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中学生と婚約解消
高橋遥という男…悠磨
しおりを挟む亜耶が帰ってから、場が白けて帰ることになったのだが……。
こんな時間に女の子だけを帰すわけにもいかずにお開きとなったのはいいのだが……。
ここは、順一の家で態々家を出るのはと思い。
「斎藤、送って行くよ。」
と声を掛けたんだが。
「何言ってるんだ。ルウは、俺が送って行くに決まってるんだろ。」
と順一が意気揚々と言う。
えっ。
「だって家……。」
オレが言いたいことがわかったようで。
「誰が、自分の彼女を友達に送らせるんだよ。」
順一が真顔で答えてきた。
あぁ、そっか……、そうだよな。
「悪い、オレ、気が利かなくて……。」
オレはそう言うと、準備をして。
「じゃあ、お先に」
そう声を掛けて、家を出た。
オレが、亜耶の家まで送ろうと思ってたのに、飛んだ邪魔が入ったものだ。
その時にプレゼントを渡そうとしたんだがなぁ……。
こんな事になるなら、先に渡しておけばよかった。
プレゼントを見ながら後悔する。
しかし、さっきの亜耶、可愛かった。
普段見せないあの甘えたような顔は、反則だと思う。
でも、あれは高橋だから出たのかもしれない。
オレが知ってるのは、困った時の顔だけ。
甘えるような顔は、一切無い。
あんな顔をされれば、頼られてるなって感じるんだろうなぁ。
あんなのを見た後だとオレって、頼り概がないのではって思ってしまう。
早く大人になりたいって、切に思う。
亜耶の傍に居る為には、もっと努力して相応しい男になってやる。
そう意気込んで、家に着いた。
「ただいま。」
玄関を潜ると気だるげなオレに。
「お帰りー! 亜耶先輩、プレゼント喜んでたでしょ。」
意気揚々として嫌みたっぷりに言ってくる千春。
オレは、自分の眉間にシワが寄ってるのを感じながら。
「煩いな。そんな事どうでもいいだろ!!」
と怒鳴っていた。
ただの八つ当たりだ。
千春は、何も悪くないのに……ごめん。
心の中で謝る。
そんなオレの態度に狼狽えだす千春。
「えっ、ちょ、ちょっと、どうしたの悠兄ちゃん。」
そんな妹の横を通り過ぎ自分の部屋に向かった。
階段を昇りきったところで兄貴が壁に凭れて立って居た。
「自棄に荒れてるな。」
兄貴の苦笑に余計に腹が立つ。
「ほっとけ……。」
「悩みなら相談に乗るぜ。」
「兄貴に話して解決できるのならな。」
オレはそう言って、兄を睨み付けて部屋のドアを開け中に入る。
兄貴も、後について来る。
「何で、入ってくるんだよ!」
一人にしてくれる気がないらしい兄貴が。
「そう苛立つなよ。お前の想い人、亜耶ちゃんの事を教えてやるから」
兄貴が思ってもみない提案をしてきた。
「何を知ってるんだよ?」
兄貴をマジマジと見ると真顔になってて。
「長くなるが良いか?」
確認するように聞いてきたから、オレは頷いた。
オレと兄貴は八つ違う。
だから、亜耶のお兄さんの事を知っていたのだ。
「亜耶ちゃんのお兄さん雅斗さんは、中学の時からの俺の憧れの人だ。その隣には、高橋遥さんも居たんだよ。」
亜耶の自称婚約者が……。
「遥さんは、雅斗さんの上を行く存在だった。何をするにも雅斗さんより上に遥さんが居た。他校からも目を向けられる程の人材だった。」
兄貴が、懐かしむように言う。
「それが、高二になってから変わったんだよ。」
「何がどう変わったんだよ。」
オレが突っ込むと。
「雰囲気がな、自分に近付くなオーラを出しまくってたのが無くなって、デレデレになったんだよ。」
デレデレって……。
「その原因が、当時小学校一年生になったばかりの亜耶ちゃん」
小学校一年の時?
そんな前から……。
「で、棘がなくなった遥さんに告白する女子が殺到するも、悉く振っていく。」
兄貴の言葉に唖然とする。
「元々人気があったんだよ。雰囲気が冷徹すぎて、用事がないと近付く事なんてできなかったからな。」
兄貴が付け足した。
まぁ、あの容姿だし人気無い方が可笑しいか。
「最終的に、女子に揉みくちゃにされてたみたいだが、元の冷徹さには戻らなかったみたいだな。」
あの人が?
冷徹?
「今と全然違うじゃないか……。」
声に出ていたらしく。
「遥さんに会ったこと在るのか?」
兄が驚いた顔で聞いてくる。
「今日も、会いましたが……。」
口を尖らせて言う。
会いたくて会ったわけではないが……。
「そっか……。で、大学も首席で卒業し、そのまま亜耶ちゃんのご両親に、婚約を申し込んだそうだ。」
婚約って……。
あの時亜耶は、冗談だって言ってなかったか。
「婚約したのは、去年の春。条件も遥さんから出したらしい。」
条件?
「結婚は、亜耶ちゃんが高校卒業してから。大学の費用は、遥さんが出すという事だ。」
何、その大人な対応は。
っていうか。
オレよりも前から、亜耶の事を想っていたのかよ。
だが、想いは年月じゃねえ。
どれ程、相手を想ってるかだよな。
何て考えていた時に。
「これは極秘なんだが、遥さんはどこかの御曹司らしいぞ」
はっ?
それって、お坊っちゃまってこと?
「まぁ、俺が知ってるのはこれぐらいだ。少しは役に立ったか?」
兄貴が困ったように言う。
「あぁ、ありがとう兄貴。」
一応、お礼は言っておく。
大した情報ではなかったがな。
「おう。気を落とさずにアタックするのみだ。お前の方が、彼女に年が近いんだからな。」
それだけ言って、兄貴は出ていった。
兄貴は、オレを応援してるってことでいいのだろう。
勝手に解釈させてもらった。
一度しくじっただけなんだ、何度だって当たってやるさ。
そう心に強く留めた。
翌日。
塾の入り口付近で車から亜耶が降りて来た。
亜耶は吸い込まれるように入り口に入っていく。
オレは、その後に続いた。
教室に入ると昨日の女子メンバーが話していた。
「いいよ。亜耶の意外な一面が見えたし。」
って声が聞こえてきた。
「あれじゃあ、悠磨くんの入る隙無いよねぇ。」
って、憐れている気がする。
そんなにか?
「おはよう、亜耶。」
そんな中で、亜耶だけに挨拶をするオレ。
「おはよう、悠磨くん。」
振り向き様に挨拶を返される。
「昨日はごめんね。」
申し訳なさそうな顔で言って来る。目には、今にも溢れそうな涙が浮かんでる。
そんな顔して欲しくないな。どうせなら、笑顔がみたいよ。
「何の事だよ?」
オレは、惚けてみた。
亜耶が、罪悪感を持たないように……。
「ほら、席に着け。授業始めるぞ」
塾講師が入ってきて、雑談終了。
「悠磨くん。これ、昨日渡しそびれちゃったから……。」
そう言って、亜耶がオレの机に紙袋を置く。
「えっ。あ、ありがとう。オレもあるんだ。」
オレは鞄を漁りプレゼントを取りだし。
「はい。」
亜耶の手に渡す。
「いいの?」
亜耶が戸惑いがちに聞いてくる。
「いいよ。亜耶の為に買ったんだから。」
それを言うと、顔を赤らめて嬉しそうに。
「ありがとう。」
って笑顔で言ってきた。
オレは、それだけで十分すぎる贅沢だと思った。
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