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好きも嫌いもすべては
しおりを挟む最初は復讐をして死ぬことを目指していたけど、その内に死ぬことが恐くなった。
イェシル殿下との日々が心地よくて、有事が終わったあとも彼が突き放す日までは生きても良いかなと甘えが出てしまった。
カインと再会したら死ななくても良いとほっとしてしまった自分が優柔不断で嫌になってしまう。
「死にたくないなんて誰もが思うことよ。」
「リドリーさん。」
「そうよ。わたしからしたら最初の死にたかりはムカついてたわ。」
「ディーラさん。」
「死んでしまったら、私達は誰とお茶を楽しめば良いの?」
「王妃様。」
獣人の国に帰ってから、数週間に一度はこうやって女子会?をすることになっていた。
内容はダイエットや美容のこと、男どもの愚痴など多岐に渡るが、今日は私の結婚式の話になっていた。
私はイェシル殿下を利用して、死のうと思っていた愚かな女。実際は死ねない臆病者なのにこのまま結婚しても良いものなのだろうか。
「でも、イェシルは貴女を離す気はないみたいよ。」
「あれだけ執着するのも珍しいものね。」
「それは、私の旦那も原因なのだけど、貴女といるときはそれも忘れて幸せそうよ。」
程よい温度の紅茶で喉を潤し、お手製の木の実のクッキーを頬張る。
うん、美味しくできてる。
今回のこの結婚でイェシル殿下は公爵の位と家名が与えられる。そして私も家名が変わるのだが、名前をどうしようかも悩みどころなのだ。
ヒィスナもレイリも私の名前。
この世界にすでに生を受けているのだから、ヒィスナでいいのだが、イェシル殿下はレイリも気に入ってくれているようなのだ。
「まあ、書類上はヒィスナになるでしょうが、愛称としておけばいいじゃない?」
「それよりも、ドレスとか話し合わないと間に合わないわ。」
名前についてはその案が一番良いだろう。
私以外の女性陣は、結婚式の衣装案などを出し合いだした。
テンペスト国で着たドレスでいいじゃないかと口を挟んだことがあるけど、それについては皆首を横に降った。あれはあくまでもパーティー用なのだという。
前世も今も平民よりの私にはよく分からない世界だ。
結婚かぁ。
イェシル殿下の事を好きかと聞かれたら間違いなく好きだと言える。だけど、愛しているかといわれたらどうなのだろうか。
イェシル殿下も出会った時から私を気に入り嫁にといってくれているのだから、私の事が嫌いではないのは分かる。でも…。
「愛してるなんて聞いてないんだよね。」
「はぁ?」
呟きが口から漏れてしまったらしく、女性陣からドスの聞いた声が聞こえてきた。
思わずびくりと姿勢をただすと、こちらを見つめる6つの目。
「イェシル、貴女に愛してるっていってないの?」
「え、はい。気に入ったとだけ。」
「因みにプロポーズは?」
「えっと、『気に入った。嫁になれ。』ですかね。」
「あの、顔だけ王子が!」
「私、ちょっと王の所に行ってきますわ。」
ぎんっとまわりの雰囲気が変わった。
なにか不味いことを言ってしまったかもしれない。
でも、事実だし。
王妃が退室してしまったのでお茶会は終了だろう。
だけど、誰もが後に続かず頭を抱えた用な状態になっている。まるでお通夜の様だなと現実逃避をしていたが、リドリーさんが、小さく赦せないと呟いた事で沈黙が破られた。
「なにが、『気に入った。嫁になれ。』よ。何様なのあいつ!何処の俺様よ!私も男だけど赦せな~い。」
「もう、一物もぎってやろうかしら。」
私も気にはなっていたがここまで大事になるとは思わなかった。
この世界はロマンチックな人が多いけど、特に獣人がそういうのに過激で好む性質を持つものが多いのだとか。
王妃が王に会いにいったのは、怒りをぶつけに行ったのだ。どう絞められているかは分からないが、申し訳ないです。
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