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番外編『忘れられない』
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「身を引くって……」
「ここまで待ったなら、もう時効だよな」
樋口はフッと神尾に笑顔をみせる。
「神尾。俺、ずっとお前のことが好きだったんだ」
樋口らしい爽やかな笑みで、さらりと言われた。だからこそ神尾は最初、その意味を理解できなかった。
「神尾と一緒にいると楽でさ、神尾の隣にいるうちに好きになってた」
「それってどういう意味? 俺、男だけど」
ドクンドクンとさっきから心臓がうるさい。これは、樋口の言葉に期待をしている自分自身の表れだ。
一度は諦めかけた恋が、頭をもたげてくる。もし、もし、樋口も同じ気持ちでいてくれたなら。
「付き合いたいってことだ。こ、恋人になりたいってことだよ」
「え……?」
神尾は頭の中が真っ白になる。
てっきり樋口はノンケだと思っていた。そんな男から突然告白されるとは思いもよらなかった。
「……変か? こんな気持ちになったのは俺だけ? お前は、そんなことなかった……?」
樋口の何かを見透かしたような視線を感じる。
樋口とは本当にたくさんの時間を共有してきた。その中で、神尾は樋口への想いを隠し通してきた。でも目が合ったとき、身体が触れたときなど、ふとした瞬間、ふたりのあいだに言葉にできない空気が流れたことはあった。
あのとき、樋口も神尾から何かを感じ取っていたのかもしれない。
「もし今、特定の相手がいないなら、俺と付き合ってみないか? 神尾とならうまくやっていけると思うんだ。俺の直感がそう言ってる」
「こんなときに直感かよ……」
樋口らしいなと思う。直感で男と付き合うことを決断してしまうなんて。
「そうだよ、四年もウジウジ悩んだ末の、俺の直感」
樋口はスーツケースを置き去りにして、神尾に近づいてくる。
「幸せになろう、神尾」
樋口の力強い両腕で抱きしめられる。その瞬間、神尾の目から涙が溢れた。
ずっと想いを抑え込んでいた。樋口を好きになってはいけないと、好きになったあとも気持ちを隠し通さねばならないと必死で気持ちに蓋をしていた。
離れていた四年間も、樋口に直接連絡をしなかった。気があると思われそうだったからだ。
樋口の近況は山本や共通の知人から聞いた。聞くたびに樋口に会いたくなったが、それも我慢した。
「うん……」
頷くのが精一杯の返事だった。話そうとして
も、嗚咽で声にならなかった。
しばらく抱き合い、神尾の気持ちが落ち着きを取り戻したころ、樋口が安堵のため息をついた。
「よかったぁ……。これで神尾と一緒にいられる……」
「なんだよそれ」
「だって告白しちゃったら、恋人じゃないとそばにいられないだろ?」
そう言われて納得する。神尾だって告白して樋口に断られたら、隣にいられなくなるのが怖くてずっと想いを隠していた。
樋口は勇気がある。
だって卒業して四年も経っている。突然再会したその日に、想いをぶつけることなど怖くてできない。
「樋口、ありがとう……」
「えっ? 何にっ?」
「俺はいくじがないから、自分からは何もできない。そもそも人に話しかけるのも苦手だし、誰かに助けを求めることもできない」
気持ちをうまく表せない神尾のことを助けてくれたのは、いつだって樋口だった。樋口がいてくれたから、楽しい大学時代を過ごすことができたと言っても過言ではない。
「好きだなんて、俺からは絶対に言えなかったから……」
樋口が告白してくれなかったら、この恋は叶わなかった。
いまだに信じられない。樋口が恋人になってくれるなんて。
神尾にはもったいない相手だ。樋口は女も抱けるくせに、わざわざ男の神尾を選ぶなんてどうかしている。
「じゃあ今、言って」
樋口は神尾を柔らかな表情で見る。
「俺は神尾が好き。神尾は?」
悪戯っぽく笑う樋口の少年ぽい笑顔が、神尾は昔から大好きだ。
ずっと閉じ込めていた想いを解き放ってもいい。その想いを、樋口が受け止めてくれる。
好きな人に好きだと伝えることができる。
「……好きだ。ずっと前から樋口のことが好き」
再び溢れそうになる涙とともに積年の想いを打ち明ける。
心が打ち震えた。
気持ちを口にしてわかった。
ずっと、ずっと言いたかったんだ。
「神尾……」
暗がりで樋口が身体を寄せてくる。至近距離で視線を交わしたあと、樋口の唇が近づいてくる。
樋口からキスをされた。
短い、ほんの少しのあいだのキスだった。それでも神尾が樋口と特別な関係になったのだと自覚するには十分だった。
「神尾、家まで送るよ」
「えっ、悪いよ」
樋口の家とは方向が違う。駅に着いたら別々の方向へ行くはずだった。
出張帰りの樋口はスーツケースを持っている。それなのに遠回りをさせたら申し訳ないという気持ちが湧いてくる。
「わかれよ、俺の気持ち。今ここで神尾と離れられるか? 一秒でも長く一緒にいたいんだよ」
白い歯を見せて笑う樋口の爽やかな笑顔。こんな笑顔を向けられて、嫌とは言えない。
ああ、この笑顔に何度も心を奪われたんだと神尾は今さらながらに昔を思い出した。
「ここまで待ったなら、もう時効だよな」
樋口はフッと神尾に笑顔をみせる。
「神尾。俺、ずっとお前のことが好きだったんだ」
樋口らしい爽やかな笑みで、さらりと言われた。だからこそ神尾は最初、その意味を理解できなかった。
「神尾と一緒にいると楽でさ、神尾の隣にいるうちに好きになってた」
「それってどういう意味? 俺、男だけど」
ドクンドクンとさっきから心臓がうるさい。これは、樋口の言葉に期待をしている自分自身の表れだ。
一度は諦めかけた恋が、頭をもたげてくる。もし、もし、樋口も同じ気持ちでいてくれたなら。
「付き合いたいってことだ。こ、恋人になりたいってことだよ」
「え……?」
神尾は頭の中が真っ白になる。
てっきり樋口はノンケだと思っていた。そんな男から突然告白されるとは思いもよらなかった。
「……変か? こんな気持ちになったのは俺だけ? お前は、そんなことなかった……?」
樋口の何かを見透かしたような視線を感じる。
樋口とは本当にたくさんの時間を共有してきた。その中で、神尾は樋口への想いを隠し通してきた。でも目が合ったとき、身体が触れたときなど、ふとした瞬間、ふたりのあいだに言葉にできない空気が流れたことはあった。
あのとき、樋口も神尾から何かを感じ取っていたのかもしれない。
「もし今、特定の相手がいないなら、俺と付き合ってみないか? 神尾とならうまくやっていけると思うんだ。俺の直感がそう言ってる」
「こんなときに直感かよ……」
樋口らしいなと思う。直感で男と付き合うことを決断してしまうなんて。
「そうだよ、四年もウジウジ悩んだ末の、俺の直感」
樋口はスーツケースを置き去りにして、神尾に近づいてくる。
「幸せになろう、神尾」
樋口の力強い両腕で抱きしめられる。その瞬間、神尾の目から涙が溢れた。
ずっと想いを抑え込んでいた。樋口を好きになってはいけないと、好きになったあとも気持ちを隠し通さねばならないと必死で気持ちに蓋をしていた。
離れていた四年間も、樋口に直接連絡をしなかった。気があると思われそうだったからだ。
樋口の近況は山本や共通の知人から聞いた。聞くたびに樋口に会いたくなったが、それも我慢した。
「うん……」
頷くのが精一杯の返事だった。話そうとして
も、嗚咽で声にならなかった。
しばらく抱き合い、神尾の気持ちが落ち着きを取り戻したころ、樋口が安堵のため息をついた。
「よかったぁ……。これで神尾と一緒にいられる……」
「なんだよそれ」
「だって告白しちゃったら、恋人じゃないとそばにいられないだろ?」
そう言われて納得する。神尾だって告白して樋口に断られたら、隣にいられなくなるのが怖くてずっと想いを隠していた。
樋口は勇気がある。
だって卒業して四年も経っている。突然再会したその日に、想いをぶつけることなど怖くてできない。
「樋口、ありがとう……」
「えっ? 何にっ?」
「俺はいくじがないから、自分からは何もできない。そもそも人に話しかけるのも苦手だし、誰かに助けを求めることもできない」
気持ちをうまく表せない神尾のことを助けてくれたのは、いつだって樋口だった。樋口がいてくれたから、楽しい大学時代を過ごすことができたと言っても過言ではない。
「好きだなんて、俺からは絶対に言えなかったから……」
樋口が告白してくれなかったら、この恋は叶わなかった。
いまだに信じられない。樋口が恋人になってくれるなんて。
神尾にはもったいない相手だ。樋口は女も抱けるくせに、わざわざ男の神尾を選ぶなんてどうかしている。
「じゃあ今、言って」
樋口は神尾を柔らかな表情で見る。
「俺は神尾が好き。神尾は?」
悪戯っぽく笑う樋口の少年ぽい笑顔が、神尾は昔から大好きだ。
ずっと閉じ込めていた想いを解き放ってもいい。その想いを、樋口が受け止めてくれる。
好きな人に好きだと伝えることができる。
「……好きだ。ずっと前から樋口のことが好き」
再び溢れそうになる涙とともに積年の想いを打ち明ける。
心が打ち震えた。
気持ちを口にしてわかった。
ずっと、ずっと言いたかったんだ。
「神尾……」
暗がりで樋口が身体を寄せてくる。至近距離で視線を交わしたあと、樋口の唇が近づいてくる。
樋口からキスをされた。
短い、ほんの少しのあいだのキスだった。それでも神尾が樋口と特別な関係になったのだと自覚するには十分だった。
「神尾、家まで送るよ」
「えっ、悪いよ」
樋口の家とは方向が違う。駅に着いたら別々の方向へ行くはずだった。
出張帰りの樋口はスーツケースを持っている。それなのに遠回りをさせたら申し訳ないという気持ちが湧いてくる。
「わかれよ、俺の気持ち。今ここで神尾と離れられるか? 一秒でも長く一緒にいたいんだよ」
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