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番外編2.
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「大河、話がある!」
今は深夜12時。リビングのソファに座って少し眠そうな顔をしている大河に向かって陸斗は容赦なく声を荒らげた。
「はいはい。怒られると思ったよ。でもあれは、陸斗が可愛すぎるのがいけないんだ。悪いのは俺じゃない」
「なんだよその責任転嫁」
まるで俺が誘ったみたいな言い方をしやがって!
「ああもう、陸斗マジで可愛い。怒ってる顔まで可愛くみえるから、きっと俺は病気だ。陸斗スキスキ病になったから、陸斗がいないと死んじゃうよ」
「キモいこと言うのやめろ!」
大河の奴、ふざけやがって全然反省してないな……。
「ごめん、陸斗。もう会社であんな事はしないから」
大河はソファから立ち上がり、陸斗の手を握り、謝ってきた。
「油断した俺も俺だけど、あんなのダメだ。びっくりするだろ……」
職場でのキスなんて誰かに見られたら終わりだ。言い訳のしようもない。
少しだけ本音をいうと、いつものキスよりちょっとだけドキドキしたけど……。
「でも家だったら、陸斗に手を出してもいい? 俺、陸斗にキスしたい」
そんなことを言って大河は陸斗を抱きしめキスをしようとするので、「ダメだ! まだ話は終わってない!」と陸斗は大河の身体を押しのける。
「なぁ、大河。営業部に『如月』はお前ひとりだけしかいないか?」
「えっ? まぁ、そうだけど……」
だよな。小林ならありふれた苗字だけど、如月なんてそうそういない。
ということは、昼間のあの営業事務の三人の話は大河の話に間違いないだろう。
「少しだけ、お前に確認したことがあるんだ。大河は、SS食品って知ってるよな?」
「ああ、もちろん。うちの取引先だし」
SS食品、というワードを出しても大河は動揺しなかった。
「大河も、そこに営業に行くことはあるのか?」
「まぁ、一年目のときに課長に連れられて何回か同行させてもらったことはある。でも俺の担当じゃないし最近は行くことはないけど。で、陸斗、何が言いたいんだ?」
大河は眉根を寄せて困惑している様子だ。
「えっ、あっ、あの……。大河はSS食品の常務の娘と知り合いだったりするのかなって思って……」
せっかく遠回しに攻めていたが、急に話が具体的になってしまった。そんな風に話すつもりはなかったのに。
「陸斗?! なんで知ってんの?!」
大河が驚いている。
やっぱりあの三人の噂話は本当だったのか。
「俺もびっくりしたんだけど、俺と課長がSS食品の担当者に営業かけてたら、突然そこに常務がやってきたんだ。いきなり常務が来たから向こうの担当者まで驚いてたぜ」
「なんで常務が……」
「俺に会いに来たんだよ」
「えっ?! 大河に?!」
「そう。常務の娘が、俺の大学時代の友達だったんだ。同じサークルで、みんなで一緒に遊びに出かけたり結構仲いいグループの友達な」
大学時代の大河のことは陸斗にはわからないが、きっと大勢の友達に囲まれて楽しく過ごしていたんだろうなと想像できる。
「そいつは千紗っていう子なんだけど、千紗は父親にいっつも俺の話ばかりしてたらしいんだよ。部屋にサークルのみんなの写真も飾ってあったらしくて。それで、千紗の親父が俺と一度会ってみたかったってやってきたんだ」
会ったこともない千紗ちゃん。もしかして君はずっと大河のことを……。
「その常務とどんな話をしたんだ?」
「んっ? いや別にただの世間話を……」
大河の様子がおかしい。明らかに余裕がなくなった。
陸斗の予想通りならば、多分——。
「大河。正直に話せよ。俺はお前に隠し事をされると不安になる」
「えっ! 待って陸斗! そんな話じゃないから!」
大河は観念したようで、「実は」と話を切り出してきた。
「ちょっと話がしたいって呼ばれて会議室みたいなところに連れてかれてさ。今、特別な相手はいないのかって聞かれたんだ」
「ふうん」
「それで、あのときの俺はまだ陸斗に、相手にもしてもらえない時期だったから、恋人はいないって答えたんだ」
大河はそんな風に思ってたのか。たしかに最初、陸斗の大河に対する態度はツンケンしていたが、実は結構早い段階から、大河のことが気になって好意を寄せていたのに。
「そしたら、俺さえよければ娘と、千紗と交際してくれないかって頼まれた……」
やっぱりな。大河、お前は自分が思っている以上にモテるんだぞ!
「それで? 大河はなんて答えたんだ?」
「え?!」
どうした大河。珍しく動揺して。
「言わなきゃダメ?!」
なんだよ、そんな風に言われたら気になるだろ。
「ああ、言ってくれ。まさか『娘さんと付き合う代わりにこの商談を成立させてください』とか言ったのか?! それで、俺と千紗ちゃんと二股かけて、今さら追い詰められて、俺は男だから結婚なんてする必要はないし、千紗ちゃんとハワイで結婚式を挙げて、入籍することにしたのか?!」
言ってすぐ後悔する。勢いづいてつい、思ったことを全部ぶちまけてしまった。自分が勝手に想像した最悪のシナリオまで……。
案の定、大河は固まっている。おい、なんとか言ってくれよ、今さら言い過ぎたと早くも反省してるんだから。
「陸斗」
大河の声のトーンが低い。さすがの大河も怒ったのか……?
「俺が千紗の親父に声をかけられたのはもう三年以上前の話だ」
「そ、そうだな……」
「でも、ついこの前も千紗の親父に言われたよ。千紗の相手は俺みたいな奴がよかったって」
「え?!」
いまだに?!
「でも、俺の答えはいつも同じ。『俺には心に決めた人がいるから無理です、ごめんなさい』って答えてる」
そんな話は、全然知らなかった。
大河は、実は陸斗の預かり知らぬところで、色んな誘いをうけてそれを全部跳ねのけてくれているのか……?
「千紗はもうすぐ結婚するんだ。誰からも祝福されない結婚を」
「どういうことだ……?」
「千紗は借金ありのバツ2無職野郎と結婚を決めたんだ。両親も反対したし、大学の仲間もみんなやめておけって言ったのに」
「え! それ、ちょっとやばいだろ?!」
まぁ、普通ならそんな男との結婚は周囲が反対するよな……。
「失恋して、落ち込んでるときにいつもずっとそばにいてくれた。それがすごく嬉しかったらしい」
失恋……? それってもしかして大河のことか? 大河はそこに気づいているのだろうか。
「だから二人だけでハワイ挙式するんだって。その旅費も挙式費用も全部千紗が払うって。すごく心配だろ?」
「ああ。ものすごく心配だ」
結婚するなら、お互い助け合う関係性が好ましいのではないか。その男は千紗ちゃんに頼ってばかりになるのではないかとつい想像してしまう。
「でも、千紗のハワイ挙式の話は、今日うちの部の課長が聞いてきたばっかりの話だぞ? なのにもう陸斗の耳まで届いてるのか?!」
「社内のそういう噂ってすごいよな……」
本当に油断も隙もない。
大河との関係だってやはり細心の注意を払うべきだ。
「陸斗は、千紗の相手が難あり彼氏だってことまでは噂で聞かなかった?」
「ああ。聞いてない。というか、相手は大河だって噂で……」
「千紗がそいつと結婚することは、SS食品の人たちや、俺たちの会社の奴らも誰も知らないはずなんだ。そこまではバレてなくて安心したよ。でもそのせいか、千紗の相手が俺、みたいな噂が流れててさ……。言われるたびに、俺じゃないって否定してんだけどな」
もともと千紗と大河の間には大学時代の友人という、噂になる火種はあった。わざわざ千紗の父親の常務が現れた出来事もあったのだから、会社の人に友人だということは知られてしまっていたのだろう。
そして、大河は指輪をして恋人がいると公言しているものの、三年間、なぜか相手の名前や写真を明かさない。
そこへ千紗の結婚の噂が舞いこんでくる。大河の友人だったから取引先とそのような話題になったのだろうか。でも、それは聞こえのいい、キレイな部分だけ。
相手が誰なのか、実は難あり彼氏だってところは隠されていたから、それが大河ではないか、という噂が流れた。
そういうことらしい。
「陸斗。お前は社内のどこかで『俺が千紗と結婚する』って噂を聞いたんだな」
「そうだ。それでちょっと不安になって、早くお前に確認したくて、一日だって待ちたくなくて……」
もうあんな寂しい思いはしたくない。実際に大河に聞いて「違う」と否定してもらって事情を話してもらってすごく安心した。
「これで陸斗の話は終わり?」
「うん? まぁ……」
大河に聞きたかったことは一応確認できたけど……。
「誤解も不安もなくなった?」
「ああ。大河に聞いてよかったよ」
やっぱりお互い隠し事をせず、聞きたいことがあるなら聞く。それが一番良さそうだ。
「じゃあ、もう陸斗に触っていい? 話が終わるまでダメだって言われてさっきからずっとお預け食らってんの、もう耐えられないんだ」
言いながらもう、大河は陸斗を抱きしめてきた。
「おい大河!」
ホント大河はすぐに俺にひっついてきやがって……!
陸斗がムッとした顔をしたら、大河が「何言ってんだよ、さっき俺にひどいこと言ったくせに」と言い返してきた。
「俺が商談成立のために女と付き合うなんてことするわけないだろ?」
やばい。やっぱりさっき陸斗が言ったことを大河は根にもってたんだ。
「俺が二股? ありえないだろ、こんなに陸斗が好きなのに? 陸斗だけをずっと想ってるのに?」
大河が若干いやらしい手つきで陸斗に迫ってくるが、こっちに負い目があるから拒絶しにくい……。
「俺、陸斗が俺と結婚式したいなら、喜んでOKするぜ? 家族になりたいなら養子縁組でもなんでもやってやる」
「そんなこと望んでないよ……」
ただ大河と暮らせるだけでいい。でも、そこまで言ってくれるなんて、大河はちゃんと本気なんだと嬉しく思った。
「陸斗。ずっと一緒にいような」
大河の腕の中に閉じ込められる。大河の胸に寄りかかると大河の心臓の音がトクントクンと聞こえて、なんだかすごく心地よい——。
「陸斗。愛してる」
ああもうダメだ。お互い想い合ってると思っていたけど、大河の想いは強すぎる。これじゃ陸斗がいくら大河を想っても大河には敵わない……。
——完。
今は深夜12時。リビングのソファに座って少し眠そうな顔をしている大河に向かって陸斗は容赦なく声を荒らげた。
「はいはい。怒られると思ったよ。でもあれは、陸斗が可愛すぎるのがいけないんだ。悪いのは俺じゃない」
「なんだよその責任転嫁」
まるで俺が誘ったみたいな言い方をしやがって!
「ああもう、陸斗マジで可愛い。怒ってる顔まで可愛くみえるから、きっと俺は病気だ。陸斗スキスキ病になったから、陸斗がいないと死んじゃうよ」
「キモいこと言うのやめろ!」
大河の奴、ふざけやがって全然反省してないな……。
「ごめん、陸斗。もう会社であんな事はしないから」
大河はソファから立ち上がり、陸斗の手を握り、謝ってきた。
「油断した俺も俺だけど、あんなのダメだ。びっくりするだろ……」
職場でのキスなんて誰かに見られたら終わりだ。言い訳のしようもない。
少しだけ本音をいうと、いつものキスよりちょっとだけドキドキしたけど……。
「でも家だったら、陸斗に手を出してもいい? 俺、陸斗にキスしたい」
そんなことを言って大河は陸斗を抱きしめキスをしようとするので、「ダメだ! まだ話は終わってない!」と陸斗は大河の身体を押しのける。
「なぁ、大河。営業部に『如月』はお前ひとりだけしかいないか?」
「えっ? まぁ、そうだけど……」
だよな。小林ならありふれた苗字だけど、如月なんてそうそういない。
ということは、昼間のあの営業事務の三人の話は大河の話に間違いないだろう。
「少しだけ、お前に確認したことがあるんだ。大河は、SS食品って知ってるよな?」
「ああ、もちろん。うちの取引先だし」
SS食品、というワードを出しても大河は動揺しなかった。
「大河も、そこに営業に行くことはあるのか?」
「まぁ、一年目のときに課長に連れられて何回か同行させてもらったことはある。でも俺の担当じゃないし最近は行くことはないけど。で、陸斗、何が言いたいんだ?」
大河は眉根を寄せて困惑している様子だ。
「えっ、あっ、あの……。大河はSS食品の常務の娘と知り合いだったりするのかなって思って……」
せっかく遠回しに攻めていたが、急に話が具体的になってしまった。そんな風に話すつもりはなかったのに。
「陸斗?! なんで知ってんの?!」
大河が驚いている。
やっぱりあの三人の噂話は本当だったのか。
「俺もびっくりしたんだけど、俺と課長がSS食品の担当者に営業かけてたら、突然そこに常務がやってきたんだ。いきなり常務が来たから向こうの担当者まで驚いてたぜ」
「なんで常務が……」
「俺に会いに来たんだよ」
「えっ?! 大河に?!」
「そう。常務の娘が、俺の大学時代の友達だったんだ。同じサークルで、みんなで一緒に遊びに出かけたり結構仲いいグループの友達な」
大学時代の大河のことは陸斗にはわからないが、きっと大勢の友達に囲まれて楽しく過ごしていたんだろうなと想像できる。
「そいつは千紗っていう子なんだけど、千紗は父親にいっつも俺の話ばかりしてたらしいんだよ。部屋にサークルのみんなの写真も飾ってあったらしくて。それで、千紗の親父が俺と一度会ってみたかったってやってきたんだ」
会ったこともない千紗ちゃん。もしかして君はずっと大河のことを……。
「その常務とどんな話をしたんだ?」
「んっ? いや別にただの世間話を……」
大河の様子がおかしい。明らかに余裕がなくなった。
陸斗の予想通りならば、多分——。
「大河。正直に話せよ。俺はお前に隠し事をされると不安になる」
「えっ! 待って陸斗! そんな話じゃないから!」
大河は観念したようで、「実は」と話を切り出してきた。
「ちょっと話がしたいって呼ばれて会議室みたいなところに連れてかれてさ。今、特別な相手はいないのかって聞かれたんだ」
「ふうん」
「それで、あのときの俺はまだ陸斗に、相手にもしてもらえない時期だったから、恋人はいないって答えたんだ」
大河はそんな風に思ってたのか。たしかに最初、陸斗の大河に対する態度はツンケンしていたが、実は結構早い段階から、大河のことが気になって好意を寄せていたのに。
「そしたら、俺さえよければ娘と、千紗と交際してくれないかって頼まれた……」
やっぱりな。大河、お前は自分が思っている以上にモテるんだぞ!
「それで? 大河はなんて答えたんだ?」
「え?!」
どうした大河。珍しく動揺して。
「言わなきゃダメ?!」
なんだよ、そんな風に言われたら気になるだろ。
「ああ、言ってくれ。まさか『娘さんと付き合う代わりにこの商談を成立させてください』とか言ったのか?! それで、俺と千紗ちゃんと二股かけて、今さら追い詰められて、俺は男だから結婚なんてする必要はないし、千紗ちゃんとハワイで結婚式を挙げて、入籍することにしたのか?!」
言ってすぐ後悔する。勢いづいてつい、思ったことを全部ぶちまけてしまった。自分が勝手に想像した最悪のシナリオまで……。
案の定、大河は固まっている。おい、なんとか言ってくれよ、今さら言い過ぎたと早くも反省してるんだから。
「陸斗」
大河の声のトーンが低い。さすがの大河も怒ったのか……?
「俺が千紗の親父に声をかけられたのはもう三年以上前の話だ」
「そ、そうだな……」
「でも、ついこの前も千紗の親父に言われたよ。千紗の相手は俺みたいな奴がよかったって」
「え?!」
いまだに?!
「でも、俺の答えはいつも同じ。『俺には心に決めた人がいるから無理です、ごめんなさい』って答えてる」
そんな話は、全然知らなかった。
大河は、実は陸斗の預かり知らぬところで、色んな誘いをうけてそれを全部跳ねのけてくれているのか……?
「千紗はもうすぐ結婚するんだ。誰からも祝福されない結婚を」
「どういうことだ……?」
「千紗は借金ありのバツ2無職野郎と結婚を決めたんだ。両親も反対したし、大学の仲間もみんなやめておけって言ったのに」
「え! それ、ちょっとやばいだろ?!」
まぁ、普通ならそんな男との結婚は周囲が反対するよな……。
「失恋して、落ち込んでるときにいつもずっとそばにいてくれた。それがすごく嬉しかったらしい」
失恋……? それってもしかして大河のことか? 大河はそこに気づいているのだろうか。
「だから二人だけでハワイ挙式するんだって。その旅費も挙式費用も全部千紗が払うって。すごく心配だろ?」
「ああ。ものすごく心配だ」
結婚するなら、お互い助け合う関係性が好ましいのではないか。その男は千紗ちゃんに頼ってばかりになるのではないかとつい想像してしまう。
「でも、千紗のハワイ挙式の話は、今日うちの部の課長が聞いてきたばっかりの話だぞ? なのにもう陸斗の耳まで届いてるのか?!」
「社内のそういう噂ってすごいよな……」
本当に油断も隙もない。
大河との関係だってやはり細心の注意を払うべきだ。
「陸斗は、千紗の相手が難あり彼氏だってことまでは噂で聞かなかった?」
「ああ。聞いてない。というか、相手は大河だって噂で……」
「千紗がそいつと結婚することは、SS食品の人たちや、俺たちの会社の奴らも誰も知らないはずなんだ。そこまではバレてなくて安心したよ。でもそのせいか、千紗の相手が俺、みたいな噂が流れててさ……。言われるたびに、俺じゃないって否定してんだけどな」
もともと千紗と大河の間には大学時代の友人という、噂になる火種はあった。わざわざ千紗の父親の常務が現れた出来事もあったのだから、会社の人に友人だということは知られてしまっていたのだろう。
そして、大河は指輪をして恋人がいると公言しているものの、三年間、なぜか相手の名前や写真を明かさない。
そこへ千紗の結婚の噂が舞いこんでくる。大河の友人だったから取引先とそのような話題になったのだろうか。でも、それは聞こえのいい、キレイな部分だけ。
相手が誰なのか、実は難あり彼氏だってところは隠されていたから、それが大河ではないか、という噂が流れた。
そういうことらしい。
「陸斗。お前は社内のどこかで『俺が千紗と結婚する』って噂を聞いたんだな」
「そうだ。それでちょっと不安になって、早くお前に確認したくて、一日だって待ちたくなくて……」
もうあんな寂しい思いはしたくない。実際に大河に聞いて「違う」と否定してもらって事情を話してもらってすごく安心した。
「これで陸斗の話は終わり?」
「うん? まぁ……」
大河に聞きたかったことは一応確認できたけど……。
「誤解も不安もなくなった?」
「ああ。大河に聞いてよかったよ」
やっぱりお互い隠し事をせず、聞きたいことがあるなら聞く。それが一番良さそうだ。
「じゃあ、もう陸斗に触っていい? 話が終わるまでダメだって言われてさっきからずっとお預け食らってんの、もう耐えられないんだ」
言いながらもう、大河は陸斗を抱きしめてきた。
「おい大河!」
ホント大河はすぐに俺にひっついてきやがって……!
陸斗がムッとした顔をしたら、大河が「何言ってんだよ、さっき俺にひどいこと言ったくせに」と言い返してきた。
「俺が商談成立のために女と付き合うなんてことするわけないだろ?」
やばい。やっぱりさっき陸斗が言ったことを大河は根にもってたんだ。
「俺が二股? ありえないだろ、こんなに陸斗が好きなのに? 陸斗だけをずっと想ってるのに?」
大河が若干いやらしい手つきで陸斗に迫ってくるが、こっちに負い目があるから拒絶しにくい……。
「俺、陸斗が俺と結婚式したいなら、喜んでOKするぜ? 家族になりたいなら養子縁組でもなんでもやってやる」
「そんなこと望んでないよ……」
ただ大河と暮らせるだけでいい。でも、そこまで言ってくれるなんて、大河はちゃんと本気なんだと嬉しく思った。
「陸斗。ずっと一緒にいような」
大河の腕の中に閉じ込められる。大河の胸に寄りかかると大河の心臓の音がトクントクンと聞こえて、なんだかすごく心地よい——。
「陸斗。愛してる」
ああもうダメだ。お互い想い合ってると思っていたけど、大河の想いは強すぎる。これじゃ陸斗がいくら大河を想っても大河には敵わない……。
——完。
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こんなにたくさんの感想ありがとうございます!
大感謝してます(•ᵕᴗᵕ•)⁾⁾ᵖᵉᵏᵒ