俺の親友のことが好きだったんじゃなかったのかよ

雨宮里玖

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番外編 有栖くんの憂鬱2

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 そして高校生になった。その頃には三倉とふたりで放課後カフェに行ったり、休みの日に映画に行ったりよく遊びに行くようになっていた。
 三倉は誘うとほぼほぼOKをくれる。塾&部活で忙しくしている有栖よりは時間はあるのかもしれない。まぁ、三倉は高いところは苦手らしく、スカイツリーに遊びに行くのは断られたけど。

 学校でもいつも三倉と一緒にいた。だから、浅宮の不穏な視線に気がついたのも割と早かったと思う。

 浅宮と話したことなんてほぼないが、校内で有名なので浅宮のことは知っていた。この学校で一番のモテ男。長身小顔の九頭身スタイルに完璧な顔面。
 有栖も美形とよく言われるが、どこか女っぽい顔つきなのに対し、浅宮は男らしいビジュアル最強男だ。



 最初は気のせいだと思っていた。だってふたりは男同士だ。そんな関係になるはずがないと高を括っていた。

 でも、おかしいな、と思ったのは授業中に浅宮が三倉の異変に気がついて保健室に連れていった時だ。浅宮がいつまで経っても教室に戻ってこない。


 ふたりで保健室にいるのか。何をしているのか気になって仕方がなかった。でも授業中で抜け出すことも憚れる。

 かなり時間が経ってから浅宮が教室に戻ってきた。浅宮はなぜかすごく思い詰めたような暗い顔をしていた。いつも元気な浅宮があんな顔をするなんて、いったい何があったんだろう……。




「ねぇ三倉。今度の日曜日に買い物行かない?」

 あれからすっかり元気になった三倉をいつものように遊びに誘ってみた。

「ごめん、有栖。その日は用事があって……」

 三倉はすごく申し訳なさそうにして断ってきた。

「えっ。あ、そうなんだ……」

 なんだろう。三倉は断るときはいつもきちんとなんの用事かはっきり教えてくれるのに、今回はなんだか答えを濁された気がした。

「そっ、その次の日曜日なら暇だよ。買い物は次の次の日曜でも間に合う?」
「あっ、うん。間に合う」
「本当? じゃあその日に出かけよう」

 三倉の反応を見る限り、有栖と出かけたくなくて断ったわけではないようだ。

 じゃあ、この違和感は一体なんだろう……。





「有栖ごめんっ! 俺、カバン忘れた! 先に帰ってて!」

 三倉は学校最寄りのバス停まで来て、バスに乗ろうとしたときに定期券がなく、カバンごと忘れたことに気がついたようで、慌てて走って行ってしまった。

 有栖も三倉を追いかけようと思ったが、もうバスに乗車したあとで、どうしようかと思っているうちにバスは発車してしまった。

 いつも三倉とふたりで帰るのに、突然ぽつんとひとり残されて、急に寂しく思った。

 ——俺ってもしかして、三倉がいなかったら、すごい寂しい奴なんじゃ……。

 昔からいつも当たり前のように三倉がそばにいてくれた。だから孤独になることもなかったし、無愛想でもなんとか学校生活を楽しく過ごせてきた。
 でもこうやって三倉がいなくなって気がついた。

 はっきりいって、今、すごく寂しい。

 ——三倉がずっと俺のそばにいてくれたらいいのにな……。

 そんなことを三倉に伝えたら、三倉はどんな顔をするだろう。
 いいよ、と笑って受け入れてくれるだろか。
 それとも——。





 昼休み、目の前にいる三倉はさっきからスマホに夢中になっている。しかも何かに悩んでいるのか様子がおかしい。

「三倉? どうしたの?」

 三倉が気になってつい声をかけてしまった。

「えっ! いや……あのっ……」

 三倉はすごい慌てっぷりだ。これは絶対に何かある。

「なに?」

 有栖は追及の手を緩めなかった。三倉に隠し事をされているなんてショックだ。

「そのうちわかるよ」
「え?」
「今は言えなくてごめん。でも、有栖にとって悪いことじゃないよ」

 三倉はなぜか苦しそうな顔をしている。

「そうなんだ。まぁ、三倉が困るようなことじゃなければいいけど……」

 本当はすごく気になる。でも、これ以上聞き出すことは難しいようだ。

「俺には関係ない話だよ」

 三倉は諦めるように言った。どこか怒っているようにも感じる。

「有栖はいいよなぁ。人気があって、モテモテでさ」

 有栖は目をぱちくりさせた。他の人から妬まれたことは山ほどあるけど、そんな時でも三倉はいつも中立的ニュートラルだったのに。

「三倉がそんなこと言うなんて珍しいね」

 どうしたんだろう。明らかに三倉の様子がいつもと違う。
 なぜか胸がザワザワする——。




 
 絶対に三倉に何かあったと思う。そしてそれは浅宮が関係しているに違いない。
 一方的に浅宮がこちらを見てくるだけだった視線。最近はそれに応えるように三倉が浅宮のことを目で追いかけていた。

 そのふたりの微細な視線の絡み合いが一切なくなった。
 三倉は学校で浅宮の姿を見つけると「やっぱこっちから行こう」とか不自然なことを言い出してあえて浅宮を避けている様子だ。
 

「三倉、帰ろ」

 帰り支度もせずにボーッとしている三倉の背後から肩を叩く。三倉は虚ろな表情のまま有栖を見て「うん」と頷いた。


「最近は誰かに告白された?」

 帰り道に唐突に三倉が訊ねてきた。三倉がそんなことを気にすることなんて今まで一度もない。

「そんなのないよ。三倉が思うほど俺はモテないから」

 嘘をついた。三倉は有栖が誰かに告白されることをなぜか恐れている様子だったから。
 そう言ってやると、三倉がほっとした表情を浮かべる。
 でも理由がわからない。有栖が告白されることで三倉が落ち込む、それはなんでなんだろう。
 


 三倉とふたりでバスに乗って最寄り駅のバスの終点にたどり着き、そこから駅に向かって歩いていたときだ。
 三倉と話をしていたのに、背後からいきなり腕を引っ張られる!
 有栖も抵抗を見せるが、三人の男に囲まれ退路を塞がれ、腕を掴まれたままズルズルどこかに連行される!

「おいっ! 何してんだよっ!」

 すぐに三倉がこちらに向かって突撃してきた。そして有栖を掴んでいた男の腕を捻って、有栖を引き剥がし、有栖を庇うようにして有栖の前に立つ。
 有栖はいつだって三倉に助けられてきた。
 それは喧嘩の時だけじゃない。孤独になりがちな有栖のそばにいて、たくさんの話をしてくれて、いつも笑顔を向けてくれた。ちょっと面倒くさい性格の有栖の一番の理解者。
 
 ああ。
 目の前にある小さな三倉の背中。
 抱きしめたいくらいに愛おしい。



「お前誰? 俺は有栖に話があるんだよ、お前なんかに用はない。あっち行けよっ!」

 睨みつけられても三倉は一歩も引かずに睨み返す。
 そんな様子の三倉を見て、相手の三人は余裕そうに嘲笑ってる。こいつら三倉の凄さを知らないんだ。見た目だけで三倉のことを判断している。


「こんな奴ほっといて、ちょっと付き合えよ有栖」

 男は呆気なく三倉を突き飛ばして、有栖の肩に腕を回す。有栖も抵抗するが、三人はしつこく絡んでくる。
 この触り方でわかった。こいつらは有栖に性的なものを求めている。
 有栖に絡んでくるやつはだいたい2タイプ。有栖を羨んでやっかむ奴。もしくは「俺の女になれ」的ないかがわしい奴。どっちも同じくらいウザい。

「ふざけっ……んなっ!」

 三倉は再びそいつに掴みかかり、有栖に触れる手を退けようと必死になっている。必死なのは有栖も同じだ。こんな奴らのいいなりになんてなる気はない。


 やり合う有栖たちのところへ、自転車が猛スピードで近づいてきた。
 自転車は、そのまま男三人にめがけて突っ込んでくる!

「うわっ!!」

 さすがに男たちもおののいてその場から逃げる。自転車はぶつかる寸前でキキーッと急ブレーキをかけた。


「あー、すいませんブレーキ調子悪くて止まれなくて突っ込んじゃいました」

 浅宮だ。
 なんで突然ここに浅宮が現れたんだ?!

「先輩。このふたりは俺の友達なんすけど、俺の友達に何か用ですか」
「いっ、いや別に何も……」
「ああ。ちょっと話をしてただけで……」

 なんだ? 三人が過剰に浅宮に怯えてるみたいにみえる。

「そうですか。ならいいんすけど、このふたりに手を出したら、俺、今度こそブチ切れると思うんでそこんとこよろしくお願いします」
「わかってるよ浅宮」
「ごめんごめんっ。じゃあ……」

 信じられない! 浅宮の睨みひとつで三人がそそくさと退散していく。

 浅宮はいったい何者なんだ……?



 三人がいなくなり、浅宮はこちらに振り返った。さっきまで男たちに対してすごい圧でガン睨みしていたのに、ふたりには優しく微笑んでいる。

「大丈夫か? 怪我はない?」

 浅宮は有栖のズキズキと痛む右腕のことを心配しているようだ。

「大丈夫……」

 有栖は浅宮を見上げた。浅宮の顔をこんなまともに見たのは今が初めてかもしれない。恐ろしいくらい整った顔面だ。

「あ、浅宮。ありがとう……」

 礼を言うなんて慣れないが、この場面ではさすがの有栖も浅宮に何も言わないわけにはいかない。

「全然いいよ、大したことじゃない。たまたま通りかかってよかったよ」

 浅宮は笑顔を向けてきた。やばい。こいつの笑顔は超ド級の破壊力を持っている。




 浅宮がバッと振り返り、「三倉?」と声をかけた。その声に気がついて三倉を見るとなぜか三倉はふたりからかなり離れた場所にいて、更にじりじりと後ろに下がっている様子だ。
 三倉は何をしている……?

「ごめんっ! 俺用事思い出した! 有栖先に帰って!」
「えっ、なんで?」

 有栖は何がなんだか意味がわからない。

「浅宮っ」

 三倉は今度は浅宮を見た。ふたりは意味深な視線を交わす。

 三倉の口が音を発さずに動いた。浅宮に何かを伝えようとするかのように。
 なんて言ったかは有栖にはわからない。ただ三倉は今にも泣き出しそうな顔をしていた。



 そのまま三倉は全速力で走り去っていく。

「おい、三倉っ!」

 浅宮が三倉の名前を叫んで慌てて自転車に乗り、三倉の後を追いかけていく。
 有栖だってすぐに後を追った。
 でも三倉の姿はとうに見えないし、ものすごいスピードで自転車を走らせる浅宮もあっという間に姿を消した。





「はぁっ……はぁっ……」

 息を切らして三倉を探して辺りを歩き回る。有栖は今は、川沿いの遊歩道を歩いたり走ったりしながら三倉の姿を探している。


 そこで、有栖は息を呑む光景を見せつけられた。
 立ち去ろうとする浅宮を追って三倉が飛び出してきて、浅宮の背中に抱きついた。

 サーっと血の気が引いた。
 身体は震え、心臓の音が外に漏れ出すんじゃないかというくらいにバクバクしている。

 三倉は今度は浅宮の前に立ち、浅宮のことをじっと見上げている。そしてしばらく何かを言い合っているふたり。だが、その距離は次第に近づいているのがわかる。

 もはや友達同士の距離じゃない。それよりも親密な、ただならぬ関係を彷彿とさせる距離感。

 浅宮が三倉の身体に触れ、そのまま抱き締めるように三倉の背中に両腕を回した。それに応えるように三倉も——。


 ピピーッと車のクラクションが辺りに響いて、有栖は我に返る。
 ここでふたりの様子を見ていたことがバレたくなくて咄嗟にふたりから見えないところへ身を隠す。



 ——三倉は友達だ。

 有栖は自分に言い聞かせるようにその言葉を何度も自分の中で反芻する。
 その呪文を唱えると、ズキズキする胸の痛みが和らいだ気がした。
 そうだ。例え三倉と浅宮が特別な関係になろうとも、三倉との関係性は友達のまま変わることなんてない。今までどおりに三倉の隣にいればいい。


 でも有栖にはわからないことがある。

 どうして自分は悔しさのあまりにこぶしを握り締めワナワナと震えているんだろう。

 泣きたいなんて思ってもいないのに、どうして涙が溢れてくるのだろう。


 ——三倉は友達。

 有栖は再び自分に呪いをかけた。



 ——完。
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