そのあっけない終わりかたに口をあんぐりとしている。


「マジかよ、普通は皮膚が固くて裂けないぞ。」
「いくら、比較的に柔らかい腹とはいえ、一撃とは。」
「さすがらSSランカーですね。」


 といったこと言われながら、ベアトの所まで戻る。後のドラゴンの処理は奴等に任せよう。うん。

 ベアトは俺の顔に飛んでる血を自分の服の袖口で拭い、どこも怪我がないことを確認するとほっとしたように息を吐いた。


「さて、上に戻るか。」



 


 





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