付き合っているのに喧嘩ばかり。俺から別れを言わなければならないとさよならを告げたが実は想い合ってた話。

雨宮里玖

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1.別れの足音

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 ガッシャーン!!

 大河たいがの投げたマグカップは激しく壁に衝突し、割れて破片が周りに飛び散った。
 白色の本体にメタリックなゴールドの取っ手のついたマグカップ。大河が愛用していたマグカップだ。

「大河! てめぇ何すんだよ!」

 いくら怒ってるからってマグカップを投げるか?! 陸斗りくとの足元にも白とゴールドの破片が散らばっている。

「うるせぇ! お前が悪いんだろ!」
「俺が何したって言うんだよっ!」

 さっきから二人は売り言葉に買い言葉のせめぎ合い。

 最初は今度の土曜日に二人デートをする約束をしていたが、それを日曜日にしてほしいと陸斗が大河に伝えたら、急に大河がキレ出した事から始まった。

 それが今では「いつもお前は謝らない」とか、「スマホ弄ってないでちゃんと人の話を聞け!」とか、「すぐに大声を出すな!」とか、「器がちっせぇんだよ!」とか、もはやただの罵り合いに発展している。



「もう陸斗と話したくない!」

 大河は最後に陸斗を睨みつけ、自室に消えた。わざとらしく、バンっ! とドアを激しく閉めて。


 はぁ……。
 もう疲れた。
 最近は大河と顔を合わせればこうやって喧嘩ばかりしている気がする。

 付き合い始めてもうすぐ三年。もう潮時なんだ。きっと大河は陸斗に興味はない。以前のように「好き」も言ってくれないし、夜の関係だって陸斗から言わないと大河からは求めてくれない。

 陸斗は散らばったマグカップの破片を拾い集める。大きいものだけ拾ってあとは掃除機で……と考え事をしていたら、鋭利な欠片で指先を切ってしまった。新しく出来た傷口から血液がじわじわと滲み出る。

 ——大河のせいだ。あいつが投げたりするから! そもそも自分で片付けろよ!

 自分の不注意すら、大河のせいに思えてくる。

 ——大河と出会わなければ良かった。

 付き合って仲良くしてた頃は楽しかったが、別れの足音が刻一刻と迫っている今、毎日がツラくてたまらない。

 陸斗はここのところ大河の事ばかり考えている。それは決して好き好きばかり想ってる訳じゃない。すっかり変わってしまった大河の心と、自分自身の大河に対する心の変化だ。
 
 ——大河と離れなくちゃ。

 陸斗のことなどとっくに嫌いになっているはずなのに、大河は別れを告げてこない。その理由は陸斗には見当がついている。きっと陸斗から言い出すのを待っているのだ。

 昔の約束を破るのは大河のプライドが許さないのだろう。
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