俺の親友のことが好きだったんじゃなかったのかよ

雨宮里玖

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番外編 浅宮くんの事情4

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 恋人同士ってなんなんだろう……。
 俺は浅宮と付き合っている。それはきっと間違いないはずだ。だけど、付き合う前とほぼほぼ変わらない生活を送っている。

 俺の中のイメージでは、好きな人と両想いになれたら、なんかもっと周りじゅうキラキラして見えるくらいに世界が変わるもんだとばっかり思ってた。

 俺が浅宮に期待しすぎてたのかな。
 恋人なんだから特別扱いしてくれる。恋人なんだからたくさん俺に構ってくれる。恋人なんだから俺以外の奴とは妙に仲良くしたりしないって。

 ——現実は、そんなことないよな。




「——三倉!」
「へぁっ?!」
「三倉。どうしたの? 絶対におかしい」

 金曜日の昼休み。俺は有栖と昼飯を食べているのについボーッとしてしまっていたらしい。
 昨日は俺はあのあとひとりダッシュで帰った。浅宮と目黒が自転車でふたり乗りしている姿なんて絶対に絶対に見たくなかったからだ。

「有栖……」

 ああもう全部、有栖にぶちまけてしまいたい。浅宮と付き合っていることも、それが上手くいってないことも全部。
 でもここは教室だ。いつ誰に話を聞かれてもおかしくない場所で、浅宮の話はできない。

「場所、変えようか。俺、三倉に聞きたいことがあるんだ」

 有栖からのありがたい提案に、俺は頷き立ち上がった。
 有栖。俺も有栖に話しておきたいことがある。親友のお前にだけは、やっぱり言っておきたいことなんだ。



 有栖とふたり、ゆっくり話せる場所を求めて校舎の外を目指す。
 その途中、浅宮のグループが前からやってきたのを見つけて身体がビクッと震えた。思わず有栖の陰に隠れるようにして、浅宮たちと目を合わせないように静かに通り過ぎようとする。

 そのまま穏便に通り過ぎるはずだった。
 なのに、有栖は浅宮が通る瞬間、わざと浅宮に足を引っ掛けた。

「って!! なんだよ!」

 浅宮が有栖にイラついて振り返った。その浅宮の腕を有栖はガシッと掴んで引っ張り、浅宮をグループの奴らから引き離した。



「浅宮は何してんの? お前もしかしてバカ?」

 有栖はなぜか浅宮に対してケンカ腰だ。

「はぁ? 急にうっざ、何?」

 浅宮も有栖を見下ろしガンを飛ばしている。

「ねぇ浅宮。三倉を大切にしないなら、俺が許さないよ?」

 有栖は怖い顔で浅宮を睨んでる。いったい有栖はどうしたんだ……?

「お前何言っちゃってんの?」

 浅宮も有栖を睨み返す。ふたりはなんで急に睨み合いを始めるんだよ……。



「こんな奴ほっといて行こう、三倉」

 有栖は俺の手を引っ張ってズンズン先に進む。俺も有栖に連れて行かれるまま、慌てて小走りに浅宮のもとを離れ、有栖についていった。


 ◆◆◆


 有栖とふたり、人気のない校舎の陰までやってきた。

「——三倉。よければ俺に話して。浅宮となんかあったんでしょ?」

 どうして有栖は俺と浅宮のことに気がついたんだろう。

「べっ。べつに大したことじゃないんだ」

 本当にそうだ。
 ただ三日間メールしてないだけ。
 ただすれ違ったときに特別な顔をしてくれなくなっただけ。
 木曜日、なんとなくいつも一緒に帰っていたのに、昨日はそれができなかっただけ。


「そんなことないでしょ。三倉、今自分がどんな顔してるかわからない?」

 有栖に言われてハッとする。たしかに、全然大丈夫じゃない顔をしていたかもしれない……。

「実は……」

 有栖に浅宮のことを話して相談に乗ってもらいたい。こんなときどうしたらいいのか俺にはわからないから。

「俺、少し前に浅宮と、付き合うことになって……」

 俺の発言は結構ぶっ飛んでる。だって浅宮とは男同士の恋人になるわけだし、さらに相手は最強ビジュアル男、モッテモテの浅宮だ。誰が聞いてもあり得ない話だろう。
 なのに有栖は「そうだったんだね……」と全然驚かなかった。


「有栖は驚かないの?」
「何に?」
「だって、浅宮は男だし、お、俺なんかにはもったいないくらいの奴だし……」

 本当にそうだ。もし俺が浅宮と付き合ってるなんてみんなにバレたら浅宮が笑われるんじゃないかと心配になるくらい。

「浅宮はそんなにいい男なの?」
「えっ? まぁ……かっこいいし優しいし、面白いし……」

 有栖は何を言ってるんだ? 浅宮の欠点を探すほうが難しいくらいにいい奴じゃないか。

「あんな奴のどこが……」

 有栖はハァと溜め息をつき、ブツブツ何か小声で言っている。


「ただ今はちょっと浅宮と上手くいってなくてさ……」
「そう……」
「でもそれは俺が浅宮にいろいろ期待し過ぎてるってだけみたいだから……」

 浅宮と付き合えただけでラッキーだ。俺はそのことをすっかり忘れていた。
 それなのに、もっと恋人同士らしくして欲しい、もっと構ってもらいたいなんてワガママ過ぎるんだ。

「いっ、いいんだよ、そうだ。人気者の浅宮は、みんなの浅宮だもんな。俺ばっかり構ってるわけにもいかないんだよ……。うん。俺が悪かったんだ」

 有栖に打ち明けてみて少し客観的に浅宮との関係を見直せた気がする。別に浅宮はそんなに悪いことはしていない。俺が過剰に気にしてしまって勝手に悲しくなっているだけだ。

 浅宮からのメールが欲しいなら自分から連絡すればいいし、一緒に帰りたいなら、目黒がいようがなんだろうが浅宮に声を掛ければよかったんだ。

「三倉……」

 有栖は俺をすごく心配してくれているみたいだ。当事者の俺よりも苦しそうな顔をしている。

「はぁ……本当に浅宮が許せない。三倉がこんなにさみしそうにしてるのに、放っておくなんて恋人失格だ。何様なんだよ! 三倉を手に入れたらそれで満足したからあとは知らない顔? ふざけてる……」

 有栖は自分のことのように思ってくれているんだな。俺の代わりにこんなに怒ってくれてる。

「ありがとう、有栖。やっぱり有栖に話してよかったよ。気持ちが楽になった」

 有栖が俺の気持ちを代弁してくれて、共感してくれてなんだか心が落ち着いた。
 そうか。俺ばっかり悪いわけじゃない。恋人なんだから少しくらい浅宮に『他の人にはしない特別なこと』を期待してもいいのかもしれない。




「ねぇ、三倉。どうしても浅宮じゃなきゃ駄目?」
「え……?」

 有栖は何を言いたい……?

「俺、こんなことになるまで自分の気持ちに気がつかなかった」

 有栖は俺の両肩をガシッと力強く掴んだ。やけに真面目な顔をして有栖は急にどうしたんだろう。

「俺、ずっと三倉のことすごく仲のいい友達だと思ってた」
「俺もだよ、有栖」

 有栖は俺の親友に決まってるじゃないか。

「それ以上の感情なんてないと思ってた。でもそれは俺がそうなっちゃいけないって気持ちを抑えてたせいでもあった」

 有栖はずいっと俺に迫る。すごく近い。有栖の顔が俺のすぐ目の前にある。

「……有栖?」

 なんか有栖の様子がいつもと違くないか……?

「三倉」

 有栖がさらに俺に迫る。俺は思わず一歩後ずさる。おいおい待てよ、これ以上近づかれたら——!
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