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1.図々しい女
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「宮咲、どうした? もしかして、つまらない……?」
「そ、そんなわけない、楽しいよっ」
宮咲は、高月に誤解を与えないように間髪入れずに否定した。
高月とのデートがつまらないわけがない。高月は、宮咲の憧れの人であり、恋人だ。もともとは、大学に入ってから初めて出来た友達だったのだが、この秋についに恋人同士になったのだ。
二人で出掛けるのもこれがまだ三回目。なのに「俺んちに遊びに来ないか」と高月の実家に来るように誘われて、宮咲は朝から緊張しっぱなしだ。
今は高月の実家の最寄り駅にあるカフェにいる。
高月お気に入りの店らしく、よくここに来て本を読んだり、Wi-Fiもあるのでスマホを見たり、チルする場所として最高らしい。高月のインスタにもよくこの店のことがアップされている。
今日はここでランチをして、その後、商店街や駅ビルで少し買い物をしてから実家に行こうという話になっていた。
高月の実家に行けば、当然、高月の母親や兄弟に会うことになるだろうし、なにより宮咲が一番緊張しているのは、高月と、高月の部屋で二人きりになるかもしれないというシチュエーションだ。
恋人同士になったばかりで、二人の間にはまだ何もない。告白された時に少し手に触れられたくらいだ。
宮咲にとって高月は人生で初めてできた恋人で、もしかしたら今日が初キスの日になるかもしれないと妄想が暴走し、感情が異常をきたしている。
「そっか……。なんかいつもより喋らないから、不安でさ」
もともと口数は多い方ではないのだが、今日はさらに緊張して口数は減っているかもしれない。これじゃ高月に愛想を尽かされると、無理に話題を引き出そうとした時だ。
「アレ?! 高月じゃん! うっそ、偶然!」
目の前に現れたのは、女の子二人組。どうやら高月の知り合いのようだ。二人は店に来たばかりで、店員に席を案内されているところだった。
「え! 唯香と智江?! マジで?!」
高月も偶然友人に会ったことを驚いている。
「うちらも今からここでランチするんだ。高月、隣いい? あ、店員さんっ、知り合いがいたんでうちらここの席でもいいですかー?」
唯香はズカズカと高月の隣に座り、智江は宮咲の隣に座った。
「久しぶりじゃん、高校卒業して以来だな」
「そうだよー、あー、マジで今日はツイてる。高月に会えるなんて!」
唯香は馴れ馴れしく高月の腕を取り、高月にくっついた。スキンシップの激しい女だ。
「やめろっ」
高月はすぐさま唯香を押しのけた。なのに「えー、いいじゃん」としつこい唯香。
なんだこのクソ女っ! いきなり現れてなんなんだよ! 高月から離れろ!
唯香とじゃれ合う高月を見て、宮咲はイライラが止まらない。
せっかくのデートを邪魔された上に、人の彼氏にベタベタ触りやがってと思っているが、もしそんな事を言ったら、「え? 男同士? まさかキモ」と返されるのが怖くて何も言えない。
唯香だって、もし高月が女の子と二人きりだったら遠慮したかもしれない。でも唯香から見たら、高月は男友達といるようにしか見えなかったのだろう。だからこそグイグイきているのではないか。
「この人、高月の大学の友達?」
唯香は今度はこちらに視線を向けてきた。その目が初対面のはずなのに、やけに冷たい。
「え……? ああ、そうだ。宮咲だ」
宮咲は友達か?と聞かれて、高月が「いいや、こいつは俺の恋人」だなんて答えることはない。いつも友人と紹介されるし、それが宮咲の望みでもある。
「意外! 高月、こんな地味な奴と友達なの? なんか友達の趣味変わったね」
宮咲は心の中でチッと舌打ちする。地味で悪かったな! たしかに着る服、髪型、全部正解のイケメン高月と宮咲とでは釣り合わないなと思っていた。だが、唯香、お前に言われたくない。
「何こいつ。さっきから黙ってばっかじゃん。あんた本当に高月の友達なの?」
うるせぇな。明るく社交的なタイプじゃないことくらい、自分でわかってるし、今はただひたすらお前と話したくないだけだと宮咲は心の中でさらに悪態をつく。
「宮咲は、優しくて気遣いのできるいい奴だ」
高月が宮咲に微笑みかける。
高月はそんなふうに思ってくれてたのかと嬉しくなった。
「なにそれ、私だって気遣い得意なタイプなんですけど? サラダとか取り分けちゃうし」
「相変わらずうるさい女だな。少し黙れ」
「ヤダ。高月ともっと話したいんだもん。あ、高月、近藤から同窓会の話聞いた? 今度みんなで集まるんだって。高橋となみっち、げん、さわぴも来るよ」
高校の同窓会の話かな……。
誰だろう。登場人物だれ一人として宮咲にはわからない。
「マジで?! 行こうかな……」
「うんうん、来てよーっ。高月いないと盛り上がんないから!」
高月を束縛して「同窓会に行くな」などと言う気はない。でも、その場に唯香がいるなんてなんか、ムカつく。
それから唯香と高月は高校の頃の思い出話や二人の共通の友人の話で盛り上がっている。
宮咲は、黙々と食べているわけにもいかずに、隣にいる智江とはじめましてで会話をすることになってしまった。
智江とは、かろうじて共通で知っていたマンガの話をしてその場を取り繕って、なんとか過ごした。
「そ、そんなわけない、楽しいよっ」
宮咲は、高月に誤解を与えないように間髪入れずに否定した。
高月とのデートがつまらないわけがない。高月は、宮咲の憧れの人であり、恋人だ。もともとは、大学に入ってから初めて出来た友達だったのだが、この秋についに恋人同士になったのだ。
二人で出掛けるのもこれがまだ三回目。なのに「俺んちに遊びに来ないか」と高月の実家に来るように誘われて、宮咲は朝から緊張しっぱなしだ。
今は高月の実家の最寄り駅にあるカフェにいる。
高月お気に入りの店らしく、よくここに来て本を読んだり、Wi-Fiもあるのでスマホを見たり、チルする場所として最高らしい。高月のインスタにもよくこの店のことがアップされている。
今日はここでランチをして、その後、商店街や駅ビルで少し買い物をしてから実家に行こうという話になっていた。
高月の実家に行けば、当然、高月の母親や兄弟に会うことになるだろうし、なにより宮咲が一番緊張しているのは、高月と、高月の部屋で二人きりになるかもしれないというシチュエーションだ。
恋人同士になったばかりで、二人の間にはまだ何もない。告白された時に少し手に触れられたくらいだ。
宮咲にとって高月は人生で初めてできた恋人で、もしかしたら今日が初キスの日になるかもしれないと妄想が暴走し、感情が異常をきたしている。
「そっか……。なんかいつもより喋らないから、不安でさ」
もともと口数は多い方ではないのだが、今日はさらに緊張して口数は減っているかもしれない。これじゃ高月に愛想を尽かされると、無理に話題を引き出そうとした時だ。
「アレ?! 高月じゃん! うっそ、偶然!」
目の前に現れたのは、女の子二人組。どうやら高月の知り合いのようだ。二人は店に来たばかりで、店員に席を案内されているところだった。
「え! 唯香と智江?! マジで?!」
高月も偶然友人に会ったことを驚いている。
「うちらも今からここでランチするんだ。高月、隣いい? あ、店員さんっ、知り合いがいたんでうちらここの席でもいいですかー?」
唯香はズカズカと高月の隣に座り、智江は宮咲の隣に座った。
「久しぶりじゃん、高校卒業して以来だな」
「そうだよー、あー、マジで今日はツイてる。高月に会えるなんて!」
唯香は馴れ馴れしく高月の腕を取り、高月にくっついた。スキンシップの激しい女だ。
「やめろっ」
高月はすぐさま唯香を押しのけた。なのに「えー、いいじゃん」としつこい唯香。
なんだこのクソ女っ! いきなり現れてなんなんだよ! 高月から離れろ!
唯香とじゃれ合う高月を見て、宮咲はイライラが止まらない。
せっかくのデートを邪魔された上に、人の彼氏にベタベタ触りやがってと思っているが、もしそんな事を言ったら、「え? 男同士? まさかキモ」と返されるのが怖くて何も言えない。
唯香だって、もし高月が女の子と二人きりだったら遠慮したかもしれない。でも唯香から見たら、高月は男友達といるようにしか見えなかったのだろう。だからこそグイグイきているのではないか。
「この人、高月の大学の友達?」
唯香は今度はこちらに視線を向けてきた。その目が初対面のはずなのに、やけに冷たい。
「え……? ああ、そうだ。宮咲だ」
宮咲は友達か?と聞かれて、高月が「いいや、こいつは俺の恋人」だなんて答えることはない。いつも友人と紹介されるし、それが宮咲の望みでもある。
「意外! 高月、こんな地味な奴と友達なの? なんか友達の趣味変わったね」
宮咲は心の中でチッと舌打ちする。地味で悪かったな! たしかに着る服、髪型、全部正解のイケメン高月と宮咲とでは釣り合わないなと思っていた。だが、唯香、お前に言われたくない。
「何こいつ。さっきから黙ってばっかじゃん。あんた本当に高月の友達なの?」
うるせぇな。明るく社交的なタイプじゃないことくらい、自分でわかってるし、今はただひたすらお前と話したくないだけだと宮咲は心の中でさらに悪態をつく。
「宮咲は、優しくて気遣いのできるいい奴だ」
高月が宮咲に微笑みかける。
高月はそんなふうに思ってくれてたのかと嬉しくなった。
「なにそれ、私だって気遣い得意なタイプなんですけど? サラダとか取り分けちゃうし」
「相変わらずうるさい女だな。少し黙れ」
「ヤダ。高月ともっと話したいんだもん。あ、高月、近藤から同窓会の話聞いた? 今度みんなで集まるんだって。高橋となみっち、げん、さわぴも来るよ」
高校の同窓会の話かな……。
誰だろう。登場人物だれ一人として宮咲にはわからない。
「マジで?! 行こうかな……」
「うんうん、来てよーっ。高月いないと盛り上がんないから!」
高月を束縛して「同窓会に行くな」などと言う気はない。でも、その場に唯香がいるなんてなんか、ムカつく。
それから唯香と高月は高校の頃の思い出話や二人の共通の友人の話で盛り上がっている。
宮咲は、黙々と食べているわけにもいかずに、隣にいる智江とはじめましてで会話をすることになってしまった。
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